ツイートピア

ナガハシ

ツイートピア860~878

(860)
 そのころ、ノルコは自室で煮詰まっていた。ノルコ(あれがあれであれなってぱっぱらぱーのぴー!) 色んな人の色んな意見を読み比べるうちに、ノルコは自分が今どこにいるのかさえわからなくなってしまった。ノルコ(頭痛い……痛くないけど痛いぅ) そして頭をかかえてうんうん唸った。


(861)
 ゲンお爺さんの友達の、お爺ちゃん三人組からは「トイレは心のオアシスじゃからTL設置はイカン!」との意見。ツイッター互助会のチカコさんからは「トイレで起こった犯罪が原因で協会を尋ねてくる人もいるの」との意見。ユウタ君からは「いつでもみんなと繋がっていられる方が安心だよね、賛成!」とのご意見。


(862)
 お父さんの職場のイイズカさんからは「一人でじっくり考え事できる場所ってやっぱり貴重だと思うから、TLいれるのは嫌だなぁ、反対」との意見。お父さんの上司のクサヨシさんからは「全ての発明のトイレより生まれる。トイレへのTL導入は、人類の発達過程に甚大な影響を及ぼすだろう」と、どっちつかずの意見。


(863)
 ウメナお姉さんからは「ゲンお爺さんならきっと反対したろうね。何事も慎重な人だったし。だから反対」との意見。クメゾウお爺さんからは「俺は別にどっちでもいーなあ。要はみんなの心がけしだいだろうがな」との意見。てんでんばらばら自由自在、ときおり支離滅裂。ノルコ(うー! みんな好き勝手言って!)


(864)
 ノルコはいい加減疲れてしまった。ノルコ(気分転換しないと……あっ) 部屋のTLが壊れていることを思い出した。買いに行かなければ。ノルコは上着を着ると、壊れたTLをもって玄関に向かった。ノルコ(お母さんに言っていかなきゃ) そう思ってリビングを覗くもいなかった。キッチンにもいないようだ。


(865)
 ノルコ(寝室かな?) お昼寝してたらどうしよう? そう思いつつヨコとアフレルの寝室を覗く。ヨコ「ふんふんふ~ん♪ あらノルコ、どうしたの?」 ヨコはお化粧をして出掛ける準備をしていた。服装からみて、どうやらお茶会にでも行くみたいだ。ヨコ「お母さん、これからちょっと出掛けてくるからね」


(866)
 ノルコは壊れたTLをヨコに見せた。ヨコ「あら壊れてるわね。買ってこないと」 ノルコはそこで手を大きく上げて(自分で買いに行く!)と宣言した。ヨコ「え? 自分で行く? そうね、すぐそこのコンビ二で買えるしね。買ってきたらお母さんが戻ってくるまでお留守番しててくれる?」 ノルコは大きくうなずいた。


(867)
 コンビ二は歩いて2分もかからない場所にある。ノルコは壊れたTLを回収ボックスに入れると、新しいTLを手にとった。色んな絵柄のものがあるが、今回はイヌの絵が描かれたものにする。耳たぶクリックで部屋用TLの商品情報を確認すると『仕様変更あり』とのロゴが赤々と点滅した。


(868)
 ノルコ(なんだろう?) さっそく調べてみる。どうやら壁にピタっとくっ付けるためのテープの部分が変わっているらしい。ノルコ(子供がガムと間違って食べても大丈夫な粘着素材になりました……?) ちなみにペパーミント味であるらしい。ノルコ(そんなもの誰が作ったのかな?) ノルコはさらに調べてみる。


(869)
 ノルコ(!?) 食べられる粘着素材の開発者はイズミ・アフレルとなっていた。ノルコ(お父さん!?) ノルコはしば口をあんぐりと開けたままホゲーっとしてしまった。ノルコ(これってすごいこと?) いや、きっと凄いことなんだろう。日本中の部屋TLに使われるような品物を作ったのだから。


(870)
 家に帰る途中、ノルコは何回かそのTL装置を眺めた。そしてその度に言い知れぬ感慨に打たれた。ノルコが小公園の前を通り過ぎようとしたとき、なにやら騒ぎ声が聞こえた。ホウ「ヘイボーイ! そんな耳たぶゆらしてどこに行くつもりだい?」 ノルコ(ホウさんの声だ!) ノルコは公園を覗き込んだ。


(871)
 ノルコ(あれは……ヤマオ君?!) ヤマオとホウが公園のトイレの前でにらみ合っていた。ノルコにとってそれは、まるでシュールリアリズム絵画の如き不可解な光景に見えた。ホウ「僕にわかるはずのことがさっぱりわからなくなった! でもボーイ? 君がその原因だってことはわかってるんだぜ、ビバーチェ!」


(872)
 ノルコ(何を言っているんだろう? ヤマオ君が何かしたの?) ヤマオはホウの言葉を事も無げにやり過ごし、いつもの変わらぬ微笑を満面にたたえていた。かすかに後光が差しているかのようだった。ホウ「なんとか言いたまえよボーイ?」 ヤマオは何も答えなかった。その代わり――ノルコに視線を向けた。


(873)
 大出力レーザーの如く強靭にして確固たる視線に、ノルコはおでこの真ん中を打ち抜かれてしまった。ノルコ(ぅひゃう?!) そのままビーンと硬直する。ホウ「……ふふ、このタイミング。偶然とは言いがたいなボーイ&ガール?」 するとヤマオは招き猫のような仕草で、ノルコにこっちへ来るよう手招きした。


(874)
 ノルコはカチコチとした動作で二人のもとへ歩いていった。ノルコ(一体何をしているの?!) 聞いてみたかったが呟けない。もちろんヤマオも呟かない。ホウ「そして僕は喋れても呟けない」 奇しくも全員ツイート能力が欠如していた。ヤマオ「……」 ホウ「……」 ノルコ「……」 三人はそろって空を見上げた。空は青かった。


(875)
 ノルコ(この状況……一体どうなるんだろ?) ノルコがそう思うやいなや、ヤマオが自らの両耳をつまんだ。ログオフしようというのだ。そしてノルコをジーと見つめてきた。まるでノルコにもログオフを進めているかのように。ノルコ(……てやんでぇ!) ノルコは半ばヤケクソ気味にログオフした。


(876)
 ノルコのログオフを確認すると、ヤマオは何も言わずトイレに向かって歩いていった。二人ともそれに続いた。ノルコは引き返すなら今しかないと思った。この先トイレに入って、そこで『なにごとも起らない』わけがなかった。ノルコ(……それでも) それでもそこはトイレだった。今のノルコにとって、最も重要な場所だったのである。


(877)
 ヤマオは多用途トイレの扉を開けた。体が不自由な方のために、広々としたつくりになっている。もちろんTL装置を含むすべての監視・記録装置が設置されて『いない』。ホウとノルコが中に入ると、ヤマオはその扉を閉め、そして鍵をかけた。これで完全な密室。情報工学的に言って、どこへも繋がっていない場所が成立した。


(878)
 ヤマオ「やあ、わざわざごめんね。ノルコちゃん。そしてホウさん」 ノルコ(!?!?) 驚天動地の出来事だった。ホウ「……ほほう!」 ヤマオ「ノルコちゃん、声を出して驚いてもいいんだよ?」 ノルコ「なにごとだわ!?」 そして自分が喋れることをヤマオが気づいていることに気づいて、さらに驚いた。ノルコ「ほげげー!」





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