元魔王の人間無双

月田優魔

約束



ガゼルの身体が頭を失い倒れこむ。
そのそばにはガゼルの首が転がっている。
首を跳ね飛ばしたのはセレス。
血の付いた剣を持ってその場に立ち尽くすセレス。
オリビアがガゼルの身体を揺する。

「ねえ!しっかりしなさいよっ!ねえってばっ!!」

ガゼルは一向に起き上がらない。
首を跳ね飛ばされたのだから、当然死んでいる。

「セレステメェ!何してんだ!!」

デュランがセレスに詰め寄り、拳を繰り出す。
セレスは転移魔法でそれを避ける。
転移先はマスターのとなり。
まるで、敵の仲間のようだった。

「よくここまで誘い込んでくれた」

マスターがセレスにそう伝える。
もう間違いなく裏切っていたと、この場にいる全員が理解する。

「アンタ、ガゼルに助けてもらっておいて、また裏切ったのっ!?」

オリビアが顔を真っ赤に怒りながらセレスに詰め寄る。

「やっぱり僕には裏切り者の殺し屋が性に合ってるみたいだからね。こっちにつくことにしたんだ」

悪びれもせず、冷たく言い放つセレス。

「テメェ!セレスっ!!」

拳を握り、突進してくるデュラン。
マスターが手を前にかざす。

「お遊びはおしまいだ」

かざされた手のひらからは火魔法が発動される。
狙いはこの中の誰でもない。
壁ぎわに置いてあった樽、そこに向けて発射される。
誰もが意図を理解できていない中、クシェルだけは、かろうじて理解した。

「っ!!?」

火魔法の直撃を受けて樽が大爆発をおこす。
クシェルは仲間達に水魔法の膜を張ってガードする。
樽の中には火薬が入っていた。
爆風が椅子や机、窓ガラスを吹っ飛ばしている。
オリビアとデュランはクシェルの水魔法によって守られ大きな怪我は食らっていない。

「げほっげほっ、大丈夫ですか、皆さん?」

クシェルが仲間に安否を尋ねる。

「ああ、なんとか・・・」

「助かったわ。ありがとうクシェル」

デュランとオリビアが無事を伝える。
セレスとマスターはもういなかった。
セレスの転移魔法で逃げたんだろう。
三人は大事なことを思い出す。

「「「ガゼルはっ!?」」」

部屋の中を見渡す。
すると、変わり果てたガゼルの姿があった。
ガゼルの死体は黒こげになっていた。
デュランはガゼルの死体を抱き抱え、一旦家の外へと移動する。

「ねぇ!冗談でしょ!しっかりしなさいよガゼル。ねぇってば!!」

オリビアがいくら声をかけても反応する気配がない。
死体を調べだすクシェル。

「何してんのよ、クシェル?」

「死体をちゃんと調べているんです。もしかしたら別人かもしれないから・・・」

微かな希望にすがり、死体を調べる。
信じたくない気持ちから、希望を信じるクシェル。
しかし、希望はあっけなく霧散する。

「本物です・・・ガゼルに間違いありません・・・」

全員の顔がうつむき、悲しみにくれる。
仲間が一人死んだのだ。悲しまずにはいられないだろう。
喋りづらい雰囲気の中、デュランが口を開いた。

「セレスのヤツどういうつもりだ?ガゼルを殺すなんて・・・」

「どういうもなにも、見たとおりでしょ。セレスはまた裏切ったのよ」

オリビアは怒っていた。
性懲りもなくまた裏切ったのだから当然の反応だろう。

「俺たち、これからどうする?」

「魔法競技会なんてしてる場合じゃないわ。今すぐセレスを見つけ出してーーーーー」

『今回の魔法競技会、たとえ何があっても絶対に勝てよ』

不意にガゼルの言っていたセリフを思い出す。
オリビアはガゼルの死体を見つめる。

「・・・いえ、明日の競技会のために会場に戻りましょう」

「いいのかよ?ガゼルが死んだのに競技会なんてしてて?」

ガゼルがそのセリフを言った時にその場にいなかったデュランが異議を申し立てる。

「ガゼルが言ってたのよ。たとえ何があっても絶対に勝て、って。私たちは約束を守るだけだわ。それが、せめてものーーーーー」

三人はガゼルの死体を抱えて会場に歩き出した。

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