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合同籠球マネージャー

さばりん

第5話 コーチの誘い

授業中も私は大樹のことをずっと考えていた。朝はみんな遠慮して聞けなかったけど、コーチに聞いた話によると、大樹は退部届を提出したそうだ。その話を聞いたとき、私は驚きと同時にどうして私に相談してくれなかったのかという悔しさが込み上げてきた。

しかし、一つ言えることは、この退部届は彼の本意ではないということ。バスケットが大好きで毎日プレーしていた人が、いきなりバスケットから離れる生活なんてできるはずがない。どこかで大樹自身も葛藤があったのではないか。私は大樹がまたバスケ部に戻って来れるようなきっかけを何か作れないかと考えていた。

ふと窓の外を見ると他のクラスが校庭で体育の授業をしていた。どうやらサッカーの授業らしい。体育教師がリフティングを生徒たちに実演しながら教えているようだった。随分と声を張り上げて熱心に指導してるな、授業なんだし興味ある人なんてさほどいないのに…そんなことを思いながら眺めていたが、ふと昔の光景が私の頭の中に浮かんだ。

それは、小さい頃公園で大樹が当時バスケットに興味がなかった私に熱心に教えてくれていた姿だった。
そこである案を閃いた。私は目を大きく見開きその可能性を考える。

「そうだ、その手があった」

授業終了のチャイムが鳴ると、すぐに私は居ても立ってもいられずに友ちゃんと由香ちゃんのもとへ伝えに行かずにはいられなかった。





放課後、机に向かって再試験の勉強をしている約2名の生徒。だがそのうちの1人はうつ伏せの状態で机にぶっ倒れている。勉強を始めて約1時間が経過していた。梨世は頭のキャパの限界が来たようだった。

「この図形の断面図のXを軸にしたY軸の表面積の高さがこうだから…」

一人ごとを呪文のように数学か何かの問題をとなえている。こりゃ今日はもう無理そうだな…
一方で、俺の方は成績自体は元々全く問題はないので黙々もくもくと勉学に励んでいた。うちの高校は理数科目に特化しているので数学や化学などの計算式の試験が多い。英語や国語も授業としてはあるが、他の高校よりは比率が少なく難易度もそんなに難しくないそうだ。

今回は手術のため入院して学校を休んでいたこともあり、試験範囲をすべて網羅もうらできていなかったため、渡辺と倉田に休んだ時に習ったテスト範囲を教えてもらっているというわけだ。

ちなみに渡辺の成績は中の中くらいとごく普通だが、数学に関しては学年トップクラスの成績だ。倉田に関しては学年総合3位といういわゆるエリート学生ってやつだ、勉強を頼んで正解だったな。

隣からスースーと寝息が聞こえてくる。見てみると梨世が疲れてしまったのか居眠りをしていた。どんだけ勉強嫌いなんだよこいつ…

「梨世起きなさい」

しばらくして倉田が梨世を叩き起こす。
気付けば勉強を開始してから2時間は経過していた。

「ふぁ、おはよう~」
「のんきにおはようとか言ってる場合じゃないぞ、再試験落ちたら夏休み補習だぞ」
「はっ、そうだった!いつの間に・・・って何でみんな起こしてくれなかったの!!」

時計を見ると時刻は夕方5時を回っている。4時ごろに寝落ちしてたから、約1時間ほど梨世は寝ていたことになる。

「はは、とても気持ちよさそうに寝てたから、なんか起こすのも悪いかなって」
「そこは起こしてよ!」
「起こしたとしても梨世の場合は学校ではろくに勉強しないでしょ。だから、今眠ってもらって夜に瀬戸君にみっちり教えてもらったほうが効率がいいの」

倉田が弁明べんめいする。

「え?ちょっと待って。もしかして、そのために俺にみっちり2時間付きっきりで教えてくれてたの?助かったけどさ…結局は梨世の勉強は俺任せってこと?」
「梨世は瀬戸君の言うことしか聞かないから」

少し悲しい表情を倉田がしたのは気のせいだろうか…?

「それに、瀬戸君の家だと、とっっってもよく集中して勉強するらしいじゃない」

すごく皮肉ひにく交じりに言われた。俺やっぱり倉田に何か悪いことしたかな??

「私だってやればできるよ。学校でも!」
「じゃあ、行動で示してからにして頂戴。全く・・・」

倉田はため息交じりに梨世に言った。

「まあまあ、今日はもう時間も遅いしお開きってことでさ、梨世ちゃんの学校で本気だすは明日以降ってことで、ね!」

渡辺、『明日から本気だす』は、次の日には『絶対に明日から本気だすよ』という決まり文句を言い続け、結局学校では勉強しないやつだからやめとけ

「そうね、時間も遅いし今日はお開きにしましょうか」

そう倉田が告げるとみんなは帰り支度を始める。俺たちは教室を出て昇降口に向けて歩き出した。テスト開けの週で教育委員会の会議やなんたらで部活動が基本的には禁止されているため、学校に残っている生徒は少なかった。昇降口で靴に履き替え正門を出ると梨世が口を開く。

「今日私大樹家まで送らないといけないから、また明日ね!」
「あら?そうなの?瀬戸君ももてっきり電車かと思ってたけど」

俺と梨世は普段は自転車か徒歩通学なので正門を出ると普段は駅とは反対方面に向かう。
だが俺は今怪我をしているので電車で帰ろうと思っていたのだが…

「え?俺も電車で帰ろうと思ってたんだが…」

すると梨世は俺の耳へ顔を近づけてきて小声で「ちょっと話があるから付き合って」といわれた。ちょっと一瞬梨世のふわっとした柑橘系の香りがしてドキッとしたのは忘れよう。

「あぁ、そうなんだけど、大樹のお母さんから買い物頼まれててさ、ついでに大樹のこと連れて帰ってきてって言われてるんだ!」

用意していたと思われる言い訳を梨世が言うと、二人は目線を合わせて「なるほど」と納得したような表情を見せた。

「そっかぁ、じゃあまた明日ね!バイバイ、梨世、大樹くん!」
「ではまた明日」
「うん、じゃあねー」
「じゃあな」

二人を見送った後俺と梨世はいつもの帰り道である川沿いの道へ向かい、車いすを押してもらいながら歩いていた。『話があるから』といわれて二人きりになったものの、梨世は正門からここまで何も話そうとしない。川の流れる水の音、車いすのキシキシという車輪の音そして梨世の足音が静かに響いていた。
しばらく歩いているとある公園に到着した。

「二人だけでこの公園来るの久しぶりだよね」

梨世がふと思い出したように話し出した。

「あぁ。そうかもしれない、ずっと3人で来てたからな…」

この公園にはストリートバスケット用のリングがあり、小学校時代からよくここで俺と梨世と航一、そしてもう1人の女の子の4人で練習をしていた。中学時代も部活がない放課後とかしょっちゅうここにきて俺と梨世と航一の3人でバスケをしていたことを思い出す。高校に入学してからは体育館で練習できる機会が増えたため、ここの公園でバスケをすることは減ってしまったが、3人にとっては…いや4人にとって思い出の公園である。そんな余韻に浸っていると梨世が疑問を投げかけてきた。

「どうして…バスケ部辞めちゃったの?」

やはり気になっていたのであろう、他の人がいるところでは気を使ってくれていたのであろう。

「コーチに聞いたのか?」

俺が聞き返すと梨世はコクリと頷いた。

「どうしてって言われてもな、バスケが出来ないんじゃバスケ部にいる意味にないし」
「それはそうかもしれないけど…残るっていう手段もあったんじゃないかな??マネージャーとかさ」
「俺にマネージャーが務まると思ってんのかよ?あんなに梨世達にしょっちゅう迷惑かけてたのによ」
「あはは…そうだよね」

梨世は苦笑くしょうしながら俺を見て笑っていた。そりゃそうだ、今だってこうやって迷惑をかけているんだから…そう思いつつしばしの沈黙が二人の間に続き。再び梨世が口を開く。

「じゃあさ…バスケ部のコーチになってくれないかな??」
「は、何言ってんだよ、うちの男子バスケ部には専属のコーチと監督がいるじゃねーか」

そう、川見高校男子バスケットボール部にはすでに相沢さんという専属のコーチが指導をしているのだ。その人がいるのに俺にコーチなんてできるわけがない。

「そうじゃなくってさ…その…私たち女子バスケットボール部のコーチに、なって…くれない、かな…」

それは意外な提案だった、梨世はダメかな?と尋ねるような表情を浮かべながら不安そうに、こちらを見つめている。

考えてもみなかった、部員が梨世、倉田、渡辺の3人しかいない女子バスケットボール部は普段は男子が体育館で練習している隅のほうで練習を行ったり、3人で行える練習メニューに男子と混ざってやっていたこともあり、てっきり相沢さんが指導しているものだと思っていたが…よくよく考えると人数が足らず公式戦に出れない女子バスケ部には専属の顧問、いわゆるコーチがいないということに気が付く。

「そうか…そんな考え方もあったんだな…」

俺は少し困惑したような口調で受け答えをした。

「うん、私たちって、部員3人しかいないから男子の練習に混ぜてもらうこともあるけど基本的に試合形式の練習とかほどんど出来てないし。なによりも、もっとバスケうまくなりたいからさ、大樹がコーチをしてくれたらもっともっと上手くなるんじゃないかなって」

梨世は梨世なりに俺のことを考えてくれていたんだなと改めて実感する。

「やっぱり、ダメ…かな…?」

今度は口に出して梨世が聞いてきた。
俺は即答することが出来なかった。バスケを自分ができずに眺めているだけの状況が耐えられずに辞めた俺にとって、女子バスケ部のコーチが務まるのかがわからなかったのだ。だから俺は答えを出す代わりに一つの疑問を投げかけた。

「ほかの二人はなんて?」
「由香ちゃんは『大樹君なら、大歓迎!』って喜んでくれたよ。友ちゃんは…『バスケットに関しては彼の方が上手うわてなのだから別にいいのではないかしら』って」
「そうか」

渡辺の反応は想像できたが、倉田の反応は意外だった。あいつ俺のこと嫌いだけどバスケットに関しては一定の実力を認めてくれてはいるんだな。

「すまん…まだ自分の中で心の整理がついてない部分があって…女子バスケ部のコーチになるとかそういう考え俺の頭の中にはなかったから…」

今の時点で俺は結論を出すことができないと考え、俺はそう答えた。

「だから…今はコーチになるとかそういうのは答えを出すことが出来ない、ごめん。」

俺は梨世に今の率直な気持ちを伝えた。

「うん、わかってる…別に今日今すぐに答えてほしいわけじゃないし、私たちの希望を伝えただけだから。大樹自身がやりたいようにしていいよ。もし、大樹がコーチの件を断っても私は全然構わないから」

梨世は優しい眼差しを俺に向けてそう言ってくれた。

「そっか、ありがと…」

俺の心の葛藤を理解してくれているかのように梨世は夕日でオレンジ色に染まった空へまっすぐなきれいな茶髪の髪をなびかせながら優しく微笑んでくれていた。





家に着くと外は既に日が沈んでおり徐々に暗がりを帯びてきていた。

「今日は付き合ってくれてありがとね」
「いや、こっちこそ。送ってもらってサンキュ」
「いえいえ~じゃ、また明日!」
「おう、じゃあな」

俺は自宅の前で梨世を見送っていたが、何かを思い出したようで梨世は俺の元へ戻ってきた。

「そういえば、コーチの件なんだけど…」

梨世は少し躊躇ためらいつつも言葉を続けた。

「今度の木曜日の夜7時から地元の地区センターで練習やるから、よかったら大樹に見に来てくれるとうれしいかな」

俺がコーチをやるかやらないか練習の風景を見て決めてほしいということなのであろうか、しばしの間考えて俺はうやむやな返事で返しておくことにした。

「わかった、まあ頭の片隅には置いて、考えておく」
「うん、ありがと。それじゃ」
「おう」

梨世が歩きだそうとしたのと同時にお互いのスマホのバイブ音が鳴った。

「ん?」

二人はそれぞれ通知を確認するためにスマホを見る。
するとそこにはラインのトークが送られてきていた。あて先は倉田だった。珍しいこともあるもんだと思いトーク画面を開く。

『瀬戸。あの後ちゃんと家で勉強してるわよね?まさかとは思うけどそのまま遊びに行って忘れてるとかないでしょうね??今日勉強した部分、明日梨世と一緒に確認テストするから、もし梨世が出来てなかったら…どうなるかわかってるでしょうね?』

あ、やべぇ…再試験のことすっかり忘れてた。梨世に勉強教えないとこれは倉田から何言われるか分かんねぇわと思い梨世のほうを見ると、どうやら梨世にも倉田から同じような内容のメッセージが届いていたらしくものすごく冷や汗をかいていた。
そして、おびえる子猫みたいな表情でこちらを見つめている。今にも泣きだしそうな顔だこれ。

「大樹…」
「お、おう…」
「ヴぇぇん、勉強教えてぇぇぇ、このままだと友ちゃんに殺されちゃうぅぅぅ!!!」

梨世は泣きながら俺に抱き付いてくる。

「わかった、わかったから俺に抱き付くな!!」

梨世のふわっとした柑橘系の香りが漂ってきて俺は頭がくらくらしてきた。

「ちゃんと勉強教えてやるから、とにかく落ち着けって。な!」
「大樹ぃぃぃぃぃぃ」

俺はなんとか梨世を引き剥がして落ち着かせ、俺の家に招き入れた。
この後俺たちは部屋で手取り足取りみっちり梨世の教育をすることになったのであった。なんの教育かって??それはもちろん再試験対策の勉強という名の倉田様ご機嫌取り大作戦のための勉強をですよ。倉田様マジ怖えぇ…

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