人生3周目の勇者
第9話 27代目魔王グレガリム
27代目魔王グレガリム(Gregarim)
御年5歳のベーリヒ。生後2か月で鳴き声と共に闇と雷の融合魔法、巨大な落雷を落し、魔王城を崩壊させる。その衝撃で旧魔王城が位置した北の大地アルベルティナ大陸のアルベルティナ国を割り地図が書き換えられ、現在はエスメ国に改名。その時の雷鳴は南極の地リーン大陸にまで届き、振動で地割れ、津波、竜巻といった過去最大級の災害が世界各国で観測される。それが、これまで勇者に討伐され続けた世界中の魔族を奮起させ魔王幹部が相次いで誕生し、魔族にとっての大きな転機となった。しかし各大陸の勇者もまた、呼応するが如く力を増し、現在は双方、力のバランスが取れてか落着きを見せている。
少年の話を聞くつもりが世界史の勉強になっていた。
「まじか……まじか……」
「先程からそればかりですね」
いつのまにかボードを取り出し、ディエステラ世界地図を貼って熱弁していたゲルダ。本当に女教師のような立ち居振る舞いだ。
「だからこそ、ぼっちゃまは若くして魔王様にご就任されたのです」
「まじか……、それなりに力があるとは思ってたけど、そこまでとは全く思わなんだ。世界地図変えれちゃうんだ……」
「ぼっちゃまなら造作も無い事でございます」
「いやでも、自分の感触ではアルビンだった時の全盛期くらいの魔力しか感じないんだけども」
「それは勇者ごときが扱える力では無いという確かな証拠でございましょう」
「トゲのある言い方するなぁ……」
「ふふ……」
あ、笑った。やっぱり美人は笑顔の方が良い。
「ぼっちゃまとこんなに楽しくお喋りさせていただいたのは……その、初めてなものですから……」
「中身は勇者アルビンだけどな」
こほんっと一咳置いて冷静さを取り戻すゲルダ。
「そうですね。あなた様が手に掛けたというティッチ様に見つかったら大変です」
その名前を聞いてハッとする。
「そうか、ティッチは24代目なんだよな?この身体が27代目だから、2代も前か。いや待てよ、なら今は何年なんだ!?オレが眠ってから何年経ってるんだ!?」
そもそも魔族は長寿なのだ、1代でどれほどの年月を置くのかも分からない。なんとも言えない焦りで早口になる。
「あなた様はぼっちゃまのお身体に、無礼にも住み着いてるだけで、27代目様だとは……それはいいでしょう、まぁそうですね、憎き勇者アルビンが24代目魔王ティッチ様を手に掛けたのは、たしか500と72年程前だったかと……」
唖然とする。開いた口がふさがらないとはこの事だ。572年の経過……。2日程眠っていただけなのに……572年……。源次郎77年とアルビン65年の合計142年間生きてるオレでも想像がつかない。
「って事は……仲間は、兄弟も皆とっくに死んじまってるって事だよな」
回らない頭で自然と出た言葉、悟ったようにゲルダが返事を返す。
「……人間は短命ですからね。お心お察し申し上げます。あ、でもミラ様はエルフですので、まだご存命かと」
「そうか!あいつには聞きたい事もたくさんあるし、会いに行かなきゃだな!」
「それは困ります」
驚愕はしたが、それでも和やかだった空気が、ぴんと張ったようにひりつく。
「……え?」
「御身は魔王様のお身体。そのままでいてもらっては困ります」
「……あぁ……まぁ」
「そろそろぼっちゃまから出て行っては下さいませんか?」
当然の事のようにそう言って首をかしげるゲルダ。
「無理だよ⁉どうしろと!?」
「そうですね。また『転生の儀』とやらをしていただきたく思います」
「……あぁ、それはオレも想像してたけど、仮に転生の儀が成功して出ていけたとして、27代目魔王グレガリムおぼっちゃんが戻って来る確証は無いはずだ」
「そうなのですか……?」
「現に転生してきた今のオレの記憶にも意思にも、アルビンと源次郎は居るわけだし」
そういうとゲルダはぴくりと反応した。
「ゲンジロウ……様?」
「っ!あぁすまない、分からなかったよな。説明すると長くなるから端折るけど、オレはアルビンの前に、別の世界から転生してきた源次郎というおじいさんの記憶があるんだ」
「……ゲンジロウとは……あの500年程前から語り継がれる『源次流奥義』のゲンジロウ様の事ですか?」
「……あー、どうなんだろ。語り継がれてるかどうかは知らないけど『源次流奥義』はオレが使ってた剣技だね、ちょっと恥ずかしいんだけどね。それ」
「……なんと。ではあなたはあの人間も魔族も関係無く剣術を指南した『伝説の剣士』ゲンジロウ様その人だと??」
「んー……、どういう事?」
日本人の源次郎だった時に、そこそこ頑張っていた古武道剣術、剣道。ディエステラで覚えた剣技に応用して、何の気なしに『源次流奥義』とか名付けて使っていたオレの魔法剣術。アルビンの長い冒険の最中、色んなヤツにちょこちょこ指南した事も確かにあったにはあったが……。改めて、時間の経過は怖ろしい……どういう話になっているんだ。
「……なんという事。ぼっちゃまの御身にゲンジロウ様が宿るとは……。サタン様のお導き……」
様子がおかしい。急に左手を顔面に掲げ、全て開いた状態で中指と薬指だけ額に当てがう、あのエロナースがやってた動作をしたかと思えば、ソファから降りてそのまま床に突っ伏していらっしゃる。……しばらくしてすっくと立ちあがり、ソファに戻るゲルダ。
「失礼。という事は、アルビン様の中にゲンジロウ様がいらっしゃる、という事でしょうか?」
「そうだね……説明し難いんだけど、そんな感じともいえるし、源次郎の中にアルビンがいる感じだとも言える。どっちもオレなんだ」
「それで、そのお二方がぼっちゃまの中に……、どうにか勇者アルビンだけが出ていく方法は無いのでしょうか?」
「いやだから、オレがアルビンで源次郎なんですよ。二人というか一人になったと言いますか……」
「……?」
納得いかない様子だ。そりゃそうだろう、オレももうよく分からない。
「まぁ、とにかく、オレだけがこの身体から出て行く方法は分からないし、難しいと思う」
「……困りました。どう致しましょう」
「どうしましょうね……。とりあえずミラに会えば解決策が見つかるんじゃないかと思うんだ。あいつは何か知ってるみたいだし、会って話さなきゃ何とも言えない」
「……それは、そうなのですが」
「ミラがその、オレの話をゲルダにした時の事も、詳しく聞かせて欲しいのだが」
悩むように、ゲルダが口元を隠す。
「そうですね……その話をするには、わたくしの話から始めなければなりません」
「オレは構わない。どうした?……時間が無いのか?」
「いえ、ぼっちゃまとの時間以上に割くべき事など何もございません!」
「中身は違うけどね」
あごに手をかけ悩み込むゲルダ。
「難しい問題です。御身は魔王様その人。わたくしのような者の話をお聞かせするべきか……」
「ついさっき首を刈りに来たじゃない」
「意地悪な事を仰いますね……。あぁそうでした、申し訳ございません。忘れておりました。まず『魔族の目』の件を済ませましょう」
「それは非常に助かる。髪を切ってもらったから視界は広がったけど、どうも視力が弱くて困っていたんだ……」
「まず、目を閉じてください」
「キス?」
「容易い事にございます」
「ごめん、続けて」
目を閉じ、視界が瞼により遮られた状態から魔力を集中させて透視するイメージ。剣道でやった座禅に似ている感覚。深く集中していると視界の広がりを覚え、馴染ませた後、目を開けた。
「どうですか?」
「おー、やっぱりゲルダは美人だね」
「魔王様……///」
視力が戻った。というより、以前よりもよく視える。鏡に目をやると、未だ見慣れない少年がゲルダ達と同じ、強膜が黒く、瞳孔が白い黄色の瞳をしている。一層魔族らしくなってしまった。
「魔族はこんなにも視力がいいんだな……、凄く良く視えるよ」
「魔王様らしくない発言はお辞め下さい……。正直、冷めます」
「いや無理言うなよ……」
視力が良くなり、改めて外の世界を眺める。ソファを降りて、ガラス越しに見える雪原の傍へ行く。オレが動くと、ゲルダが瞬時に隣に来る。先程まで捉えられなかったゲルダのスピードを、今度は目で追う事だけは出来た。
「それ、驚くからやめて欲しいのだけど」
「すみません。癖みたいなものです。それに、申し訳ないのですが、たとえゲンジロウ様とて魔王様の御身を自由にさせるわけにはいきません」
「そうは言うけど……、現状はオレが扱ってるオレの身体だ……」
悲し気なゲルダ、隣に居て顔は見えていないが、その雰囲気が物語る。
「ゲルダは本当に魔王の事が好きなんだな」
「……わたくし共魔族の女は、生まれた時より魔王様に仕えるよう教えを受けてきました。魔王様、ぼっちゃまをお慕いしていない者はこの魔王城におりません。」
薄々そうじゃないかとは思っていたが、やはりここは『魔王城』のようだ。
「まじか、つまりオレはモテモテってわけだ。」
「肯定します。現に、城下の者は皆魔王様の妾にございます」
「……この小僧、5歳だよな?この歳でそんなに女抱きこんでるの?」
「まぁ……そうですね……。……当然の事にございます」
「王の階級はそういうものなのか……」
王は生殖能力もまた求められる力の一つだ。幼い時から性に慣れさせる事で、王としての尊厳を培う風習だとか。日本の戦国時代はそうだったのかもしれないな。
「もしかして兄弟とか多い?」
「……えぇ、もちろんです。数えきれない程いらっしゃいますが、気にされる事はございません。同じ血族で在っても、魔王様にとってはただの配下にございます」
「なんだか、冷たいもんだな……。」
「魔族は人間社会と違い、情で惑わされる事はありません」
表情がよく顔に出るのに、変な事を言うなと思ったが受け流した。
「ふーん。ゲルダは人間社会も詳しいんだね」
「敵の事を知らず、どうやって戦えましょう」
「確かに」
そんな会話をしながらひとしきり雪原を眺め、視力の向上した目をしっかり慣らしてからソファに戻った。
「脱線しましたね。申し訳ございません」
「オレこそ申し訳ない、助かったよ」
「魔王様の謝罪を受けるのは慣れません」
「中身はオレだからな。……まぁいい。それじゃあゲルダの話をしてもらおうか」
御年5歳のベーリヒ。生後2か月で鳴き声と共に闇と雷の融合魔法、巨大な落雷を落し、魔王城を崩壊させる。その衝撃で旧魔王城が位置した北の大地アルベルティナ大陸のアルベルティナ国を割り地図が書き換えられ、現在はエスメ国に改名。その時の雷鳴は南極の地リーン大陸にまで届き、振動で地割れ、津波、竜巻といった過去最大級の災害が世界各国で観測される。それが、これまで勇者に討伐され続けた世界中の魔族を奮起させ魔王幹部が相次いで誕生し、魔族にとっての大きな転機となった。しかし各大陸の勇者もまた、呼応するが如く力を増し、現在は双方、力のバランスが取れてか落着きを見せている。
少年の話を聞くつもりが世界史の勉強になっていた。
「まじか……まじか……」
「先程からそればかりですね」
いつのまにかボードを取り出し、ディエステラ世界地図を貼って熱弁していたゲルダ。本当に女教師のような立ち居振る舞いだ。
「だからこそ、ぼっちゃまは若くして魔王様にご就任されたのです」
「まじか……、それなりに力があるとは思ってたけど、そこまでとは全く思わなんだ。世界地図変えれちゃうんだ……」
「ぼっちゃまなら造作も無い事でございます」
「いやでも、自分の感触ではアルビンだった時の全盛期くらいの魔力しか感じないんだけども」
「それは勇者ごときが扱える力では無いという確かな証拠でございましょう」
「トゲのある言い方するなぁ……」
「ふふ……」
あ、笑った。やっぱり美人は笑顔の方が良い。
「ぼっちゃまとこんなに楽しくお喋りさせていただいたのは……その、初めてなものですから……」
「中身は勇者アルビンだけどな」
こほんっと一咳置いて冷静さを取り戻すゲルダ。
「そうですね。あなた様が手に掛けたというティッチ様に見つかったら大変です」
その名前を聞いてハッとする。
「そうか、ティッチは24代目なんだよな?この身体が27代目だから、2代も前か。いや待てよ、なら今は何年なんだ!?オレが眠ってから何年経ってるんだ!?」
そもそも魔族は長寿なのだ、1代でどれほどの年月を置くのかも分からない。なんとも言えない焦りで早口になる。
「あなた様はぼっちゃまのお身体に、無礼にも住み着いてるだけで、27代目様だとは……それはいいでしょう、まぁそうですね、憎き勇者アルビンが24代目魔王ティッチ様を手に掛けたのは、たしか500と72年程前だったかと……」
唖然とする。開いた口がふさがらないとはこの事だ。572年の経過……。2日程眠っていただけなのに……572年……。源次郎77年とアルビン65年の合計142年間生きてるオレでも想像がつかない。
「って事は……仲間は、兄弟も皆とっくに死んじまってるって事だよな」
回らない頭で自然と出た言葉、悟ったようにゲルダが返事を返す。
「……人間は短命ですからね。お心お察し申し上げます。あ、でもミラ様はエルフですので、まだご存命かと」
「そうか!あいつには聞きたい事もたくさんあるし、会いに行かなきゃだな!」
「それは困ります」
驚愕はしたが、それでも和やかだった空気が、ぴんと張ったようにひりつく。
「……え?」
「御身は魔王様のお身体。そのままでいてもらっては困ります」
「……あぁ……まぁ」
「そろそろぼっちゃまから出て行っては下さいませんか?」
当然の事のようにそう言って首をかしげるゲルダ。
「無理だよ⁉どうしろと!?」
「そうですね。また『転生の儀』とやらをしていただきたく思います」
「……あぁ、それはオレも想像してたけど、仮に転生の儀が成功して出ていけたとして、27代目魔王グレガリムおぼっちゃんが戻って来る確証は無いはずだ」
「そうなのですか……?」
「現に転生してきた今のオレの記憶にも意思にも、アルビンと源次郎は居るわけだし」
そういうとゲルダはぴくりと反応した。
「ゲンジロウ……様?」
「っ!あぁすまない、分からなかったよな。説明すると長くなるから端折るけど、オレはアルビンの前に、別の世界から転生してきた源次郎というおじいさんの記憶があるんだ」
「……ゲンジロウとは……あの500年程前から語り継がれる『源次流奥義』のゲンジロウ様の事ですか?」
「……あー、どうなんだろ。語り継がれてるかどうかは知らないけど『源次流奥義』はオレが使ってた剣技だね、ちょっと恥ずかしいんだけどね。それ」
「……なんと。ではあなたはあの人間も魔族も関係無く剣術を指南した『伝説の剣士』ゲンジロウ様その人だと??」
「んー……、どういう事?」
日本人の源次郎だった時に、そこそこ頑張っていた古武道剣術、剣道。ディエステラで覚えた剣技に応用して、何の気なしに『源次流奥義』とか名付けて使っていたオレの魔法剣術。アルビンの長い冒険の最中、色んなヤツにちょこちょこ指南した事も確かにあったにはあったが……。改めて、時間の経過は怖ろしい……どういう話になっているんだ。
「……なんという事。ぼっちゃまの御身にゲンジロウ様が宿るとは……。サタン様のお導き……」
様子がおかしい。急に左手を顔面に掲げ、全て開いた状態で中指と薬指だけ額に当てがう、あのエロナースがやってた動作をしたかと思えば、ソファから降りてそのまま床に突っ伏していらっしゃる。……しばらくしてすっくと立ちあがり、ソファに戻るゲルダ。
「失礼。という事は、アルビン様の中にゲンジロウ様がいらっしゃる、という事でしょうか?」
「そうだね……説明し難いんだけど、そんな感じともいえるし、源次郎の中にアルビンがいる感じだとも言える。どっちもオレなんだ」
「それで、そのお二方がぼっちゃまの中に……、どうにか勇者アルビンだけが出ていく方法は無いのでしょうか?」
「いやだから、オレがアルビンで源次郎なんですよ。二人というか一人になったと言いますか……」
「……?」
納得いかない様子だ。そりゃそうだろう、オレももうよく分からない。
「まぁ、とにかく、オレだけがこの身体から出て行く方法は分からないし、難しいと思う」
「……困りました。どう致しましょう」
「どうしましょうね……。とりあえずミラに会えば解決策が見つかるんじゃないかと思うんだ。あいつは何か知ってるみたいだし、会って話さなきゃ何とも言えない」
「……それは、そうなのですが」
「ミラがその、オレの話をゲルダにした時の事も、詳しく聞かせて欲しいのだが」
悩むように、ゲルダが口元を隠す。
「そうですね……その話をするには、わたくしの話から始めなければなりません」
「オレは構わない。どうした?……時間が無いのか?」
「いえ、ぼっちゃまとの時間以上に割くべき事など何もございません!」
「中身は違うけどね」
あごに手をかけ悩み込むゲルダ。
「難しい問題です。御身は魔王様その人。わたくしのような者の話をお聞かせするべきか……」
「ついさっき首を刈りに来たじゃない」
「意地悪な事を仰いますね……。あぁそうでした、申し訳ございません。忘れておりました。まず『魔族の目』の件を済ませましょう」
「それは非常に助かる。髪を切ってもらったから視界は広がったけど、どうも視力が弱くて困っていたんだ……」
「まず、目を閉じてください」
「キス?」
「容易い事にございます」
「ごめん、続けて」
目を閉じ、視界が瞼により遮られた状態から魔力を集中させて透視するイメージ。剣道でやった座禅に似ている感覚。深く集中していると視界の広がりを覚え、馴染ませた後、目を開けた。
「どうですか?」
「おー、やっぱりゲルダは美人だね」
「魔王様……///」
視力が戻った。というより、以前よりもよく視える。鏡に目をやると、未だ見慣れない少年がゲルダ達と同じ、強膜が黒く、瞳孔が白い黄色の瞳をしている。一層魔族らしくなってしまった。
「魔族はこんなにも視力がいいんだな……、凄く良く視えるよ」
「魔王様らしくない発言はお辞め下さい……。正直、冷めます」
「いや無理言うなよ……」
視力が良くなり、改めて外の世界を眺める。ソファを降りて、ガラス越しに見える雪原の傍へ行く。オレが動くと、ゲルダが瞬時に隣に来る。先程まで捉えられなかったゲルダのスピードを、今度は目で追う事だけは出来た。
「それ、驚くからやめて欲しいのだけど」
「すみません。癖みたいなものです。それに、申し訳ないのですが、たとえゲンジロウ様とて魔王様の御身を自由にさせるわけにはいきません」
「そうは言うけど……、現状はオレが扱ってるオレの身体だ……」
悲し気なゲルダ、隣に居て顔は見えていないが、その雰囲気が物語る。
「ゲルダは本当に魔王の事が好きなんだな」
「……わたくし共魔族の女は、生まれた時より魔王様に仕えるよう教えを受けてきました。魔王様、ぼっちゃまをお慕いしていない者はこの魔王城におりません。」
薄々そうじゃないかとは思っていたが、やはりここは『魔王城』のようだ。
「まじか、つまりオレはモテモテってわけだ。」
「肯定します。現に、城下の者は皆魔王様の妾にございます」
「……この小僧、5歳だよな?この歳でそんなに女抱きこんでるの?」
「まぁ……そうですね……。……当然の事にございます」
「王の階級はそういうものなのか……」
王は生殖能力もまた求められる力の一つだ。幼い時から性に慣れさせる事で、王としての尊厳を培う風習だとか。日本の戦国時代はそうだったのかもしれないな。
「もしかして兄弟とか多い?」
「……えぇ、もちろんです。数えきれない程いらっしゃいますが、気にされる事はございません。同じ血族で在っても、魔王様にとってはただの配下にございます」
「なんだか、冷たいもんだな……。」
「魔族は人間社会と違い、情で惑わされる事はありません」
表情がよく顔に出るのに、変な事を言うなと思ったが受け流した。
「ふーん。ゲルダは人間社会も詳しいんだね」
「敵の事を知らず、どうやって戦えましょう」
「確かに」
そんな会話をしながらひとしきり雪原を眺め、視力の向上した目をしっかり慣らしてからソファに戻った。
「脱線しましたね。申し訳ございません」
「オレこそ申し訳ない、助かったよ」
「魔王様の謝罪を受けるのは慣れません」
「中身はオレだからな。……まぁいい。それじゃあゲルダの話をしてもらおうか」
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