これがあたしの王道ファンタジー! 〜愛と勇気と装備変更と〜

プリティナスコ

前略、チャンスと勇気と

「忠告を聞かないからそうなるんですよ。」


 目を覚ましたあたしに、開口一番で厳しい言葉。


「一瞬で消えただとか、少し考えればわかるでしょう。」


 今回はなにも言い返せないね。素直に謝ろう。


「ごめんね。ちょっと考えなしだったよ」


「大丈夫だった!?セツナお姉さん!?」


 ノノちゃんにも心配かけてしまった。反省反省


「大丈夫だよ、意外とあたし頑丈だから。」


 ニッと笑って答える。大丈夫大丈夫


「さて、そろそろ出ましょうか。」


 リリアンの準備はできてるみたい。なんだかんだいって優しい子なんだよね。でも……


「たしかに早く解決したいけどさ、猿退治は明日にしない?今日はいろいろあって疲れたよ。」


 ネオスティアに来てからまだ1日もたっていないんだ。今日は身体を休めたい。


「貴方はなにを言ってるんですか。」


 んん…?自分でそろそろ出るって……話しが噛み合わないな。


「そろそろここを出て、青の領地に向かうと言ってるんです。」


「ちょ、ちょっと!なに言ってるの!?」


 突然の発言に驚きを隠せない。それじゃあ、この村やノノちゃんのお姉さんはどうなるのさ。見捨てて行くなんてありえないよ!


「だから甘いんですよ。途中の街にでも討伐依頼をだせばいいじゃないですか。ここから3日とかかりません。」


 私達のすることではないです、とリリアンは切り捨てる。そうかもしれないけど……


「あたしはあたしにできることをしたいよ。泣いてる女の子の涙を止めたい。」


 多分、あたしは世界を救えないけど、この手と足が届くところなら。目の前の女の子の笑顔のためだとか。


「お願い!1日だけ頂戴!」


 お願い!ともう1度頭を下げてみる。沈黙が重い……


「あの……セツナお姉さん、リリアンお姉さん……」


 沈黙の中、ノノちゃんが声をあげる。


「わたし達は大丈夫だから……自分達の村は自分達で……」


 ノノちゃんは途中少しづつ涙ぐむ。違うんだよ泣かないでほしい。あたしはできるならみんなに笑顔でいてほしい。当たり前の感情だ。当たり前だけど難しい、だけど困難なことが諦める理由にはならないよね。
 もう1度、リリアンに向き合う、こっちは折れるつもりはない。


「はぁ……わかりました。1日待ちます。」


 リリアンの方が折れてくれた、ありがたい!


「ただし、明日も無理なら殺します。」


 冗談じゃないよね。でもチャンスをもらえただけ十分だよ!


「ありがとう!走り込みでもしてくるよ!」


「お待ちなさい。」


 リリアンから紙を渡される。なんぞこれ?


「あの猿に対する私なりの特訓メニューです。ただやむくもにやるよりいいでしょう。」


「それとスキルボードは置いて行って下さい。特訓の不正防止です。」


 信用ないなぁ、仕方ない切り替えてこう。よし、やるぞー!


「セツナお姉さん……」


「というわけだよノノちゃん、良い子待っててね。」


「それとこのブーツ借りていっていいかな?逃げるときとかに使えるかもだし。」


「それはいいんだけど……本当にいいの?」


「もちろん!」


 カッコよく決まった!これは主人公だね!
 勢いよく飛び出す!ギュン!畑に突き刺さる。締まらないなぁ。




 1日、メモに書かれた特訓をこなす。途中【ウエポンチェンジ】によってブーツを履き替えれる事を学んだ。
 ……初めてのスキルがブーツの履き替えって、一体何なんだこのスキル。
 それに気づいてから何度か履き替えたけど『疾風のブーツまーくすりー』は今までのような暴走もしなかった。その代わりなんの効果もない普通のブーツだったけど……


「セツナお姉さんお疲れ様です!」


 特訓帰りのあたしをノノちゃんが迎えてくれる。いいなぁこういうの。


「ただいま、ノノちゃん。」


「ご飯できてるよ!はやく食べようよ!」


 テーブルには料理が並んでる、よくみたら大きな皿に大量の肉じゃがが………肉じゃが!?


「なんで肉じゃががあるの!?」


 突然の元の世界の料理に驚きを隠せない。


「行儀が悪いですよ。」


 リリアンはもう食べ始めていた。あたしを待つ気はなかったらしい。だろうけど


「あぁ…ごめんごめん」


 しっかり手を洗って、いただきまーす。


「美味しい!」


 野菜が違うからどんな味かと思ったらほとんど変わらない味!こりゃスゴイ、ノノちゃんはいいお嫁さんになるよ。


「えへへ、やっぱり肉じゃがは醤油が決め手だね!」


 あ、醤油もあるんだ、もはやツッコむまい。
 あまりの美味しさにご飯もススム、流石にこの量は食べきれるかな?と思ってる内に肉じゃがはもうほとんど残っていなかった。
 あれ?あんなに大量の肉じゃがは?


「ごちそうさまでした。」


 あたしの向かいに座っていたリリアンは優雅な仕草で席を立つ。リリアン、めっちゃ食べるじゃん!?


「おそまつさまー」


 笑顔のノノちゃん、う〜ん、ネオスティアでは普通なのかな?


「あたしはてっきりメイドのリリアンが料理を作ってくれるんだと思ってたよ。」


「どうして私が作らなければならないんですか。」


 少し食い気味のリリアン、確かにまだそこまでの仲じゃないってことだよね。


「どうして私が料理をできると思ったんですか」


「できないの!?」


 え、おい!メイド!


「戦闘用なので。」


 なんだか知れば知るほどわからないなぁ。
 今日1日を振り返る、体感として死んで、死んで、戦って、戦って、畑に刺さって、畑に刺さって……
 う〜ん、カオス。ネオスティアにきてから初めての夜、あたしはこれからの事よりも、明日ノノちゃんのが笑えるかどうか、それを考えながら眠ることにした。


 朝起きる、晴れた空は絶好の主人公日和である。


「おはようございます、セツナお姉さん。」


「おはよ、ノノちゃん。」


 あいさつ、それと見送り心強い。あ、そういえば


「借りたブーツなんだけど、2回畑に刺さってから暴走しなくなっちゃったんだけど……」


 壊しちゃったかな?と聞いてみる。


「あ、『疾風のブーツまーくすりー』は1日に2回それぞれ2歩までしか機能しないらしいよ。」


「なるほど……じゃあ逃げる為に使わせてもらうよ。」


 本当は必殺技とか考えたけどいきなり実戦は無理だよね。


「それと……これ……」


 ノノちゃんが小さな包をとりだす、これは?


「わたしが作った薬草だよ、セツナお姉さん弱いから…」


「あ、ありがとう……」


 素直に喜べない……でも心づかいは嬉しいよ、嬉しい。


「死なない程度に頑張って下さい。」


 はい、とリリアンからスキルボードを返される。準備万端かな?


「ごめんなさい、セツナお姉さん。わたしの方が強いと思うけどわたし…わたし…」


 あたしの心を傷つけながらノノちゃんは言葉を紡ぐ。


「わたし……勇気がなくって……」


 とうとう泣き出してしまった。どうしてあたしはいつも泣く前に止められないんだ。情けない。


「仕方ないよ、大好きなお姉さんが未だに起きないし、そんなことにした猿と戦うなんて普通怖いよ。」


「でも、いつかは勇気をだしてほしいな。いつかお姉さんとかこの村の人達を守れるように。」


 大丈夫と前置きして


「勇気がないならあたしがあげよう!弱っちいあたしでも諦めずに頑張るから!」


 ちょっと怖いけど虚勢をはって。
 そんじゃいっちょいきますかー!装備はノノちゃんの薬草とお姉さんのブーツ。よーし!借りは返すぞ猿共め!

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