〖真実の愛〗エピソード③~最後の恋人S子編~

YUTAKA

第八章 幸せな思い出

第八章 幸せな思い出

彼女とは沢山の場所へ出掛けた。
初めて泊りで出かけたのは伊豆半島への旅行だった。
特に行先の目的も無く岐阜県から国道一号線を経由して
二人だけの二泊三日の旅に出かけたのだ。

昼間はファミリー向けの水族館で遊び
夕方は港から見える夕日を二人で眺めて楽しんだ。
そして伊豆半島で観光をした後は民宿へ泊まった。
彼女はお喋りが大好きだったから私は聞き役になって
彼女の話しに合相槌を打ったり時には私の主観で答えた。

そんな何気ない時間が私は好きだった。
彼女もきっと同じ気持ちで居てくれていると思っていた。
旅館の和室には二つの布団が敷かれていたが
私と彼女は一つの布団を共有して夜が更けるまで他愛もない話をしていた。

私と初めてのお泊りデートに彼女は凄く喜んでいるように見えた。
助手席に座った彼女はずっと笑顔が絶えず
キラキラした瞳が凄く印象的で今でも忘れられない。

『ねえ!いつまでもこうやって手を繋いでいられるね♫』

彼女は思ったことをストレートに表現するタイプで
そして私も彼女の溢れる気持ちがとても嬉しかった(笑)
恋愛など自己満足に過ぎないと私は心の中で思っていた。
だから相手の気持ちを深読みしたり気にするよりも
自分が好きでいればそれだけで良いと思ったこともあった。
でも好きな人からこれほど愛情表現をされると悪い気はしない・・・
いや!それは自分の気持ちが舞い上がっていただけであろう(笑)

『うん!ずっとS子の手を離さいよ♪』

私も彼女の気持ちに応えたくて
自分の素直な感情を表現するように何時しかなっていた。
言葉にすることは本当に大切だと最近思うことがある。
特に感謝の言葉は思った時に言うべきだとつくづく感じる。
それは言えなかった時の後悔を人生で経験しているからだ。

私の父親はすでに他界している。
寡黙で頑固な父親だったから気軽に会話をした記憶がない。
だから父親には感謝の気持ちを伝えることなくこの世を去った。

『育ててくれて、ありがとう』
そんな感謝の一言を言えぬまま、親父とは永遠の別れをしたからだ。

S子と共に過ごした時間の中で
私が彼女へ伝えきれなかった感謝の言葉も沢山あっただろう。
もしも彼女へ感謝の気持ちをしっかり伝えていたのならば
今でも彼女と一緒に過ごしていたのかもしれないと。

今では『幸せな思い出』だけが私の脳裏に焼き付いている・・・



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