頭脳派ゲーム世界の黒幕

月田優魔

特別ゲーム

 進藤が食堂から去った後、食堂はいつも通りの風景を取り戻した。ギャラリーも散っていき自分の用事に戻っていく。
 七瀬は何事もなかったように食事を続け始める。


「七瀬さん大丈夫?」


 樟葉が心配そうに訊ねる。


「何が大丈夫なのか意味不明ね」


「だってゲームに負けちゃったから落ち込んでるのかと思って………」


 ゲームに負けた時、悔しそうにしていたからオレも気にはなっていた。
 しかしそれは杞憂だったようだ。


「あんなのただの運ゲームだもの。ポイントを取られたのは痛いけど、落ち込むなんてありえないわ」


 運ゲームと分かっていながら受けたということは、勝負する気は最初からなかったということ。喧嘩を売られたから一応買っておいたという感じだろうか。勝てればラッキーぐらいの気持ちだったことが推察される。


「なんで負けたのか分かってるのか?」


 余計なことだとは思うがオレも口を挟ませてもらう。
 そうするのが七瀬のためになると思ったからだ。


「だから運ゲームだって言ったでしょ。運よ」


「それにしたって全敗するのはおかしくないか?」


 勝敗は進藤の完全勝利。すなわち七瀬の完全敗北。普通だとありえない結果になった。


「けれどさっきのゲームは運が全てのゲームだったわ。運以外の要素はありえない」


 助言のつもりだったが七瀬には届かなかったようだ。


「確かに。それもそうだな」


 一応納得しておいた。例え他の何かがあったとしてもオレには関係ないこと。
 考えるだけ時間と労力の無駄だ。


「それじゃあ、私はもう行くから」


 少しだけ会話をした七瀬は、食事を終えて足早に食堂を出て行く。
 その背中を樟葉も追いかける。


「ま、待ってよ七瀬さん」


「…………ったく。しょうがないな」


 オレも樟葉の後を追って食堂から退散することにした。














「それでは、今年度最初の特別ゲームを説明する」


 教室に帰ってくるなり、榎本先生が教壇でそう口にする。


「特別ゲームとはなんでしょうか?」


 当然意味のわからない生徒からの質問が飛ぶ。隣の席の白銀だ。


「それを今から説明する。最後まで黙って聞け」


 一呼吸置いた後、榎本先生が言葉を続ける。


「今回の特別ゲームの内容はーーーーーテストだ」


 ゲームがテストという台詞に全員疑問を浮かべたことだろう。しかし、大事なことなので黙って聞いている。


「いいか。これから二人一組のペアになってテストの点数で競い合ってもらう。内容は中学校の復習レベル。100点満点のテスト5教科で500点満点、二人で合計1000点満点。テストは今日から5日後にする。そして、二人合わせて500点以下だった場合はランクが低い方が退学となる」


「た、退学!?先生、そりゃないっすよ!!」


 クラスメイトの男子が動揺して慌てふためいている。
 ゲームと言いながらも完全に学力テスト。それに、点数が低かったら退学。慌てるのも無理もない状況だ。誰だって高校中退にはなりたくない。そんな中でも隣の白銀は落ち着いた様子で質問する。


「特別ゲームをするのは全学年でしょうか?」


「いや、1年生だけだ。この特別ゲームはあくまで中学校の復習をすることだからな。期間内にペアが決まらなかったら学校側がランダムで決定する。それと、成績上位者には賞品がある。これを見ろ」


 そう言って、榎本先生は黒板に大きな紙を貼る。


 1位〜10位                  5000ポイント
 11位〜.50位    500ポイント
 51位〜100位    50ポイント
 101位以下                               5ポイント


「すげぇ!!5000ポイントも貰えんのかよ!」


「そうだ高橋。お前も勉強すれば1位になれるかもしれんぞ」


「よっしゃー!!頑張るぜ!」


 高橋と呼ばれた生徒がガッツポーズしている。ポイントがもらえるのが余程嬉しいようだ。


「全員気を引き締めて特別ゲームに挑むように」


 説明が終わるといつも通り授業が始まる。
 オレも気を引き締めないといけないかもしれない。
 退学だけは避けたいところだからな。

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