ツイートピア

ナガハシ

ツイートピア75~92



(75) 
 チュンチュンというスズメの鳴き声とともにノルコは目を覚ました。「おはようー」と呟こうとするが、やはり出来ない。今日は大事をとって学校を休むことになっている。ノルコ(何して過ごそうかな?) そんなことを考えながらノルコは一階へと降りて行った。 


(76)
 食卓では父のアフレルがコーヒーを飲みながらWEB新聞を読んでいた。アフレル「おっ?」 しかしアフレルはそれ以上なにも言わない、呟けなくなった娘に対し、どう向き合えばいいのか計りかねているようだ。ノルコはそのままキッチンへ向かう。ヨコがパンを切っているところだった。 


(77)
 ヨコ「あら、早いのね。もっと寝ていていいのよ?」 そう言ってヨコはノルコの耳たぶをつまむ。「36.8度。まだちょっと熱があるわね、休んでいた方がいいわ」 しかしノルコは首を振って否定した。必要以上に心配されるのはもう嫌だなと思ったから。 


(78)
 ノルコは卵とフライパンを用意して、自分好みの完璧な半熟加減のスクランブルエッグを4人分作り、食卓に持っていった。朝寝坊のワクが目をこすりながら降りてきた。ワク「は、はうどゅーゆーどぅー?」 心配そうに他人行儀な挨拶をしてきたワクに向かって、ノルコは親指をグッ! と立ててみせた。 


(79)
 ノルコはトーストに卵を乗せて食べたら負けと思っている。アフレルはとても急いでいるようで、ワクと同時に食卓を立った。アフレル「今日は仕事の最終報告があるんだ」 呟けないノルコはケチャップでトーストに字を書いてみた。【いてら】 アフレル「ふほっ」 ワク「イエァ!」 


(80)
 ワクは家を出るとすぐ学校に向けてダッシュした。ワク(トゥデイ、姉ちゃん、イナッシン、アンビリーバボー) そんなミステリアスなフリーダムを感じながら走っていると、後ろから黒い影が迫ってき た。謎の男「ヒーハハー、ユーアーご機嫌ボーイ?!! ビバーチェ!」 


(81)
 ワク「ホワッツ!?」 ワクは思わず走りながら身構えた。ワク「フーアーユー!?」 謎の男「ふふふ、僕かい? 僕はね、見ての通りのストレンジャーさ!」 そういって男は腰をクネクネさせながら、さらにワクに迫ってきた。ワク「ヴェイィ?! ゴーアウェイ!」


(82)
 ワクはもう二度と一人では通学しまいと思った。こんなに怖い思いをしたのは初めてだ。あれから200mばかり男は追いかけてきて、ワクに聞いてきた。男「お姉ちゃんは呟けなくなったんだな? だな?」 ワク「ホワイユーノウ!?」 男「HaHaHa! 僕は世界の全てを知っているのさ!」 


(83)
 ワクは速攻で職員室に駆け込み、そして先生に報告した。先生は青筋たてて驚いて、ただちに呟音市ツイッターポリスに連絡した。不審者はシステムによって3秒以内に発見されるだろう。これで一安心だ。……しかし、その男は何故か捕まらない。そのことを後にワクは知ることになる。 


(84)
 その頃、職場にいたアフレルは、学校から連絡を受けてビックリしたものの、無事を知ってホッとしていた。ひとまず仕事をやっつけねば。研究テーマである【食べられる粘着剤】の最終報告をまとめてデータベースに登録する。アフレル「ふう、これでまた一つ、この世の中の富が増えたぞ……」 


(85)
 お昼休み、アフレルが妻の特製弁当を頬張っていると、上司に呼び出された。アフレル「なんでしょう?」 上司「はいお疲れさん、これ辞令ね」 アフレルは自分のデスクに戻り、その辞令の中身を読んだ。そこにはこう書かれていた。【価値ある研究をしてくれてありがとう、お疲れ様でした】 


(86)
 アフレルは昼から1時間ばかりかけて荷物を整理した。そして休憩所の窓から海を眺めつつ、しばしボーとしていた。同僚が声をかけてきた。同僚「よう、やったじゃないか! 次はどこにいくんだ?」 アフレル「うーん、そうだな……何しようかなあ」 同僚「おいおい、しっかりしろよ、せっかくのチャンスだぜ?」 


(87)
 アフレルは研究テーマを消化したのでリストラされた。仕事が無ければ働かなくてもよい、ごく当たり前のことだ。アフレルは3時前に早々と帰宅した。アフレル「なんだか不思議な感じだなぁ」 そんなことを呟きつつ、アフレルはしばしぼんやりする。アフレル「……自由か」 


(88)
 アフレルは仕事を達成したことへの感慨をひとしきり逡巡したのち、気を取り直して新たな職を探すことにした。耳たぶクリックでTLを表示し、就業に関するページを次々と開いていく。求人側と求職側が相互にフォローを投げ掛け合い、ベストなマッチングを模索していくのだ。 


(89)
 しばらくしてヨコが買い物から帰ってきた。今夜はハンバーグのようだ。キッチンに向かう途中でヨコは、職探しに没頭して口が半開きになっているアフレルを発見した。ヨコ「まあ、あなた!」 ヨコは驚きのあまり、買い物袋を落としてしまった。 ヨコ「リストラされたのね!」 


(90)
 ノルコ(宇宙の果てみたいな退屈さだよ……) 寝るのに疲れ果てたノルコが一階に降りてみると、そこには口を半開きにした父アフレルがいた。おまけに目の焦点もあっていなかった。ノルコ (な、なにごと?) そしてキッチンの方からは……。ヨコ「シクシク……シクシク……」 


ツイートピア(91)
 ノルコがキッチンに入ると、そこには濡れタオルで顔をおおって泣いている母のヨコがいた。心配になったノルコは、ヨコのエプロンをギュッと握ってしまった。テーブルの上には合挽き肉、まな板の上に玉ねぎのみじん切り……これか。ヨコ「ノルコ、お父さんがね……リストラされたのよ!」 


(92)
 それからノルコは母とハンバーグのタネを作った。あとは夜になったら焼くだけだ。そうして部屋に戻ろうとした時ワクが帰ってきた。そしてやはり口が半開きの父を、怪訝な目つきでしばらく眺めていた。なんだか大変そうなお父さん。呟けないノルコは心の中でこう呟く。(がんばれお父さん)と。 





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