頭脳派ゲーム世界の黒幕

月田優魔

秘密

「失礼します」

生活指導室へと足を運んだオレは部屋の扉を開ける。
中に入ると榎本が座って待っていた。

「まぁ座れ」

そう促されてオレも椅子に座る。榎本は硬質な顔つきでこちらを見ている。

「あの、なんでしょうか?」

とりあえず漠然と聞いてみた。呼ばれた理由が全く思い浮かばなかったからだ。

「単刀直入に聞かせてもらう。お前………何者だ?」

いきなり何を言っているんだこの人は?
さっぱり意味がわからない。
こっちが聞き返したくなるような質問にオレは首を傾げる。

「何者って………なんでそんなこと聞くんですか?」

榎本は疑惑の眼差しを向けたまま口を開く。

「この島の学校に入学する以上、生徒の個人情報を学校側は把握しておく必要がある。故にお前のことを調べさせてもらった。しかしお前のデータは何一つ出てこなかった。戸籍、経歴、家族構成も不明。分かっているのは夜神優希という人間が存在するという事実のみ。しかし記録上は存在しないことになっている。まるで幽霊のようだ」

なるほど。それでオレ本人に訊いてきたということか。
自分の過去をペラペラ話す趣味はないし、オレ個人の問題に他人を巻き込むつもりもない。
ここは最善と思われる方法を選ぶ。

「データの管理ミスじゃないんですか?」

「そんなわけないだろう。何を隠している」

「何も隠してませんよ。オレにもなんでデータがないのかさっぱりわかりません」

誤魔化しても榎本の疑惑の眼差しが消えることはない。

「何も隠してない、か。とてもそうは思えないな」

「本当のことです」

いくら話したところで信じてもらえそうにない。
しかし、榎本が信じるかどうかはどうでもいいこと。
いくら聞いても無駄だと分かってもらうことが重要だ。

「………そうか。今はそれを信じておいてやる。だが、いずれ必ず聞かせてもらうからな」

「期待に添えるとは思えませんけどね」

やっと解放してもらえたオレは、生活指導室を後にした。

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