ツイートピア
ツイートピア93~112
(93)
朝。今日は金曜日で、明日はお休み。ノルコは「もう一日休んだら?」と言われたが、退屈なので学校に行くことにした。ノルコ(つぶやけないからますます退屈なの) 昨日はワクが不審者に追いかけられたということで、ちゃんとみんなを待ってからの登校だ。ノルコ(るんるん♪)
(94)
ミニスカニーソ姿のルイがやってきた。くしくもノルコと同じ服装だ。目が合うと同時に火花が散った。ルイ「ノル! 無事だったんだね!」 恍惚の笑みで駆け寄ってくるルイだが……。ノルコ(みきった!) ルイ「なにぃ!?」 ルイの手はノルコのスカートを狙っていたのだ!
(95)
ノルコは自身の股間に迫り来る手を手刀で切り払うと、そのままルイに抱きついた。そして膝の先でそっとルイのスカートをまくりあげた。ルイ「ひやぅ!」 秘儀『スカートめくり返し』だ。ルイ「私の負けだとっ?」 そしてルイはくず折れた。スカートめくり。最近女の子の間で流行ってるらしい。 
(96)
ルイ「どうやら……心配することは何もないみたいだね」 ノルコはウンウンとうなずいてから、親指をグッ。ルイ「熱は下がったんだ?」 ウンウンうなずいてグッ。ルイ「今日の給食は五目おこわだぞ?」 ウンウン、グッ。ルイ「本当につぶやけないんだね……」 うグッ! 
(97)
いつもの穏やかな通学路だった。近所のおじいさんが道端を掃除している。ププーとクラクションを鳴らしながらゴミ収集車が走っていく。オートカーが等間隔を保って道路を進んでゆき、空ではカラスがカァカァいいながら、コンビニの窓を拭くお兄さんを見張っている。今日も世界は通常運行だ。 
(98)
昨日のバラエティ番組のこと。今日の宿題のこと。いつの昔のだかわからないギャグ。ワク「ゲッツ、ゲッツ」 友達「ゲラゲラw」 下の学年の子の会話もいつも通り。でもノルコのクラスメートは。「私もなんか風邪ぎみかも、あっ」 「あのアイドルは無口なとこが、おっ」 
(99)
ルイ「そんでさー、うちのオヤジの靴下がすっぱくなっちゃってさー」 ノルコはウンウンと相槌をうつ。ルイ「そういやノルコんとこのお父さんって……あ」 ノルコ(?) ルイ「ごめん、答えようがないよね、呟けないんだし」 気にしないでと伝えるために、ノルコは精一杯の笑みを浮かべてみた。 
(100)
3時限目はつぶやき史だ。いつもは寝る気まんまんの子達も、今日はしっかりクオ先生を見ている。ノルコがつぶやけなくなったことが、少なからず影響しているようだ。つぶやきの秘密を知りたいという、好奇心の目が先生に注がれている。クオ(こ、これはやりずらいんだお……!)
(101)
ノルコの顔をチラと見て、その空気を読んだクオ先生は核心となることから説明することにした。つまりバイオツイッターの仕組みについてだ。クオ「昔パソコンと呼ばれていた機械が、今は僕らの体の中に入ってるって話は前回した通りだお。今日はそこのところを詳しくやっていくんだお」
(102)
クオ「人間の体はたくさんの要素で成り立っているお。赤血球とか白血球とかミトコンドリアとか細胞とかのことだお。それと同じようにして、ナノインサーティド・エレクトロ・デバイスというものが入ってるんだお」 先生は、これで誰か寝るかと思ったのだが……。 みんな「ざわざわ」 クオ「だ、だお」
(103)
クオ「略してNED。これは顕微鏡じゃないと見られないくらい小さな電子部品で、僕らの体に大体3~5兆個入ってるといわれてるお。この部品がお互いに連携しあって、僕らの中に一つのコンピューターを作り上げてるんだお」 みんな「どよどよ」 クオ(き、緊張するお……) 
(104)
クオ「NEDも一種の機械だから、衝撃とかでたまに壊れるんだお。たとえば過去に、カミナリに撃たれて全身のNEDがショートしちゃった人がいたんだお。でも『リゲインスト』という薬を飲むことでちゃんと回復したんだお」 そういって先生はニッコリ微笑んだ。 
(105)
だからちゃんとノルコの病気もなおるんだ、ということを理解して安心した何人かが、バタバタと眠りに落ちた。クオ(……なんだかこっちもホッとしたんだお) ノルコ(リゲインストってあの青いドロっとしたやつのことかな?) ノルコは、その味を思い出して鳥肌をたててしまった。 
(106)
クオ「そのリゲインストって薬のほかに、『インスト』っていう薬があるんだお。これはNEDを持たない人がNEDを導入するために飲む薬なんだお。でもきっとみんな、そんな薬は一度も飲んだことがないと思うんだお。何故だと思うお? それには深い歴史的理由があるんだお」 
(107)
クオ「インスト薬は、実は人間が作った薬じゃないんだお。ビックリなことに機械に設計させた薬なんだお。量子コンピューターという凄い計算機を使って、最も便利な通信機器とは何かという問題を計算させた人がいたんだお。そしてそれは、どういうわけかドロっとした液体だったんだお」 
(108)
クオ「その液体が、体の中にコンピューターを作るものだとわかって、みんな困ったんだお。そして何年にもわたる物議を醸した末に、爆発的に普及したんだお。NEDを使うかどうかは個人個人で判断すればいいってことになって、気づけばNED無しではやってけない世の中になっていたんだお」 
(109)
クオ「そして事件は起こったお。NEDはなんと遺伝するものだったんだお。NEDを持つ親から生まれた子供は、みんな体内にNEDを持っていたんだお。気づいても後の祭りだったお。半世紀もしないうちに、人類の99%がNEDを持つようになったんだお」 
(110)
クオ「そしてNED化された人間社会は、政治・経済・文化、あらゆる分野において変化して、そして今の世の中が形づくられていったんだお……」 そこでチャイムが鳴った。教え子はもちろん、全員の眠りの底におちていた。クオ「じゃあ今日はここまでだお。ちゃんと復習するおっ」 
(111)
ノルコ(う、うう……今日も寝てしまったか) そして耳たぶクリックで授業TLを開いた。インスト薬がなんたら、というとこまでは記憶がある。ノルコ(ふむふむ……なるほど) そして驚愕の事実に打ちのめされた。ノルコ(スペクタクルだなあ……現実感がないわあ!) ルイ「ん、ノル?」 
(112)
ルイ「寝ぼけてるのか?」 ノルコはじっと自分の手のひらを見つめ、そして見比べるようにルイの顔を見上げた。ノルコ(私達の中には私達の良く知らないものがいっぱい詰まっているんだ……) そしてルイの手をギュッと握った。ルイ「えっ……?」 ノルコ(人類恐るべし!) 
コメント