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合同籠球マネージャー

さばりん

第29話 緊張

7月下旬、時刻は朝8時、隣の区のターミナル駅に川見高校男子バスケ部と、俺たち川見・城鶴女子合同チームは改札前で集合になっていた。

「みんな集まったか?」
「はい、こっちは」
「じゃ、バスに乗ろうか」

相沢さんを先頭にバス停があるロータリーへ歩いていく。駅前は朝にもかかわらず、たくさんの通勤の人で溢れかえっている。大勢の人が俺たちの向かう方向と反対方向にある駅の改札や駅の反対側に巨大商業施設が立ち並ぶ方へ各々おのおのが足を運んでいる。
平日の昼間だが、夏休みということもあり子供連れの親子連れもちらほらと見受けられた。
そんな人混みをかき分けながらエスカレーターまでたどり着き、駅前のエスカレーターを降りていく。

今日は夏の猛暑は影をひそめ、空は一面雲に覆われて大きな雨粒の音が聞こえる。駅に到着した人々が傘を閉じて傘にたくさん付いた水滴をパサパサと振りながら落としている。

エスカレーターを降りて、バスロータリーに向かうため俺たちは傘を広げて歩き出す。俺は松葉杖を両腕に抱えているため、傘を開くのに手こずっていると、梨世が自分の傘に俺を招き入れてくれた。バス停までの距離はそんなに遠くないので梨世のご厚意に甘えて梨世の傘に入った。ピンク色のカラフルな傘であったが、俺の方に少し傘を傾けながらゆっくりと歩幅を合わせてくれる。
なんか後ろから数名の鋭い視線を感じだが、見なかったことにしておこう・・・

そうこうしている間にバス停に到着する。バスロータリーは屋根が付いているため、傘を差さずに済むので怪我人やお年寄りにとってはとても助かる。

目的地へ向かうバスが到着すると、俺たちは他のお客さんの迷惑にならないように、後から乗ることにした。目的地の方面へ向かうお客さんはそんなに多くはなく4、5人がバスの中へ入っていく。

その後、俺は座った方がいいという提案で最初にバスへ乗車した。
俺はバスの出口に一番近い一人用の席に座ってようやく一息つく。

バスは全員を乗せてようやく出発する。勢いよく走りだしたバスはごうごうと降りしきる雨を吹き抜けていくかのようにスピードを上げていく。大きな駅前のロータリーを出ると、駅前の大通りをバスは走っていく。
外には傘を差しながら歩いてる大勢の人たちが行き来している。そんななんでもない景色をボーっと眺めていると、肩をトントンと叩かれた。
肩をたたかれたバス車内の方を向くと、そこには梨世がいた。梨世は少しかがんで俺の耳に顔を近づけてきた。

「なんか、緊張するね…」
「そうか??」
「うん、だって…高校に入って初めての練習試合だもん。」

そういうと梨世は、かがませていた体を起こして外の景色に目を向けた。
俺は選手として練習試合をしょっちゅうしていたせいか緊張はあまりしていなかった。むしろワクワクしてるくらいだ。

この1週間彼女たちは俺の厳しい練習に必死についてきてくれた。新チームとしてどのような試合になるのか早く試合を見てみたい、そういう気持ちのほうが大きかった。

梨世のほうは今までとは違い、選手として自分たちが試合をするという緊張があるのだろう…俺は車内の後ろの方を見ると、倉田と渡辺も同じような顔つきで緊張を隠せないような不安な表情をしていた。

一方で、静は緊張したというような感じは全くなく眠そうにボーっと外の景色を見つめており、小林や形原は荷物として抱えているバスケットボールの袋がバスに揺られて持っていかれないように必死に抑えることに奮闘していた。
黒須に関してはリラックスした表情でイヤホンを耳に当て、音楽を聞いているようであった。あれが彼女の試合前のルーティーンなのかもしれない。

バスが駅前を出発して約15分ほど走った頃に目的地の停留所へ到着する。
俺は松葉杖を両腕に抱えてバス停を降りる。より一層激しく降りしきる雨が俺の体をすぐに濡らしていく。慌てて梨世がまた傘を俺の方に差し出してくれた。

「ありがとう」

俺は梨世にお礼をいいつつ、目的地まで歩き出す。
歩いていると梨世が俺から少しずつ距離が離れていく。そのおかげで俺は今半分以上が直接雨に打たれびしょ濡れ寸前までなっていた。

「あの…俺びしょ濡れなんだけど…」

俺が梨世に不満を漏らすと。はっ!っと気が付いた梨世が、

「ごめん!」

っといって再び近くにやってきて傘の中に入れてくれる。
俺たちはまた歩幅を合わせながら歩いていく。

信号にさしかかり赤信号を待っている途中で、ふと俺の袖が掴まれる感触があった。腰のあたりを見ると梨世が俺の袖をつかんでいた。

左手で傘を持ち、左側にいる俺に傘を抜けてくれているので、袖をつかんでいるのは右腕でつかんでいるのだが、つかんでいる位置が俺の脇腹あたりなので、後ろから見たら腕を組んでいるカップルに見える…するとまた後ろから今日の雨のような強くて鋭い視線が数名から注がれている気がした。

梨世は学校に近づくにつれ余計に緊張してきてしまったのであろう。

「最初の試合なんて誰でも緊張するもんさ…」

俺がそんなことをいいつつ信号が青に変わり、梨世は袖を掴んだまま歩き出す。
梨世は黙ったままであったが、俺に捕まっていないと緊張で足が動かないのだろう。つかむ力が段々と強くなってくる。

「はぁ…」

俺がため息を一息つくと松葉杖を左手で2つ持ち、梨世の頭を右手でテイッ!とチョップを入れる!

「あいたっ」

俺の優しいチョップに、梨世はオーバーなリアクションを取る。

「何すんの」

梨世は少し不機嫌になりながら立ち止まり、俺の方を見た。

「なーに緊張してるんだよバーカ、いつも通りバカなリアクションしてろ、お前は」

もう一度チョップを入れた。

「うぅ…」

今度は少し強めに入れたため、ご機嫌斜めになった梨世は俺の腕をつかみ口元に持っていき、思いっきり俺の腕に噛みついた。

「痛ったぁ!!!!」

俺が叫ぶと前を歩いていた人たちが一斉に俺の方を振り返る。

「何すんだよ!」

梨世は噛みついていた俺の腕を離して、威嚇するようにこちらを睨みつけてきた。

「何するのはこっちのセリフ!なんで悪いことしてないのに2回も私の頭叩くわけ?」
「だから俺はお前の緊張をほぐそうとして・・・」
「全然緊張なんてしてないってば!」

すると大きな笑い声が前を歩いていた部員たちから聞こえてくる。

「何?」
「なんだよ?」

俺たちは同時に笑っている男子部員たちを睨みつける。

「いやぁ、なんかお前らの夫婦コント見てるとなんか安心してな…」
「いつものバスケ部だなって」

俺と梨世は気恥しくなり、すぐに喧嘩をやめ、再び傘をさしてもらいながら歩き始める。

「あの二人っていつもあんな感じだったの??」

小林が渡辺に尋ねる。

「うん、いつも試合前はあぁやってふざけ合ってるのが恒例だったね。いつもは梨世の方から大樹にちょっかいを出してたけど…」

渡辺は、まったくとため息をついている倉田の方を向きにっこりと笑みを浮かべる。

「でも・・・今回は私たちの緊張をほぐす緩衝材にはピッタリだったみたいだね。」

渡辺がニッコリと倉田に語り掛けると、倉田は渡辺の方を見て。

「はぁ…ホントそうみたいね」

倉田は微笑みながら渡辺と見つめ合い、にっこりと笑いながら二人は再び会場へ歩みを進めるのであった。

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