上京して一人暮らしを始めたら、毎日違う美少女が泊まりに来るようになった
引っ越しそば
二つの大きな買い物袋を両手に抱えて、俺と優衣さんはアパートへと戻っていた。
「ごめんね、重くなっちゃって」
優衣さんが申し訳なさそうに平謝りする。
「いやいや、二人分の調味料とかお米も入ってますし、仕方ないですよ。こっちこそごめんなさい、全部持てなくて」
「いいよ、いいよ、お互いさまってことで!」
何回もスーパーへ買い物に行くのが面倒だという結論に至り、二人とも一週間分ほどの食料を買い込んだため、かなりの大荷物になってしまった。俺は両手に二つずつ袋を提げていて、優衣さんも片腕ずつに大きな袋を二つ持っている。
なんとかアパートに到着して階段を上り、一番奥まった場所の角にある俺の部屋の前で、いったん荷物を地べたに下す。
ふぅっと一息ついて、ポケットから鍵を取りだし、玄関のドアを開けた。
「どうぞ」
俺は優衣さんを部屋へと上げる。まさか引っ越し2日目にして、しかも、今日会った女性を部屋に招き入れるなんて思ってもみなかった。
「お邪魔しまーす」
大きな二つの袋を抱えながら玄関へと入った優衣さんは、ドサっと食材が入った袋を玄関の床へ置いた。靴をパパっと脱いで、部屋の中へぐいぐい侵入していく。
「わぁ、引っ越してきたばかりなのに、大地君の部屋もう片付いてて綺麗!」
そう言いながら、部屋の方まで言って辺りをぐるぐると見渡す。
「やっぱり、置いてある物が違うと、同じ間取りでもなんか雰囲気違うなー」
そんなことを興味深そうに言っている優衣さん。部屋はまだ片付いておらず、見せるのが恥ずかしいということで、俺の部屋で一緒に引っ越しそばを食べることになったのだが、引っ越してまだ二日しか経っていないとはいえ、女の人に自分の部屋を見られるのはやはりどこか気恥ずかしさがある。
「あの……そんなに見ないでください」
「えーいいじゃん別に。あ、何? それとも、見られたら困るものでもあったり?」
からかうように尋ねてくる優衣さんに対して、俺はやんわり否定する。
「いや、それは大丈夫ですけど」
問題ない、ちゃんと分からない場所に隠してあるし。大丈夫だよね……??
少し心配になりながらも、俺は買ってきたものを取りだして、品物の仕分け作業に入った。
「とりあえず、これ麺とつゆです。あとは、俺のやつと、優衣さんのやつ、袋ごとに分けておきますね」
「はーい、ありがとう!」
部屋の散策を終えた優衣さんが、玄関そばにあるキッチンへ戻ってくる。
「キッチンにあるものは適当に使っていいので」
「おっけー、あとは任といてー」
そう言って、優衣さんは気合を入れるようにして、スウェットの腕をまくる。
俺は袋の中身を仕分けする作業に専念して、調理は優衣さんに任せることにした。
「ん? あれ、おかしいな…… おーい、大地君ちょっと」
何か困ったことがあったのだろうか、優衣さんは俺を手招きして呼んできた。
俺は仕分け作業を中断して、キッチンコンロの前まで向かう。
「どうしました?」
「何回ひねっても火がつかないんだよ。どうしてかな??」
「え? 本当ですか?」
優衣さんがもう一度ひねってみると、確かにコンロからカチっという音は聞こえるものの、着火はしなかった。
「あれ? ……あっ!」
しかし、その疑問はすぐに解決した。
まだ引っ越してきてからコンロを使用していなかったため、ガス栓を閉めたままにしてあったのだ。
「あぁ、ガス栓が閉まったままでした」
「え? ガス栓何それ??」
優衣さんが、不思議そうにガス栓について尋ねてきた。
「え? あぁ、あのガスが通ってるパイプがあって、そこに元栓ってのがあるんですけど、それを開けないとガスが通ってこないんですよ」
俺が丁寧にガス栓について説明しつつ、元栓を開けた。すると、優衣さんは口をぽけーっと開けたまま「へぇー」と目を丸くして頷いた。
「こんなの初めてみたよ」
えっ、初めて?? 俺は少し驚いた顔で優衣さんを見つめる。
優衣さんは、焦ったような表情を見せて、手を身体の前でおどおどさせている。
「あ、いやぁ……私の家IHだったから、そういうの見たことがなくて、あはは……」
両手を胸の辺りで挙げたまま、優衣さんは苦笑いを浮かべていた。
なんか嫌な予感がするな……俺はそう思い、少し勘繰りを入れてみる。
「でも、家庭科の調理実習とかで習いませんでした?」
「え? そうだっけ……昔のことで忘れちゃったな」
優衣さんは、表情をほどんど変えずに、頬を無理やり釣り上げているように見える。
「……」
俺は訝しむ視線で、無言の圧力をかけてみたものの、今日初めて会った人をこんなに疑うのも失礼だと思い、ふっと力を抜いた。それと同時に、優衣さんもほっと息を撫でおろした気がするが、見なかったことにしておこう。
「まあ、これで火使えるので、あとは大丈夫ですよね?」
「え!? あ、うん。大丈夫!」
「じゃあ、あとはよろしくお願いします」
「はーい」
そして、俺は再び仕分け作業に戻ったが、やはり優衣さんの行動が不自然なため、ちらちら様子を確認しつつ、聞き耳を立てることにした。
「えっと、いつ入れればいいのかなこれは? ん? 火なんか弱いな……こっちに回せば……わぁっ!」
やっぱりそうだ、俺の嫌な予感は確信に変わっていた。
「なんかすごいブクブクしてるけど……いいや入れちゃえ、えいっ! で、そばってどのくらいゆでるんだろう?? 10分くらい??」
何やらぶつぶつを言いながら、調理というより理科の実験をしている優衣さんの背後へ、俺はそっと近づいて声を掛けた。
「優衣さん……」
「ひゃい!!」
優衣さんは気配なく近づいた俺に驚いて、瞬時にくるっと飛び跳ねるようにして後ろを振り返る。
俺は、じとっとした視線で優衣さんを睨みつける。
「もしかして料理……したことないんですか?」
「えっ? いや、そんなわけないじゃん……あはは」
俺が問い詰めると、優衣さんは口角を無理やり上げ、半笑いを作りながら、両手を前に出してフリフリしながら否定する。
「したこと……ないんですよね?」
今度はもっと強く、否定を許さないほどの圧力で押してみる。
優衣さんは目線を泳がせ、冷や汗をかき右往左往していたが、観念したのか、前に出していた両手を下ろして、ぐったりと力を抜いて俯いた。そして……
「はい」
と小さな声で、捨てられた子犬のように答えて白状した。
◇
その後、料理と仕分け係を交代し、なんとか俺が、そば作りの手直しをして完成させた。
多少茹ですぎてしまって、麺が伸びてしまったが、仕方がない。
優衣さんは、部屋の真ん中に置かれた机の前に座り、ぐったりと項垂れていた。
「ごめんなさい」
申し訳なさそうに項垂れながら謝ってくる。随分と落ち込んでいるようだった。
「いいですよ、別に。まあ、料理できないなら先に言って欲しかったですけど」
「いやぁ、年下の男の子にいいところ見せなきゃと思ってつい……」
「はぁ……」
俺は大きくため息をついてから完成したそばを机へ運ぶ。
「俺は優衣さんが料理できなくても、別に幻滅しませんし、そんなに見栄を張らなくてもいいですよ」
優衣さんの前に、完成したそばの片方を置いた。
「まあ麺伸びちゃってますけど、味はおいしいと思うので、一緒に食べましょ」
俺は、優衣さんとは反対の方へ座り、箸を手渡した。優衣さんはコクリと頷いて、その箸を受け取っり、手を合わせた。
「いただきます」
「いただきます」
ズルズルっとそばを啜って口に入れる。よく噛んで飲みこんだ優衣さんは、しばしの間黙っていたが、やがて俺の方を向き、にっこり笑顔を取り戻して、
「おいしい」
と、つぶやいて、ほっこりとした笑顔を浮かべた。
「ごめんね、重くなっちゃって」
優衣さんが申し訳なさそうに平謝りする。
「いやいや、二人分の調味料とかお米も入ってますし、仕方ないですよ。こっちこそごめんなさい、全部持てなくて」
「いいよ、いいよ、お互いさまってことで!」
何回もスーパーへ買い物に行くのが面倒だという結論に至り、二人とも一週間分ほどの食料を買い込んだため、かなりの大荷物になってしまった。俺は両手に二つずつ袋を提げていて、優衣さんも片腕ずつに大きな袋を二つ持っている。
なんとかアパートに到着して階段を上り、一番奥まった場所の角にある俺の部屋の前で、いったん荷物を地べたに下す。
ふぅっと一息ついて、ポケットから鍵を取りだし、玄関のドアを開けた。
「どうぞ」
俺は優衣さんを部屋へと上げる。まさか引っ越し2日目にして、しかも、今日会った女性を部屋に招き入れるなんて思ってもみなかった。
「お邪魔しまーす」
大きな二つの袋を抱えながら玄関へと入った優衣さんは、ドサっと食材が入った袋を玄関の床へ置いた。靴をパパっと脱いで、部屋の中へぐいぐい侵入していく。
「わぁ、引っ越してきたばかりなのに、大地君の部屋もう片付いてて綺麗!」
そう言いながら、部屋の方まで言って辺りをぐるぐると見渡す。
「やっぱり、置いてある物が違うと、同じ間取りでもなんか雰囲気違うなー」
そんなことを興味深そうに言っている優衣さん。部屋はまだ片付いておらず、見せるのが恥ずかしいということで、俺の部屋で一緒に引っ越しそばを食べることになったのだが、引っ越してまだ二日しか経っていないとはいえ、女の人に自分の部屋を見られるのはやはりどこか気恥ずかしさがある。
「あの……そんなに見ないでください」
「えーいいじゃん別に。あ、何? それとも、見られたら困るものでもあったり?」
からかうように尋ねてくる優衣さんに対して、俺はやんわり否定する。
「いや、それは大丈夫ですけど」
問題ない、ちゃんと分からない場所に隠してあるし。大丈夫だよね……??
少し心配になりながらも、俺は買ってきたものを取りだして、品物の仕分け作業に入った。
「とりあえず、これ麺とつゆです。あとは、俺のやつと、優衣さんのやつ、袋ごとに分けておきますね」
「はーい、ありがとう!」
部屋の散策を終えた優衣さんが、玄関そばにあるキッチンへ戻ってくる。
「キッチンにあるものは適当に使っていいので」
「おっけー、あとは任といてー」
そう言って、優衣さんは気合を入れるようにして、スウェットの腕をまくる。
俺は袋の中身を仕分けする作業に専念して、調理は優衣さんに任せることにした。
「ん? あれ、おかしいな…… おーい、大地君ちょっと」
何か困ったことがあったのだろうか、優衣さんは俺を手招きして呼んできた。
俺は仕分け作業を中断して、キッチンコンロの前まで向かう。
「どうしました?」
「何回ひねっても火がつかないんだよ。どうしてかな??」
「え? 本当ですか?」
優衣さんがもう一度ひねってみると、確かにコンロからカチっという音は聞こえるものの、着火はしなかった。
「あれ? ……あっ!」
しかし、その疑問はすぐに解決した。
まだ引っ越してきてからコンロを使用していなかったため、ガス栓を閉めたままにしてあったのだ。
「あぁ、ガス栓が閉まったままでした」
「え? ガス栓何それ??」
優衣さんが、不思議そうにガス栓について尋ねてきた。
「え? あぁ、あのガスが通ってるパイプがあって、そこに元栓ってのがあるんですけど、それを開けないとガスが通ってこないんですよ」
俺が丁寧にガス栓について説明しつつ、元栓を開けた。すると、優衣さんは口をぽけーっと開けたまま「へぇー」と目を丸くして頷いた。
「こんなの初めてみたよ」
えっ、初めて?? 俺は少し驚いた顔で優衣さんを見つめる。
優衣さんは、焦ったような表情を見せて、手を身体の前でおどおどさせている。
「あ、いやぁ……私の家IHだったから、そういうの見たことがなくて、あはは……」
両手を胸の辺りで挙げたまま、優衣さんは苦笑いを浮かべていた。
なんか嫌な予感がするな……俺はそう思い、少し勘繰りを入れてみる。
「でも、家庭科の調理実習とかで習いませんでした?」
「え? そうだっけ……昔のことで忘れちゃったな」
優衣さんは、表情をほどんど変えずに、頬を無理やり釣り上げているように見える。
「……」
俺は訝しむ視線で、無言の圧力をかけてみたものの、今日初めて会った人をこんなに疑うのも失礼だと思い、ふっと力を抜いた。それと同時に、優衣さんもほっと息を撫でおろした気がするが、見なかったことにしておこう。
「まあ、これで火使えるので、あとは大丈夫ですよね?」
「え!? あ、うん。大丈夫!」
「じゃあ、あとはよろしくお願いします」
「はーい」
そして、俺は再び仕分け作業に戻ったが、やはり優衣さんの行動が不自然なため、ちらちら様子を確認しつつ、聞き耳を立てることにした。
「えっと、いつ入れればいいのかなこれは? ん? 火なんか弱いな……こっちに回せば……わぁっ!」
やっぱりそうだ、俺の嫌な予感は確信に変わっていた。
「なんかすごいブクブクしてるけど……いいや入れちゃえ、えいっ! で、そばってどのくらいゆでるんだろう?? 10分くらい??」
何やらぶつぶつを言いながら、調理というより理科の実験をしている優衣さんの背後へ、俺はそっと近づいて声を掛けた。
「優衣さん……」
「ひゃい!!」
優衣さんは気配なく近づいた俺に驚いて、瞬時にくるっと飛び跳ねるようにして後ろを振り返る。
俺は、じとっとした視線で優衣さんを睨みつける。
「もしかして料理……したことないんですか?」
「えっ? いや、そんなわけないじゃん……あはは」
俺が問い詰めると、優衣さんは口角を無理やり上げ、半笑いを作りながら、両手を前に出してフリフリしながら否定する。
「したこと……ないんですよね?」
今度はもっと強く、否定を許さないほどの圧力で押してみる。
優衣さんは目線を泳がせ、冷や汗をかき右往左往していたが、観念したのか、前に出していた両手を下ろして、ぐったりと力を抜いて俯いた。そして……
「はい」
と小さな声で、捨てられた子犬のように答えて白状した。
◇
その後、料理と仕分け係を交代し、なんとか俺が、そば作りの手直しをして完成させた。
多少茹ですぎてしまって、麺が伸びてしまったが、仕方がない。
優衣さんは、部屋の真ん中に置かれた机の前に座り、ぐったりと項垂れていた。
「ごめんなさい」
申し訳なさそうに項垂れながら謝ってくる。随分と落ち込んでいるようだった。
「いいですよ、別に。まあ、料理できないなら先に言って欲しかったですけど」
「いやぁ、年下の男の子にいいところ見せなきゃと思ってつい……」
「はぁ……」
俺は大きくため息をついてから完成したそばを机へ運ぶ。
「俺は優衣さんが料理できなくても、別に幻滅しませんし、そんなに見栄を張らなくてもいいですよ」
優衣さんの前に、完成したそばの片方を置いた。
「まあ麺伸びちゃってますけど、味はおいしいと思うので、一緒に食べましょ」
俺は、優衣さんとは反対の方へ座り、箸を手渡した。優衣さんはコクリと頷いて、その箸を受け取っり、手を合わせた。
「いただきます」
「いただきます」
ズルズルっとそばを啜って口に入れる。よく噛んで飲みこんだ優衣さんは、しばしの間黙っていたが、やがて俺の方を向き、にっこり笑顔を取り戻して、
「おいしい」
と、つぶやいて、ほっこりとした笑顔を浮かべた。
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