頭脳派ゲーム世界の黒幕

月田優魔

食堂

 時刻は十二時過ぎ。授業が終わり休み時間になる。
 普段自炊をしないオレはお弁当を持ってきていないので食堂へと向かう。


「ねぇ、夜神くんも一緒にご飯食べない?」


 食堂で昼ごはんを頼み座る席を探していると、樟葉に声をかけられる。その隣には別の女子生徒の姿もあった。腰のあたりまで優雅に伸びた金髪に、綺麗な顔立ちをしている。


「この人は夜神優希くんだよ、七瀬さん」


「私は七瀬美玲ななせみれい。よろしく」


「よろしく。そっちがいいなら一緒に食べようか」


 特に断る理由も無いので了承する。
 オレたち三人は適当に席に座った。


「樟葉さんも物好きね。私みたいな女を誘うなんて」


「だってみんなで食べた方がおいしいよ」


 七瀬は呆れたようにため息を漏らした。


「勘違いしないでね。どうしてもとしつこく言うから仕方なく来てあげたのよ」


「うんっ、ありがとう」


 どうやら七瀬は嫌々樟葉と一緒にいるようだ。


「二人は友達なのか?」


「そうだよ」「違うわ」


 樟葉と七瀬が同時に声を発する。


「もう私たちは友達だよ」


「違うわ。友達なんてものになった覚えは無い」


「どっちだよ…………」


 二人の意見は割れていて、どっちが正解なのか分からない。いや、友達かどうかに正解なんて無いのかもしれないが………。


「あ、そういえば、二人はランクいくつだった?」


 樟葉がそう疑問を口にする。ホームルームでランクの話をしたから気になっているようだ。


「私はDランクだったわ。樟葉さんは?」


「私はEランクかな。入学試験難しかったもん」


 入学したばかりのオレたち1年生のランクは、入学試験の成績に応じている。試験は問題数無制限で時間内に多く解ければ解けるほど高評価がもらえる。ポイントに応じてランクが決まっており、0〜10ptがF、11〜100ptがE、101〜1000ptがD、というように一桁上がるにつれてランクが一つ上がるようになっている。


「夜神くんはどうだった?」


 流れ的に当然オレのところにも質問が飛んでくる。


「………Fランクだ」


 そう答えると、聞いてはいけないことを聞いてしまったかのように気まずい空気になる。


「そ、そっか………。ごめんね、変なこと聞いて………」


「………いいんだ、気にしないでくれ」


 重苦しい空気が漂う。誤魔化した方がよかったかもしれないな。無言の沈黙の中、七瀬が突然席を立った。


「………七瀬さん?」


「私は優秀な人間になるためにこの学校に来たの。だからEやFのあなたたちと遊んでる暇なんてない。席を外させてもらうわ」


 そう言うと、七瀬は自分の自分の昼食を持って席を移動しようとする。


「ま、待ってよ七瀬さん!!」


「いいえ待たないわ。あなたたちと話しても得るものは何もない。短い間だったけど、さようなら」


 七瀬はこちらを向き直ることなく去っていってしまった。
 取り残されたオレと樟葉。


「せっかく友達になれたと思ったのに………」


 余程ショックだったのか項垂れる樟葉。


「あんまり気落ちしない方がいいと思うぞ。七瀬は元々友達をつくるようなタイプじゃないだろ?」


 人には相性というものがある。七瀬のようなタイプに無理に仲良くなろうとしても、嫌われるだけだ。


「それは………そうかもしれないけど」


「どうしても友達になりたかったら、すぐにじゃなくて、ゆっくり仲良くなればいいんだよ」


 険しい道のりだろうが、不可能ではないはずだ。


「………そうだね。私、諦めずに頑張ってみるよ」


 決意が固まったようで、まっすぐな瞳でこちらを見つめ返してくる。
 その姿はオレにはとても眩しいものに見えた。


「時間も時間だし、昼食を済ませようか」


 ふと食堂に設置してある時計を見ると、昼休みの終わりが近づいていた。


「あ、そうだね。少し話しこみ過ぎちゃった」


 オレたちは残っている昼食を食べ進める。


「おい一年。そこの席どけよ」


 突然横から声をかけられ振り返ると、男子生徒が二人こちらを見下ろしていた。制服からして二年生だろうか。


「あの、何か?」


「そこの席をよこせって言ってるんだ」


「そんな!?他の席が空いてるじゃないですか!」


 あまりに横暴な物言いに樟葉が異議を申し立てる。他の席が空いていて、そこに座ればいいと思ったからだろう。


「そこはいつも俺たちが座ってる席なんだよ。それにお前らどうせEランク以下だろ。Eランク以下の出来損ないには人権が無いってのがこの島の暗黙のルールだ」


 この島ではランクが低いと人間扱いされないということだろう。周りからの視線がそれを物語っている。鬱陶しそうな視線がこちらに向けられるが、それは男二人にではなくオレたちに対して。早くどけよ、そんな声が聞こえてくるようだった。


「分かったらそこをどけ」


「分かりました。すぐどきます」


 状況を理解したオレはすぐに席を立つ。


「や、夜神くん!?」


 樟葉が驚いた様子でこちらを見る。
 この状況では大人しく席を譲るのが利口な判断だ。周りの観客が味方じゃない以上、争うのは得策ではない。


「樟葉。別の席に行こう」


「………うん」


 樟葉も席を立ち、男二人に譲る。


「分かればいいんだよ」


 その顔はとても納得しているようには見えなかった。

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