がーるずベースボール!

近衞

14話⚾︎雨宮大地⚾︎

ブレイカーズのエース左腕、雨宮大地あめみやだいち



高尚な体躯に銀髪と鋭い目つきが特徴の
大人びた少年だ。



ブレイカーズは総名12人。
男性選手は雨宮を入れて3人である。



だが、雨宮はチームに溶け込めていない。



彼は野球を始めたばかりで、
野球歴1ヶ月のルーキーだ。



更に寡黙な職人気質の持ち主で、
あまり人と関わろうとしない。



だが野球になると自分に厳しい面が露わになる。



そんな彼の人柄も相まって、
チームメイトは雨宮との関わり方を図りかねていた。



「雨宮君!」



眼を瞑って集中していたが、
中断して声の主に眼を向ける。



「ナイスピッチング!今日も絶好調ね!」



1人の女の子が、雨宮に笑顔を向けていた。



この雨宮と壁を持たず話が出来るのは、
今3人だけと数少ない。



その内の1人は、チームの主将である
この矢澤智春やざわちはるだ。



セミロングの黒髪を黄色のリボンで
纏めている。



在学する学校の生徒会長を務めるしっかり者で、チームのショートを守る。



「…ああ。」



「やっぱ決勝に来るだけあって
レベルが違うね。」



「ああ。初回にカットボールを投げさせられるとは思わなかった。
あの1番バッターといい監督といい、
粒揃いなチームだな。」



「どう?抑えられそう?」



「大丈夫だ。だが何かあったら頼んでもいいか?」



「もっちろん!いつでも言って! 」



雨宮は矢澤の笑顔を見て、応えるように笑みをこぼす。



その笑みには、安堵と信頼が溢れていた。


「…!」


矢澤は顔を赤く染め、
思わず目線と顔を逸らす。


「…どうした、矢澤。顔が赤いぞ」



矢澤は思わず姿勢を正して、


「な、なああんでもなあい!」


「…?まあ何でもないならいいが…」



すると、甲高い音を上げ
白球はレフトの前に落ちる。


「出塁したか。流れはこっちにあるようだな。」


「うん!みんな、張り切っていこう!」









まだ寒さの残る初春の暦。



東地区内某所。



とある食品製造工場で、
雨宮は働いていた。



雨宮の両親は雨宮がまだ10歳の頃に蒸発。



2人の双子の妹を残し、
両親は雨宮の前から姿を消したのだ。



雨宮は妹2人を大学に行かせてやるため、高校には行かずに
毎日身を粉にして働いていた。



「ふぅ…」



今日は土曜日だが、雨宮には関係ない。



休憩時間、雨宮は工事の外で太陽の光を
浴びていた。



4時間も室内にいると
太陽が恋しくなる。



配布された水を口に含み、
まだ白く濁る息をを見つめた。



「…秋と千夏は今頃練習の途中か」



2人の妹はブレイカーズという野球チームでプレーしている。



今日は土曜日。
朝嬉々として練習に出かけて行った。



中学の頃から必死に働いて
野球道具を一式揃えてやった時は
泣いて喜んでいたな。



俺の家庭環境を理解して働き先を紹介してくれた中学の担任の先生には感謝しかない。



あの笑顔を見れるなら、
俺の人生なんてどうだっていい。



「お兄ちゃーん!」



思わず雨宮は反応する。



声がしたのは目の前の小高い丘の上だった。



そこには、愛しい2人の妹と
黄色のリボンが特徴的な女の子が
立っていた。



雨宮は取り敢えずその少女に軽く会釈をし、少女もそれに応える。



千夏ちなつあき、練習は終わったのか?」



「うん!これから帰るとこ!」



千夏のポニーテールと秋のツインテールが
心なしか嬉しそうに揺れている。



「そうか、気をつけて帰るんだぞ。」


「「はーい!」」


さすが妹と言わんばかりに
息の合った返事を返した。












すると後方から、



「あれえ?なんか可愛いお嬢ちゃんがいるなぁ〜」



と全身赤の派手派手しい服装をした
無精髭の男が
千夏と秋の肩に手を置く。



胸を弄ろうとするが、
2人はすぐに手を振り払う。



「おいおい、いいじゃねえかすこしくらい〜」


「酒臭っ!」


「急になんなのよ!」


どうやら男は泥酔しているようだ。



「ちょっと!セクハラですよ!?」


少女は男の愚行を咎める。




「ぁあ〜ん?」


男は右手の酒瓶を振りかぶり、


「うっせえんだよこのクソビッチがあ!」














瞬間、雨宮は下に落ちていた石を掴む。









雨宮は無我夢中で、その石を男に投げつけた。









その石は綺麗に真っ直ぐな直線を描いて、








少女に叩き降ろされようとしていた
酒瓶に直撃した。


「痛てぇ!」


「貴様!3人から離れろ!!」


雨宮は再び石を投げつけ、
男に走って向かっていく。


「くそっ!覚えてやがれ!」


男はそんなセリフを吐き捨て、
そそくさと走り去って行った。






雨宮は3人の元に駆け寄り、



「3人とも、無事か!?」



秋と千夏は呆然としつつ



「大丈夫…だよ。」


「うん…あたしも大丈夫…でも矢澤先輩が」


雨宮は動けない駆け寄り、



「大丈夫ですか?矢澤さん」



矢澤は雨宮の顔を見て思わず顔を赤く染め、


「ひゃ、ひゃい、らいじょうぶれす…」


一瞬、沈黙が場を支配し、








「…本当に大丈夫ですか?」



沈黙を破るように雨宮が再びを声をかけた後、





妹2人の笑い声が丘の上から鳴り響く。


「せ、せんぱ…あははははは!!」


「全然大丈夫じゃなああいいははは!!」






笑いすぎて呂律の回らない
2人を背に、矢澤は顔を赤く染めることしか出来なかった。








「お兄ちゃん!」



声をかけたのは秋だ。


バットを片手に、兄に向かう。



「ヒットで回すから!見ててね!」



と、秋はバッターボックスに向かった。



高校生になってすこし頼もしくなった、
妹の威勢の良さに感心する。









有言実行。



直球をセンター前に運び、
ワンナウト1塁3塁とした。



《4番、ピッチャー雨宮大地君》



「雨宮君!一発お願いね!」



「…ああ!任せておけ。」



雨宮は心を引き締め、
バッターボックスへと向かって行った。

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