人生3周目の勇者
第15話 魔族の4つの勢力
「ぐすっ……失礼いたしました……本当に恥ずかしいです……」
顔を伏せて謝罪を続けるゲルダ。当然オレも、ママさんも責めない。泣き止んだゲルダとは反対に、今度はママさんが、嗚咽する程では無いにしても涙が止まらない。
「あなたの気持ちに気付けていなかった自分が情けないわ……」
「オレも泣いたし、おあいこだ。本当にゲルダは優しい子だね」
「……ぐすっ……恐縮致します」
鼻をすすりながら、恥ずかしそうに顔を隠すゲルダ。
「さぁ、ママさんもどうか泣き止んでください」
「そうね。……グレちゃんに慰められる日が来るなんてね……」
「オレもまさか、悪魔がこんなに涙もろいとは思いませんでしたよ」
ここまでの話もそうだ。悪魔にそんな深い歴史があったり、現実的な思考で物事を図ったり、魔王信仰という宗教的観測や意思疎通が交わせるとは思いもよらなかった。弟想いなゲルダの情も、意外すぎる反応だったのだ。
人間の街以外で生息している魔族は主に魔物で、言葉を介さず動物的に生息し
人間を襲うだけのモンスターでしかないと、そう思っていた。それこそRPGに出てくる敵モンスターのように。
アルビンとして生きた65年間の間、オレはいったい何をやっていたんだ。いや、そんな事は分かっている。呆けていた、何も知ろうとしていなかった。勉強なんてするつもりも無かった。勇者だから、チート級の力を持っているからと、ただただ娯楽を貪って、遊ぶように旅をしていただけだ。
知らなければいけないものを、知ろうとしないのは罪だ。
オレが討伐してきた魔物にも、きっと意思があったのだろう。今思えば、それに気づいていながら知らないフリをしていたんだと思う。人界の大衆は確かに困っていたが、魔族側の意見、理由があったのかも知れない。オレはこの新しい身体で、同じ過ちは繰り返さないと、そのための転生だったのだと2人の話を聞いて、そう思った。
「ゲルダ、ママさん。この身体をしばらく借りたい。申し訳ないが、このグレガリムから出る方法は分からないし、今一度この世界と向き合いたいんだ。許してもらえないだろうか」
「……」
「いや、分かっている。いつかは弟さんを返すつもりだ。その方法も探したいと思っている。協力してくれないか?」
ゲルダは顔を伏せて、ママさんはおろおろしていた。少しの沈黙を置いてゲルダが口を開く。
「私も分かっております。ぼっちゃまを元に戻す力が私にない事も、方法を知らない事も、配下である私自身の力不足。……先程は当たってしまいました。責任転嫁です。こちらこそ、申し訳ありません」
そういうと膝をつき、深く頭を下げる。
「どうか謝らないでくれ。顔を上げて欲しい」
椅子から降りて、ゲルダの手を引く。その姿を見てママさんがぽんっと手を叩く。
「っという事は、魔王を引き継いでくれるって事ですわね?」
「私も異論はありません。お仕え致します」
今一度席に戻り、少し考える。
「……いや、そうだな。……もし断ったらどうなる?」
「そうですね。……魔王は代々、少なくとも一代600年置きに交代しております。ですが、ゼウス様の代は213年間、私が355年。グレちゃんが魔王様にご就任されてから現在までたったの4年。3代に続き間隔が短くなっております。ここでまた魔王の座を降りて別の者を置くとなると……」
含みながら言葉を続けるママさん。
「各地に生息する魔族の長や、魔王幹部が黙っていないでしょう。……忌憚のない意見を述べさせていただくと、全ての魔族が尊敬の目で魔王様を見ているわけではありません。魔族全体で約40パーセントは魔王否定派です。長い歴史の中で、ディエステラ内の勢力図も大きく変動しておりますし、この三代に渡って方針が右往左往しているので、そろそろ収集をつけないと魔王勢力はマズい状況なのです。私も手を尽くしたのですが……皆さん怖い方ばかりで……」
そういうとママさんはまた項垂れた。
「ほんっとに……分からない子ばかりなんです。魔族って……」
「それは……より一層魔王になりたくない話っすね……」
「見捨てないで下さい!!!」
駄々っ子のように拗ねるママさん。魔王職とは、当たり前なのだがやはり大変そうだ……。
「なるほど……。今すぐこの身体から出て行けないなら、魔王業を熟すしかない状況。といった所なのか……」
その感想に対し、ゲルダが首を横に振り否定する。
「いえ、その点は大丈夫です。即決いただかなくとも、力で抑える事は出来ます」
「……と、言いますと?」
今度はママさんが細い腕で力こぶを作り、自慢気に語りはじめる。
「こう言っちゃなんだけど、私もこの子も、戦闘には自信があるの。魔王勢力は、初代魔王様の見せてくださった栄光に従い、主に力のみで築いてきましたわ。戦争によって他勢力を鎮めるのは容易でございますの!!!」
「……それをママは……」
呆れたように頭を抱えるゲルダ。それを見た途端、先程まで威勢の良かったママさんがまた項垂れてしまう。涙目だ。
「だって仕方がないじゃない!魔王様を崇めないのが許せないんだもの!素晴らしさに気付いてほしいの!!」
「もちろんそれに異論は無いわ。魔王様を崇めるのは当たり前です。でも話し合いで解決なんて時間のかかる方法を選ぶのは初代魔王様の意に反しております。従わないなら切り捨てて力を見せつけるべきかと」
「それは戦場で見せればいいじゃない!同じ魔族同士で戦うなんて、それこそ初代魔王様の望むところではないわ!だから教育を選んだのですもの!」
宗教怖ろしや。同じ神を崇めていても、捉え方によって意見が変わるのは
どこの世界でも同じか。
その後も討論は続き、オレが魔王になるかどうかの話どころでは無くなった。とりあえずオレはこのゲルダとママさんの話し合いを聞いて、魔王勢力の現状を整理することにした。まとめるとこうだ。
魔族の勢力は、主に東西南北4つに分かれて、人間の領地を侵略している。
東のノール大陸、西のクサンドラ大陸、中央のコルネリア大陸を南とし、北のアルベルティナ大陸
東 巨人族 ギガントの勢力
西 獣人族 ビーストの勢力
南 腐敗族 アンデッドの勢力
北 魔王城 魔王配下の勢力
種族間での差別意識から大陸ごとに勢力が分散し、それぞれに長を置いている事で勢力図が出来上がったとか。魔王城はと言えば魔王信仰の元に集まった者や、貧困の手助けで保護している者、そして25代目魔王の『ゼウスの遺産』である数十万を越える美女群で構成されている。
26代目魔王ママさんの教育改革で差別意識の無い唯一の勢力だが、ここで魔王信仰も邪魔になってくるのだとか。信仰心の無い者は他の勢力に鞍替えし、厚い信仰心のある者はそれを疎む。宗教や異種族差別、勢力等の観点が絡まって出来た非常に面倒くさい問題だ。
「あーもー分かった!!!」
こんこんっと軽く机を叩き、討論しているゲルダとママさんの注意を引く。
「とりあえず、今日はこの辺にしよう。正直、情報が多すぎて整理しきれていないし、申し訳無いがちょっと疲れたよ。……あと魔王の件も少し考えたい」
「……それは、気付かづ申し訳ございません。寝室へお運びします」
ゲルダがそういって立ち上がり、瞬時に食器やテーブルを片づける。
「ママさんもありがとう。またしっかり話そう」
「そうですわね!グレちゃんもゆっくりお休みください!」
早々と挨拶を済ませ、またゲルダに抱えられて瞬時に寝室へ移動する。
「ありがとう」
「当然の事にございます」
部屋を見まわし、改めて思う。
「そうだ、ベッドと洗面所が高いから少し困ってるんだ……」
「すぐに」
ゲルダは瞬時にその場から消えて、段差のある台を用意してくれる。
「わがままを言って申し訳ない。以前のオレはどうしていたんだ?」
「以前のぼっちゃまは、空気を踏むことが出来たため、難なく生活しておりました」
なるほど、だから子供部屋っぽくなかったのか。
「そこら辺の情報もまた教えて欲しい。すまないが今日は寝るよ」
「分かりました。またお目覚めの頃お伺い致します」
「何から何までありがとう」
用意してもらった段差を登り、ベッドに入る。
「ところでアルビン様、今晩のお供はいかがなさいましょう?」
「……?どういうことだ?」
「いつも、数人を連れて御就寝なさっていましたので」
夜の営みか。城中の女をとっかえひっかえ弄んでいたのだろう。正直、心惹かれる話なのだが、今日はもう疲れた、眠りたい。
「あー……、今日は大丈夫」
「承知いたしました。おやすみなさいませ」
「おやすみ、ゲルダ」
1人になった。様々な情報が脳内に焼かれ、知恵熱を起こしている。頭痛を感じると、その痛みでこれが現実なんだと実感する。
……オレは魔王になったのだ。
少し気になって、ズボンの紐を解き股間を覗くと、それはそれは立派なモノがついていた。魔王怖ろしや。
顔を伏せて謝罪を続けるゲルダ。当然オレも、ママさんも責めない。泣き止んだゲルダとは反対に、今度はママさんが、嗚咽する程では無いにしても涙が止まらない。
「あなたの気持ちに気付けていなかった自分が情けないわ……」
「オレも泣いたし、おあいこだ。本当にゲルダは優しい子だね」
「……ぐすっ……恐縮致します」
鼻をすすりながら、恥ずかしそうに顔を隠すゲルダ。
「さぁ、ママさんもどうか泣き止んでください」
「そうね。……グレちゃんに慰められる日が来るなんてね……」
「オレもまさか、悪魔がこんなに涙もろいとは思いませんでしたよ」
ここまでの話もそうだ。悪魔にそんな深い歴史があったり、現実的な思考で物事を図ったり、魔王信仰という宗教的観測や意思疎通が交わせるとは思いもよらなかった。弟想いなゲルダの情も、意外すぎる反応だったのだ。
人間の街以外で生息している魔族は主に魔物で、言葉を介さず動物的に生息し
人間を襲うだけのモンスターでしかないと、そう思っていた。それこそRPGに出てくる敵モンスターのように。
アルビンとして生きた65年間の間、オレはいったい何をやっていたんだ。いや、そんな事は分かっている。呆けていた、何も知ろうとしていなかった。勉強なんてするつもりも無かった。勇者だから、チート級の力を持っているからと、ただただ娯楽を貪って、遊ぶように旅をしていただけだ。
知らなければいけないものを、知ろうとしないのは罪だ。
オレが討伐してきた魔物にも、きっと意思があったのだろう。今思えば、それに気づいていながら知らないフリをしていたんだと思う。人界の大衆は確かに困っていたが、魔族側の意見、理由があったのかも知れない。オレはこの新しい身体で、同じ過ちは繰り返さないと、そのための転生だったのだと2人の話を聞いて、そう思った。
「ゲルダ、ママさん。この身体をしばらく借りたい。申し訳ないが、このグレガリムから出る方法は分からないし、今一度この世界と向き合いたいんだ。許してもらえないだろうか」
「……」
「いや、分かっている。いつかは弟さんを返すつもりだ。その方法も探したいと思っている。協力してくれないか?」
ゲルダは顔を伏せて、ママさんはおろおろしていた。少しの沈黙を置いてゲルダが口を開く。
「私も分かっております。ぼっちゃまを元に戻す力が私にない事も、方法を知らない事も、配下である私自身の力不足。……先程は当たってしまいました。責任転嫁です。こちらこそ、申し訳ありません」
そういうと膝をつき、深く頭を下げる。
「どうか謝らないでくれ。顔を上げて欲しい」
椅子から降りて、ゲルダの手を引く。その姿を見てママさんがぽんっと手を叩く。
「っという事は、魔王を引き継いでくれるって事ですわね?」
「私も異論はありません。お仕え致します」
今一度席に戻り、少し考える。
「……いや、そうだな。……もし断ったらどうなる?」
「そうですね。……魔王は代々、少なくとも一代600年置きに交代しております。ですが、ゼウス様の代は213年間、私が355年。グレちゃんが魔王様にご就任されてから現在までたったの4年。3代に続き間隔が短くなっております。ここでまた魔王の座を降りて別の者を置くとなると……」
含みながら言葉を続けるママさん。
「各地に生息する魔族の長や、魔王幹部が黙っていないでしょう。……忌憚のない意見を述べさせていただくと、全ての魔族が尊敬の目で魔王様を見ているわけではありません。魔族全体で約40パーセントは魔王否定派です。長い歴史の中で、ディエステラ内の勢力図も大きく変動しておりますし、この三代に渡って方針が右往左往しているので、そろそろ収集をつけないと魔王勢力はマズい状況なのです。私も手を尽くしたのですが……皆さん怖い方ばかりで……」
そういうとママさんはまた項垂れた。
「ほんっとに……分からない子ばかりなんです。魔族って……」
「それは……より一層魔王になりたくない話っすね……」
「見捨てないで下さい!!!」
駄々っ子のように拗ねるママさん。魔王職とは、当たり前なのだがやはり大変そうだ……。
「なるほど……。今すぐこの身体から出て行けないなら、魔王業を熟すしかない状況。といった所なのか……」
その感想に対し、ゲルダが首を横に振り否定する。
「いえ、その点は大丈夫です。即決いただかなくとも、力で抑える事は出来ます」
「……と、言いますと?」
今度はママさんが細い腕で力こぶを作り、自慢気に語りはじめる。
「こう言っちゃなんだけど、私もこの子も、戦闘には自信があるの。魔王勢力は、初代魔王様の見せてくださった栄光に従い、主に力のみで築いてきましたわ。戦争によって他勢力を鎮めるのは容易でございますの!!!」
「……それをママは……」
呆れたように頭を抱えるゲルダ。それを見た途端、先程まで威勢の良かったママさんがまた項垂れてしまう。涙目だ。
「だって仕方がないじゃない!魔王様を崇めないのが許せないんだもの!素晴らしさに気付いてほしいの!!」
「もちろんそれに異論は無いわ。魔王様を崇めるのは当たり前です。でも話し合いで解決なんて時間のかかる方法を選ぶのは初代魔王様の意に反しております。従わないなら切り捨てて力を見せつけるべきかと」
「それは戦場で見せればいいじゃない!同じ魔族同士で戦うなんて、それこそ初代魔王様の望むところではないわ!だから教育を選んだのですもの!」
宗教怖ろしや。同じ神を崇めていても、捉え方によって意見が変わるのは
どこの世界でも同じか。
その後も討論は続き、オレが魔王になるかどうかの話どころでは無くなった。とりあえずオレはこのゲルダとママさんの話し合いを聞いて、魔王勢力の現状を整理することにした。まとめるとこうだ。
魔族の勢力は、主に東西南北4つに分かれて、人間の領地を侵略している。
東のノール大陸、西のクサンドラ大陸、中央のコルネリア大陸を南とし、北のアルベルティナ大陸
東 巨人族 ギガントの勢力
西 獣人族 ビーストの勢力
南 腐敗族 アンデッドの勢力
北 魔王城 魔王配下の勢力
種族間での差別意識から大陸ごとに勢力が分散し、それぞれに長を置いている事で勢力図が出来上がったとか。魔王城はと言えば魔王信仰の元に集まった者や、貧困の手助けで保護している者、そして25代目魔王の『ゼウスの遺産』である数十万を越える美女群で構成されている。
26代目魔王ママさんの教育改革で差別意識の無い唯一の勢力だが、ここで魔王信仰も邪魔になってくるのだとか。信仰心の無い者は他の勢力に鞍替えし、厚い信仰心のある者はそれを疎む。宗教や異種族差別、勢力等の観点が絡まって出来た非常に面倒くさい問題だ。
「あーもー分かった!!!」
こんこんっと軽く机を叩き、討論しているゲルダとママさんの注意を引く。
「とりあえず、今日はこの辺にしよう。正直、情報が多すぎて整理しきれていないし、申し訳無いがちょっと疲れたよ。……あと魔王の件も少し考えたい」
「……それは、気付かづ申し訳ございません。寝室へお運びします」
ゲルダがそういって立ち上がり、瞬時に食器やテーブルを片づける。
「ママさんもありがとう。またしっかり話そう」
「そうですわね!グレちゃんもゆっくりお休みください!」
早々と挨拶を済ませ、またゲルダに抱えられて瞬時に寝室へ移動する。
「ありがとう」
「当然の事にございます」
部屋を見まわし、改めて思う。
「そうだ、ベッドと洗面所が高いから少し困ってるんだ……」
「すぐに」
ゲルダは瞬時にその場から消えて、段差のある台を用意してくれる。
「わがままを言って申し訳ない。以前のオレはどうしていたんだ?」
「以前のぼっちゃまは、空気を踏むことが出来たため、難なく生活しておりました」
なるほど、だから子供部屋っぽくなかったのか。
「そこら辺の情報もまた教えて欲しい。すまないが今日は寝るよ」
「分かりました。またお目覚めの頃お伺い致します」
「何から何までありがとう」
用意してもらった段差を登り、ベッドに入る。
「ところでアルビン様、今晩のお供はいかがなさいましょう?」
「……?どういうことだ?」
「いつも、数人を連れて御就寝なさっていましたので」
夜の営みか。城中の女をとっかえひっかえ弄んでいたのだろう。正直、心惹かれる話なのだが、今日はもう疲れた、眠りたい。
「あー……、今日は大丈夫」
「承知いたしました。おやすみなさいませ」
「おやすみ、ゲルダ」
1人になった。様々な情報が脳内に焼かれ、知恵熱を起こしている。頭痛を感じると、その痛みでこれが現実なんだと実感する。
……オレは魔王になったのだ。
少し気になって、ズボンの紐を解き股間を覗くと、それはそれは立派なモノがついていた。魔王怖ろしや。
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