魔法学院の裏の魔法使い
始まりの日
春、桜が満開に咲く花道が生徒たちを迎え入れる。
ここはディアフォード魔法学院へと向かう並木道。道の傍にある桜の花びらが桜吹雪のように咲き乱れ、春一番を教えてくれる。
「………満開だな」
この桜並木道には今、たくさんの魔法使いの卵たちが学院へと向かって歩いている。初々しいその表情からは、これからの学院生活への希望や強い想いが溢れ出ている。ーーーその中にオレの姿もあった。
制服の紺色のズボンに灰色のシャツ、重ね着した黒いローブを身に纏い、腰に剣を差している。身長は平均ぐらいで髪は黒髪だ。
周りを見渡すと楽しくお喋りしながら生徒たちが学院へと向かっている。
少し歩くと学院の門が見えてきた。門をくぐるとそこは圧巻の光景だった。とてつもなく大きな敷地に巨大な校舎が建っている。見て回るだけでも数日はかかりそうな大きさだった。
オレは校舎を見上げて少しの間眺めていた。
「なにジロジロ見てるのよ、気持ち悪い」
視線を下げると少し前にいる女の子がこちらに視線を向けている。
ずっと眺めていたのが変に思われたのかもしれない。
「すいません。あなたを見ていたんじゃなくて学院を見ていたんです。とても大きな学校だから」
女の子が呆れたような表情になる。
「変な人」
そう言うと女の子は足早にどこかに行ってしまった。
気を取り直しオレは入学式の会場へと向かった。
会場に入ると、1000人はいるかというぐらいの人達が各々の学年ごとに列をつくって並んでいる。新入生が並ぶ列があったのでオレもその列に加わる。
入学式までまだ時間があるようで周りの人たちは騒がしく近くの人と話をしている。
オレは出来ることなら友達をつくりたいと思っていた。
左に並んでいる男の子はその前の人と話をしている。
右に並んでいる女の子は誰とも話さずに静かに並んでいる。
右の子に話しかけることを決める。こういうのは最初が肝心だ。
「あ、あの。オレはガゼル・レイヴァルド。よろしく」
すると、最初は戸惑いの色を隠せなかったが彼女だがこちらを向き直り返事をしてくれた。
「……クシェル・ダーマイスです。よろしく」
艶やかな黒髪ショートヘアーでどこか寂しげな表情の彼女はクシェルというそうだ。名前が分かったところで少しずつ会話を広げていく。
「クシェルはどうしてこの学校に来たんだ?」
まずは当たり障りのない雑談から。
「私はなんとなく……かな。他に行くところもなかったし……。ガゼルは?」
「オレは家が人間族魔法種だからだよ。魔法の腕を上げたいと思ったんだ」
「そうなんだ」
話が膨らまず会話が途切れてしまう。会ったばかりの人と話すと最初はこんな感じなんだろうか。
「新入生諸君、静粛に!学院長が登壇される!」
教員の声が響き、ざわついていた新入生たちが口を閉ざす。静寂が戻った頃合いで壇上に一人女性が現れる。
「学院長のエルファネス・ローゼンブルグだ。ようこそ、新入生諸君」
恐ろしく硬質なその声が耳を打った瞬間、生徒全員が本能的に息を呑んだことだろう。刃のように鋭利な瞳に輝くような銀髪、漆黒の夜を凝縮したかのような色合いのロングドレス、腰の後ろで交差する二振り剣。それら全てが鋼のような冷たい質感を帯びてこちらに向けられる。
「ここがディアフォード魔法学院。君たちが3年通うことになる学び舎だ。校風は徹底した実力主義。力ある者は生き残り、力なき者は淘汰される、そういう世界だ」
少し周りを見ると生徒たちは学院長の圧力に耐えるのに必死だった。怖くて目をそらしたくなるが無視も出来ない。その結果ただただ聞くという行為しかできなくなっている。
「この世界は残酷だ。今も黒死獣と呼ばれる魑魅魍魎の化け物たちが跋扈し、人々を脅かしている。力が無ければ何もできないのがこの世界の実態だ」
少し前までの浮かれた気持ちはどこかに消え去り、今は自分の中の感情と戦うのに必死だった。生徒たちの大半は感じているはずだ。ーーーここに来るべきではなかったと。
「リスクなくして魔の法を操ることはできない。魔法の歴史はこれまでも無数の犠牲と屍の上に成り立ってきた。何故だかわかるか?ーーー魔道を学ぶとはそういうことだからだ」
彼女は一切の躊躇いなく言い切る。言葉を取り繕ったりはせず、最初の一手で釘をさす。これから多くを学んでいく子供たちに、魔道の本質を見誤らないように。
「魔法界は実力がものをいう世界。故に君たちは力をつけろ。どれだけの犠牲がでようとも数多の屍の山ができようとも、それらを越えて進み続けろ。その先にはあるのは希望か、それとも絶望か。それは進み続けた者にしか分かりはしない」
新入生たちの様子は様々である。困惑する者、涙ぐむ者、放心する者。表現の違いはあれど皆に共通するのはーーー来るべきではなかった、という後悔。となりのクシェルも例外ではないようで学院長の迫力に気圧されている。
そんな中、オレは壇上から放たれる圧力を正面から受け止め、確固たる意思で見据える。オレは己が信念を胸にこの場に立っている。この程度で狼狽えていられない。
学院長と一瞬だけ視線が交錯する。
「諸君も9割は魔法界に何の益ももたらさない愚図だろうが、その他1割の賢者には期待している。精々死に物狂いで足掻け」
学院長の激励の言葉を素直に受け取った者はいなかっただろう。それほどまでに彼女の言葉は重い重圧感に包まれていた。
「入学式は以上で終了だ。それぞれの教室へと向かうように」
学院長が壇上からいつのまにか消える。その瞬間全員が金縛りから解放されて、どっと脂汗が滲み出ていた。
なかなか面白い入学式だったな。
オレは教室へと向かい歩き出した。
ここはディアフォード魔法学院へと向かう並木道。道の傍にある桜の花びらが桜吹雪のように咲き乱れ、春一番を教えてくれる。
「………満開だな」
この桜並木道には今、たくさんの魔法使いの卵たちが学院へと向かって歩いている。初々しいその表情からは、これからの学院生活への希望や強い想いが溢れ出ている。ーーーその中にオレの姿もあった。
制服の紺色のズボンに灰色のシャツ、重ね着した黒いローブを身に纏い、腰に剣を差している。身長は平均ぐらいで髪は黒髪だ。
周りを見渡すと楽しくお喋りしながら生徒たちが学院へと向かっている。
少し歩くと学院の門が見えてきた。門をくぐるとそこは圧巻の光景だった。とてつもなく大きな敷地に巨大な校舎が建っている。見て回るだけでも数日はかかりそうな大きさだった。
オレは校舎を見上げて少しの間眺めていた。
「なにジロジロ見てるのよ、気持ち悪い」
視線を下げると少し前にいる女の子がこちらに視線を向けている。
ずっと眺めていたのが変に思われたのかもしれない。
「すいません。あなたを見ていたんじゃなくて学院を見ていたんです。とても大きな学校だから」
女の子が呆れたような表情になる。
「変な人」
そう言うと女の子は足早にどこかに行ってしまった。
気を取り直しオレは入学式の会場へと向かった。
会場に入ると、1000人はいるかというぐらいの人達が各々の学年ごとに列をつくって並んでいる。新入生が並ぶ列があったのでオレもその列に加わる。
入学式までまだ時間があるようで周りの人たちは騒がしく近くの人と話をしている。
オレは出来ることなら友達をつくりたいと思っていた。
左に並んでいる男の子はその前の人と話をしている。
右に並んでいる女の子は誰とも話さずに静かに並んでいる。
右の子に話しかけることを決める。こういうのは最初が肝心だ。
「あ、あの。オレはガゼル・レイヴァルド。よろしく」
すると、最初は戸惑いの色を隠せなかったが彼女だがこちらを向き直り返事をしてくれた。
「……クシェル・ダーマイスです。よろしく」
艶やかな黒髪ショートヘアーでどこか寂しげな表情の彼女はクシェルというそうだ。名前が分かったところで少しずつ会話を広げていく。
「クシェルはどうしてこの学校に来たんだ?」
まずは当たり障りのない雑談から。
「私はなんとなく……かな。他に行くところもなかったし……。ガゼルは?」
「オレは家が人間族魔法種だからだよ。魔法の腕を上げたいと思ったんだ」
「そうなんだ」
話が膨らまず会話が途切れてしまう。会ったばかりの人と話すと最初はこんな感じなんだろうか。
「新入生諸君、静粛に!学院長が登壇される!」
教員の声が響き、ざわついていた新入生たちが口を閉ざす。静寂が戻った頃合いで壇上に一人女性が現れる。
「学院長のエルファネス・ローゼンブルグだ。ようこそ、新入生諸君」
恐ろしく硬質なその声が耳を打った瞬間、生徒全員が本能的に息を呑んだことだろう。刃のように鋭利な瞳に輝くような銀髪、漆黒の夜を凝縮したかのような色合いのロングドレス、腰の後ろで交差する二振り剣。それら全てが鋼のような冷たい質感を帯びてこちらに向けられる。
「ここがディアフォード魔法学院。君たちが3年通うことになる学び舎だ。校風は徹底した実力主義。力ある者は生き残り、力なき者は淘汰される、そういう世界だ」
少し周りを見ると生徒たちは学院長の圧力に耐えるのに必死だった。怖くて目をそらしたくなるが無視も出来ない。その結果ただただ聞くという行為しかできなくなっている。
「この世界は残酷だ。今も黒死獣と呼ばれる魑魅魍魎の化け物たちが跋扈し、人々を脅かしている。力が無ければ何もできないのがこの世界の実態だ」
少し前までの浮かれた気持ちはどこかに消え去り、今は自分の中の感情と戦うのに必死だった。生徒たちの大半は感じているはずだ。ーーーここに来るべきではなかったと。
「リスクなくして魔の法を操ることはできない。魔法の歴史はこれまでも無数の犠牲と屍の上に成り立ってきた。何故だかわかるか?ーーー魔道を学ぶとはそういうことだからだ」
彼女は一切の躊躇いなく言い切る。言葉を取り繕ったりはせず、最初の一手で釘をさす。これから多くを学んでいく子供たちに、魔道の本質を見誤らないように。
「魔法界は実力がものをいう世界。故に君たちは力をつけろ。どれだけの犠牲がでようとも数多の屍の山ができようとも、それらを越えて進み続けろ。その先にはあるのは希望か、それとも絶望か。それは進み続けた者にしか分かりはしない」
新入生たちの様子は様々である。困惑する者、涙ぐむ者、放心する者。表現の違いはあれど皆に共通するのはーーー来るべきではなかった、という後悔。となりのクシェルも例外ではないようで学院長の迫力に気圧されている。
そんな中、オレは壇上から放たれる圧力を正面から受け止め、確固たる意思で見据える。オレは己が信念を胸にこの場に立っている。この程度で狼狽えていられない。
学院長と一瞬だけ視線が交錯する。
「諸君も9割は魔法界に何の益ももたらさない愚図だろうが、その他1割の賢者には期待している。精々死に物狂いで足掻け」
学院長の激励の言葉を素直に受け取った者はいなかっただろう。それほどまでに彼女の言葉は重い重圧感に包まれていた。
「入学式は以上で終了だ。それぞれの教室へと向かうように」
学院長が壇上からいつのまにか消える。その瞬間全員が金縛りから解放されて、どっと脂汗が滲み出ていた。
なかなか面白い入学式だったな。
オレは教室へと向かい歩き出した。
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