機械と花 ロボットだろうが感情はあるんだから恋愛くらいしてもいいだろ?

トリカブト

盲目の少女と戦うロボット 6

 張り詰めた空気の中、俺たちは、司令室へ向かう。先ほど軽口を散々叩いていた三俣さんも滅多に見ないような真剣な顔をしていた。
 俺はよほどの事態なのだろうと肩に力を入る。
 こわばった表情を見てか、三俣さんが
「大丈夫さ!俺が付いてるからね~」
 とさっきのような砕けた感じで言った。俺の緊張をほぐしてくれているのか、いつものナンパ癖かは定かではないが、少し張り詰めすぎた緊張の糸が緩んだような気がした。
「そうですね」
といつものように答えると、彼は
「やっぱり堅いね~」
 と少し呆れたような物言いをする。
 俺たちがそんな会話をしていると、司令室へたどり着いた。俺は、ノックをし
「失礼します」
 と言いつつ、扉を開け、部屋に入った。






 部屋では、司令官がいつもに増して険しい顔をして待ち受けていた。
 机に山のようにあった報告資料は半分ほどになっており、その仕事の速さに少し驚いていると
「貴公らを待っていた、折り入って頼みたい事がある」
 と司令官が言うと、三俣さんは
「どうやらあの情報は本当だったんですね?」
 といつもは聞かないような堅い口調で聞いた。俺は
「あの情報とは何のことですか?」
 と質問した。司令官は
「帝国のスパイによると、停滞気味の戦線に痺れを切らし、とうとう最高戦力のラクアが戦線投入されるということが決定されたそうだ」
 と重々しく話し、続けて
「自国でラクアに太刀打ち出来るのは三俣くらいだ。しかし、私は勝利を確実なものにしたい。だから7号、貴公にもこの戦線に出てほしい。P型で唯一戦果を挙げ続けている貴公に」
 と言った。
 ラクアが?唐突な急展開に俺は立ち尽くしていると
「了解しました。この命に代えてもラクアを打ち取って見せます」
と三俣さんが覚悟を固めたように言い放った。その言葉に俺は我に返り
「私も承諾します」
 と言うと、司令官は
「ありがとう、ラクアの戦線投入は明日だ。それまでに戦線へ参加していてくれ。貴公らの武運を祈っている」
 と言うと、頭を下げた。
 これほど彼が頭を下げているところをかつて見たことがあっただろうか?そう自問しながら、敬礼をし
「行ってまいります」
 と2人は言うと、部屋を後にした。
「生きて帰って来いよ‥‥」
 と司令官が振り絞るように言ったような気がした。






 司令室を出て少し歩いていると、三俣さんが
「そうだ!家にご飯を食べに来ないか?東雲ちゃんも一緒にさ~」
 と聞いてきた。その声色は、いつもとは違い少しこわばった印象を受けた。俺は
「俺は構わないですが、東雲さんは聞いてみないと分かりませんよ?」
 と言った。
「じゃあ、聞きに行ってくるね!」
 と彼は言い残すと、勢い良く彼女の部屋へと走っていった。
 俺は、いつもとは様子の違う三俣さんに違和感を覚えつつ、彼の後を追った。
 俺が彼に追い付いた時、彼は彩花の部屋の扉を開き、中へと入って
「東雲ちゃ~ん、ごはん一緒に食べましょ~」
 とまるで子供が友達を遊びに誘うように言った。彼女は少し驚いた表情をした後
「はい、いいですよ」
 と笑顔で返した。彼が彼女の承諾に喜びを示していると、俺は
「疑問に思ったんですが、料理の準備は大丈夫なんですか?」
と彼に聞いてみた。すると、彼は
「うん?今から連絡するから平気だよ~」
 と言った後、彼の妻に電話で連絡をしていた。どうやら急すぎる事後報告で怒られているような雰囲気だったが、一応OKが出たようだ。






 基地を出て、三俣家に向かっていると、美味しそうな匂いが漂って来た。
 俺は、美味しい料理にありつける高揚感で表情を少し緩ませていると
「うちの嫁の料理は絶品なんだよね~」
 と自慢げに三俣さんが言った。俺は
「そうですか、楽しみにしておきます」
 といつも通り返したつもりだが、声色に期待感が隠せていなかった。
「はは、東雲ちゃんの口に合うか分からないけどね~」
と彼が彩花の方に向かって言った。すると、彼女は少し困った顔をして
「私は好き嫌いがないように躾けられたので、どんな料理でもいただけますよ。それに先ほどから良い匂いがするので、楽しみです」
 と答えた。すると、彼は
「それは良かった~いつか東雲ちゃんの手料理も食べてみたいね!7号君!」
 と俺の肩を引き寄せつつ言った。俺は、
「そうですね」
 と言いつつ、彼を引き離すようにして押し戻した。
 いい匂いが立ち込める道を俺たちが進んでいると、何やら周りの家より一回り大きな家が現れた。
「着いた~割と歩くと距離あるんだよね~」
 と彼がぼやくように言うと、鍵を開け
「ただいま~今帰ったよ~」
 と言いつつ、家の中へと入っていった。
 俺たちも後を追うように入り
「お邪魔します」
 と言いつつ、俺は扉を閉めた。






 中に入ると、外で感じた美味しそうな香りが益々強くなった。奥からはまだ料理を作る音が聞こえてくる。
 俺は、その匂いを楽しんでいると奥から
「いらっしゃい!」
 と女性の声が聞こえてきた。
彩花とは対照的な声がした方向へ行くと、三俣さんの奥さんが料理を手際よく作っていた。俺たちが居間に入ってきたことに気が付くと、彼女は
「あと少しで全部作り終えますからね、お客様は先に席に行っといてね~」
 と優しそうに言った。すると、三俣さんが
「おう!じゃあ、待っとく~」
 と言うと、彼女は
「あんたは手伝うんだよ!」
 と鋭い突っ込みを入れると、残りの料理を作り始めた。三俣さんが口をとがらせ、渋々食器を運び出した。
 俺は、その様子を見ながら
「いえ、急に押し掛けたので俺も手伝います」
 と言い、彼とともに皿を運び始めると、彼女は
「あら?それは助かるわね、じゃあお願いしようかしら」
 と答えた。
 俺は、彩花を席まで連れていくと、三俣さんと夕食の準備をした。
 粗方料理を運び終えると、俺は席についた。次に、三俣さんが、そして最後に奥さんが座ると、
「さて、いただきましょうか」
 と奥さんが少し疲れたように言い、俺たちは、食事を始めた。
 俺は、博士との朝食を思い出し、彩花に博士がしたように料理の位置を教えた。
すると、三俣さんが
「へぇ~、7号君気が利くね~」
 と少し茶化したように言った。
「まぁ、見様見真似ですが‥‥」
 と俺が少し照れたように言うと、三俣さんがニヤニヤとこちらの様子を見ていた。
「ありがとうございます、漆山さん‥‥」
 と彼女も照れたように礼を言う。その様子を見て、さらにニヤニヤする三俣さん。
 俺は、面倒だなと思いながら、料理を食べた。美味い‥‥確かに、絶品だ。
「口にあったかしら?一応出来には自信があるのだけど」
 と少し心配そうに奥さんが言う。すると、彩花が
「とても美味しいです」
 と笑みを浮かべて答えた。俺も同様なことを言うと
「それは良かったわ~じゃんじゃん食べて~」
 と嬉しそうに奥さんが言う。
 俺たちが料理を食べ終わると、少し休んだ後、三俣夫婦は夕食の片づけをし始めた。
 俺は、それを見て、片付けに参加し、皿を重ねていると
「明日、早朝‥‥いや、夜明け前にここを出て、戦線に立つ。お互い悔いが残らないように準備していこう」
 と三俣さんが小声で言った。俺は
「了解しました、では、明日は街の門で待ち合せましょう」
 と言うと、彼は静かに頷いた。
 彼の表情には司令室で感じた決意があったような気がした。三俣さんは結婚してまだ1年も経っていないらしい。
 俺は、彼の武運を祈りつつ、自身の覚悟を決めた。



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