がーるずベースボール!

近衞

1話⚾︎プレイボール⚾︎

ここは、少し高い丘の上。


そこに聳え立つ木。


その木には、桃色の華が花火のように咲く。


小鳥の囀り。


穏やかな陽気が、窓から差し込む。


1人の少年は、
羽毛のベッドの上で大きな体を起こす。







「……」

目覚めない頭に手を当てる。



「また、あの夢か。」



首の後ろにある傷をいじりながら
呟いた。



俺の名は玉原高貴たまはらこうき



野球が好きな高校2年生だ。



毎晩のようによく目にする、あの夢。



殺風景な手術室に横たえた赤子が、
奇妙な装置で何かをされる。

そして、女が必ずこう言う。






「必ず、私のところに来てね。」








「なんだよ、あの夢。」



「おーい!!起きてるーー?」



窓の外から、活気のある女子の声がする。

少年はベッドから降り、窓を開ける。



「おはよう!高貴!」



少女がとびきりの笑顔を見せる。



胸にソニックがーるずとプリントされた
黒のパーカーに、白い野球ズボン。



大きめのエナメルバッグを背負い、
細長いケースを右肩にかけている。



「朝から元気だなぁ…まだ7時20分だぞ?」


「高貴は夜更かししすぎ!
少しは早く寝ないと体に悪いよ?」



彼女は湯浅響子ゆあさきょうこ

黒髪の長い髪をツインテールに纏めた
活発な少女。

俺の高校の同級生で、近くに住む幼馴染だ。



「昨晩はこの馬鹿狭い家で【奴】が出たんだ。退治したがな。」


「家っていうか、プレハブだけどね。」


「ベッドとキッチンとトイレと風呂場があれば立派な家だ。」


「トイレと風呂場は外だけどね。」




俺はこの響子の父親が所有している
プレハブに居候している。



何でも、このプレハブは奥さんとの
思い出の場所なんだとか。



響子とはガキの頃からの付き合いで、
昔から1人暮らしをしていた俺は
この一家によくいろいろ世話になってた。



高校に上がる時、住んでた家を売り払ったもんだから、住む場所が無くなった。



で、響子の父親に土下座して頼み込んでこのプレハブを紹介されたわけだ。



さらにバイトも紹介してもらって、
もう至れり尽くせりだ。感謝しかない。






「で、何の用だ?響子。」


「バット引きしてく「断る」


「ちょっと!最後まで聞いてよ!」


「やだね。バット引きだけって言っといてこき使うつもりだろ。俺はタダ働きはごめんだ。」


響子は頰を膨らませながら、
「ううう…」


「ほら、帰んな。今日は収穫の日なんだよ。もやしの。」


もやしは優秀。恐悦至極。YO!


「ま、そう言うと思った。
父さんがバイト代出すってさ。響子を手伝ってあげてって、そう言われてるから。」


「社長!一生ついていきやす!」


「じゃ、支度してね。待ってるから。」


「任せろおおお!!」



高貴は窓を閉め、5秒とかからずに準備を終える。




「バイト頑張るぜえい!」


「ほんと、銭ゲバなんだから。」
















やってきたのは河川敷。


そこにある小さなグラウンドが、
今日の試合会場だ。


今日ここで、響子の所属する
ソニックがーるずの試合が行われる。


昨年結成したばかりの若いチームで、
今年こそは連勝するとみんな息巻いている。


戦績は10試合中1勝8敗1引き分けだ。





「おはよ!」   「おはよう、響子!」


「あれ?夫婦で出勤?」


「そ、そんなんじゃないから!」


顔を赤くしながら、響子は否定する。


そんな会話をしている横で、俺は手早く準備を行う。




「今日も来てくれたのか、かたじけない。」




話しかけてきたのは、チームのセンターを任されてる聖川理玖ひじりかわりく


政治家の父を持つ名家のお嬢様。
150cmと小柄ながら凛としたただずまいと、まとめられた紫色の綺麗な髪と端正な顔立ちは、育ちの良さを感じさせる。




「バイトだ、気にすんな。頑張れよ。」


「ありがとう。玉原はプレーはしないのか?」


「まーな。バット引きだよ。」


「また玉原と一緒にプレーをしたいものだが。」


「あの科学者が作った道具の権能が男の俺には使えねえ。辞めとけ。」






あの科学者、とは。


今から150年前、地球に1つのバカでかい隕石が落ちてきたのだ。


その隕石は地球の全土を壊滅させて、
全人類をほろぼした。


だが、ある科学者とその一行の力により、
隕石を利用して文明の
再開発を行い、

人間を創り出して
今の生活基盤を1ヶ月で確立させたらしい。



まあ、以前の世界地図で言うなら
日本の沖縄と北海道を足したくらいの領土しか開拓されていないが。


その科学者がイギリス産まれ
日本育ちだから、
開拓された領土を
日本、イギリスと半分に分けられた。


その中で科学者は女性の権威向上を謳い、
男性のスポーツとされる野球の道具を改造して、女性が男性と同等の力を発揮できるようにしたのだ。


要するに、スパイク履いたら足の速い
女子高生が50m5秒台で走り、

本当に強い子なら150kmのストレートを投げられるわけである。





無茶苦茶や。待つでござるよカオル殿。


おかげで男性の野球人口は減った。
女性の野球人口は増えたがな。





「そんな事はない。私は玉原と外野を守りたいぞ。」


「守備機会無かったけどな。
まあ今日もねえだろ。」


「そうか…残念だ。
…ところで、このあとじか」


「ええ!?芽衣来れないの!?」





突然の大声に、
ソニックがーるずのメンバーは
声の主、響子に目を向ける。





「どうした?樹原来れないのか?」


「昨日入院したみたい…今日の試合どうしよう…」





不穏な空気が漂う。


それをみて高貴はため息をついて、





「バイト代、弾めよ、響子。」


「…いいの?」


「ああ、9番ライトは俺だ。
みんな、よろしく頼むぜ!」





高貴の言葉に、チームの選手達は安堵の笑みを浮かべる。





「皆、円陣を!」


聖川の声により、チームは円を描く。






「いくぞー!」


「「「おーー!」」」






景気のいい、
しかし団結を感じさせる雄叫びが
木霊した。

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