ツイートピア

ナガハシ

ツイートピア113~130



(113)
 今日の給食は五目おこわ。ちょっと珍しい。ノルコ(もぐもぐもぐもぐ) ノルコは赤飯とかおこわとか、ずっと噛んでたらお餅になるかなって思っちゃうタイプ。ノルコ(もぐもぐもぐもぐ) でもみんなは、ノルコが呟けないから、その代わりにやたらモグモグしてるんだと思ってしまったた。


(114)
 ノルコのクラスでは5~6人で席を作り給食をとる。ノルコの島はカズノリ、レイタ、ルイ、リン、ヤマオの6人。委員長キャラのカズノリに絡みまくるレイタに女子らが冷えた突っ込みを入れるのが定番。そして少し不思議な少年のヤマオなのだが……いや少しどころじゃない。


(115)
 ヤマオはなんと生まれてから6回しか呟いたことがないのだ。これは世界的なレアケースだ。その内容は「おぎゃあ」「うにゅる」「とでもいうかと」「右の上」「暑いと?」「それがいいと」 特に4つ目の「右の上」は、学術的研究にも取り上げられたりするほどだ。何かと注目されている少年なのだ。


(116)
 そんなヤマオが今、五目おこわをもぐもぐし続けるノルコをジッと見つめてるではないか! 7度目の呟きな予感が、教室中、いや世界中に吹き抜けた。ノルコ(もぐもぐもぐ) ヤマオ(ジー) ノルコ(もぐもぐもぐもぐ) ヤマオ(ジー) ノルコ(もぐもぐもぐ) しかし何もおこらなかった。


(117)
 レイタ「グァッテム!!」 痺れを切らしたレイタがヤマオを羽交い絞めにした。そしてふくよかなアゴの肉をタプタプ。拝みたくなるほど豊かな福耳をビーン。カズノリ「や、やめなよレイタ君……せ、世界を敵にまわすよっ」 レイタ「てめー! 今日という今日は絶対つぶやかす!」


(118)
 ヤマオに加えてノルコまで呟かないので、ノルコ達の島はやけに静かだ。人一倍つぶやくレイタも今日は空回ることが多く、ついに黙ってしまった。ルイ「リン、髪伸びてきたね」 リン「うん、肩にかかってきちゃったの」 ぽつぽつと呟く二人だが……。レイタ「つまんねーの」


(119)
 ルイ「レイタ! あんたね!」 ルイがバーンと立ち上がった。ルイ「誰のせいでノルが呟けなくなったと思ってるんだ! まだあんた謝ってもないでしょ?!」 ノルコがあわててルイの袖を引くが。レイタ「しらねーよ! こいつが勝手に俺の真似してコケたんだろ!?」


(120)
 ルイ「真似じゃない、うつったんだ! 周りのやつに引っ張られてそうなっちゃうことあるって、ウィキにも書いてあるんだからな!」 この年頃の男子が口げんかで女子に勝つのは難しい。レイタ「……んだよ、呟けないからってなんだよ!」 そう言って走って出て行ってしまった。


(121)
 ルイ「食器片付けやがれバーカ!」 ノルコはどちらかと言えば困っていた。ルイの肩を抑えつつ首をぶんぶん振る。そして気づけばクラスのみんなに対し頭を下げていた。ルイ「なんで謝ってんのさ! もう……」 その気持ちをどう説明すればよいかわからないノルコ。出来たとしても呟けないのだ。


(122)
 ひとまずノルコは座った。ルイ「ごめん、ついカッとなって」 ルイは悪くない。そしてみんなが言うほどレイタも悪くない。跳び箱の件では、実はノルコにも非があった。レイタを見返したい気持ちが少しはあったのだ。ノルコ(ううぅ) すっかり冷えこんでしまった教室の空気、どうしよう。


(123)
 ヤマオ「おこわうまい」 ノルコ(!?) ルイ「え! なに?!」 クラス中「シャベッタアアアアアア!!」 全世界「ギャアアアアアアアアアア!! シャベッタアアアアアアアアアア!」 ヤマオが……しゃべった! こんな時に! 七番目の呟きはなんと、「おこわうまい」だった!


(124)
 ヤマオの機転(?)によって給食時間のピンチを乗り切ったノルコは、午後の授業をつつがなく済ませて家路へとついた。あの後クラスの話題は、ヤマオの7度目のツイートで持ちきりで、海外の研究者からも詳しい状況を知りたいという問い合わせが殺到するほどだった。 


(125)
 たぶん今も教室で、ヤマオのツイートに関するリプライが飛び交っている。ノルコもそれに加わりたかったのだが、なにぶん呟けない身だ。ノルコ(つぶやけないって、つまんない!) そうノルコがため息をついたその時。 謎の男「フフフ……ビバーチェ」 ノルコはゾっとした。 


(126)
 目の下に濃いクマのある怪しげな青年がそこに立っていた。ウネウネした黒髪で顔が半分隠れている。そして襟の高い黒のコートで全身を包んでいる。ノルコ(この人、昨日ワクを追いかけた人だ!) 特徴が一致していたのですぐにわかった。 謎の男「ふふふ、そんなに警戒しないでおくれよ」 


(127)
 謎の男「ああ、君はまるで声を失った小鳥のようだね」 ノルコ(知ってるの?!) 謎の男「僕は何でも知っている。そう僕は知りすぎた男なのさビバーチェ!」 男はまるでノルコの心を読んだようにそう呟き……いや。 ノルコ(この人、つぶやいてない!) なんと彼の言葉はTLに映らない! 


(128)
 バイオツイッターが普及した現在、人は言葉を口にすればそれがそのままツイートになる。逆にツイート能力を失えば言葉を口に出来なくなる。今のノルコがその状態だ。しかしこの青年はツイートすることなく言葉を口にしている。それはつまり。ノルコ(生まれつきツイッターを持っていない人?!) 


(129)
 謎の青年「ふふ、それはちょっと違う」 青年は指をチッチとやり、おもむろに髪をかき上げた。ノルコ(!?) なんと青年には耳が無かった。あれでは耳たぶクリックが出来ない。 謎の青年「僕はね、昔とある事情でツイートを失ったんだ」 事情はわかったが……しかし。ノルコ(私に何の用?) 


(130)
 謎の青年「何の用事があるのかと君は思っているね?」 ノルコ(だから何?) 通報してしまおうと、ノルコが耳タブに手をあてると。謎の青年「君は僕を通報しない。その代わり僕についてくる」 ノルコ(なにゆえ?) 謎の青年「僕が君の病気の治し方を知っているからさ!」





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