ツイートピア

ナガハシ

ツイートピア1284~1315

(1284)
 そして人々は、いつもと変わらぬ週末を迎えた。イズミ家では『ノルコの全快祝い』と『ワクを称える会』が開かれ、友達やらご近所さんやら、はては全然知らない人まで押しかけてきた。おかげで赴任先から戻ってきたアフレルは、全然落ち着くことが出来なかった。ホウ「ボンジョールノ!」 アフレル「うぇ!? き、キミは?!」


(1285)
 妻の浮気相手(アフレルの勘違い)が、チカコの手作りケーキを持ってやってきた。ヨコ「まあ美味しそうなケーキ。チカコさんは?」 アフレル「ほへ?」 ホウ「おばさんは昼食の準備中なんだ、後で来るってさっ」 ヨコ「まあ、いまノルコ達が二階でどんちゃんやってるわ、あがって行って!」


(1286)
 ホウはクルリと回って一礼すると、二階へと上がっていった。ヨコの隣でアフレルがキョトンとしていた。アフレル「お、お知り合い?」 ヨコ「ええ、チカコさんとこの職員さん。例のGPTLの人よ?」 アフレル「そ、そうだったんだ……」 ヨコ「んん?」 アフレル「いや、なんでもない……」 どうやら誤解はとけたようだ。


(1287)
 ノルコ「ガーオ! ガオガーオ!」 ルイ「あははは! ノルコがシャベッてるあははは!」 カズノリ「よ、よかった。本当によかった」 リン「よかったねー!」 ユウタ「ノルコお姉ちゃん、次はこの文よんでみて!」 ノルコ「あかまきがみ、あおまきがみ、きまきがみ!」 ルイ「あはははは! すげー!」


(1288)
 ノルコ「そういえばレイタ来てなかった?」 ルイ「弟くんの方に行ったみたいだぞ?」 ノルコ「ガンバールか! ま、こっちきても入れてあげないけどさっ」 ルイ「こっちの部屋は男子禁制だからな。ああ、ユウタ君はまだ小さいからOKな!」 ユウタ「やった!」 カズノリ「……ぼ、ぼくは?」


(1289)
 ホウ「ヘイカモーン、オープン・ザ・ドアー!」 ノルコ「あ、ビバーチェだ!」 ドアを開けるとそこにはケーキ片手に腰をクネクネさせているホウがいた。ホウ「ビバーチェ!」 ルイ「うわっ! いつもの変態さん!」 カズノリ「し、知り合いだったの?」 リン「うそぉ!」 ユウタ「兄ちゃん元気になったんだね!」


(1290)
 ヨコ「お皿持ってきたわよホウ君、ちょっとケーキかしてね」 といってケーキを切り分けはじめるヨコ。ノルコはその隙に。ノルコ「ちょっとちょっと」 ホウの手をとって廊下に引っ張り出した。ホウ「ワーオ、なんだなんだ?」 ノルコ「お母さんのごにょごにょ……」 ホウ「大丈夫さ、もうすっかりあきらめたよ!」 


(1291)
 ノルコ「ほっ」 ホウ「ふふ、ボクは一人身がしょうにあってるからね」 ノルコ「えー?」 それはちょっと違うんじゃない? とノルコは思う。ノルコ「でも女の人はいっぱいいるんだよ? たとえばほら……ここにもっ」 といって自分を指差すノルコ。ホウ「び、ビバ!?」 さすがのホウも驚いたようだ。


(1292)
 レイタ「うおおーー! みんなでワク君を胴上げだー!」 ワーッショイ! ドーン!! ノルコ「なにごと……?」 ホウ「天井にぶつかったようだ」 ルイ「ごるぁあああ! レイター! よその家でなにしてんだー!」 ルイがワクの部屋に飛び込むと、そこには男子がギッシリつまってた。


(1293)
 リン「うわぁ……こんなにいたんだ」 ルイ「お前ら公園にでも行け!」 ヨコ「ケーキ切れたわよー?」 カズノリ「……ぜ、絶対足りない」 ヨコ「大丈夫、ご馳走たのんであるから!」 アフレル「おーい、オードブルがきたぞー!」 ワク「ウェエエエイ! ヒア・ウィー・ゴー!」 少年達はワラワラと一階に下りていく。


(1294)
 アフレル「いっぱい頼んだからなー! 喧嘩するなよー!」 イエアアアアアア! 次から次へと湧き出てくる少年達にかこまれて、アフレルは保父さんにでもなった気分だった。アフレル「すごいなぁガンバールって。こんな人気あったんだな……」 イイズカ「よう、アフレル、忙しそうだな」


(1295)
 イイズカとハッブルが研究基地からリプライを飛ばしてきた。アフレル「こんなこと、一生に一度あるかないかですよ」 ハッブル「ハハハ、まったくダナ」 イイズカ「まあ、こっちのことはまかせておけ」 アフレル「すみません、僕だけこんな」 イイズカ「いや、ある意味それがお前の任務だからな」 ハッブル「しっかりサービスしなよ!」


(1296)
 ガンバールの模擬戦が終わった後、ハッブルの口から全てが明かされた。彼は研究基地と国際天文学会との間に太いパイプを持っていたため、はじめから大体の事情を知っていたのだ。ハッブル「クサヨシ司令もワカってたんじゃないかな? お偉い方が最初からゼンブ知ってたってこと」


(1297)
 クサヨシの『エイリアンが見つかったサプライズやってたら、本当に見つけちゃった?!』ドッキリ大作戦は、実は見破られていて、お偉い方はその意趣返しとして、国際天文学会を巻き込んだ『8本足のタコタコ星人』大作戦を遂行したのだった。クサヨシ「いやはや……してやられたよ」


(1298)
 クサヨシのシナリオでは、TPVNの観測により『本当のエイリアン』を発見できるはずだった。もっとも、人類がそれをエイリアンだと信じるかどうかは別の問題だったが。しかし実際には何も観測されず、変わりにタコタコ星人のCG映像が全世界に発信されたのだ。実はガンバールは、何も無い空間をグルグル飛び回っていただけなのだ。


(1299)
 ではガンバールが実際に荷電粒子に押し返されたり、ビームを受けて焼け焦げたりしたのは何故だったのだろう? 多くの研究者は、計器の誤作動か、超高空域における電離層の影響などではないかと考えている。アフレル「やっぱりエイリアンが本当にいて、なにかやったのでは……?」 


(1300)
 クサヨシ「アフレル君。エイリアンはね、きっと我々の心のなかにいるのだよ」 というクサヨシの言葉にも、アフレルは色々と疑問を感じたのだが、今はそいうことでもいいかなと思うことにした。そんなことより今は……。レイタ「おじさん! サインください!」 アフレル「え、ええー?!」 子供達の相手で精いっぱいなのだから。


(1301)
 そのころ二階では、ノルコ達がケーキを食べていた。ルイ「ふう、野郎どもがいなくなって静かになったぜ」 リン「さっきまでドンドンがちゃがちゃうるさかったもんね」 カズノリ「か、代わりに一階が大変なことに、な、なってるんだろうけど」 ユウタ「ケーキうまーう!」 ホウ「ユウタ君、僕のイチゴもお食べ」


(1302)
 ケーキと紅茶に囲まれるようにして、テーブルの上にノートPCが置いてある。ゲンお爺さんのPCだ。ノルコはそれとなく起動させてみる。ルイ「ノルコそれどうするんだ? やっぱり返すのか?」 ノルコ「どうしよう? ホウさん使いたい?」 ホウ「フーム、興味はあるけど、それはとっても貴重なもののようだ」


(1303)
 カズノリ「そ、そんなレトロな機械、きっともう、せ、生産されてないよっ」 ノルコ「私の部屋に置いといたら、いつか壊しちゃいそうだしな……。やっぱり返そうかな」 リン「大事なお爺さんの形見だもんね」 ノルコ「うんっ。そうだ、こっちのフォロワーさん達にも報告しなきゃ」 そう言ってノルコは、カタカタとキーを打ち始めた。


(1304)
 ゲン「みなさんこんにちは。ノルコです! つぶやけるようになりました! みなさんのおかげで、色んなことを勉強できて、国会議員にまでなることができて、とっても良かったです! どうもありがとうございました! みなさんお体お気をつけて、ゲンお爺ちゃんみたいに長生きしてください!」


(1305) 
 パチパチパチパチパチ――。無数の拍手のリプライが、ゲンのTLを埋め尽くしていく。ノルコ「みんなも、ありがとう!」 ルイ「いやいやー」 リン「私なんてなにもしてないしっ」 カズノリ「僕も勉強にな、なったよ」 ユウタ「ボクも楽しかったよ!」 ホウ「オッティモーレ!」


(1306)
 ミギノウエ「ゲンさん、ゲンさん。ミギノウエです。お久しぶりです」 ゲン「えっ、私ノルコだよ」 ミギノウエ「いえいえ、あなたはゲンさんですよ。よかったですね、トイレ法が否決されて」 ゲン「うむ、危ういところであったが」 ミギノウエ「ふふふ、きっとあの人たちが後押ししてくれたのだろうね」


(1307)
 そのミギノウエの言葉に、ノルコはあの時みた夢のことを思い出す。本当にミギノウエさんは、何でもお見通しのようだ。ノルコ「ミギノウエさんは、本当にエイリアンなの?」 ミギノウエ「ああそうだよ。何度も言ってるじゃないですか」 ノルコ「本当に本当ですか?」 ミギノウエ「本当に本当です」


(1308)
 ノルコ「じゃあ証拠をみせてっ」 ミギノウエ「それは無理です……」 ノルコ「じゃあ信じようがありません!」 ミギノウエ「宇宙人ってのは、自己申告制なんですっ」 ノルコ「信じませーん!」 部屋を満たす笑い声。みんな彼のことを、ヤマオ君の知り合いの変なおじさんとしか思っていなかった。ミギノウエ「えと……まだ34です」


(1309)
 ノルコ「というわけでクメゾウお爺ちゃん、ウメナお姉さん、こんどPC返しにいくから!」 ノルコは東京の畑に向けてリプライを送った。返事はすぐに返ってきた。クメゾウ「おおー! いつでもこーい!」 ウメナ「ご馳走作って待ってるからなー」 そういえば、もうじきお盆だなーと、ノルコは思った。


(1310)
 その後も、ノルコの家には次々とお客さんがやってきて、一日中大賑わいだった。リプライもたくさん送られてきた。中でも驚いたのは、クオ先生とジェネ先生が、二人でスカイダイビングに行ってきたという話。ジェネ先生は飛んでるあいだに眠っちゃって、着地の時にクオ先生が下敷きになったのだそう。ノルコ「あぶないのっ」


(1311)
 そして、その日の夕方にヤマオ君のお父さんが目を覚ましたことも、ノルコ達を驚かせた。まだうまく話せないらしく、どうして岩陰に隠れていたのかは謎のままだけど、ともかく命に別状はないようだ。ちなみにヤマオは、こっそり8度目のツイートをしていたのだが……まだ誰も気付いてないようだ。ヤマオ「………(ニヤリ)」


(1312)
 こうして、ノルコ達の週末は過ぎていった。思えば跳び箱で転んだことから始まって、最後には国会議事堂のど真ん中いたわけで。この短い間に随分と色んなことが起ったものだと、ノルコは改めて思う……だが。ノルコ(まだ全部終わったわけじゃない!) そう、ノルコにはまだ一つやることがあった。


(1313)
 あっという間に週末は過ぎ去って、日曜の夜とあいなった。ノルコ「世はすべてこともなしっ」 ノルコはランドセルの中身を確認しつつ、そう呟いた。ルイ「おお? 何を達観してるんだノル?」 ノルコ「ううん、なんでもないよ」 ルイ「んんー? なんだ? 気になるな!」 ノルコ「明日になったら教えてあげるっ」


(1314)
 そう、明日の朝に大事なイベントがある。ノルコはルイにおやすみを言うと、すぐにベッドにもぐりこんだ。電気を消して目を閉じる。なにか準備に不足はなかったかと、幾度か思いをめぐらせて見る。ノルコ(……大丈夫、きっとうまくいく……きっとうまくいく) そう自分に言い聞かせる。


(1315)
 それからノルコは夢を見なければならない。いつかきっと、あの夢の続きを見られるとノルコは信じている。信じて眠りに落ちていく。ノルコ(ミチコお姉さん。そっちの世界にもトイレってあるの?) その答えもいつかきっとわかる。暖かな眠りのなかで、そうノルコは信じていた。





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