ある日世界がタイムループしてることに気づいて歓喜したのだが、なんか思ってたのと違う

ジェロニモ

物理法則が乱れすぎて世界が心配

 生きた。僕は生き抜いたぞ。


 帰る場所を失い公園へと戻った僕は、木製のベンチの上で半ば気絶のような眠りと寒さによる覚醒を繰り返したのち、ついに朝を迎えた。迎えたんだっ……。
 僕をよくやったと褒め称えるように朝日が昇り体を照らし出した。両手を広げてそのサンパワーを体内に取り込む。暖かい日の光が目にしみやがるぜ。
 夜中は歯をガチガチ鳴らしながら死に怯えていたが、これで大丈夫だ。僕はまだ舞える。




 少しラジオ体操もどきをして強張っていた体をほぐした後、僕は学校へとやってきた。目的は知り合いを探すことだ。   
 スマホは自転車のカゴに入れていたバックと共に消えたが、僕の曜日感覚を信じるなら今日は土曜日、やる気ゼロな帰宅部などは学校に絶対行かない曜日だ。しかし部活動に勤しんでいる生徒諸君は違う。


 現に僕の目の前のグラウンドでは、サッカー部や野球部の諸君が集団で蹴ったりバットで叩いたりとボールに暴行を勤しんでいた。これでボールは友達とはどの口が言うのだろうか。


   目的の見知った生徒の顔を探すが、見当たらない。そのことに少し焦りながらも校内へと入り、体育館や放送室を覗いた。
 隠れんぼのごとく各空き教室やらベランダやらで散り散りになって個人練習をする吹奏楽部を探し、各部屋を覗いた。しかしどこを探しても成果は何一つとして得られなかった。


 見知った生徒が全員たまたま部活を休んでいただけという可能性は、残念ながら無い。なぜならとある理由から、僕はこの学校の全校生徒ほぼすべての名前と顔を覚えていたから。それなのに知っている顔は一つも無く、部活に励んでいた生徒たちは、誰も彼もが見覚えない人達だった。
 ……僕の知っている人全ての存在が、この学校から消えていた。




 急に重たくなった脚をひきずる様にして、僕は自分の教室だった場へとやってきていた。自分の席の机は高さが違い、引き出しには知らない名前の書かれた使ったことのない教科書やノートが入っている。他の机の中身を確認しても知った名前は出てこない。


 実を言えばここに来るまでも違和感は十分すぎるほど転がっていた。
 見慣れているはずの街並み、教室に壁に貼られたポスター、それら視界に入る景色はいつもと同じようで、それでいてほんの少しだけ違っていた。
 まるで一人だけ別世界に放り込まれたかのような、そんな感覚を否定するように、僕は必死でみんなの痕跡を探し続けた。


 引き出しを漁っていると、一枚のプリントがひらりと地面に落ちる。日付は昨日、やはりいくら見ても全く貰った覚えが……あれ? 僕はあることに気づいてプリントを急いで拾い上げた。瞳孔をこれでもかと開いて、穴が空くほどにプリントの一点を見つめる。
 プリントに一点、一点だけおかしい箇所があった。


 僕は慌てて他の机の中も漁りまくると、同じプリントを多数サルベージすることに成功した。
 プリントの内容はなんの変哲も無い学校から保護者への便りだった。保護者に渡してくださいと渡される存在意義のよくわからないアレだ。


「……そういうことか」


 なぜ突然星野先生と自転車が目の前から忽然と消え失せたのか。
 なぜ僕の家に知らない人が住んでいたのか。
 なぜこうも見える景色が違和感に満ち溢れているのか。
 その理由はプリントの左上、日付の部分に隠されていた。


 まず前提として、僕の体感では今日は2019年1月12日だ。そして休み前に配られたであろうこのプリントに記載された日付は、1月11日。昨日の日付である。何も問題はない。しかしより正確には日付はこう記載されていた。


2011年1月11日。


 わーゾロ目すげー、って違うそうじゃない。この日付が正しいものならば、プリントは8年前に配られたものということだ。そして僕は教室の前にカレンダーが貼ってあるのに気づいた。改めてよく見てみれば、そのカレンダーも2011年版だった。 


……どうやら僕は8年前にタイムスリップしたらしい。
    最近物理法則が乱れすぎではないだろうか。僕は少し、いやかなり世界のことが心配になった。









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