合同籠球マネージャー

さばりん

第12話 生徒会長の実力

夏休み初日、午前中にも関わらず気温は32度とむしむしとする暑さが俺たちの体を襲う。外ではセミの大合唱が響き渡り夏らしい暑さをさらに膨張させる。俺たちは学校からほど近い地元の地区センターで、夏休み初日の女子バスケ部の練習を開始していた。

夏休み期間中は地区センターも地域のイベントなどが多く、なかなか体育館を貸し切りで使える機会が少ない。早めにコートを抑えておかないと練習が出来ないのが問題点だ。

そもそも、学校の体育館はインターハイを控えた男子バスケ部が時間を惜しんで練習をしている。練習に参加させてもらうのもひとつの手ではあるが、男子バスケ部の邪魔にはなりたくないし、なんにせよ、今日は現状の実力を測るために半面のコートを借りて練習を行うのが一番セオリーだと考えたのだ。

この地区センターは、会議室やホールなどにはクーラが効いており、涼しい空間が憩いの場として提供されているのだが、体育館だけは空調設備が整っておらず、しぶしぶ足元にある小窓や体育館上の窓を開けてかすかに吹く涼しい風を求めるほかない。

今日はこの地域特有の南からの海風が吹いており、運よく午前中に時間が空いていたこともあり、猛烈な蒸し暑さが体育館を襲うほどではなくて幸いだった。女子バスケ部四人は集まって準備運動を入念に行っている。俺は部活動の時に使用していた黒のジョーダンの練習着と紺色のズボンを身につけて笛を首にぶら下げて、車いすに座っていた。
準備運動を終えた梨世たちが声を掛けてくる。

「アップ終わったよ」
「よし、じゃあ練習始めるか」
「よろしくお願いします!」

全員が俺に向かって挨拶してくる、なんかこういうのむずかゆいな…と思いつつ今日の練習について話し出す。
今日は地区センターを借りれる時間が1時間だけなのであまり無駄な時間を取ってられないのだ。

「今日は、実践的な練習、とまではいかないが、2対2を行ってもらう。俺がトップの位置からパスを出す。そこからスタートだ。まずはペアを決める。」
「最初は梨世・渡辺ペアと倉田・本田ペアで行ってもらう。三本先に決めたほうが勝ちだ。ま、簡単に言えばそんな感じだな。質問がある人はいるか??」
「はい」

倉田が手を挙げた

「倉田なんだ?」
「どうしてこのペアなのですか??」

倉田は少し嫌そうな表情で本田のほうを見る。あぁ、そういうことね…

「いやぁ、特に理由はないが、強いて言うなら色分けがしやすいからかな」
ただ単に倉田と本田が黒っぽい練習着で梨世と渡辺が白の練習着で区別しやすいというだけだったのだが…

「は?」

倉田は何言ってんだこいつ、見たいな表情でこちらを睨む…そんなに本田と組むの嫌なのかよ…
俺は一度咳払いをして

「まあ、三本決まればまたペアを変えてやるから最初になったペアなんて気にすんな」

俺がそう答えると、倉田はあまり納得いってないようだが渋々了承した。

「よし、じゃあ先行はどっちからにする?」
「じゃあ私たちから攻撃でいい?」

梨世が先行を進んで名乗り出た

「えぇ構わないわ」
「いいわよ」

と倉田・本田ペアも答える。

「よし、じゃあ2対2・・・始め!」

俺がボールを持ちピッッと笛の音を鳴らすと同時に2対2が開始される。
俺の右側に倉田が梨世をマークしており、左側で本田を渡辺をマークしている。
身長160センチちょっとの倉田が身長155代半ばくらいの梨世をマークし、身長150くらいの本田が身長160センチちょいの渡辺をマークしている。ミスマッチではないか??

俺がパスの出しどころをうかがっていると、渡辺がステップで本田を振り切って、俺の方へ向かってくる。

「大樹くん!」

渡辺から声がかけられ、俺は渡辺にパスを出す。
渡辺は俺からのパスを受け取ると、本田と1対1の状態になった。
一方で左サイドでは、梨世がワンステップからのターンで倉田を振り切ってゴール前のスペースへ走りこむ。

「由香ちゃん!」

梨世が、渡辺に向かってパスを要求する。
渡辺はそれを合図に右サイドへのドリブルを開始したかと思った矢先、ボールを左手に持ち替え、ワンハンドで梨世が走りこんでいるスペースへ、バウンドパスを供給する。
梨世はそのパスを受け取ると、ゴール方向へ体を向けシュート体制に入る。
しかし、追いついた倉田がシュートブロックをするためにジャンプした
それを見た梨世は、見事シュートフェイントからドリブルを開始した。
倉田はしまったという表情を浮かべているが時すでに遅し、梨世はしっかりと踏み込むと、冷静にレイアップシュートを放ち見事に決めた。

「よしっ」

梨世がガッツポーズを決める。こいつバスケやってる時はいい女なんだけどなぁ~とつい思ってしまう。
倉田は顔に滴る汗を腕で拭った、そこへ本田が駆け寄ってきた。

「ドンマイ、ドンマイ、次決めよ!」
「わかってる」
「もう、相変わらずつれないなぁ~」

本田と倉田は中学時代もこんな感じだったのだろうか??倉田が怒っている様子はない。
むしろ、なにか次の攻撃に秘策でもあるかのようなまなざしで、本田を見ていた。

「次。頼むわよ」
「わかってるって!」

本田は、ニコッと笑ってスタートポジションへ戻る。
後攻、倉田、本田チームの攻撃。
こちらは右サイドに倉田・渡辺、左サイドに本田・梨世というマッチアップになった。

「開始!」

ピッという笛を鳴らして後攻の攻撃が始まる。
まず仕掛けたのは倉田だった、倉田は渡辺の背後を取りゴール前へ一直線に向かっていく。
チャンスだ!
俺は選手時代の感覚通りに丁寧に倉田にバウンドパスを供給する。
渡辺は必死に手を伸ばしてパスカットを狙うがわずかに届かない。
倉田は落ち着いて俺からのパスを受け取ると、そのままレイアップシュートをするため、ドリブルを一回入れる。
そして、シュート体制に入ろうとした時だった、ドリブルのコースに梨世が立ちはだかっていた。

あいつ。いつの間に!俺がそう思っていると倉田は驚いたそぶりも見せず冷静に止まり、ジャンプシュートの構えに入った。
梨世はもらったといわんばかりにシュートブロックの体制に入る。
しかし、倉田は一瞬目を瞑ったかと思うと瞬時にシュートモーションからパスへと切り替え。パスする方向に顔を向けずにボールを横に出した。いわゆるノールックパスというやつだ。

そのノールックパスを受け取ったのは、もちろん本田だ。本田はノーマークの位置でボールを受け取りすぐさまジャンプシュートの体制に入った。
本田が放ったジュートは一直線にリングへ向かっていく。
スパッときれいな音が聞こえボールはリングに収まった。

「はーっはっはっはっは~」

本田が満足げそうに高笑いをしている。

「くぅぅぅ!!」

梨世は悔しそうにしていた。

「梨世ちゃんドンマイ!」

渡辺がフォローする。

「友ちゃんナイスパス!」
「当然よ!」

倉田はクールに本田とハイタッチをする。この二人予想以上にコンビネーションが整っているかもしれない。
次のターン、梨世たちの攻撃は、渡辺のドリブルから梨世へのパスを試みるも、本田にパスカットされてしまい攻撃は失敗する。

2ターン目の後攻の攻撃。
今後は渡辺が倉田に、梨世が本田にマークを付いた。
ピっと笛を鳴らして攻撃を開始する。
すると、いきなり本田と倉田が中央へ全速力で走りだした。
もちろん、梨世と渡辺は一歩出遅れ必死に食らいつこうとする。しかし、二人はゴール方向へとは向かわずに交差するようなコース取りをしている・・・まさか!?
本田と倉田が交差する形になりかけたとき、倉田がフッと立ちどまった。そのすぐそばを本田が通過する。そして、倉田は梨世が本田を追いかけるコースを塞ぎ梨世の壁になる、スクリーンだ。

倉田が二人を引きつけたため、本田がノーマークで俺からのパスをスリーポイントライン上で受け取る。

「由香ちゃんチェンジ!」


渡辺は慌てて倉田のマークから本田のマークへチェンジする。
本田はスリーポイントを狙うためシュート体制に入る。
渡辺は必死に食らいつきなんとかスリーポイントシュートを阻止しようと、懸命に本田の元へ全速力で近づく。そのさい、ボインボインと胸が大きく揺れていたのは見なかったことにしておこう・・・

本田はにやりと笑い。それを狙っていたかのようにシュートフェイクを入れて一気にドリブルを開始する。
渡辺は完全に振り切られ、本田はゴールへ一直線にドリブルしていく。
梨世が何とかゴール前で食い止めようとゴール前へ向かう。
本田はチラッと倉田のほうを確認する。
倉田も反対方向からゴールへ向かっており、パスもできる状態だった。
2対1ディフェンスにとっては圧倒的に不利な状況であった。

本田は一度パスフェイクを入れてからレイアップを決めるためジャンプする。
しかし、梨世はその動きを読んでいた。見事にジャンプのタイミングを合わせシュートブロックの体制に入る。うまい!俺は思った。

だが、本田は空中でシュート体制に入っていたボールをもう一度自分の胸のところに抱えるようにして梨世のブロックをかわす。
そして、ゴール前を通り過ぎたかと思うと今後は自分の後ろ側にあるリングに向かって手首をしゅっと回してリングに向かってボールを放った。ダブルクラッチシュートだと!?
シュートは見事リングに吸い込まれ本田はキュっという音を立て見事に着地した。

ダブルクラッチシュート…空中で一度シュートフェイントを入れてもう一度ジャンプしている間にシュートを打つ高等テクニック。
男子でも出来る奴少ないのに、本田はそれを簡単にやってのけた。
本田の実力はどうやら本物らしい。

「は~っはっはっはっはっは、見たか…はぁ…これが・・・はぁ…はぁ…私の・・・じつ・・・りょ…」

バタンという音と共に本田がコート上に倒れる。

「本田!」
「香凛ちゃん!」
「香凛!」

三人が一斉に本田の元へ駆けつける。
本田は大の字になって目をくるくるとさせていた。
倉田ははぁっとため息をつきながら何かを知っているように語りだした。

「バスケの実力だけは一級品なのに、体力が高校生女子とは思えないほどないのよね、この子」

倉田はあきれたようにボールを拾い上げながら言った。

「それを先に言え!」
「…」

倉田は何も言わなかったが、やれやれという感じで本田のほうに近づいてきた。

「ほら、香凛コートの邪魔だよ!立てる??」
「無理ぃぃ~」

全く元気のない生返事が返ってきた。
結局、この後うちわで仰いであげたり、水分補給など本田の看病に時間を費やし練習はお開きとなってしまった。

本田がこんなに体力がないなんて…どんだ誤算が出たなと俺は思った。

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