頭脳派ゲーム世界の黒幕

月田優魔

ゲーム

 次の日の昼休み。食堂で七瀬を見つける。


「七瀬さん。一緒にお昼食べようよ」


「あなたたちと関わる気はないから。私は一人で食べるわ」


 樟葉の願いも虚しく、七瀬は一人で席に座る。樟葉は諦めずに七瀬の向かいの席に座り、その隣にオレが座る。


「鬱陶しいわ。つきまとわれると迷惑なの」


「私たちがそんなに嫌いなの?」


「当然よ。E以下の二人と一緒にいたら私の価値が下がるのよ。さっさと消えて」


 七瀬はそう吐き捨てると、スプーンを口に運んだ。


「でもまだオレたちはゲームとかいうのを一回もしてないだろ?それでオレたちの価値を決めるのは早計だと思うぞ」


 七瀬の手が止まる。


「ゲームなんかしなくてもわかるわよ。ゲームしたことのない私たちのランクは学力に応じてる。つまり、ランクの差は学力の差よ。頭の悪い人と話しても価値なんてないわ」


「……………」


 七瀬の言い分には一理あって反論できなかった。
 学力が低いのは事実なのだから、そこを指摘されると返す言葉がない。
 七瀬が食堂を見渡す。


「どうせこの食堂にも私よりランクの低い人がたくさんいるのよ。ゲームなんてするまでもないわ」


「それは聞き捨てならないな」


 突然後ろから声をかけられる。振り向くと、後ろの席の男子生徒がこちらを見ていた。顔を見ると見覚えがあることに気づく。


「あなた確か、私と同じクラスの」


「僕は進藤智しんどうさとる。今の発言だと僕が君より馬鹿だって言いたいみたいに聞こえる」


「私よりランクとポイントが下ならその通りよ。私は600ptのDランク」


「確かに僕は君より下だ。けれどそれで頭が悪いっていうのは心外だな。ゲームをしたこともないんでしょ?この島ではゲームの勝敗こそが実力だよ」


「だったらゲームとかいうのをしてあげるわ」


 七瀬は端末を操作し、近くにある進藤の端末にゲームを申請する。そして、進藤もそれを受諾する。


「いいよ。受けてあげる」


「ルールはあなたに決めさせてあげる。私は何でもいいわよ」


「じゃあ、シンプルにジャンケンでどう?自分の端末に表示されている、グー、チョキ、パー、のアイコンを選択してジャンケンをする。五回勝負であいこになったらあいこという結果になり、勝負がつくまで続けるわけではない。結果は五回終わった後まとめて発表する。これでどう?」


 ほとんど普通のジャンケンと変わらない。完全な運ゲームということ。


「いいわ。そのルールで受けてあげる。で、ポイントはいくら賭けるの?」


 そこが重要なところである。ポイントをいくら賭けるかによってリスクもリターンも大きく変わる。


「僕も君も同じDランク。なら200ptでいいかな?」


「それでいいわ。それじゃあ始めましょう」


『互いの合意を確認しました。それではゲームを開始します』


 端末から無機質な機械の音声が鳴り響きゲームが始まった。突如始まったゲームに周りにはギャラリーが集まっていた。


『一回戦。それでは選択して下さい』


「そうだな。最初はグーにしようかな」


 進藤が独り言のように呟く。その声は七瀬にも聞こえる声量で、心理戦を仕掛けている。
 お互い相手の顔を見つめ合う異様な光景。相手の顔を観察し表情から相手の手を読み取ろうとしているようだが、そう簡単には分からない。
 七瀬は視線を進藤から端末へと移し、じーっと端末画面を眺める。表情の読み合いは諦め、進藤の独り言から読み取ろうとしているのだろうか。
 五秒ほど考え込んだ後、七瀬は端末をタッチする。それに呼応するように進藤も画面を触る。


『二回戦。それでは選択してください』


 再び無機質な機械の音声が鳴り響く。さっき本当にグーを選んだかどうかすぐにでも確認したいところだが、結果は最後に発表なので確認できない。
 お互いが無言で指を動かすだけの光景が続く。
 ギャラリーは固唾を呑んで見守っていた。
 オレも静かにゲームの行方を見守る。
 思考の読み合いができない完全な運ゲーム。
 このゲーム、どっちが勝ってもその勝利にそれほど意味がないように思える。
 勝てたとしても、それは実力ではなく運が良かっただけだということ。
 それを、この二人は分かっているのだろうか。


『五回戦全てが終了しました。それでは結果を発表します』


 二人は緊張したまま端末の音声を聞いている。


『結果はーーー5勝0敗0引き分けで進藤智の勝利です』


 ギャラリーから感嘆の声が上がる。進藤の完全勝利、その結果に周りから拍手があがる。


「っ………………」


 七瀬は悔しそうに唇を歪ませている。
 進藤が余裕の表情で訊ねる。


「どうして僕が勝ったのか分かるかい?」


「…………どうせ運でしょう」


「分かってないようだね。これが僕の実力だって。いつでも相手になるからかかってくるといいよ」


 そう言うと進藤は食堂から去っていった。

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