元魔王の人間無双

月田優魔

学園長

 オレは、魔法の授業を受けていた、
 今日は理論の授業。


「ーーーであるからして、魔法には四大基礎とよばれる魔法があります」


 そんな基礎的なことから授業は始まった。
 …退屈すぎる。
 そんなこと知ってるって…。
 そう思いながらも授業はちゃんと受けた。
 授業を終わりを知らせるチャイムが鳴る。


「今日の授業はここまで。それとガゼルくんは職員室にくるように、以上」


 え?オレ何か悪いことしたかな?
 真っ先にそんなことが頭に浮かぶ。
 まさか…さっきの授業をめんどくさいと思っていたのがばれたか?


「ガゼル、何かしたの?」


 クシェルが心配そうに声をかけてきた。


「いや、悪いことをした覚えはないけど…」


 本当に心当たりがないのでそう返した。


「入学試験で不正をしたのがばれたんじゃないの」


 オリビアがそんな冗談を言ってくる。
 次席だったことをよほど根に持っているようだ。


「不正はしてない…はずだけど」


 そう言われるとなんだか心配になってくる。
 オレは恐る恐る職員室に向かった。


 職員室をノックし、扉を開ける。


「失礼します、ガゼル・レイヴァルドです」


 A組の担任の先生であるルシル先生が近づいてきた。


「来たかガゼルくん、これから学園長に会いにいくよ」


 事態がどんどん大きくなっている気がする。
 学園長に呼びだされるなんて、オレそんな悪いことしたか?
 状況が把握できないまま、俺は連れられるままに学園長の部屋に入る。


「学園長、ガゼル・レイヴァルドを連れてまいりました」


 ルシル先生がかしこまって学園長に伝える。


「ご苦労だったね、下がってよいぞ」


「はい!」


 ルシル先生が部屋を出て行く。
 部屋には学園長とオレの二人きりになる。
 気まずい空気が二人の間に漂う。
 先に口を開いたのは学園長だった。


「ガゼルくん、単刀直入に聞くが、君は魔王の生まれ変わりなのかい?」


 オレは思わず吹き出しそうになった。
 えっ?魔王の生まれ変わり、と言ったのか?
 何で気づかれたんだ?
 落ち着け、考えるのは後だ。
 ここは無難にやり過ごすのが優先だ。


「違いますけど…でも何でそんなことを?」


 学園長は話を続ける。


「16年程前に、勇者軍から連絡があったのだ。魔王軍を壊滅させることには成功したが、魔王本人には、転生されて逃げられてしまったと。そして、ずば抜けた魔力の生徒が入学してきたら、そいつは魔王の生まれ変わりかもしれないと。まあ、可能性は低いがな」


 なるほど、そういう感じか。
 その程度の疑いなら、誤魔化すだけで大丈夫そうだ。
 それより気になるのは、16年前に勇者が魔王軍を倒したという話。
 俺は今15歳だから、前世のオレが倒されたのは、オレが生まれる一年前ということになる。
 まさかオレは1年後の世界に転生したということか?
 いや、今は誤魔化す方が先か。


「違います。僕は魔王の生まれ変わりではありません」


 そう言うと、学園長は安心したように頷いた。


「そうか、なら良いのだ。手間をかけたな、下がってよいぞ」


 よし、これで大丈夫だろう。
 オレが魔王の生まれ変わりだという証拠はどこにもない。
 オレが自己申告しない限りバレることはない。
 少々ひやひやしたが、バレずに終わった。
 オレは学園長室を後にした。






「ガゼル、どうだった?」


 教室に戻ると、クシェルが心配そうに聞いてきた。


「学園長に呼び出されたよ。魔王の生まれ変わりだと勘違いされたみたいだ」


「え、アンタ魔王の生まれ変わりなの?」


 聞き耳を立てていたのか、オリビアが近づいてきた。


「話聞いてたか?勘違いされたんだよ」


 一応バレるのは避けたいので、念を押しておく。


「そうよね、アンタが魔王の生まれ変わりなわけないわよね」


 アンタは魔王の生まれ変わりじゃない、そう言い切った。
 興味本位で聞いてみることにした。


「えらく信頼されてるな、なにか根拠でもあるのか?」


 オリビアは自慢げに説明した。


「魔王は悪魔たちの王っていうぐらいだもの、きっと狡猾で残虐よ。けどアンタはそんな素振りがないし、大人しくしてるもの。きっと魔王じゃないわ」


 自慢げに話す割には薄い根拠だな…。
 まあ、勘違いしてくれてるならそれでいいか。


「そういうことだ、オレは魔王じゃないからな。変な噂とか広めるなよ」


 そう釘を刺しておく。
 しかし、魔王だと一度疑われた以上疑いが完全に消えることはないだろう。
 これから波乱の日々が始まる、そんな気がしていた。



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