人生3周目の勇者

樫村 怜@人生3周目の勇者公開中!

第2話 魔王城での戦い

扉を開けると、奥行き100メートルくらいの広大な空間、壁には巨大な書棚が、巨大なベッド、巨大なテーブル、全てが巨大な一室。
最奥に、巨大な王座、魔王の王座があった。

だが、魔王の姿は見当たらなかった。

というより、すぐに気付けなかった。

一瞬、オレのパーティ全員が揃って「え??」っとなったけど、魔王はそこに居た。

巨大な王座の手前、小さな王座。というか、確かに、人間サイズにしては立派な王座だ。だがあの巨大な、見上げるレベルの王座の前にあると、比較してしょぼく見えてしまう。普通の王座、そこに座っていた。

「よく来たな勇者一行」

……。

「我が名は魔王ティッチ、24代目魔王継承者である。」

24代目魔王ティッチ(Titch)、なんというか……若い男の子が、無理矢理低い声で悪そうに喋るあの声色。続けたら咳き込むんじゃ無いかっていうあの痛い声。一生懸命に作ってる感じ。見るからに若い。

皆が察し、最初に口を開いたのはエミーだ。

「ま、魔王よ!貴様を倒しに来た!」

続けざまにミラも乗る。

「魔王軍の悪行もこれまでよ!」

「お前、なんでそんな無理に悪そーに喋るんだ??」

「ぶっ!!!!」

デズモンドは例外だった。元々こいつは少し空気が読めない所がある。そういう所がツボで好きだったりもする。笑った。

「それを言う無し」

冷静にツッコミを入れるエミー。

「……///」

魔王が赤面している。その姿は見事に哀れだ。

「っていうか椅子しょぼくね??」

「それも言うのね」

追い打ちをかけられて魔王が逆上する。

「貴様許さぬ!!!これは5代目魔王様の王座だ!!それはそれは大きい方だったのだ!!」

あたりをよく見たら、それぞれの巨大な家具の横に、人間サイズのものがそろえてあった。きっと5代目の魔王以外はこんな大きいもの必要なかったのだろう。あの巨大な、無限に広がるベッド、シーツの海にはうもれてみたいが……、それはさておき。

2本の立派なツノを生やしてはいるが、細身で小柄な若年魔王。こんな弱そうなヤツが本当に魔王なのか?全員が拍子抜けだった。デズモンドに関しては、さっそくミラに頼んで攻撃力増強のバフ魔法をかけてもらってる。デブるつもりか。

オレは全体の気を引き締め直すため声を上げた。

「忌々しき魔王よ!成敗してくれる!!!」

「ふっ、勇者アルビン、貴様に最後の情けをかけてやろう…。
世界の半分をくれて……ぐはぁああああっ!!」

!!!源次流炎極斬げんじりゅうえんごくざん!!!

自分の昔の名前を使うのは恥ずかしいけど、お気に入りの剣技。元の技名はアモンの魔法を織り交ぜた斬撃「フレイムブレード」、安直だから改名したけど、オレにもネーミングセンスが無かった。

とりあえずそれで斬りかかる。

昔からよく思っていた、というより誰もが同じ事を感じていたであろう話だが、勝負の場で、話し合いから始めるようなヤツを待ってやる事は無い。変身ポーズ決めてる最中に撃ち殺してやればいいのだ。

「貴様!急に何を……」

!!!源次流炎極斬!!!

「うわぁああああっっ!!!」

その後、この炎をまとった斬撃を4発程浴びせたあたりで仲間たちも戦闘に参加し、各々の全力を叩きつける。完全に一方的な戦闘。

魔王も黙ってやられる事は無い、反撃を繰り出す動作は見せるのだが、それよりも早くアルビンが剣を抜き動きを制する、デズモンドが斧を振り下ろし使役しているガルグイユが頬をふくらませ、酸性の液体を高圧で細く噴出。間髪入れずエミーが細身の刀剣で素早く連撃を置き、その間に詠唱していたミラの大魔法、ハイリヒ属性のレーザービーム、光の雨を降らせる。

30年鍛え、磨かれたチームワーク。呼吸を合わせた、隙の無い戦術。

これを3~4回、ミラの魔法を攻撃魔法とバフ魔法にバランスを観て入れ替えさせ、相手の動きが止まるまで繰り返す。

そうしてそこには黒焦げになり、細い息でギリギリの呼吸をする魔王が倒れていた。あっけない。

途中、魔王が「ごめんなさい!やめてください!」とベソをかく瞬間もあったが
慈悲は与えない。

これまで討伐してきた幹部達、中ボスより手ごたえというか、耐久力も戦闘時間も、少しばかり上ではあったように感じる、だがそれにしても弱すぎる。

本当にこれが魔王か?再度そんなことを思い、そこで考えるのをやめた。勝ったのだからそれでいい。

「ッシャァアアアアアッッ!!ミタカゴルァアアアアッ!!(裏声)」

「荒唐無稽(こうとうむけい)な魔王。哀れな事この上ない、世にも恐ろしい残虐非道の数々、この手で仇を取れたことを誇りに、明日も魔王討伐に精を出していきたいと思う今日この頃ではあったのですが、さしも危うき理の……」

「いい感じにキマッてきたわぁ~♡///んもうっ」

仲間たちがデブラでおかしくなるのに合わせ、胸ポケットにある白い粉を取り出し、直接鼻から吸い込む。続けてタバコを口にくわえ、剣に残る炎で火をつけた。

「ティッチよ、まだ喋れるか?」

「こひゅー、こひゅー……、な…なんだ?」

「お前にこのままとどめを刺せば、世界は平和になるのか?」

「こひゅー……、ふっ、はははっ、そんなわけないだろう」

もう作った声で喋ってはいなかった。改めて見ると耽美な子供だ。目元を隠すほどの前髪が、横たわる事で綺麗なパープルの瞳を覗かせる。

「そうか、それは良かった。まだ旅が出来そうだ」

「ふは……は、それはどうかな……」


それは、凡庸な言い回しではあるが一瞬の出来事だ。

瞬く間の、秒にも満たない刹那の刻、まさに一瞬。

魔王が瞳を上に反らせ、その視線の先に目をやると。

ヤツがいた。

大きな純白の翼を広げ、口元は微笑み、目元に光のささない、伝承に言う『天使』。

見た目は天使そのものだが、なんとも言い表せられない不気味さを纏っていた。
そして、その背後には、今この瞬間に倒れ込んでいく仲間達。

デズモンドは、大量の吐血と共に蹲り、エミーは盾を持っていた左腕が、宙を舞う。ミラは、魔法で張ったシールドを突き破られ、腹部が裂けていた。

なんてことは無い。パーティ全滅状態。

魔王が不敵な笑みを浮かべ、それを最後に見て
視界が真っ暗になった。

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