読書部の日常〜ポンコツ系美少女な部長とただ駄弁るだけの不毛なる学園生活〜

ジェロニモ

クラス異世界召喚物に備えて鞄に入れる物について(実践編)③

「と、いうわけで、まずは寝床の確保よね。正直サバイバルに心踊って余裕で徹夜できそうだけど。」


『夏なので寒さとかもないですし。』


 唐突に始まったサバイバル風味の合宿。
 今更喚いてもしょうがないと諦めて、僕も彼女達の会話に加わることにした。


「というか、僕テントとかのサバイバル用品持ってしてないんですけど。」


「はぁ?何言ってるの。あるじゃない。」


 僕の素朴な疑問に対して、部長は僕の通学鞄をライトで照らした。
 そこで僕はあることを思い出した。
 それは、いつぞやに部長と行った学校で異世界に転移された時に備えて、常に鞄に役立ちそうなものを入れておく、という活動。


「あー。あの時の。」


 確かに鞄にから出すことすら忘れていたので、まだ入っているだろう。
 手回し発電機があったはずなので、ひとまずスマホは充電出来そうだと安心した。
 身の安全よりも先にスマホの充電を気にするあたり、僕も大概かもしれない。


「じゃ、もう暗いしとりあえず火を起こしましょ。いい感じの枝とか拾い集めといたから。」


と、部長は荷物をフンっと持ち上げて歩き出した。
 僕もそれについていく。隅田さんは僕に小走りで並んで『頑張りました!』と拳をぐっと握りしめた。


「なんかあっついわねー。焚き火の悪いところは温度の調節が効かないところよね。」






 砂浜の上、チャッカマンという火種で灯され、大きくなった火がパチパチと揺らめいていた。
 部長は熱気を振り払うように手をうちわのように振りながら、焚き火から距離をとる。
 気持ちはわかるのだ。火に手を出して「あったけー」とかやりたかったけど、なにぶん夏だ。夜も暑い。よって火の温もりへの恩恵が薄れていた。むしろ、暑苦しい。


『火の揺らめきって、見ていると脳からα波が出てリラックス出来るらしいです。』


と、今のところ対して役に立っていない焚き火さんを隅田さんがフォローした。


「へー。じゃあこのふわふわと高揚した気分も収まってくれるのかしらね。ホント、今日は寝れそうにないのよ。」


 そう言う部長はソワソワと体を動かしていた。血流良く顔も赤みがかっている。焚き火のせいかもしれないけど。


 あれかな。遠足前日は興奮して眠れないみたいな幼稚園児レベルのやつだろうか。
 部長は精神年齢的に幼稚園レベルなので、案外ありえる。


「あ。そうだ。事前に言っておくけど、ネットでサバイバルとかについて調べるのは無しよ。なんせ異世界に行った設定ですから。
残念ながらことにこの無人島は電波が届いちゃう系の無人島だったけれど、電波が届いてない設定でいくわよ。だから通話もなしね。」


 部長が新たな縛りを入れてきた。別にいいんだけど、一つ不満がある。
 それを訴えるべく、僕はスッと手を挙げた。


「はい。後輩君。」


先生気取りの部長がその辺に落ちてた枝で僕を指し示した。


「ソシャゲのログインボーナスとかあるから毎日ログインしたいんですけど。今のところ2年以上皆勤賞なんですよ。」


「それはオッケーよ。やっぱりスタミナの消費とかは大事だもの。ほら、スタミナが貯まったままだとソワソワするっていうか、罪悪感が凄いじゃない?サバイバルに影響が出るわけでもないしオッケーよ。」


と言って、部長は早速スマホを取り出して横画面にした。


 やけに寛大な判断だと思ったら、自分がソシャゲをやりたいが為だったか。制約がガバガバすぎる。


 部長はスマホを動向の開いた目で見たまま、ボストンバックからポテチを取り出して、パリパリと食べ始めた。
そして脂と塩まみれの手でスマホをポチポチとタッチする。


「あ、隅田ちゃんも食べる?」


 部長はなおもスマホから目を離さず、ポテチの袋を隅田さんの方へと提げた。
 隅田さんは食い気味に頷いて、リュックサックからお箸を取り出してポテチを食べ始める。


 そして二人がポテチを食い終えた頃、唇をテッカテカにした部長と、ナプキンで口元を拭き取る隅田さん。
 やっぱり女子力がちげぇや。なんて思っていると、隅田さんの頭がコクコクと上下に揺れた。


「あら、お菓子食べたら眠くなっちゃったの?」


と部長も気づいたようで問いかけると、隅田さんはコクンと大きめに頭を振ったが、これ眠くてウトウトしてるのか頷いたのか区別がつかないな。


 けど、眠いのは確かなようだ。スマホで時計を確認すると現在は22時
 なんとなく、隅田さんが普段規則正しい生活をしていそうだなということが伺えた。


 僕の場合は、午前3時が大まかな就寝時間だし。夏休みなんかの長期休みには、朝起きて昼過ぎに起きるという完全に昼夜が逆転した生活を送っているというのに。


「じゃあ寝袋出しちゃいましょう。」


 そう言って部長はボストンバックから寝袋を取り出した。
 隅田さんもおぼつかない手つきながらも、リュックかは寝袋を取り出した。


 部長はオレンジで、隅田さんは迷彩柄だった。……隅田さんの好みが分からない。
というか僕はそんなもの持ってきてない。砂という寝心地の悪そうなベットで寝なければならないのだろうか?


「大丈夫よ。一応黙ってつれて来たんだから、後輩君の分はちゃんと持って来てるわよ。」
 不安な目で見ていると部長は、バックの中から3つ目の黒い寝袋を取り出した。


「ほら、後輩君は厨二病だからちゃんと黒色にしといてあげたわよ。」


「違いますよどこから出て来たんですかその情報。」


「え?なんか何となく雰囲気が厨二臭いじゃない?」


 部長はキョトンとした顔で言う。なんだろう。どこが悪いというわけでもなく、何となく全体的がと言われるととてもショックだ。だって改善しようがないし。なんだか気分がズーンと沈み込んだ。


「そもそもなんで合宿の行き先とか僕に黙ってたんですか。」


 僕は「ありがとうございます」とお礼を言って寝袋を受け取り、そもそも根本的な疑問を尋ねた。


「だって無人島に行く。とか言ったら後輩君バックれそうだったし。」


「うぐっ。」


 至極もっともな考察に、変な声が漏れた。
 確かにメールを見なかったことにするぐらいは普通にしたと思うけど。思うげどなぁ。どうも釈然としない。


 強いて言うなら二人が共有していることを僕だけが知らなくて、仲間外れにされた感覚というかなんというか。多分寂しかったのかもしれない。
 なんてことを考えていたらどうしようもなく恥ずかしくなってきた。


「あら?後輩君顔赤くなってない?」
「え?多分焚き火の火でしょう。」


と、僕は平然を装った。


「ま、パパが事前にヤバい生き物とか居ないかとか調べてくれてるし、ちゃんと連絡したらすぐ来てくれるようになってるから大丈夫よ。」


 それでも監督者無しで未成年者3人で無人島で野宿とかヤバイ気がするのだが。まぁどうにでもなれというやつか。


 なにせ、いつもは孤独な夏休みが、2人と過ごすことが出来て嬉しいと感じている自分が居るから、どうもこの合宿に対して否定的になれない。


 例え拉致のように半ば犯罪行為な方法で無人島に連れてこられたとしても。いや、やっぱりなんかムカついて来たな。


 そんなことを考えてる内に、気づけば隅田さんは寝袋にすっぽりと入って、顔だけ出した状態で静かな吐息を出していた。


「ほんと隅田ちゃん可愛いわよねぇ。渡辺さんがモデルにモデルにっていう気持ちもわかる気がするわ。あの人レズっ気でもあるのかしらね。話すとき妙に興奮しているし。」


と渡辺さんへ不名誉な発言をして、部長はスマホでぱしゃぱしゃと隅田さんの寝顔を撮影していく。おい、盗撮だぞ。


「これ、渡辺さんに売れたりしないかしら。」


と、顎に手を当てて真剣な様子でボソりと呟いたのは聴かなかったことにした。


「じゃ、僕もそろそろ寝ますね。」


「えー。随分と早いのね。」


 いかにも意外だという風に部長は目を見開いて驚いた。


「何時もは遅く寝てるんですけどね。この機に生活リズムを正そうと思いました。」


「なにそれ良いじゃない!夜更かしはお肌に悪いって言うけれど、自分の家だと誘惑が多すぎてついつい遅くまで起きちゃうのよね、でもここでならやれそうよね。いえ、やれるわ!」


 部長はそう言って寝袋に潜り込んで、


「じゃ、また明日。」と言って顔の部分までチャックをあげた。つまり、芋虫状態になった。


「はい。おやすみやさい。」と返事をして、焚き火に砂を被せて火を消すと、僕もいそいそと芋虫になった。
 そして目を閉じる。


 しばらくすると、部長の息がすーすーと穏やかで深いものに変わったのが分かった。眠ったのだろうか。興奮して眠れそうにないと言っていたくせにすぐ寝たもんである。


 そして、それから体感的に何時間か経って、僕はあることに気づいてしまった。


「睡眠薬で眠らせられたから全然眠くならないっ!」


僕は、暗闇の中徹夜した。






合宿1日目、終了。



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