ツイートピア

ナガハシ

ツイートピア1190~1215

(1190)
 セイ「最後の質問にお答えいたします。私どもが運営します『さわやか日常』では、トイレTLを対象としたB・ソーシャル『トイレッター』を開発中です。トガクレ氏のご指摘の通り、『トイレッター』の管理プログラムは、現時点において達成しうる、最高の情報秘匿性を備えております」


(1191)
 「それでどうする気だ!」「トイレを独占支配するつもりか!」 反対派から散発的な野次があがるも、セイ氏は気にせず続ける。セイ「もちろんそれは、万が一不測の事態に陥った時の、緊急措置を可能にするためのものです。トイレTLそのもの情報を独占できるような仕様にはなっておりません」


(1192)
 その後、セイ氏からトイレッターについての詳細な説明がなされた。どうやら宣伝もかねているらしい。説明によればトイレッターは、最寄のトイレの混雑度の把握、道順のナビゲーション、利用中のトイレTLを閲覧中の人のピックアップ機能、およびブロッキング機能を兼ね備えた、トイレナビゲートツールであるらしい。


(1193)
 これにより人々は、公衆トイレを利用しやすくなるだけではなく、自分がそのトイレを利用したことを『どれだけの人に知られたか?』ということまで知ることができる。そしてその一方で、自分がその情報を知ったということは誰にも知られることがない。たとえそれがトイレッターの開発者であってもだ。ノルコ(……ややこしいわ!)


(1194)
 セイ「このトイレッターの機能を活用することにより、トイレの使用者は、トイレを監視しようとする者よりも高次の監視能力で、相手を監視し返すことができます。その意味するところはつまり、トイレを監視しようという活動そのものの抑制効果です。このシステムによりトイレの公開性と秘匿性が両立されます」


(1195)
 セイ氏はそれをもって返答を終え、席についた。議事堂内はしばらくざわめいていた。トイレッターの仕組みについて腑に落ちないといった表情の議員が、賛成派の中にも見受けられた。「それっていわゆる一方監視にならないか?」「いや、それともちょっと違うようだが」「ようわからんのう」 


(1196)
 ノルコもしばし頭をひねってみたが、トイレッターの理屈は今ひとつわからなかった。ヨコ「ねえ、ノルコ」 その時、ヨコが話しかけてきた。ヨコ「それってつまり、マジックミラーのことじゃないかしら? 外から内は見れないけれど、内から外は見えるマジックミラーで囲まれたトイレ」 まさにその通りだった。


(1197)
 ノルコ(お母さん頭いい!) ノルコは想像した。マジックミラーで囲まれたトイレのことを。確かに外からは中は見えないだろう。理屈ではわかっている。外の人にわかることは、誰がいつトイレに入って出てきたかという情報のみ。逆に、トイレの中にいる人にとっては、誰がこっちを見ているかが丸わかりなわけだ……しかし。


(1198)
 ノルコ(……そんな落ち着かないトイレってない!) ヨコ「あらどうしましょう。いっぱいリツイートされちゃったわ」 先ほどのヨコのツイートが一瞬にして100リツイートを超えた。議員の間でも読まれているようだ。ノルコはふとトガクレ氏の方を見る。それに気づいたトガクレは、満面の笑みを浮かべてノルコにグッドサインを送ってきた。


(1199)
 セイの表情はかすかに強張っていた。最後の最後で墓穴を掘った形だ。議事堂にはいまだ微かな動揺が見られる。とはいえ、結果が引っくり返るほどのものではないだろう。セイ「TLの無いトイレだって残せるんだけどなぁ……」 何気なく言い放たれたセイのツイートもまた、あっと言うまにリツイートされた。


(1200)
 その発言により議事堂の空気はだいぶ落ち着きも取り戻した。「それもそうだな」「トイレTLを要望する人も多いんだしな」「みんなで良い雰囲気つくっていけば、きっと大丈夫さ」 どんどん膨らむ賛成意見。しかしノルコはまだ何か引っかかるものを感じていた。ノルコ(本当にTLの無いトイレを守りきれるだろうか?)


(1201)
 部屋TLでさえ、必ず設置しなければならないという不文律が出来上がっているのだ。トイレに限って、TLなしが認めらるかどうかは、正直怪しいところだ。ノルコ(……全てのトイレにTLがついてしまう可能性は……やっぱりある?) もしそうなった時、全てのトイレがマジックミラー張りになったとき。一体何がおこるのだろう?


(1202)
 ワク「ヘイ! マイシスター!」 ノルコ(うわ!) ノルコは突然のリプライに、座ったまま椅子から飛び上がった。ワク「今すぐこれ読んでお姉ちゃん!!」 ワクから送られてきたのは、どうやらリストのようだった。ノルコ(中身はお父さんと……ミギノウエさん?


(1203)
 ワク「このままじゃ人類が滅亡しちゃう! 早く読んで、そしてみんなに伝えて!」 ノルコ(いったいなんなのか?!) ワク「僕は……僕はこれから戦わなきゃいけない。アイ・ファイト・エイリアン。もしかしたらこれが最後になるかもしれないから……」 なにやら悲壮感が漂っているが。


(1204)
 ヨコ「わ、ワク? 一体どうしちゃったの?」 アフレル「母さん。ワクはガンバールのパイロットに選ばれてしまったんだ」 ヨコ「えええ?」 その時、学校の上の階から地鳴りのような音が響いてきた。ワクのクラスの男子達が、一斉に飛び跳ねたのだ。ヨコ「それって凄いことなの?」


(1205)
 ノルコとヨコはガンバールのことを「男児用オモチャ」くらいにか思ってないが、多くの男子にとっては驚天動地の出来事だ。アフレル「そうなんだ。いま人類の未来は、ワク、そしてノルコ……二人に委ねられたんだ」 ヨコ「そ、そう……」 男の子って幸せだなと、ノルコとヨコは思った。


(1206)
 ワク「パパ、ママ、シスター。ボク、行ってくるよ!」 ノルコはひらひらと手を振って弟の出撃を見送ると、渡されたリストのツイートに目を通した。どうやらお父さんはミギノウエさんに会いにいったらしい。その時の会話だった。ノルコ(……ふむふむ、トイレ法が成立すると人類は滅ぶ……ほへ?)


(1207)
 太平洋のど真ん中に出現した光の渦に向かって、ガンバールはその舵を切った。ワク「ウェポン・イズ・ナッシング!?」 武器は何もなかった。開発が間に合わなかったのだ。クサヨシ「ワク君! 忘れてはならない。我々の最強の武器は、この熱いハートと鉄の拳であることを!!」 ワク「ウィィイイ!?」


(1208)
 ワクはいつも遊んでいる時の様に、ガンバールを操作した。操作感覚は驚くほどゲームと同じだ。機体の重量や空気抵抗、遠隔操作による反応の遅れまで完全に一致している。ワク「ホウェア・イズ・アタックポイント?!」 しかし敵はただの光の渦だ。どこを狙っていいかわからない。


(1209)
 アフレル「ワク! 右腕のレーダーを使って探すんだ!」 ワク「オールライト!」 言われるままに右腕のレーダーを光の渦に向ける。しかしゲームのようにはっきりとは索敵されない。クサヨシ「ゲームと違ってはっきり本体が見えるかどうかわからない。最終的に、カンを頼りにして打ち込むんだ!」


(1210)
 実際にワクがいる場所は学校の教室だ。そこから遠隔操作しているので、何が起きてもパイロットは安全だ。だからこのように「当たって砕けろ」的な戦術を実行できる。ワク「アイアン! ナックル!」 ワクはガンバールの右腕を突き出した姿勢で、光の渦に飛び込んでいった。


(1211)
 クサヨシ「いけるか!?」 しかしガンバールの巨体は、光の渦を突っ切っただけで、なんのダメージも与えることが出来なかった。イイズカ「だめか……む!? いかん逃げろ!」 光の渦が急激に凝縮し、その中からレーザービームが発射され、ガンバールの装甲を焼き始めた。ワク「アウチ!」 ワクは辛うじて離脱する。


(1212)
 その後も光の渦はしつこくガンバールを追ってきて、ビームを照射してきた。アフレル「このままじゃジリ貧だ……」 クサヨシ「いや、これはチャンスだよ。ワク君、いまから座標をおくるから、そこまで何とか逃げるんだ」 ワク「アイ・トライイング!」 ガンバールは螺旋飛行をしながらグングンと上昇していった。


(1213)
 途中でメインウィングの燃料が尽きた。ワクはウィングをパージすると、推力をロケットブースターに切り替えて、さらに上昇した。高度50kmの地点にさしかかり、地球の輪郭が見渡せるほどになっていた。 ワク「ユニバアアアス!!」 クサヨシ「いまだ、ハッブル君!」 ハッブル「待ってたよ!」


(1214)
 ハッブルの合図により、TPVN(環太平洋長基軸干渉電波望遠鏡)のアンテナ群が、太平洋上のガンバールの方を向き、いっせいに観測を始めた。ハッブル「解析映像、デルヨ!」 大型スクリーンにその映像が表示された。「うおおおおおおおお!」 管制室がいっせいにどよめいた。


(1215)
 ワク「……ゴクリ」 クサヨシ「ワク君、見えてるか? そのバカでかい八本足の奴がエイリアンの本体だ」 ワク「い、イエス・サー」 ワクの視界に重ねられた映像には、絵に描いたような「タコさんエイリアン」が映し出されていた。アフレル「そんなバカな」 イイズカ「いくらなんでもお約束すぎるぜ……」





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