魔法学院の闇の復讐譚

月田優魔

友達づくり

 ガゼルは自分の振り分けられた教室にやって来た。
 1年Eクラス、彼が1年間過ごすクラス。
 教室に入り自分の席に座る。
 周りでは早速友達作りが繰り広げられている。
 友人は学校生活を充実させるための重要な要素だ。
 友達づくりは最初が肝心、つまり今が友人になるかなれないかの分岐点。
 このビッグウェーブに乗り遅れるわけにはいかない。
 急いで誰かに話しかけないと………。


「奇遇ね」


 突然横から声をかけられ振り向くと、となりの席の女の子がこちらに視線を送っている。


「あなたはさっきの………」


 その女の子は学院を見上げていた時に気持ち悪い、と話しかけてきた人だった。


「まさか同じクラスだったなんてね」


「それはこっちのセリフだ。まさかお前も同じクラスだったなんてな」


 顔立ちが大人っぽかったから上級生かと思っていた。
 燃えるような紅い髪に緋色の眼をしている。
 まさか同学年、しかも同じクラスだったとは思ってもみなかった。
 変な偶然もあるものだ。


「また周りをジロジロ見て気持ち悪いわよ。あなたは何がしたいの?」


「……友達をつくりたいんだよ。誰に話しかけようか悩んでたんだ」


「ふーん」


 全く興味がなさそうにそう呟く。


「お前はつくらないのか?」


 誰にも話しかけようとしない様子から気になり聞いてみる。


「友達なんていらないわ。私は1人が好きだもの」


「あ、そうなんですか」


 会話を切り上げ友達作りに戻る。
 早く話しかけないと取り残されてしまう。
 周りを見渡し話しかける人を選ぶ。


「どうしてそんなに必死になるのか私には理解できないわね」


 友達なんて大したものじゃないわ、と付け加える。


「友達なんていっても所詮は他人じゃない。自分さえいればいいのよ」


「………お前は友達が学校生活をより豊かにしてくれるとは思わないのか?」


 無視するのも悪いのでこちらから訊ねる。


「私は自分で豊かにできるわ。それ以外は必要ない。それともあなたは、自分で豊かにできないのかしら?」


「……できなくて悪かったな」


 自分で豊かにできる自信はガゼルにはない。
 しかし、自分で豊かになるのと友達と一緒に豊かになるのとでは少し違う気がする。
 そのことを伝えたとしても、彼女は突っぱねるだけだろう。まさにそんな雰囲気の女の子だった。


「どうして必要なのか、私には分からないわね」


 彼女は最後にそう締めくくって頬杖をついて明後日の方向を向いてしまった。
 ガゼルは再度話しかけるために周りを見渡す。
 すると、もういくつかのグループに分かれてしまっており入り込む余地がない。
 友達作りは最初が肝心で、ある程度グループが出来上がったらもうその輪に入ることはできないだろう。
 この教室の関係図は出来上がってしまっていた。
 各々分かれて楽しそうに談笑している。
 つまり、友達作りに盛大に失敗したということだ。


「あ………」


 言葉にならない声がガゼルの口から漏れる。
 まだ間に合うという諦められない気持ちと、もうダメだという恥から自分を守ろうとする気持ちがせめぎ合う。
 口は何かを紡ぎだそうとしているがうまく言葉にならない。
 結果は何もせずにただ席に座っているだけ。
 結局何もできずに友達作りは完全に失敗した。


「哀れね」


 隣からそう声が聞こえた。


「半分はお前の所為みたいなもんだけどな」


 言われっぱなしは嫌だったので少し悪態をついてみた。


「何が私の所為なのよ?」


「お前が話しかけてきたから喋りかけるタイミングを逃したってことだ」


 少なからずその影響はあった。そのために失敗したと言っても過言ではない。


「自分の能力不足を私の所為にするつもり?」


「道理だと思うけどな」


 性格がひん曲がっているガゼルだが、今回ばかりは真っ当なことを言っている自信があった。


「結局話しかけられたのはお前だけか」


 この時間、最初から最後まで彼女と話していたからそういうことになるだろう。


「私を数に入れないでもらえるかしら」


 それが気に入らないようでこちらに視線を向ける。


「ところでお前、名前は?」


「は?」


「だから名前だよ。せっかくだから教えてくれないか?」


 話しかけられたのは彼女だけ。だったら名前ぐらい聞いてもいいだろう。


「拒否しても構わないかしら」


「お前だって話しかけたのオレだけなんだろ。名前ぐらいお互い知っといた方がいいと思うけどな」


 そう言うと少し考え込んだ後こちらを向き直った。


「オリビア・ハーマニーよ」


「ガゼル・レイヴァルドだ」


 応えるようにこちらも自己紹介した。










 ガゼルは1人で教室の外を眺めていた。
 周りではいくつかのグループに分かれて会話をしている。
 友達作りに失敗した彼は1人だった。
 しばらくすると、教室の扉が開き担当教師らしき女の人が入ってくる。
 全員が自分の席に座る。


「私はEクラスの担任をすることになったミレイ・レートルです。よろしくね」


 優しそうな女の先生だった。同じ女教師でも学院長とは正反対である。


「それじゃあ授業を始めます」


 授業が始まった。












 授業が終わり休み時間になる。
 時間は12時過ぎ、昼ごはんを食べる時間だ。
 教室にいたクラスメイト達がどこかへ散っていく。
 おそらく食堂へ向かっているんだろう。
 人の少なくなった教室を眺めていると見知った女の子がいた。
 もちろん隣の席のオリビアは1人でいるがそれとは別。


「きみも同じクラスだったんだ、クシェル」


 入学式に隣になり、少し話した女の子である。
 クシェルも驚いたようで眼を少し見開いた。


「あ、ガゼルもEクラスだったんだね。びっくりした」


「よかったら一緒に食堂にいかないか?」


「いいよ。私も行くかどうか迷ってたところだったし」


 了承をもらえたところで2人揃って食堂に向かう。
 それとその前に、


「オリビアも行くか?」


 オリビアにも一応声をかける。


「結構よ」


 断られる。当然といえば当然だった。
 ガゼルとクシェルは2人で食堂へ向かった。

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