リサイクル着物を着る

増田朋美

リサイクル着物を着る

私は着物が好きで良く着ます。まあ、好きというよりかは仕事着なんですが、でも、いやいやながら着ているわけではないので、ヤッパリ好きなんでしょう。
着物というものは、種類が多くて、結構難しいんですよね。いや、簡単ではありません。ここだけははっきりしています。簡単ではないな、とつくづく思う。
例えば、どこのシーンも、同じもので行けるかという事は絶対に在りません。何を見に行くか、どこへ行くか、相手への敬意があるか、で、着物を変えなければならないのです。例を挙げますと、相手への敬意が強く、普段から離れたコンサートとか展示会には訪問着、会議や寄り合いなどには付け下げ、誰かとランチとか気軽な場合は小紋、お箏のお稽古に行く場合は色無地、という様に使い分けるわけです。まあ、この使い分けが正直、大変だなあと思う事はあります。
しかしですね、その着物というものが、今は変わってきているようです。リサイクル着物というものを使えば、運が良ければ数百円で着物が入手できますから。帯もそのほかの部品もみんなそのくらいの値段で入手できますよ。それでは洋服をそろえるよりかえって安く済んでしまうかも?という訳で、私も検証してみました。ある、インターネット通販で、着物を多く扱っているサイトがあるんですが、そこを利用してみると、例えば訪問着の高級な江戸友禅が、なんと、800円で入手できたことがあり、送料と代金引換手数料を下回るという値段だったんです。へえ、これで儲けになるのかなあ、と、開いた口がふさがらないほど驚きましたね。
ただ、その値段も理由があるんです。一つ目は、リサイクル着物はサイズがそうじて小さいこと。裄が短いとか、袖がやたら長いとか、身幅が足りないとか、そういう現代人には合わない特徴をたくさん持っているんですね。ちゃんとした着物の着方、お端折りもちゃんとして、衣紋をしっかり抜く、という着方からは遠ざかってしまいます。だから、現代人には着用できないので早く始末してしまいたいというのが、店側の願いだったんでしょう。そういう訳で、江戸友禅が、800円で入手できたんですよ。
しかしですね、そのサイトを見ると、おなじような高級な着物が、800円とかでたくさん売られているんです。江戸友禅だけではありません。辻が花や鹿の子絞りなど、高級品とされているのが、みんな、800円で入手できるんです。確かに、小さいと言えば小さいですけど、お端折りができないとか、そういうことを諦めれば、なんぼでも着れそうなものばかり。ですから、私、思ったんですよ。着物が、これではかわいそうではないかなと。サイズが多少小さくてもいいから、着物をたくさん着てあげよう!と。
それで私は、リサイクル着物通販サイトをよく見るようになりました。そうやって安く入手できたおかげで、江戸友禅や、鹿の子絞りなど、様々な日本の柄に触れることができました。そうやって着物を入手できて、柄の意味なんかも自分で調べることができました。例えば、紅葉は原点を表すがらであり、雲は、平和を願う柄、御所車は富を表す柄、そんな風に、柄の意味もたくさん知ったら、着物ってそんなことがあったのか!といろいろ面白いことを知ることができたように思います。着物の柄の意味をとおしてみると、日本の文化は、何もないことを美徳とすることを知ることができたように思います。つまり、平和で幸福な日々が続いていく。これを日本人は、着物に込めていたんだなあと、感慨深いものがあります。
しかしですね、この素晴らしいリサイクル着物というものが、だんだん邪道扱いされていることもわかってきました。
そういうモノに頼るより、新品で買ったほうが正当だとか、サイズが合わないとか、他人の着たものを勝手に着るべきではないとか、いろいろ言われてしまいました。でも、私は、気にしないで着物を着ています。着物は、新品で買えば絶対に私のところには来てくれないものですし、日本の素晴らしい文化にも触れることはできないでしょう。ポリエステルの、安い着物も新品で販売されていますけれども、そういうモノは、確かに手軽ですが、着物の柄の意味を取り違えて配置していたりとか、無理やり洋風の柄を着物に押し付けているものもあり、ちょっと着る気にならないんですよ。ポリエステルが、古典的な、友禅などを染めることができるならまた別ですが、どうもしっかりした古典柄は、正絹のほうが映えるのではないでしょうか。
そういう訳で、着物に触れてみたいというのなら、リサイクル着物を買った方がお得です。確かに多少小さいのはありますが、それは着付けである程度カバーすることができるのです。ポリエステルの、洋服から借用した柄を無理やり着るよりも、古典的な着物らしいものを着たいのなら、リサイクル着物のほうが、はるかに安く済みます。
サイズが小さかったら、私は次のような工夫をしています。身丈が短いなあと思ったら腰ひもをウエスト部分ではなく、腰骨すぐ近くで締めます。こうするとちょっとでもお端折りがでる可能性が出ます。身幅が狭いようなら、下前のつま先を一寸持ち上げて、下前のつま先が斜めになるようにしてきます。これで結構なものが着ることができるようになりますよ。要は、小さなものであっても、工夫次第で着ることができるようになるのです。
裄が短いようであれば、半襟や伊達襟をたっぷり出すとか、広襟であれば、襟を半分ではなく三分の一くらいのところで折って着ると、裄が少し長くできます。或いは腕輪をするとか、手袋をするなどして、いわゆる「つんつるてん」になった腕を隠すようにすれば結構ごまかせます。
こういう訳で、リサイクル着物というのは、気軽に日本の伝統文化に触れることができるので、すごいと思うんです。着物が、消滅寸前にある今、着物に手軽に触れられる一つの手段だと思うんですよね。でも、専門家に言わせると邪道だという。それでは、着物に触れられる機会がなくなってしまうでしょう。
着物は、日本を象徴する素晴らしいものです。決して不便なものではありません。それを軽視せず、後世に伝えていけるように、リサイクル着物の地位がもう少し上がってくれたらと思うのです。


「エッセイ」の人気作品

コメント

コメントを書く