合同籠球マネージャー

さばりん

第17話 チームの目標

城鶴高校生徒会室、何故か他校の生徒会室に九人は長机に向かい合う形になり、座っていた。
俺は向かい合っている彼女たちを正面から交互に見ながら、一つ咳払いをする。

「では、改めて・・・合同チーム結成するということでみなさん異論はないでしょうか…」

梨世と静はまだ睨み合っていたものの、意見は出なかった。どうやら合同チーム発足に全員異論はないらしい。

「じゃあ、合同チームを結成するということで、今後のことなども含めて色々と決めていきたいんだけど…」
「その前に一ついいかしら?」

倉田が手を挙げて俺に向かって話しかける。

「はい、倉田さん」
「私達は何故他校の生徒会室でみんな座って会議をしているのかしら??」

やっと不思議な状況になっていることに突っ込んでくれる奴が現れた。ありがとう倉田。

「言ったでしょ、生徒会長としての権限を使うときが来たって!」

すると、不機嫌そうに腕を組みながら本田が答える。

「生徒会長権限って…」
「城鶴高校の生徒会とうちの生徒会は元々交流が多くてね、こっちの会長さんにちょちょいと連絡したらオッケーって感じよ」
「軽いな…」
「なっ、これでもちゃんと生徒会長としての責務は果たしてるわよ!!」
「いや、そこに関しては、全く心配はしてないよ、むしろ初の女性会長で大変なこともあるだろうし。手伝ってやりたいくらいだよ」
「え?」

本田は、俺の発言が意外だったのか目をきょとんとさせていたが、徐々に顔を赤らめながら腕を組んで誇るような顔をした。

「そ、そう!そういうことなら今度手伝ってもらおうかしら…」
「おうよ」
「あ…ありがとう…」

ほめられたのがうれしかったのか、恥ずかしそうに小声で感謝を言われた。

「まあまあ、ここなら他の人もいないし話しやすいんじゃないかな??」

渡辺がフォローを入れくれる。

「まあ、そうだな、じゃあ早速だが色々と決めていきたいのだが…まずは、チーム結成にあたって、目標を決めたいと思う」
「目標??」

全員が俺の方を見る。

「そうだ、試合に対する目標とか個人的な目標、そして、チームとしても目標を立てたいと考えている」
「確かに、チームで決まった目標を決めればモチベーションにもなるし。最初に決めておくことはいいかもしれないわね」

倉田が納得したように顎に手を当てている。

「目標かぁ…」

静と睨み合っていた梨世がうーんと悩みだす。

「私たちは今まで公式戦に出場することが目標だったからなぁ、それが実現できるようになったから、それ以上の目標設定にしなきゃいけないってことだよね?」

「その通りだ渡辺、川見高校女子バスケットボール部としては公式戦に出れる環境作りというのが第一歩の目標であり、最大の目標でもあった。」
「それが、達成されてしまった今。新たな目標を立てなければいけないということね」
「あぁ、それで今まで公式戦を戦ってきた先輩である。城鶴側の意見を取り入れたいと思っているんだが、何か具体的な目標はチームとしては何かあったのかな?」
「そうですね…まあ、毎年何かしらの大会では県大会に出場するようなチームでしたから、今までですと県ベスト8目標とかに設定してることが多かったです」

さすがは強豪校…黒須が当然のように県ベスト8という言葉を発した。

「県ベスト8…」
「私たちにとっては夢のまた夢のような目標ね…」

梨世は目をきらきらとさせ、倉田は現実問題を冷静に分析する。俺もこのチームで県ベスト8を目標にするのは現実的に難しいと考えている。

「静としてはどう思う?」

俺は第一線で戦い続けてきている静に投げかける。
静はうーんと指を唇に当てながら考える仕草をしつつしばし考える。

「私は…試合に出て活躍できればそれでよかったからな…今までの目標とか亜美っちがさっき言ってくれるまで忘れてたし」

俺は苦笑しながら「そうか」と相槌を打つ。こいつ、ホント自分がバスケ出来れば他のことは何も考えてないよな…

「小林ちゃんと形原ちゃんはどう??高校からバスケットを始めて日が浅いし、難しいかもしれないけど…」
「うーん、私はやっぱり試合に出て活躍したいかなぁ、チームとしてももちろんたくさん勝ちたいって気持ちはあるけど!」

小林も、他のメンバーと同じような抽象的な意見しか出ないようだった。

「私は…自分が試合に出れるようにまず頑張りたい…です。」

心細そうな声で形原は答えた。

まあ、二人はバスケット始めたばかりだし具体的な目標を考えるのは難しかったかもしれない。

「そうだよね、二人にはまだバスケを始めたばかりで自分のことで頭がいっぱいいっぱいだよね」
「はい」

形原が申し訳なさそうに謝る。

「いや、謝ることじゃないよ、むしろ俺の方こそ急に聞いちゃってごめんね」

小林も形原もダメか。となると…

「本田、お前はどうなんだ??」
「え!?私っ!」

本田はびっくりしたように大声を上げた。みんなの目線が一斉に本田に集まる。

「私は…まあ…そりゃ…自分が活躍して…一人で40点くらいとって注目の的になって、チームを引っ張る存在になって、本田ファンクラブとか作って、そして!!」

あ、やべぇ変なスイッチ入れちまった。全員が哀れみの目を本田に向けていた。
俺は一つ咳払いを入れて、今度は梨世に問う。

「梨世は、どう思う??」
「ちょっと!!私の話はまだ終わってないわよ!!」

梨世は、真剣な眼差しで机の一点を見つめながら何かを考えているようだった。しばしの沈黙が流れた後、梨世がようやく口を開く。

「大樹はどうしたいの??」
「え?俺??」

質問を質問で返されたので答えるのに少々戸惑った。

「お、俺はコーチとしてお前らが決めた目標に向かっていければ、それで…」
「いや、違うよ。大樹」

俺の答えに喝を入れたのは珍しく静だった。

「梨世はそういう意味で質問したんじゃなくて、大樹は何のために私たちのコーチになったのって言うことを聞いているんだと思う」
「俺がコーチになった理由…」

自分に問いた、そして梨世たちのコーチになることを決意した日のことを思い出していた。

「そうだ、俺はあの時梨世たちがバスケを一生懸命やっているその姿を見て、公式戦に出場させてやりたいって…そういう気持ち一身でここまで準備してきて…」
「そう、だから大樹は梨世たちが公式戦に出れる状況を作ることまでしか考えずに今までやってきた。だけど、それは最低条件のスタート地点に立ったにすぎない。大樹はコーチとして指導者としての自身の目標が何もないのよ。」

静の言葉に俺は納得がいってしまった。そうだ、俺は指導者として、コーチとしてやっていく自分自身の目標はなんだ??

「それは…」

生徒会室に長い沈黙が走ってしまった。俺自身が梨世たちをどうしていきたいか、それが決まっていないのに目標を決めさせることは不可能に近いのかもしれない。そう感じてしまった。

「今日は結論が出なさそうだし。これでお開きにしたほうがよさそうね。」

見かねた倉田が会議の終了を告げる。時刻は五時を回っていた。

そうして俺たちは目標を決めることが出来ずに会議はお開きとなった。

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