ツイートピア

ナガハシ

ツイートピア978~995

(978)
 アジフライはワサビ醤油をつけて頂くものだとノルコは信じて疑わない。ノルコ(だってお魚料理じゃないかっ) そんなノルコを奇異な瞳でながめつつ、弟のワクは普通にウスターソースをかける。ヨコ「今日はなんだか疲れたわぁ……」 母はため息をつきつつ、クレイジーソルトをパラパラとかける。


(979)
 アフレル「何かあったのヨコ?」 と、画面上のアフレルがつぶやく。単身赴任三日目にして、ようやく一家そろっての夕食だ。いつもアフレルが座っている席の上に、社員食堂で夕食をとるアフレルの姿が表示されている。ヨコ「……ちょっとチカコさんの所でひと騒動あって」


(980)
 ヨコはホウという青年が、GPTLという装置を見たとたん気を失ったことを話した。アフレルは彼が妻の浮気相手(勘違い)であることなど思いもせず、むしろGPTLに興味津々だった。アフレル「そんな装置……よく一人で作ったものだね、その人は」 ヨコ「まったく凄いことよね。それに、ある事情でツイッターを無くしているの」


(981)
 一方ノルコは、ヨコがホウのことを、ためらいもなくアフレルに話すものだから、それはもう気が気ではなかった。ノルコ(ハートによくない!) アフレル「ん? ノルコどうかしたか?」 ノルコは何でもないよと首をふる。アフレル「なあノルコ、もし……少しでも調子がおかしいようなら、何でもすぐに言うんだぞ?」


(982)
 ノルコはウンとうなずきつつも、何となく違和感を感じた。必要以上に心配されているように思えたのだ。アフレル「ツイッターを無くしているってことは、呟けないんだね、そのホウさんは」 ヨコ「ううん、普通に喋ったりは出来るのよ? ノルコとはちょっと違うケースなのよ」 アフレル「ふむぅ」


(983)
 ヨコ「アンインストってう薬が体の中に入っているから、もう再インストールは出来ないんですって」 アフレル「そうなのか、気の毒にな……。それで、何とか別の手段でツイッターを取り戻そうとしたんだな、ノルコのPCみたいに」 ヨコ「うん、それですっごく昔の機械に詳しくなったそうよ」


(984)
 アフレル「そうかー、苦労したんだな、きっと。ノルコもどんどんPCの使い方が上手くなってるもんな。ずいぶんと文字を打つのが早くなったんじゃないか?」 ノルコはフフフとほくそえんで箸をおき、テーブルの上で「それほどでもないよ」と、ブラインドタッチでエアタイプした。


(985)
 アフレル「ははは。その分だと、国会でもちゃんと発言できるなあ」 ヨコ「それが、そうもいかないみたいなの」 アフレル「え? だめなの?」 ヨコ「ええ。問い合わせてみたら、ノルコ本人の名前でツイートしなきゃだめなんだって。議事録として残るから」 アフレル「そうなんだ……」


(986)
 アフレル「じゃあ、ノルコに出来ることは、賛成反対の投票をすることだけなのか」 ヨコ「そうね、でもそれで十分じゃない? ノルコはまだ小学生なのよ? 国会議員に選ばれたってだけで、もう凄いことだと思わなきゃ」 アフレル「それもそうだな。ノルコ、ちゃんと投票できるか? 心は決まってるか?」


(987)
 そこでノルコは強く頷きたいところだった。でも実際は、最後の最後まで決められなさそうだと思った。アフレル「うーん、やっぱりそう簡単には決められないか……。でもいいさ! それだけちゃんと考えてるってことだからね」 ヨコ「あなたはどう思ってるの? トイレ法のこと」 アフレル「え? 僕はもちろん反対だよ?」


(988)
 ヨコ「えー?」 アフレル「え? だ、だめ? ヨコは賛成なの?」 トイレに管理ツイッターを置くなんて、女性こそ嫌がることだろうとアフレルは思っていたのだが……。ヨコ「正直言って、今の公衆トイレは問題が多すぎるわ。もっと安心して使えるようにした方が、私はいいと思うのよ」 アフレル「う、うーん……」


(989)
 ヨコ「でも、意見は人それぞれだと思うし 私にはわからない問題点もたくさんあるのかもしれないし、結局はみんなで良く考えて、慎重に決めてくれればそれでいいと思ってる。だからあなたがこの法律に反対でも、私は全然かまわないわ」 アフレル「うむむ……」 ワク「クール!」 ヨコ「ふふふ、これが大人の態度なのよ?」


(990)
 アフレル「うーん、よく論争の種になるのは、個人のプライバシーか公共の保全かっていう対立なんだけど、実際よく議論しなきゃいけないのは、管理ツイッターの導入で本当にトイレが安全になるのかってことなんだよな」 ノルコはその意見に賛成だった。自分なりに考えて、問題の核心はそこにあるのではないかという考えに至っていた。


(991)
 ヨコ「でもそれは、実際にやってみるしかないんじゃないかしら?」 アフレル「それが一番手っ取り早い確かめ方だね。発起人のセイ氏も、まずやってみて効果がないようなら廃止も検討するって言ってるし」 そこでノルコはさらに疑ってみる。一度導入したら、元に戻せなく可能性もあるんじゃないかと。


(992)
 ノルコ(……実際やってみて効果抜群だったら) たぶん、そのまま定着するだろう。自分達の社会は、トイレというプライバシーを少し失って、社会全体の安全性が少し高まる。二度と元には戻らない。とすれば、話はまた元に戻ることになる。ノルコ(トイレの秘密は守られるべきか否か?) しかしその判断基準をノルコは持ち得ない。


(993)
 ノルコ(……はっ!) そこでノルコは、昼間の出来事を思い出した。ホウさんとヤマオ君と三人で、公園のトイレで密談したことだ。ノルコ(もし、トイレにツイッターがあったら、あの密談は出来なかった……) そう考えると、ツイッターが無くて良かったとノルコは思う。あのヤマオ君が、二言以上も喋ったのだから。


(994)
 しかし同時に、例えようのない疑念も浮かんでくる。ヤマオ君は言った、自分はミギノウエ氏と知り合いだと。それを私に教えてくれたのは何故? アフレル「ノルコ?」 アジフライを口に入れたまま不動の状態になっていたノルコを見て、アフレルが言った。アフレル「……ど、どうした?」 ノルコ(……考え事してただけなの)


(995)
 そういちいち心配されてはロクに考え事も出来ない。そう思うと何だか腹立たしかった。ノルコはその後一切、アフレルの言動に対しリアクションをとらず、機械的に食事をすませて席をたった。ノルコ(国会議員はいそがしいのだっ) そして食器をキッチンに運び、政治TLを眺めながらさっさと洗ってしまった。





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