これがあたしの王道ファンタジー! 〜愛と勇気と装備変更と〜

プリティナスコ

前略、転生と即死と

 うん、全部思い出せた、おかえりなさい、あたしの意識。思考が正常に戻れば、今、この状況の異常さもハッキリと、受け止められる。
 メイドさんは、あたしの上に体を挟んで跨るように立っている。……上段に構えた大剣も
 このままなら確実に、死ぬ


 それでも……


「それでも……」


 それでもまだ!


「それでもまだ!」


「死ぬわけには!いかないでしょ!」


 上半身に、下半身に、全身に力を込める。
 ありがとう異世界特典。これならなんとかなるかも!いや、なんとかしてみせる!
 渾身の上体おこし!お腹までは届かないけど、その少し下あたりに!全身全霊の頭突きを!


「……ッ……!」


 メイドさんも、あたしが完全に意識をうしなってると思ったみたい。頭突きでよろめいたスキに距離を確保!足元の鎖に少し躓いたけど、なりふりかまってらんないよ!


「……殺します……絶対に……!」


「ちょっと待って!話し合おうよ!流石に転生から10分で殺されるような事はしてないよ!?」


「問答無用です」


 すぐに冷静になったメイドさんは、距離をつめてくる。……足の鎖が絡まったりしないかな……
 そんなあわい希望を打ち砕くように、有言実行、問答無用に迫ってくる。
 でも、あたしもただやられる気はないよ!
 さっき気づいたけど、あたしの服装が変わってる、制服から冒険者って感じの服に、そして腰には初期装備と思わしき片手剣!


「仕方ない、それじゃあ頑張ってみようか!」


 少し、ワクワクしてるあたしがいる。異世界特典の超強化、初めてのはずなのに手に馴染むこの剣、感覚が、本能が、あたしを主人公だと告げている。
 本当は、少しだけ憧れていた物語の主人公に、きっとなれる、どんな理不尽な展開だって、笑顔で、鼻歌でも歌いながら乗り越えてあげるよ!


「見えた!」


 きっとメイドさんにとっては、刹那の時間、でもあたしにはハッキリと見える!大剣の動き、メイドさんの動き、あっちも早くて完全に避けることはできないけど、剣で受け流して峰打ち!


 ……次の瞬間、最初に感じたのは理不尽な質量に押しつぶされる両腕、その痛みを感じる前に、黒い大剣はあたしの体を両断していた。
 最後の意識で人は本当に死ぬとき、世界をゆっくりと感じるんだなぁ。と振り返るのだった。





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