人生3周目の勇者

樫村 怜@人生3周目の勇者公開中!

第32話 ママさんの夢

「では、本題に映りましょう」

カクテルを飲み干し、次のメニューを注文してから切り出すママさん。

「ゲルダの階級の件についてか?」

「あぁ!いえ、それは全く問題ございません!魔王様がお決めになった事にどうこう言うつもりはございませんわ!」

つまり、このデートの目的は他にあるという事だ。お姉ちゃんに甘い~ママも愛して~とか言ってた内容はこじ付けだったわけだ、なんだかやられた気がする。

「……また面倒臭い内容か?」

矛盾している事は分かっている、魔王なのだから面倒臭くて当然だろう。

「はい……その、先ずは感謝を申し上げます。魔族会議デーモンパーラメントに尽力いただいたおかげで、話が円滑に進んでおります。本当に助かりました!」

「それなら良かったよ」

注文したメニューが運ばれ、食事をしながら会話を進めた。

「それで……本題というのはですね、魔族会議デーモンパーラメントで決まった話を、今度は魔王教信者と魔王城、城下町に住む全員に演説していただきたいのです」

予想はしていた、大衆に向けての『奇跡の日』の塗り替えは未だ終わっていないのだ。また緊張するやつだ……。

「一応、執務室の皆には、グレちゃんにゲンジロウ様が宿った事を話したのですが、皆怯えちゃって……」

「あー確かに……そんな反応してたよ……」

「仕えるべき魔王様にゲンジロウ様まで宿ったら、当然ですわよね」

「?……よくよく考えたらそうだよな。ママさんとゲルダはそんなに変わらないじゃないか?」

「私にとってグレちゃんはグレちゃんですもの!たぶんゲルダも同じね、貴方がどうなっても魔王さまであり、弟だと想っているのよ」

魔族らしい考え方なのか、情の薄い所もあれば、こんなにも情で溢れている意見も言う。なかなか理解に至れないもどかしさだ。

「それで……また演舞を踊ればいいのか?」

「それがですね……」

雲行きの怪しい返事をするママさん。

「今度の演説では、魔王教に寄り添った内容でお話頂きたくて……」

ようするにこうだ。『奇跡の日』にゼウスでは無く源次教の神がグレガリムの身に宿ったが、『伝説の剣士』源次郎の力が宿っただけであって、『魔王教』を『源次教』が染めに来たわけでは無いのだと、そう語って欲しいのだそう。

「ややこしいわっっ!!」

「ですよね……」

ツッコミを入れて、それを受け入れられてしまう。オレも酒に手を付ける。

「……何故そんな方法を?」

「そうですね……、簡単に言うと世界三大宗教である『聖ピクサリス』『魔王教』『源次教』の内、『魔王教』と『源次教』は味方であるぞ……と振れまわりたくて」

「あー、政治的な話だな」

「はい……本当はこんな方法取りたくないのですが……」

そう言ってママさんは並べられた酒やつまみを眺める。

「なんだ……?魔族勢力の話だけじゃなくて、他にも問題を抱えているのか?」

そう聞くと更に口籠るママさん。深刻そうだ。

「それが、その……なんとお伝えしていいものか……」

「ゆっくりでいい。教えてくれ」

「はい……お話させて頂きました通り、私の求める社会は『差別と貧困の無い世界』です。魔族内だけの話ならおかげ様で叶う兆しが見えているのですが、……これも近い将来崩れる可能性がございまして、その前に魔族同士の関係性と力を更に強固なものにする必要が……」

「崩れる可能性……具体的には?」

「それがその、『勘』としかお応えできなく申し訳無いのですが……」

並々注がれたカクテルを一気に飲み干し、言葉を選びながら話すママさん。

「ゲンジロウ様がグレちゃんの身に転生していらっしゃる以前より、時折『天界』からの威圧……みたいなものを感じておりまして、周りからはそんな事無いと言われるのですが、どうも気がかりで……」

天界、魔族の本来の世界。『レフトサイド』をディエステラに放棄する世界。ママさんにとっては産まれた地であり、憎むべき仇でもある世界だ。

「それは……勘違いとかでは無いんだな?」

「はい……、実際に天界より『異世界放棄』されて来る、その、『レフトサイド』の子供達は増加して来ております」

ママさんが率先して行っていた各国の貧民を受け入れる慈善事業、それは今も尚『異世界放棄』されて来る子供達も、当然対象であった。

「と言っても、そんな大きく増えたわけでは無く、例年に比べたら少し多いな程度の話なのですが……ですので、勘違いかどうかと言われると……」

「いや……すまない、ママさんを信じるよ。」

15325歳、膨大過ぎる年月を生きているママさんの『勘』。信じる方が自然な気がした。

「何にせよ、魔族の関係が更に改善されて、力を今まで以上に付けられるなら願ったり叶ったりじゃないか。オレも協力するよ」

自分で言っていて可笑しく思えてしまう、過去に勇者だった人間の発言では、もう無い。立場が変わると、こうも容易く考え方が変わるのだから滑稽な話だが、たぶんこれは人間らしい考え方だろう、これだけ永い年月生きて来た存在を否定する側に就けないでいる。

「ママさんの話は分かった、次の演説ではどうしたらいい?」

この質問にも口籠る。

「そのですね……」

つい先日行った魔族会議デーモンパーラメント、あの話し合いにおいて一つだけママさんの予想していなかった行動がある。

『悪魔の産声』――ライトニング・クライ

大衆を黙らせるためにゲルダに放たせた落雷、あれはオレの独断だった。ママさんとは、攻撃的な行いはせず口だけで鎮める話になっていた。『源次流奥義』の演舞が、宗教面や美学からの説得だとするならば、あの落雷は単純な威嚇だ。ママさんの求める『力に頼らない政治』に完全に反した行いだが、オレの意見は違った。戦の時代、戦争の多いこの世界に置いて、ある程度は力による権力の行使を有するべきだと考えている。『魔王絶対政権』の復活、これに至るまではそれなりの力をみせるべきだと。魔族会議デーモンパーラメントまでの3日間で、ママさんとよく論争になった内容だ。

「つまり、次の演説では、力による説得はやめてほしい、と?」

「うーん……そうとも言いきれないんです。私は魔王様がお選びになる事を否定する気は無いので。ただ……」

「なんだ……?」

「魔王教信者の中には武力主義な勢力もいるので。『源次教』を手中にした魔王様がそのように行動されると、戦闘になりかねないなと」

「……そうか、まぁ今回はオレもそんな力でどうこうってつもりは無い。魔族会議デーモンパーラメントでは各族長が居たから、トップが誰であるのかを知らしめるために行った行動だ、次の演説の対象は信者や民衆なんだろ?たぶん必要無いと思ってる」

「えぇ、そうですね。少し懸念していただけでございます」

「別にオレだって暴力反対だよ、あの落雷だって当ててはいないじゃないか」

「そうですね……!」

「オレは根本的にママさんの夢に賛同している」

お互いに酒を飲みきり、空いた皿が並んだ。ママさんが会計を済ませバーを出た。

「ごちそうさまです!」

「いえいえ!私のわがままで付いてきてもらってるのだから、お礼はよしてください!」

そう言いながらオレを抱え上げるママさん。

「次はどこへ行くんだ?」

「いいところです♪」

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