合同籠球マネージャー

さばりん

第69話 決意の夜

男子部員たちが帰宅し、ミーティングを終えて夕食の時間となった。
俺たちは、ワイワイガヤガヤとしながら夕食を楽しんだ。

「大樹これいらねーの?もらうぜ。」
「あ、ちょっと待てよ。それ最後に食べようと思ってたの。」
「じゃあ、これはいいんだな?」
「あ、それもダメ!」
「俺も、もーらい。」
「てめぇらふざけんなよ。」
「あぁ、反撃はずりぃぞ。」

お互いの夕食を取り合いながら和気藹々と食事をリラックスした様子で楽しんだ。

食事が終わり、風呂の時間になる。
俺はケンケン足で大浴場に向かい、湯船には浸からずシャワーだけ済ませ、そそくさと部屋に戻った。

部屋に戻ると、机は端の方に立て掛けられ。2枚の布団がくっついて敷かれていた。
俺は自分の荷物のところまで行き、バックの中から包帯を取りだした。
片方の布団に座り、左足の包帯を再び巻きなおし再び膝を固定していると、梨世がお風呂から戻ってきた。

「ありゃ、早い。私がやってあげようと思ってたのに。」

梨世は髪をタオルで拭きながら部屋に入って来ていた。

「おぉ、布団が敷かれてる。」

部屋の様子が変わっていることに感動しながら髪を乾かしていた。
普段と同じ寝間着を身につけている梨世は、旅館ということもあってか何故だかいつもよりも新鮮味があった。

「どうかした?」

そんな梨世に俺が見とれていると、梨世は不思議に思ったのか首を傾げ俺を見つめてきた。

「あ、いや、この状態じゃ入れないしシャワーだけ浴びで戻って来たんだよ。」

俺は誤魔化すように最初の問いかけに話題を戻した。

「そっか。」

梨世は一言そう言うと、髪を乾かしながら俺が座っているのとは別のもう片方の布団にしゃがみこんだ。
髪を乾かしながら正座している梨世は、いつもより大人びて見え、何故かわからないかドキドキしてしまう。俺の心臓の鼓動がドクンドクンと波打っているのがわかった。

梨世が再び俺の方をチョコンと向いた。俺と目が合い、ニコっと微笑んで再び自分の髪の毛へ目をやった。
その一つ一つの動作が美しく、艶めかしく思えた。


すると突然コンコンと部屋の扉がノックされた。

「はーい。」

俺が声を返すと、ガチャっとドアを開け、航一が入って来た。

「よっすー」
「おう、なんだお前か」
「ひでぇな。折角様子を見に来てやったってのに」
「何の様子だよ?」
「そりゃもちろん。お二人さん新婚御夫婦の様子w、ごふぇ!」

俺は近くにあったテーピングを航一に投げつけた。

「やだー新婚だなんて~」

お上品さを出しながら梨世が手をヒラヒラと振っていた。

「お前も乗らんでいい。」
「あら?お恥ずかしがっているのですか、大樹さん?」

梨世は口元を手で隠しながらからかいの目を向けて来ていた。

「はぁ…もう勝手にやってろ」

俺は諦めて、そっぽを向いてしまう。

「いってぇな大樹何すんだ!」

テーピングが直撃した頬を抑えながら航一が立ち上り、文句を言ってきた。

「自業自得だ。」

俺が冷たい視線を送ると、ニヤっと笑いながら航一が再び話し出す。

「まあまあ、それは置いておいて。」

一つ間を置くと、航一は優しい笑顔を見せた。

「…俺たち、やっとここまでこれたな。」
「…」
「…」


そんな航一の言葉に俺と梨世は驚いて思わず黙り込んで航一を見つめた。航一はなおも言葉を続けた。

「こうやって3人で一緒に全国の舞台に立てるとは思ってなかったから…ホントよかったわ」

感慨深いものが込み上げてきたのか今にも泣きそうな表情を航一は浮かべていた。
そんな航一を見て、俺はつい笑みがこぼれた。

「何言ってんだよ、まだ試合も始まってねぇ癖に何言ってんだ。」
「いや…今のうちに言っておかないと、もし負けた時だと多分考えらんないから。」

航一は目頭を抑えながらそう言った。
俺は梨世と顔を合わせ、口角を上げた。
そして、航一の方に向き直る。

「明日、思いっきり楽しもうな。」
「おう」
「頑張ろうね、航一」
「おう」

目を擦り、涙を拭き取った航一は俺たちの方を向いて、前を向いた。どこか色々とすっきりしたような表情になっていた。

「よし、じゃあ。3人で気合い入れとくか。」

航一は右手をスっと前に出してきた。
俺と梨世はコクリと頷いて、航一の手の上に手を乗せた。
梨世も手を乗せて、3人が揃った。

「よしっ、じゃあ明日の試合、全力で頑張るぞ。」
「お~!」
「お~!」

こうして3人は明日の試合への決意を固めたのであった。





夜中、俺は自分が試合をするわけでもないのに寝付くことが出来なかった。
ふと寝返りを打つと、スヤスヤと吐息を立てている梨世の姿が見えた。
目をつぶり、落ち着いてどこか明日を待ちわびているかのように眠っていた。
俺はそんな梨世の姿を見て、つい口角が上がり、笑みを浮かべてしまう。
そして、目を瞑ると、何故が先ほどまでの体の力が嘘のように抜けて、安心したかのように眠りについていったのであった。

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