元魔王の人間生活
王都
太陽の光が眩しい。
あの魔法陣は転移用だったようで、ガゼルとミアは地上に転移されていた。
ガゼルは目を爛々と輝かせ、久しぶりの地上に胸を躍らせていた。
ミアも戻れないと思っていた地上に戻ってこられて嬉しそうに天を仰ぎ見ている。
「よっしゃぁああああああああ!!外に出たぞぉおおおおおおお!!」
「やったぁあああああああ!!」
ガゼルとミアが大きな声を上げて喜びを表現し、両手を高く上げている。
そのまま二人は地面に寝転がり空を見上げて喜びの余韻に浸る。
「………ありがとうございました、ガゼルさん。おかげで戻ってこられました」
ミアが空を見上げたままガゼルにお礼を伝える。
「いや、構わないさ。お前のおかげで地上に出られたのもあるしな。………それで、どこか行きたいところはあるか?オレは特にないけど……」
ガゼルは今の世界のことが何も分からないので、ミアに合わせることにした。
「じゃあ、私の故郷のチベット村に行ってもいいですか?お父さんとお母さんが心配していると思うのです」
二人は身体を起こすと、チベット村に向かった。
「ミア!!」
「もうっ!!心配したんだから!!」
「お父さん!!お母さん!!」
チベット村に着くなりミアは父と母の元に飛んでいき、抱きしめあっていた。
迷宮の中で数十日と過ごしていたため、それだけの時間娘がいなくなったら心配するのは当然だろう。
ガゼルはその様子を微笑ましく見ていた。
「ごめんなさい。カースト迷宮に迷い込んでしまって。でも、ガゼルさんと出会って色々助けてもらったの」
父と母の視線がガゼルの方に向けられる。
二人はガゼルの元に来ると、深々と頭を下げた。
「娘が世話になったようで。ありがとう」
「この娘を助けてくれて、ありがとうございました」
ガゼルは人間からお礼を言われて内心戸惑っていた。
「いえ、オレもミアには助けてもらいましたから」
「急ぎの用事がないなら、お礼がてらこの村でゆっくりしていってくれ」
ガゼルは急ぎの旅ではなかったので、村でゆっくりしていくことにした。
それから三日ほどその村に泊まった。その間、ガゼルはミアからいろんな情報を聞いていた。
「へぇ、じゃあその学院ってのに通えば、この世界のことがいろいろわかるのか」
「はい。私は今、田舎に帰郷していますが、学院は王都に行けば通うことができます。入学するには魔力適正をクリアしないといけませんが、ガゼルさんならきっと大丈夫ですよ」
これを聞きガゼルは学院に通いたくなった。人間のことを知り、人間として生きるも悪くないと思っていた彼は、もっと人間やこの世界のことについて知りたいと思ったからだ。
「じゃあ、その学院ってのに通ってみようかな」
「いいと思います。私もガゼルさんと通えたら嬉しいです」
計算なのか天然なのかミアはそんな風に言ってくる。どうやら今回は後者のようだった。
次の日ガゼルとミアは馬車に揺られて王都に向かっていた。青い空を見上げ心地いい風を浴びながら移動する様は平和そのものだった。
「………平和だな」
ボソッとガゼルが呟く。
「そうですね。数日前まで命がけで戦って生きていたとは思えない程です」
「黒死獣とかいったっけ?ホントにそんな奴がいるとは思えない程だな」
このセリフは少し軽率だったようでミアが訂正してくる。
「黒死獣はいますよ。今もこの広大な地上の9割以上を支配しているんです。平和なのはこのゲヘナ島だけですよ」
そんな会話をしていると、王都が見えてくる。1000年以上前は殺戮のために人間界に来て王都を見ていたが、その時とはまるで別の光景に見えた。昔は殺戮のためだったが今は違う。その先入観の差が景色を全く別のように見させていた。
「私はディアフォード魔法学院の1年5組に在籍しています。同じクラスになれるといいですね。………あ、でもきっと違うクラスですよね……」
ガゼルはその言い回しに少し違和感を覚えたが、どうでもよかったので気にしないことにした。
王都の門をくぐるとそこは別世界だった。店や民家などがたくさんあり、人間がたくさん歩いている。田舎のチベット村とは比べものにならない。
「では、私は自分の家に向かうのでまた明日会いましょう。それでは」
ミアはそのまま人混みの中へと消えていった。夜まだまだ時間があるので、ガゼルは街をぶらぶら歩くことにした。
歩いてると気になる店を見つける。鍛冶屋のようで看板がぶらさがっている。どんな武器があるのか気になってガゼルはその店に入ることにした。
「すいません。この剣もう少し安くなりませんか?」
店に入るとそんな声が聞こえてくる。
その子はミアの黒髪ロングヘアーとは対照的な金髪ショートの女の子で顔立ちも極めて整っている。
どうやら持ってきたお金が足りないようで、店主と揉めていた。
「これ以上は下げれんのだよ。お金が足りないんだったらそれにしたらどうだい?」
そう言って店の隅に立てかけてある剣を指差す。
「ダメなんです。強い魔法騎士になるにはその剣じゃないと」
この女の子も魔法使いのようで強くなりたいみたいだった。なんだか放ってはおけず、声をかけることにした。
「どうしたんだ?もしよければ力になるけど」
突然声をかけられて女の子が戸惑うが、すぐに事情を話してくれた
「この剣が欲しいんですけど、お金が足りなくて…」
「どうしてこの剣じゃないとダメなんだ?」
「この剣の装飾部品の魔石には、《鋭利化》《魔力耐性》《剛鉄化》の三つの魔法が付与されているんです」
ガゼルは少し考えてこんで、店主に訊ねる。
「この剣ってなんでこんなに高いんだ?」
「魔法が付与されている剣ってのは希少でな。それに通常魔石ってのは一つの魔法しか保存できない。それをこの剣は三つの魔法を重ねがけして一つにして保存している。これだけの機能がある剣は滅多にお目にかかれねぇからな。この店一番の代物だ」
高い理由を理解したガゼルは魔石がついているが魔法が付与されていない剣を見つけて手に持つと、魔石に手をかざす。
すると、三つの魔法陣が浮かび上がり一つに重なって魔石に吸い込まれる。
「えぇっ!?」 「うそっ!?」
女の子と店主がとんでもない顔で驚き、店主に至ってはカウンターから身を乗り出している。
「アンタ、魔法付与師だったのか!?」
また知らない単語が出てくる。
「魔法付与師ってなんだ?」
女の子に視線を向けて訊ねる。
「魔法を付与することに特化した魔法使いですよ。滅多にいなくて稀な存在なんです。それに通常一つしか付与できないのにこんな簡単に三つも付与するなんて、人間国宝級ですよ」
店の中が静まりかえる。
女の子の視線も店主の視線もガゼルに釘付けになっていた。
「オレはただの魔法使いだよ。それよりこの剣はオレが魔法を付与したんだから元の剣の値段でいいよな?」
「あ、ああ……」
店主のおじさんは圧倒されて言葉が出ないようだったが、なんとか絞り出す。
ガゼルはその剣を女の子に渡す。
「はいこれ。よかったら使ってくれ」
「あ、ありがとうございます!」
女の子は少し戸惑いながら、でも嬉しそうに受け取った。
「じゃあ行こうか」
ガゼルと女の子が店を出ようとすると、店主に引き止められる。
「待ってくれ!うちの剣に魔法を込めていってくれねぇか?報酬ならはずむぞ!」
「他を当たってくれ」
ガゼルは迷う間も無く即答した。
「そんなこと言わねぇで頼むよ、なぁ?」
ガゼルは店主の瞳に悪魔が囁いているのを見逃さなかった。
欲という名の悪魔が店主に囁いていた。
「オレは人助けしたいヒーローじゃない。助けるかどうかは自分で決める」
ガゼルは店主を見限るとドアを閉めた。
あの魔法陣は転移用だったようで、ガゼルとミアは地上に転移されていた。
ガゼルは目を爛々と輝かせ、久しぶりの地上に胸を躍らせていた。
ミアも戻れないと思っていた地上に戻ってこられて嬉しそうに天を仰ぎ見ている。
「よっしゃぁああああああああ!!外に出たぞぉおおおおおおお!!」
「やったぁあああああああ!!」
ガゼルとミアが大きな声を上げて喜びを表現し、両手を高く上げている。
そのまま二人は地面に寝転がり空を見上げて喜びの余韻に浸る。
「………ありがとうございました、ガゼルさん。おかげで戻ってこられました」
ミアが空を見上げたままガゼルにお礼を伝える。
「いや、構わないさ。お前のおかげで地上に出られたのもあるしな。………それで、どこか行きたいところはあるか?オレは特にないけど……」
ガゼルは今の世界のことが何も分からないので、ミアに合わせることにした。
「じゃあ、私の故郷のチベット村に行ってもいいですか?お父さんとお母さんが心配していると思うのです」
二人は身体を起こすと、チベット村に向かった。
「ミア!!」
「もうっ!!心配したんだから!!」
「お父さん!!お母さん!!」
チベット村に着くなりミアは父と母の元に飛んでいき、抱きしめあっていた。
迷宮の中で数十日と過ごしていたため、それだけの時間娘がいなくなったら心配するのは当然だろう。
ガゼルはその様子を微笑ましく見ていた。
「ごめんなさい。カースト迷宮に迷い込んでしまって。でも、ガゼルさんと出会って色々助けてもらったの」
父と母の視線がガゼルの方に向けられる。
二人はガゼルの元に来ると、深々と頭を下げた。
「娘が世話になったようで。ありがとう」
「この娘を助けてくれて、ありがとうございました」
ガゼルは人間からお礼を言われて内心戸惑っていた。
「いえ、オレもミアには助けてもらいましたから」
「急ぎの用事がないなら、お礼がてらこの村でゆっくりしていってくれ」
ガゼルは急ぎの旅ではなかったので、村でゆっくりしていくことにした。
それから三日ほどその村に泊まった。その間、ガゼルはミアからいろんな情報を聞いていた。
「へぇ、じゃあその学院ってのに通えば、この世界のことがいろいろわかるのか」
「はい。私は今、田舎に帰郷していますが、学院は王都に行けば通うことができます。入学するには魔力適正をクリアしないといけませんが、ガゼルさんならきっと大丈夫ですよ」
これを聞きガゼルは学院に通いたくなった。人間のことを知り、人間として生きるも悪くないと思っていた彼は、もっと人間やこの世界のことについて知りたいと思ったからだ。
「じゃあ、その学院ってのに通ってみようかな」
「いいと思います。私もガゼルさんと通えたら嬉しいです」
計算なのか天然なのかミアはそんな風に言ってくる。どうやら今回は後者のようだった。
次の日ガゼルとミアは馬車に揺られて王都に向かっていた。青い空を見上げ心地いい風を浴びながら移動する様は平和そのものだった。
「………平和だな」
ボソッとガゼルが呟く。
「そうですね。数日前まで命がけで戦って生きていたとは思えない程です」
「黒死獣とかいったっけ?ホントにそんな奴がいるとは思えない程だな」
このセリフは少し軽率だったようでミアが訂正してくる。
「黒死獣はいますよ。今もこの広大な地上の9割以上を支配しているんです。平和なのはこのゲヘナ島だけですよ」
そんな会話をしていると、王都が見えてくる。1000年以上前は殺戮のために人間界に来て王都を見ていたが、その時とはまるで別の光景に見えた。昔は殺戮のためだったが今は違う。その先入観の差が景色を全く別のように見させていた。
「私はディアフォード魔法学院の1年5組に在籍しています。同じクラスになれるといいですね。………あ、でもきっと違うクラスですよね……」
ガゼルはその言い回しに少し違和感を覚えたが、どうでもよかったので気にしないことにした。
王都の門をくぐるとそこは別世界だった。店や民家などがたくさんあり、人間がたくさん歩いている。田舎のチベット村とは比べものにならない。
「では、私は自分の家に向かうのでまた明日会いましょう。それでは」
ミアはそのまま人混みの中へと消えていった。夜まだまだ時間があるので、ガゼルは街をぶらぶら歩くことにした。
歩いてると気になる店を見つける。鍛冶屋のようで看板がぶらさがっている。どんな武器があるのか気になってガゼルはその店に入ることにした。
「すいません。この剣もう少し安くなりませんか?」
店に入るとそんな声が聞こえてくる。
その子はミアの黒髪ロングヘアーとは対照的な金髪ショートの女の子で顔立ちも極めて整っている。
どうやら持ってきたお金が足りないようで、店主と揉めていた。
「これ以上は下げれんのだよ。お金が足りないんだったらそれにしたらどうだい?」
そう言って店の隅に立てかけてある剣を指差す。
「ダメなんです。強い魔法騎士になるにはその剣じゃないと」
この女の子も魔法使いのようで強くなりたいみたいだった。なんだか放ってはおけず、声をかけることにした。
「どうしたんだ?もしよければ力になるけど」
突然声をかけられて女の子が戸惑うが、すぐに事情を話してくれた
「この剣が欲しいんですけど、お金が足りなくて…」
「どうしてこの剣じゃないとダメなんだ?」
「この剣の装飾部品の魔石には、《鋭利化》《魔力耐性》《剛鉄化》の三つの魔法が付与されているんです」
ガゼルは少し考えてこんで、店主に訊ねる。
「この剣ってなんでこんなに高いんだ?」
「魔法が付与されている剣ってのは希少でな。それに通常魔石ってのは一つの魔法しか保存できない。それをこの剣は三つの魔法を重ねがけして一つにして保存している。これだけの機能がある剣は滅多にお目にかかれねぇからな。この店一番の代物だ」
高い理由を理解したガゼルは魔石がついているが魔法が付与されていない剣を見つけて手に持つと、魔石に手をかざす。
すると、三つの魔法陣が浮かび上がり一つに重なって魔石に吸い込まれる。
「えぇっ!?」 「うそっ!?」
女の子と店主がとんでもない顔で驚き、店主に至ってはカウンターから身を乗り出している。
「アンタ、魔法付与師だったのか!?」
また知らない単語が出てくる。
「魔法付与師ってなんだ?」
女の子に視線を向けて訊ねる。
「魔法を付与することに特化した魔法使いですよ。滅多にいなくて稀な存在なんです。それに通常一つしか付与できないのにこんな簡単に三つも付与するなんて、人間国宝級ですよ」
店の中が静まりかえる。
女の子の視線も店主の視線もガゼルに釘付けになっていた。
「オレはただの魔法使いだよ。それよりこの剣はオレが魔法を付与したんだから元の剣の値段でいいよな?」
「あ、ああ……」
店主のおじさんは圧倒されて言葉が出ないようだったが、なんとか絞り出す。
ガゼルはその剣を女の子に渡す。
「はいこれ。よかったら使ってくれ」
「あ、ありがとうございます!」
女の子は少し戸惑いながら、でも嬉しそうに受け取った。
「じゃあ行こうか」
ガゼルと女の子が店を出ようとすると、店主に引き止められる。
「待ってくれ!うちの剣に魔法を込めていってくれねぇか?報酬ならはずむぞ!」
「他を当たってくれ」
ガゼルは迷う間も無く即答した。
「そんなこと言わねぇで頼むよ、なぁ?」
ガゼルは店主の瞳に悪魔が囁いているのを見逃さなかった。
欲という名の悪魔が店主に囁いていた。
「オレは人助けしたいヒーローじゃない。助けるかどうかは自分で決める」
ガゼルは店主を見限るとドアを閉めた。
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