ツイートピア

ナガハシ

ツイートピア394~429



(394)
 ワク「デルァアアアアックス! バール! クラッシャァアアアアアアアー!!」 天をつんざくワクの叫びとともに、ガンバールの右腕に装着された巨大なバールが、目玉のお化けみたいなエイリアンに振り下ろされた。エイリアン「ギヤアアアアアアアアアアーーース!!」 撃破ポイント201。


(395)
 ワク「ハァハァ……アイ・ウィル・ウィン!」 タケシ「やったぜワク! 自己ベスト更新だ!」 ワクは今、友達のタケシ君の家でWEBアプリの「救星機神ガンバール」をプレイしている。タケシ君の家の壁は防音性が高く、思う存分雄たけびをあげることが出来て臨場感バツグンなのだ。


(396)
 タケシ「次のエンカウントは30秒後だ、今度はオレがいく! ワク、ナビは頼んだぜ!」 ワク「オーケイ! リーブ・イット!」 救星機神ガンバールはFPSゲームの一種で、プレイヤーは巨大ロボットガンバールのパイロットになって、迫り来る宇宙人を撃破していくという構成になっている。


(397)
 主兵装は右手の巨大なバールと、左手のレールガン。あわせてガンバールだ。もちろん「頑張る」という言葉とかけてあることは言うまでも無い。ステージによってはロケットスラスター、誘導ミサイル、長距離レーザーなどの副兵装も使える。また、最大3人までナビゲーターをつけることも出来る。


(398)
 ワク「エネミー・イズ・カミング。3・5・7」 タケシ「おっと複数敵か、熱くなるぜ!」 現在、全世界に三千万人のプレイヤーがおり、それぞれ腕を競いあっている。そして万が一、本当にエイリアンが侵略してきた時は、上位のプレイヤーが本物のガンバールの操縦者に選ばれることになっている。


(399)
 ワクはこのアプリのことを最近知ったのだが、実は公表から15年以上が経過している。いまだその人気は色あせない理由は、まさしくガンバールが実際にあるためである。ワクもその仕組みを初めて知ったときは、おでこが真っ赤になるほど興奮した。パイロットに選ばれる可能性は、常にあるのだ。


(400)
 このゲームのユニークなところは、年齢が低ければ低いほど撃破ポイントが高く与えられるところだ。そこには「巨大ロボットの操縦者は少年に限る」という開発者の思想がこめられている。世の中には30歳すぎのプレイヤーもいるが、加齢でポイントを稼げなくなるので、いずれは引退する。


(401)
 というわけで、今を生きる少年ならば、誰でも一度はガンバールのパイロットを目指すご時世なのだ。タケシ「いっちょ撃破!」 ワク「キープ・ユア・ガード! レフト! カミン!」 左9時方向から慣性の法則無視して突っ込んでくる円盤が、ガンバールの足を掠めた。タケシ「くっ!」


(402)
 タケシはスロットルを上げ、敵の追撃を振り切る。ガンバールの脚部に装着されたブースターから灼熱色のジェットが噴出する。ブースターの燃料は最大稼動で3分しか持たない……が。ワク「ファイナルアタック・オールレディ」 タケシ「ロックオン!」 ワク&タケシ「ヒア・ウィ・ゴー!!」


(403)
 メインブースターから太陽の如き閃光があふれ出た。機体の限界を超えてガンバールが飛翔する。反物質燃料の投入による、桁違いの出力が開放されたのだ。タケシ「耐えてくれ! ガンバール!」
機体そのものを超高速の弾丸に変えて、ガンバールは残り2体の敵に突っ込んでいく!


(404)
 体当たりで一体撃破し、進路変更。強烈なGに耐え切れず、バールを装着した方の腕が瓦解した。タケシ「がんばれー!」 ワク「ガンバール!」 レールガンを頂点として、流星のような弧を描いて敵に突っ込むガンバール。衝突と同時にトリガーオン! タケシ「シュゥゥウト!!」 ワク「エキサイティイイン!」


(405)
 ボロボロに傷ついたガンバールは、それでもなお、その巨体を雄々しく空に羽ばたかせていた。その背後で最後の円盤型エイリアンが爆散飛散激散する。タケシ「やったぜ!」 ワク「ウィー・ウィル・ウィン!」 撃破ポイント198。タケシ「ちっくしょー、これでもまだワクに負けてるぜー!」


(406)
 現在の最高撃破ポイントは302で、保有者はルーマニアに住む10歳の少年だ。ガンバールのプレイヤーは世界中におり、ワク達も彼らとタッグを組んで遊ぶ。ワク「グッゲーム!」 タケシ「ぐっげーむ!」 だからワクは頑張って英語を勉強したのだ。独学なので見事な日本英語になってしまったが。


(407)
 タケシ「よし、次だ次!」 二人が次のステージに進もうとしたその時、ワクにアフレルからDMが来た。ワク「アリトル・ウェイティン」 タケシ「ほい?」 ワクはいったんアプリを切ってDMに集中した。こんな時間にお父さんからDM。なんだろう? アフレル《ワクー、今ちょっといいかー?》


(408)
 ワク《ホワッツ?》 アフレル《仕事が決まったぞー》 ワク《コングラッチュレイション!》 アフレル《ありがとー。でも困ったことに単身赴任なんだ》 ワク《タンシンフニン?》 アフレル《ソロ・アサインメント》 ワク《OH!》 英語で言った方が通じるって……とアフレルは思ったり思わなかったり。


(409)
 アフレル《やっぱ、いやか?》 ワク《うーん……ノープロブレム!》 アフレル《そ、そうか》 あっさり問題なしと言われてホッとしたような、でもちょっと寂しいような、そんな複雑な思いがアフレルの脳裏に巡った。ワク《ホワッツ・ワーク?》 アフレル《んとなー、ガンバールの開発なんだ》


(410)
 ワクは興奮のあまり、その後30分くらいの記憶が吹っ飛んだ。タケシ君がいうには、部屋の壁が突き破られるかと思ったとか。防音性の高いお家にも関わらず、近所から「子供が雄たけびを上げていてうるさい」との苦情が入ったとか。とにかくすごい興奮っぷりで、一時的にフォロワーが半減したくらいだ。


(411)
 ――その日の夕方。ヨコはタケシ君のお母さんにお詫びのリプライをしているところだった。ヨコ「うちのワクがご迷惑をおかけしました」 タケシママ「いえいえ、男の子はあれくらい元気な方が良いんですわ、オホホホ。我が家の防音機能がまだまだということですのよ、ウフフフ」


(412)
 ヨコはリプライを切ると、家族のみんなに向かってポツリつぶやいた。ヨコ「タケシ君とこのママは、なんであんなにこだわるのかしら? 防音に」 みんな一様に首を傾げたが、これはという回答を思いついた者はいなかった。それよりもっと大事なことがある。ヨコ「あなた、就職おめでとう」


(413)
 アフレル「あ、ありがとう、ヨコ」 ヨコ「ううん、明日からお仕事頑張ってね。今夜はお祝いにお赤飯を炊いたのよ」 アフレル「うっ」 実はアフレル、赤飯があまり好きではない。特に甘い豆の入っているのが苦手で、彼の中で甘いご飯は、ご飯とすら認識されない程のシロモノなのだ。


(414)
 アフレルは自分で背広のシワを伸ばしながら、正直肩身の狭い思いだった。明らかに妻の機嫌が悪くなっている。それもそうだ、単身赴任なんて大事な事を、相談もなく決めてしまったのだがら。アフレルはDMを送った。アフレル《ねえヨコ、怒ってる?》 ヨコ《ううん全然。なんで?》


(415)
 アフレル《いや、僕一人で大事なこと決めちゃったからさ……。気にしてないならいいんだ》 ヨコ《うん、別にそのことは気にしてないわ。あなた甘い赤飯苦手だったけど、塩豆の赤飯なら大丈夫よね》 アフレル《え? うん、全然OKだよ! 何でも食べるよ! だって、明日からはもう……》


(416)
 ヨコ《秘密基地のごはんってどんなかしらー、あなた何食べたかちゃんと教えてね。参考にしなきゃ》 アフレル《うん。ご飯を食べる時間はみんな合わせよう。食べるものは別になっちゃうけど、やっぱりみんなで食卓囲むって大事だと思うし》 ヨコ《ええ、そうね。ちゃんとしないとね》


(417)
 ――夕食後。ノルコはワクの部屋で、ガンバールについて教えてもらっていた。ワク「ウィ・ビート・エイリアン・ウィズ・ガンバール」 ノルコ(ようわからんのう、巨大ロボットってなにかー?) 話をしたり聞いたりしながら姉弟は、晩御飯の時から両親が口を開いていないことを気にしていた。ワク「hum……」


(418)
 イズミ家のTLは現在、ワクのツイートだけになっている。きっとパパとママはDMで話し合ってるんだと思う。しかし両親ともムッツリしている状況は、子供にとって居心地のよいことではない。ワク《喧嘩?》 珍しく日本語DMのワク。しかしノルコに出来ることは、口をへの字にするくらいなものだった。


(419)
 ルイ「ノルコノルコノルコー!」 突然ルイからノルコにリプライが来た。ルイ「ちょっとちょっと! お父さんがガンバールの研究員になったって本当?! マジ本当?!」 突然まくし立てられて、ノルコはしばらくポカーンとしてしまった。しかし考えて見れば、どのみちつぶやけない。


(420)
 ルイ「ああー、もう! ノルコと話したい話したい話したーい! 最近全然遊んでないじゃないか!」 そんなルイの熱烈ラブコールに、ノルコはほんのりと頬を赤らめる。ノルコ(そうだ! こういう時こそお爺ちゃんのPC!) ノルコはさっそくゲンお爺さんのPCを立ち上げた。


(421)
 ゲン「私もみんなと話したいと、いつも思っているよ」 ルイ「わっ、びっくりしたー。ノルコか。うん、そうだよね。ごめんねなんか無理言っちゃってさ。でも凄いねお父さん。巨大ロボット開発なんて、地球中のちびっ子たちの憧れじゃないか」 ゲン「でもノルには良くわからない」


(422)
 ルイ「わかんない人にはわかんないのかなー、巨大ロボットのロマン! 強くて大きくて黒光りしてるんだぜ!」 ノルコはそういうのより、可憐で小さくて薄桃色なものの方にロマンを感じるタイプ。ゲン「そんなに凄いの?」 ルイ「うん、超すごい! JPN48000のメンバーになるくらい!」


(423)
 それはちょっと微妙な凄さだなとノルコは思う。JPNのメンバーってそこそこオシャレで、あとは踊りと歌をちゃんと覚えれば、案外簡単になれちゃうものだ。なんたって4万8千人もいるのだから。ルイ「なんかさ、最近ノルコの周りで色々起きるね。気付いてるか? 今ひそかなノルコブームなんだぞ?」


(424)
 ゲン「私がブーム?」 ルイ「うん、近頃フォロワー数どんどん増えてるだろ?」 確かに、ルイの言うとおり、近頃ノルコのフォロワー数はうなぎのぼりだ。ヤマオ君がつぶやいた時にドンと増えて、ゲンお爺さんのPCを使うようになってからもジリジリと増え続けている。ゲン「ふーむ」


(425) 
 ゲン「そんなことよりツイート治したい」 ルイ「はは、まあそうだよね。フォロワー数が増えたって自分がつぶやけないんじゃ切ないよね」 ゲン「うん」 呟けないことは確かに切ない。しかしノルコは最近、呟けないことを逆に利用するようになってきた。つまり、体よく無視できるのだ。


(426)
 ゲンお爺さんのPCを使うようになってから、知らない人にフォローされたり、リプライされたりすることが多くなった。その多くはゲンお爺さんのフォロワーさんだ。お爺さんは本当に気に入った人以外はブロックしていたようだけど、亡くなってからもそれを続けることは出来ない。不良フォロワーも増えてきている。


(427)
 亡くなってからもフォロワーが増えるなんて、ゲンお爺さんは凄い人だったんだなとノルコは思う。でもそのフォロワーさんの中には、殆ど嫌がらせに近いリプライをノルコに飛ばしてくる人もいるのだ。そういう人たちをノルコは、呟けないことを理由にして無視している。


(428)
 ルイ「ノル?」 ノルコは少し考えたのち、DM機能を使ってルイに返事を送った。ゲン《このごろ、変なリプライが来るの。知らない人から》 ルイ《え、まじで? 痴漢か?!》 ゲン《ううん、何か政治みたいなこと》 ルイ《政治? 何て言われるんだ?》 ゲン《私がゲンお爺さんの正統な後継者だとか、そんなの》


(429)
 ルイ《うわ、それってゲンお爺さんの熱烈な信者なのかな。迷惑な話だね。ブロックしちゃえば?》 ゲン《そのほがいいかな?》 ルイ《うーん、その人が何て言ってくるのか詳しく知りたいな。明日、学校の後にノルんち寄っていい? 見てみたいよそれ》 ゲン《そうしてくれるとうれしいな》 





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