上京して一人暮らしを始めたら、毎日違う美少女が泊まりに来るようになった

さばりん

朝チュン!?(愛梨1泊目)

 チュンチュンというすずめの鳴き声と共に、目が覚めた。


 瞼を開くと、そこには自分の部屋の天井が視界に映りこんでくる。


 ……あれ? 俺、いつの間に自分の部屋に帰って来たんだろう? 


 ふと疑問に思い、昨日の記憶をたどろうとすると、じぃーんとした激しい頭痛に襲われる。その刺激に、思わず頭を手で押さえこむ。
 すると、ふいに足に何かが当たったような気がした。


 それを追うようにして、布団下の方へと目をやると、俺の右隣に、自分の身体とは明らかに違う、何か一つの大きな膨らみがあった。一瞬頭がフリーズした。えっ、これ何? 明らかに人だよね? 誰……?


 俺は身体を少し起こして考える、頭をフル回転させて昨日の出来事を思い出す。
 昨日は、健太と一緒にサークルの新歓に行って、その後詩織たちとも合流して新歓に行った。
 ……ということは、これは健太か?


 いや、でもあいつ俺の家知らねぇしな……俺が昨日こいつを家に招いたのか?


 ダメだ、思い出せない。とにかく一回落ち着こう。俺は大きく一度深呼吸をして、心を落ち着かせた。 
 そして、恐る恐る掛布団をがしていくと……






 そこに現れたのは、黒いシャツに身をまとい、スヤスヤと心地よさそうに眠っている天使のような女性……そう、愛梨先輩の姿だった。


 落ち着かせたはずの頭が、さらにグルグルと回転して混乱を招いた。
 えっ!? なんで愛梨先輩が俺の部屋で、しかも同じ布団で寝てるの? 意味が分かんない! えっ? はっ? なんで!?
 完全に頭がパンクして真っ白になる。


 まさに、雀の鳴き声に相応しい、いわゆる朝チュンシチュエーションというやつだった。


 俺は慌てて身の周りを確認する。
 お互い服着てるし、そういう行為をした形跡もない。どうやら、場の流れで一線を超えるようなことはしていないようなので、ひとまず安心する。


 すると、「んっ……」と吐息を漏らして身じろぎしながら、愛梨さんが目を覚ました。
 愛梨さんがあどけない可愛らしい表情で、しょぼしょぼしている目をこすり上を向く。視線は必然的に俺へと向き、バッチリと目が合った。


「あっ、起きたんだ。おはよー」
「あ、えっと。おはようございます」


 俺が状況を理解できないまま、ロボットのような口調で挨拶を交わす。愛梨さんはゆっくり欠伸をしながら呑気そうに起き上がる。
 そんな姿を、俺がキョトンとした表情で見つめていたことに気が付き、愛梨さんが首を傾げた。


「どうしたの?」
「いやっ、なんで今こんな状況になっているのかと思いまして……」


 すると、愛梨さんが少し意外そうな表情を浮かべる。


「あれ? もしかして昨日のこと覚えてないの?」


 愛梨さんに言われて、俺は必死に答える。


「えっと、昨日は確か、FC RED STARの新歓で、居酒屋に行って、愛梨さんに自己紹介して、その後は、えっと……」


 俺が悩んでいると、言葉の続きを愛梨さんが拾ってくれる。


「その後、南くんウーロンハイ一気に飲み干して、酔いが回っちゃったみたいで潰れちゃったんだよ。それで、どうしようかってことになって、どこに住んでるのって聞いたら、私と同じ最寄りだったから、介抱しながらここまで連れてきてあげたのよ」


 愛梨さんが、丁寧に昨日の出来事を簡潔に話してくれた。


「うわ……マジか……俺てっきりウーロン茶だと思ってグイグイ飲んでた気がします……」


 思わず顔を手で覆った。


「もしかして、お酒の飲むの初めてだった?」
「はい……」
「そっか、なるほどね~」


 指を口に当て納得している愛梨先輩に、俺は背筋を正す。


「あの、本当にご迷惑をおかけしてすいませんでした」


 そして、俺はおでこを地べたに付けて、渾身の土下座で愛梨先輩に謝った。


「いいって、いいって。潰れることなんて誰だって一回は経験することだし。私も家が近くだったから気にしないで」


 手を胸の前でひらひらしながら、俺に頭を上げるように愛梨先輩は促していた。


「それに、謝るなら私じゃなくて、君のお友達に今度会ったらちゃんと謝りなさい」
「え? お友達……ですか?」
「うん、駅まで南くんを担いで来てくれたんだから。夜も遅かったし、最寄りの駅まででいいよって言って、帰しちゃったけど」


 恐らく、俺を担いでくれたことを察するに、健太のことだろう。
 もしかしたら、綾香や詩織にも何かしら迷惑を掛けたかもしれない、今度会った時に謝ろう。


「そうだったんですね。わかりました、今度会ったらちゃんと謝っておきます」
「うん、そうしな」


 愛梨先輩は、ふぅっと一息を吐くようにして伸びをした。
 それと共に、黒シャツ越しに見える大きな膨らみが見え、思わず視線を逸らした。
 俺はそこで、ふと疑問に浮かんだことを投げかける。


「そういえば、愛梨さんはどうして俺の布団の中で寝てたんですか?」
「へっ!?」


 愛梨先輩は、驚いたような顔をして、少し困ったように目を泳がせた。


「そっ、それはそのぉ……私もお酒結構回ってて、大……南くんを寝かせたら、なんか家に帰るのが面倒くさくなっちゃって」


 愛梨先輩は、手を頭の後ろで組みながら、あははと苦笑いを浮かべた。


「あ! だから、私が南くんの家に泊まったってことは、他の人には絶対に内緒だからね!」


 人差し指を唇において、お口チャックのポーズを取る。その姿がまた可愛らしかった。


「当たり前ですよ、人に言えるわけないじゃないですか、こんなこと……」
「そうだよね。それなら安心だ」


 愛梨先輩は、立ち上がってパンパンと手で服のしわを軽く直し、カーディガンを羽織りなおして、鞄を手に取った。玄関まで行き靴を履く、俺は急いで立ち上がって玄関の前まで移動する。


「じゃあ、私は帰るね。これからよろしくね、大地くん」


 愛梨先輩は、ペロッと舌を出し、可愛らしくウインクをして、これまた可愛らしい表情を俺に見せつけながら、愛梨さんはまさに天使のように羽を纏ったかのように、颯爽と帰っていった。

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