機械と花 ロボットだろうが感情はあるんだから恋愛くらいしてもいいだろ?

トリカブト

盲目の少女と戦うロボット 5

 小さな街道を抜け、人通りの少ない路地を俺たちは歩いていると、何やら物々しい建物見えてきた。どうやら目的地へと着いたようだ。
 俺は、後ろにいる彩花に
「基地に着いたぞ、もう少しついてきてくれ」
 と言いつつ、振り返ると、彼女は先ほど買った花を大事そうに抱えながら、にこにこと笑みを見せていた。俺は、その様子に癒されていると、彼女は
「あっ‥‥はい‥‥」
 と恥ずかしそうに言った。きっと聞いていなかったんだろう。
 俺は、もう一度言い直すと、彼女は顔を赤らめながら頷いた。
 ほほ染めた彼女を眺めたいという邪な考えを払拭するように、顔を横に振り、俺たちは基地内部へと進んでいった。






 2人で基地内を進むと、質素だがしっかりとした扉が現れた。司令官の部屋だ。
 俺は、扉をノックし
「失礼します」
 と言った後、部屋の中へ入っていった。
 部屋の中は決して広いということはないが、立派な造りで、奥にいる司令官の机は資料で山積みになっており、そのさらに奥には、ひげを蓄えた男性がデスクワークをしていた。
「報告に参りました、7号です」
 と俺が言ったその時、司令官が
「何故報告がこんなに遅かった?貴様、職務を怠っていたのではないだろうな?」
 と静かだが確実に怒りを感じる口調で聞いてきた。俺は
「いえ、護衛対象の負担を考えた結果、すぐにここへ報告に来るのは不可能に近いと判断し、今日ここへ参りました。」
 と冷静に答えた。すると、司令官が
「ほう、ということは東雲氏の護衛は成功したと受け取れば良いのだな?」
 と静かに問いかけ、続けて、
「報告によれば、ラクアらしきロボットが襲撃したとあるのだが、貴公は目撃したか?」
 と尋ねた。俺は
「いえ、私が現場に着いた頃には敵も味方も、誰一人として立つものはおらず、邸宅は焼け落ちていました」
 と答えると、司令官は
「そうか‥‥やはり全滅していたか‥‥」
 とどこか悲しげな表情で呟く。俺は
「しかし、護衛対象であった東雲家のご令嬢は存命していました」
 と言うと、後ろでたたずむ彩花の肩にそっと手をかけ、司令官が見える位置に立たせた。
「ご無事で何よりでございます、東雲様」
 と司令官が言い、続けて、
「ご家族やご自宅の件、大変申し訳ございません。単に我々の力不足が招いた結果でございます、本当に申し訳ございません」
 と深々と頭を下げ、謝罪した。彼女は
「い、いえ‥‥す、過ぎたことなので‥‥頭をあげて下さい‥‥」
 と言った。その表情には、どこか寂しげな思いが隠されているような気がした。
 司令官が頭をゆっくりと上げ
「ミスをした我々から申し出るのは恐縮ですが、また我々に護衛を任せてもらえないでしょうか?この基地にはわが国最強と名高い兵士の三俣ミツマタがいますし、ちょうど大きな空き部屋もございます」
 と少し申し訳なさそうに提案した。彼女は
「ぜひお願いします‥」
 と承諾をすると、司令官が
「ありがとうございます。では、基地内の案内を七号にさせます、何かご入用の際は気兼ねなくお申し付けください」
 と言い、続けて
「七号頼んだぞ、部屋は一番奥の部屋だ」
 と命令した。俺が
「了解しました、では失礼しました」
 と言い終えると、また山積みになったデスクワークに取り掛かった。






 俺たちは、司令室から出ると、真っ直ぐに指定された部屋へ向かった。
 すると、道中に長身の男がこちらに向かってきた。
「よう!7号君~♪隣の子は彼女?可愛いねぇ~」
 長身の男が軽い口調で言ってきた。
「三俣さん、お疲れ様です。こちらは東雲家のご令嬢、彩花様です」
 と俺は単調に答えた。
「相変わらずお堅いな~そんなだとモテないぞ~」
 と三俣さんが口をとがらせながら言った。俺は
「俺は、モテる必要ありません。すいません、基地の案内があるので」
 と言い、彩花の腕を引っ張った。すると
「そんなつれないこと言うなよ~俺も案内する~」
 と言いつつ、後を付いて来た。俺は、呆れながら
「いいですが、奥さんが怒りますよ?」
 と言った。すると、彼は
「彼女は不味い!頼む、チクらないでくれ!」
 と青ざめたような顔で言ってきた。
「別にそんなことはしませんが‥‥」
 俺がそう言うと、彼は
「じゃあ、部屋に行こうー!」
 と意気揚々と歩き出した。
「三俣さん、そっちじゃないです」
 と俺は歩き出した彼を呼び止め、正しい方角に指をさした。
 彼は笑いながら
「はは、間違えちゃった~」
 と言うと、俺のさした方向へ歩みを進めた。俺たちもその後を追うようにゆっくりと歩きだした。








 指定された部屋に着くと、豪勢で立派な扉があった。どうやら最高級の客室を使用させてくれるらしい。
 俺が、扉を開くとそこには、広い空間と充実した設備が広がっていた。中の家具は、豪華で高そうなものばかりで、生活するには少し億劫になりそうな感じだが、俺が使っている部屋の数倍はいい所だと思った。
 そんなことを考えていると、彼女が
「あの‥‥少し気になったのですが、7号って何なのでしょうか?」
 と疑いながら聞いてきた。
「ああ、それは製‥‥」
 と三俣さんが言いかけたその時
「あ、愛称だよ、博士が最初に漆を漢数字と間違えて発音してからそうなったんだ」
 と遮るように言った。彼が不思議そうにこちらを見ていると、彼女は
「そうだったのですね、これからはそちらでお呼びしたほうがよろしいですか?」
 と尋ねてきた。俺は
「君が呼びやすいほうでいい」
 と言うと、何かを察した三俣さんがニヤニヤと笑っていた。
 俺は、その表情に既視感と嫌な予感がして、顔を背けると
「君~彼女に恋をしているのか~?」
 と小声で彼が聞いてきた。どうやら嫌な予感が的中してしまったようだ。俺は
「いいえ、違います」
 とはっきり否定した。だが、彼は
「いやいや、隠さなくていいって~懐かしいな~俺もあったな~」
 と話を聞いていない様子だったので、俺は
「今日のこと奥さんにばらしますよ?」
 と小声でささやくように言った。すると、彼は
「それだけは勘弁してくれよ~」
 と言いつつ、平謝りをしてきた。
 そんな会話をしていると、扉が勢い良く開き、新兵が
「7号さん、三俣さん!至急司令室まで来てください!」
 と息が荒いまま言った。
 新兵の様子からただ事ではないことを察した俺たちは、彼女に別れを告げ、司令室へと向かった。



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