人生3周目の勇者
第24話 宗教と固有魔法
「あなたが『ゲンジロウ様』であるという事を、魔族の各勢力に公言してほしいの」
27代目魔王グレガリムの身に、ゼウスでは無く源次郎が蘇ったと流布させたい。というお願いだった。
「勇者アルビンじゃ……ダメなのか?」
「それはそうでしょう……。勇者は私共魔族にとっては、敵なのだから……」
店に居る周りの客を気にしながら小声で喋る。
「ゲンジロウ様であれば『伝説の剣士』。ゼウス様よりも体裁が良く、魔王様としての威厳を保てるわ……なんて、あまりお願いしたくは無い話なのだけど……」
「改めて思うが、魔族は悪けれんば悪いほど王に相応しい……って事でも無いんだな……」
「そうよ。同族に対して悪行を行えば、当然、支持は得られなくなるわ」
ブロニスラフの襲撃の理由もそうだが、魔族や悪魔と呼ばれる彼らの感性は、とても人間に似ている。それなのに、精神面や主従関係においては弱肉強食を求めてくるから難しい……。
「なら何故ゼウスの悪行を止めなかった?」
「それは……」
意地悪な質問だとは思う。オレが転生を受けた頃、記憶的には数日前の事だがママさんにとっては600年も前の話であるし、時間は関係無いにしろ立場があるだろう。答えが分かっている質問だ。仕えるべき長である魔王の選択を、止められないのは弱肉強食な観点から見ても当然である。それでも聞かずにはいられなかった。
「やっぱり……魔王様がお選びになった事ですもの。私達はそれを疑ってはいけないし、むしろその御意向を全力で支えて然るべき事よ。その事は今でも間違っていないと思うわ」
「ママさんが魔王になった時、その意向を変えた理由はなんだ?」
「?……変えたつもりはないわ?私が示したのは、私へでは無く次の魔王様、つまりあなたの意向が敵うように説いて、代を繋ぐ役割に尽力したまでよ?」
「でも今、オレに願っているのは、目的のために暴挙を働いたゼウスの意向を切り離して、勢力のバランスを見て欲しいというものじゃないか。ママさんにとって、その選択は良い事なのか?」
手を口に当てて考え込むママさん。ゲルダの癖によく似ているポーズを取る。しばらく考えて、アップルティーを飲み干し、口を開く。
「そうね。私自身の意見を言わせてもらえるのなら、一番恐れるべきは差別と貧困よ。魔族の勢力図が差別意識から構成されてしまっている現状を、そんなものは必要無いのだとまとめる為に、魔王城の勢力はあるべきだと思っているわ。」
ママさんは一息置いて改めて言う。
「……現魔王様である貴方様にお願いするのは本当に心苦しい事なのですが、そのように働きかけて頂きたく思っております」
真っ直ぐオレの目を見て訴えてくるその姿はとても凛々しく、これまでの苦労がうかがえるものだった。流石元魔王である、聞きたい事は聞けたし賛同出来るものだった。
「承知した。……と言ってもオレの考えるオレのやり方を試してみるだけになってしまうと思うんだ。間違っていたら、たとえ相手が魔王であっても止めて欲しい。それに、これまでの魔王の意向をオレは知らないんだ、そこら辺も教えてもらわなきゃいけない」
「よろしくお願い致します。魔王様」
改めてママさんに『魔王様』と呼ばれると、城の女に言われるのとは違う重い責任感を感じて萎縮してしまう、胃が痛い。オレは小心者なのだ。小心者。
「……あとそうだ、オレが源次郎である事を公言して、意味があるのか実感が沸かない。『伝説の剣士』っていう噂はそんなに広まっているものなのか?」
その質問に目を丸くして驚いた表情をするママさん。
「そっか!つい先日目覚めたばかりですものね、572年の時をタイムリープしているようなものなのだから知らなくて当然よね……。ゲンジロウ様は、魔族も認めた人間であり、神様よ」
「……は?」
「現に宗教化しているの。『源次流奥義』の教えから出来た『源次教』はこの600年で大きく広まり、3つ目の世界宗教として認められているわ。各国に教会や聖堂がごまんと建っているし、宗派も増え始めている。人間だけじゃなく魔族も平等に教えを受けられる稀代の宗教として『伝説の剣士』の叙事詩が語り継がれていたりするの」
「……は?」
「ゲンジロウ様が産み出した魔法剣術『源次流奥義』を深く勉強した1人の人間と、私と同じ『レフトサイド』の少女が共に旅をして広めたのが起源で、それが現在最も大きな宗派『源次教テレンティア』。開祖に『レフトサイド』が居るから、魔族への浸透も早かったみたいね。私もその宗派に所属しているの、だからあなたが目覚めた日、ゲルダから「魔王様の身体にゲンジロウ様が宿りました」と聞いた時は信じられなかったわ……私の崇める魔王様とゲンジロウ様が一緒になったなんて、素晴らしい事だけど、そう簡単に信じられないでしょう!?」
「……は?」
「あぁ!あの子、ゲルダも『源次教テレンティア』の信者よ!魔王様の教えにもよく似ているからどっちも好きなのよね♪それで、先の戦闘、獣人族族長と貴方の戦いで『源次流奥義』を見た時に確信したわ。あの構え、姿勢から見える研ぎ澄まされた静寂のような剣技!やっぱりゲンジロウ様その人なんだって!そこでやっと信じましたわ!」
「……はぁ」
何も頭に入って来なくなった。とんでも無い話だ。どれだけ誇張されているのか。オレ何か言ったっけ?アルビンの時『教え』なんてもん広めたか?ってかここは本当に同じ世界線なのかさえ疑わしくなってきたぞ。どうなっているんだ。
熱を入れて話すママさん、店に客は少ないが、それでも流石に数人はこっちを見ている。一端落ち着かせよう。
「分かった、もういい。とりあえずオレは立派な宗教のある神様なわけだね。」
「そうね♪」
「そうなってくると話は別でしょう。その宗教の教えも知らないで、そこの神だとは容易に公言出来ないよ。それに、……いい加減店の人がこっちを見ている。騒ぎすぎだよ」
「わ……ごめんなさい。口調は気を付けたのだけど……」
「一個に集中したらもう一個は忘れちゃうのね。とりあえず出よう。」
エスメの街中を歩きながら話す事にした。会計を済ませて店を出る際、ママさんが店員に何か耳打ちをしていた。
「今のは?」
「あぁ!私の固有魔法よ」
「固有魔法?」
「えぇ、私の固有魔法は『対象の記憶を1回だけ消すことが出来る』の♪」
人差し指を立ててウィンクをしながらお茶目に説明するママさん。その姿はかわいらしいのだが、とても怖ろしい話だ。
「そりゃ……とんでもない力だね……初めて聞いたよ。誰でも持っているのか?」
「魔族で産まれてから10000年経ってふっと覚えたの。10000歳越えてる魔族は皆持っているみたい。不思議よね~……」
「呑気なものだな……そんな力あったらやりたい放題じゃないか」
「使い勝手悪いわよ?消せるのも1人に1回だけだし……」
「使い方考えたらとんでもない話だよ……記憶消されたら、消されてる事まで忘れちゃうだろうし……。まぁ正直、源次教の話からあんま頭回ってないけど……でも、固有って事はそれぞれ違うのか?」
「そうね……ベーリヒはそれぞれ違う効果のある魔法を覚えるみたいね、ゲルダの固有魔法は私と違って『瞬間記憶』だし、サキュバス達は全員『透視と魅了』を覚えるそうよ」
ベーリヒはちゃんと固有で、それ以外の種の魔族はまた別らしい。
「なんか他人事みたいに喋るね」
「それはそうよ、戦略的に考えたらあまり他人に明かさない方が良い話だもの。アルビン様が知らなかった事に少し安心したくらいよ?」
なるほど。これは人間勢力に知られてない力というわけだ。
「オレは未だ10000歳生きていないから持ってないよな?」
「あら?気付いてないの?貴方持っているわよ?」
「どういうこと?」
豊満な胸部の下に腕を組み片手を頬に当て、にやりと不敵な笑みを浮かべるママさん。美人が台無しだ。
「……ロマンティックな話よ♪」
「と、言いますと?」
「固有魔法はセックスで複製されるの♡」
「……身体を重ねた相手の固有魔法を貰える……って事か?」
「その通り♪」
「……待てよ。っていう事はなんだ?グレガリム君ってめちゃめちゃセックスしてるんじゃなかったっけ?オレいっぱい持ってるんじゃない?」
「そういう事になるわね……勉強熱心ないい子だわ♡」
今分かるだけでも、『対象の記憶を1回だけ消すことが出来る』『瞬間記憶』『魅了』『透視』の能力は既に持ってるはずだ。あとあれだ、『MayM‘s』とスライム娘のリーナと、浴場で抱いた女達……いったいみんな何歳なんだ。オレが抱いただけでもこれだけ居るのだが、それ以前の話となると何人とまぐわっているのか分からない……。いっそ城の女全員並べて抱かれた事のある者に申告してもらおうか。
「ほんと魔族はすげぇな……」
「喜んで頂けたのなら光栄よ♪」
「どちらかと言うと驚きの連続で頭がパンクしそうだ」
27代目魔王グレガリムの身に、ゼウスでは無く源次郎が蘇ったと流布させたい。というお願いだった。
「勇者アルビンじゃ……ダメなのか?」
「それはそうでしょう……。勇者は私共魔族にとっては、敵なのだから……」
店に居る周りの客を気にしながら小声で喋る。
「ゲンジロウ様であれば『伝説の剣士』。ゼウス様よりも体裁が良く、魔王様としての威厳を保てるわ……なんて、あまりお願いしたくは無い話なのだけど……」
「改めて思うが、魔族は悪けれんば悪いほど王に相応しい……って事でも無いんだな……」
「そうよ。同族に対して悪行を行えば、当然、支持は得られなくなるわ」
ブロニスラフの襲撃の理由もそうだが、魔族や悪魔と呼ばれる彼らの感性は、とても人間に似ている。それなのに、精神面や主従関係においては弱肉強食を求めてくるから難しい……。
「なら何故ゼウスの悪行を止めなかった?」
「それは……」
意地悪な質問だとは思う。オレが転生を受けた頃、記憶的には数日前の事だがママさんにとっては600年も前の話であるし、時間は関係無いにしろ立場があるだろう。答えが分かっている質問だ。仕えるべき長である魔王の選択を、止められないのは弱肉強食な観点から見ても当然である。それでも聞かずにはいられなかった。
「やっぱり……魔王様がお選びになった事ですもの。私達はそれを疑ってはいけないし、むしろその御意向を全力で支えて然るべき事よ。その事は今でも間違っていないと思うわ」
「ママさんが魔王になった時、その意向を変えた理由はなんだ?」
「?……変えたつもりはないわ?私が示したのは、私へでは無く次の魔王様、つまりあなたの意向が敵うように説いて、代を繋ぐ役割に尽力したまでよ?」
「でも今、オレに願っているのは、目的のために暴挙を働いたゼウスの意向を切り離して、勢力のバランスを見て欲しいというものじゃないか。ママさんにとって、その選択は良い事なのか?」
手を口に当てて考え込むママさん。ゲルダの癖によく似ているポーズを取る。しばらく考えて、アップルティーを飲み干し、口を開く。
「そうね。私自身の意見を言わせてもらえるのなら、一番恐れるべきは差別と貧困よ。魔族の勢力図が差別意識から構成されてしまっている現状を、そんなものは必要無いのだとまとめる為に、魔王城の勢力はあるべきだと思っているわ。」
ママさんは一息置いて改めて言う。
「……現魔王様である貴方様にお願いするのは本当に心苦しい事なのですが、そのように働きかけて頂きたく思っております」
真っ直ぐオレの目を見て訴えてくるその姿はとても凛々しく、これまでの苦労がうかがえるものだった。流石元魔王である、聞きたい事は聞けたし賛同出来るものだった。
「承知した。……と言ってもオレの考えるオレのやり方を試してみるだけになってしまうと思うんだ。間違っていたら、たとえ相手が魔王であっても止めて欲しい。それに、これまでの魔王の意向をオレは知らないんだ、そこら辺も教えてもらわなきゃいけない」
「よろしくお願い致します。魔王様」
改めてママさんに『魔王様』と呼ばれると、城の女に言われるのとは違う重い責任感を感じて萎縮してしまう、胃が痛い。オレは小心者なのだ。小心者。
「……あとそうだ、オレが源次郎である事を公言して、意味があるのか実感が沸かない。『伝説の剣士』っていう噂はそんなに広まっているものなのか?」
その質問に目を丸くして驚いた表情をするママさん。
「そっか!つい先日目覚めたばかりですものね、572年の時をタイムリープしているようなものなのだから知らなくて当然よね……。ゲンジロウ様は、魔族も認めた人間であり、神様よ」
「……は?」
「現に宗教化しているの。『源次流奥義』の教えから出来た『源次教』はこの600年で大きく広まり、3つ目の世界宗教として認められているわ。各国に教会や聖堂がごまんと建っているし、宗派も増え始めている。人間だけじゃなく魔族も平等に教えを受けられる稀代の宗教として『伝説の剣士』の叙事詩が語り継がれていたりするの」
「……は?」
「ゲンジロウ様が産み出した魔法剣術『源次流奥義』を深く勉強した1人の人間と、私と同じ『レフトサイド』の少女が共に旅をして広めたのが起源で、それが現在最も大きな宗派『源次教テレンティア』。開祖に『レフトサイド』が居るから、魔族への浸透も早かったみたいね。私もその宗派に所属しているの、だからあなたが目覚めた日、ゲルダから「魔王様の身体にゲンジロウ様が宿りました」と聞いた時は信じられなかったわ……私の崇める魔王様とゲンジロウ様が一緒になったなんて、素晴らしい事だけど、そう簡単に信じられないでしょう!?」
「……は?」
「あぁ!あの子、ゲルダも『源次教テレンティア』の信者よ!魔王様の教えにもよく似ているからどっちも好きなのよね♪それで、先の戦闘、獣人族族長と貴方の戦いで『源次流奥義』を見た時に確信したわ。あの構え、姿勢から見える研ぎ澄まされた静寂のような剣技!やっぱりゲンジロウ様その人なんだって!そこでやっと信じましたわ!」
「……はぁ」
何も頭に入って来なくなった。とんでも無い話だ。どれだけ誇張されているのか。オレ何か言ったっけ?アルビンの時『教え』なんてもん広めたか?ってかここは本当に同じ世界線なのかさえ疑わしくなってきたぞ。どうなっているんだ。
熱を入れて話すママさん、店に客は少ないが、それでも流石に数人はこっちを見ている。一端落ち着かせよう。
「分かった、もういい。とりあえずオレは立派な宗教のある神様なわけだね。」
「そうね♪」
「そうなってくると話は別でしょう。その宗教の教えも知らないで、そこの神だとは容易に公言出来ないよ。それに、……いい加減店の人がこっちを見ている。騒ぎすぎだよ」
「わ……ごめんなさい。口調は気を付けたのだけど……」
「一個に集中したらもう一個は忘れちゃうのね。とりあえず出よう。」
エスメの街中を歩きながら話す事にした。会計を済ませて店を出る際、ママさんが店員に何か耳打ちをしていた。
「今のは?」
「あぁ!私の固有魔法よ」
「固有魔法?」
「えぇ、私の固有魔法は『対象の記憶を1回だけ消すことが出来る』の♪」
人差し指を立ててウィンクをしながらお茶目に説明するママさん。その姿はかわいらしいのだが、とても怖ろしい話だ。
「そりゃ……とんでもない力だね……初めて聞いたよ。誰でも持っているのか?」
「魔族で産まれてから10000年経ってふっと覚えたの。10000歳越えてる魔族は皆持っているみたい。不思議よね~……」
「呑気なものだな……そんな力あったらやりたい放題じゃないか」
「使い勝手悪いわよ?消せるのも1人に1回だけだし……」
「使い方考えたらとんでもない話だよ……記憶消されたら、消されてる事まで忘れちゃうだろうし……。まぁ正直、源次教の話からあんま頭回ってないけど……でも、固有って事はそれぞれ違うのか?」
「そうね……ベーリヒはそれぞれ違う効果のある魔法を覚えるみたいね、ゲルダの固有魔法は私と違って『瞬間記憶』だし、サキュバス達は全員『透視と魅了』を覚えるそうよ」
ベーリヒはちゃんと固有で、それ以外の種の魔族はまた別らしい。
「なんか他人事みたいに喋るね」
「それはそうよ、戦略的に考えたらあまり他人に明かさない方が良い話だもの。アルビン様が知らなかった事に少し安心したくらいよ?」
なるほど。これは人間勢力に知られてない力というわけだ。
「オレは未だ10000歳生きていないから持ってないよな?」
「あら?気付いてないの?貴方持っているわよ?」
「どういうこと?」
豊満な胸部の下に腕を組み片手を頬に当て、にやりと不敵な笑みを浮かべるママさん。美人が台無しだ。
「……ロマンティックな話よ♪」
「と、言いますと?」
「固有魔法はセックスで複製されるの♡」
「……身体を重ねた相手の固有魔法を貰える……って事か?」
「その通り♪」
「……待てよ。っていう事はなんだ?グレガリム君ってめちゃめちゃセックスしてるんじゃなかったっけ?オレいっぱい持ってるんじゃない?」
「そういう事になるわね……勉強熱心ないい子だわ♡」
今分かるだけでも、『対象の記憶を1回だけ消すことが出来る』『瞬間記憶』『魅了』『透視』の能力は既に持ってるはずだ。あとあれだ、『MayM‘s』とスライム娘のリーナと、浴場で抱いた女達……いったいみんな何歳なんだ。オレが抱いただけでもこれだけ居るのだが、それ以前の話となると何人とまぐわっているのか分からない……。いっそ城の女全員並べて抱かれた事のある者に申告してもらおうか。
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