ツイートピア

ナガハシ

ツイートピア1~18

(1)
 ピピピピ、ピピピピ――目覚まし時計を止め、少女はベッドから起き上がる。彼女の名前はイズミ・ノルコ、小学五年生だ。寝癖がピンピンはねた頭をポリポリしつつ、つぶやいた。ノルコ「おはよー」 早速、友達や家族から返事が来る。いつしか世界はツイートで結ばれるようになったのだ。


(2)
 鼻歌をつぶやきながら服を着ると、ノルコはランドセルを持って一階に駆け下りた。朝ごはんの仕度が出来ていた。ノリコ「めだまやきだ!」 母「今日はお米を買ってこないと」 父「また円高かー」 弟「ウェエーイ」 みんな好き勝手につぶやいている。朝からとてもにぎやかだ。


(3)
 ノルコは目玉焼きの黄身とご飯を混ぜて、醤油をちょっとかけて、プチ卵かけご飯にして食べるのが好き。イズミ家は父と母とノルコと弟の四人家族で、弟の名前はイズミ・セルゲイビッチ・ロマーノフ(自称)なんだけど、長いから弟でいいよね。 弟「ウィィイ?」


(4)
 朝食を食べたノルコと弟のワク(本名)は、集団登校のために玄関の前でみんなを待った。ノルコ「あうう、寝癖が」 何度もクシを入れてみるが、てっぺんの毛が手ごわいのだった。そのうち皆がやってきた。「アホ毛」「アホ毛だ」「アホアホ!」「アホ毛~」 ノルコ「うるへぇ」


(5)
 ノルコ達、呟音つぶやね小学校の一団は、朝日が照らす小奇麗な街角を歩いていく。集団登校するのは治安が悪いからではなく、その方が楽しいからだ。「あっ、ノルコのニーソ、新しくなってる!」「うわっ、犬のウンコー!」 「通報してやる!」 通学路をにぎやかなリプライが飛びかう。


(6)
 校門付近に変な人が立っていたので、一行はリプライをいったん止めた。男「ビヴァーチェ! ついにここににたどり着いた! 素晴らしい!」 男は一人ツイートを繰り返しながら歩き去っていった。少し不思議な人であるらしい。ノルコは「一人ツイートって楽しいのかな?」と思った。


(7)
 教室に入ると自動的に全クラスメートと相互フォローになる。レイタ「ちっ、今日の授業つまんねーの! 体育も音楽もねーじゃん! 楽しみ給食しかねーじゃん!」 サトウ・レイタ君がいつも通り呟きまくっている。彼は金髪ツンツン頭の自称イケメンだ。ノルコは正直ウザイなといつも思う。


(8)
 ノルコ「算数だっておもしろいよ?」 レイタ「へっ!」 彼はそう言って机の上に飛び乗ると、くるくる回ってからビシッとノルコを指差しつぶやいた。レイタ「算数が好きな女って変だな!」 女子「そんなことない!」×15リツイート。少年は朝から全女子を敵にまわしてしまったようだ。


(9)
 レイタ「割り切ってやるぜ! 7÷3でも9÷2でも、俺なら割り切ってみせるぜ!」 クラスのみんながため息をついたその時、予鈴がなって先生がやってきた。先生「そうか、じゃあまずキミから割り切ってあげようね」 先生はそう言ってレイタの両耳をつまむと、思いっきり引っ張った。レイタ「ア”ッー!」


(10)
 レイタ「体罰反対」 午前の授業中、彼はずっとそう呟いていた。おかげで午前中のタイムラインは「体罰反対」と「レイタうるさい」で8割がた埋め尽くされてしまった。給食の時間、彼は先生と目が合うや否や。レイタ「たいばt……」 とうとうクラス全員にリムーブされてしまった。


(11)
 お昼休みのあとの授業はお昼寝の時間と決まっている。しかも科目は【つぶやき史】で、先生は癒しのウィスパーボイスの持ち主、ツブヤ・クオ先生だ。クオ「じゃあ今日は教科書11ページから始めるんだお」 もう既に3人寝た。先生はなぜかメロンを持ってきていた。


(12)
 クオ先生はメロンを片手に持ちながらつぶやき始めた。クオ「今から一世紀くらい昔に、世界中でインターネットというものが流行ったんだお。ちょうどこのメロンの表面の模様みたいに、地球上に通信ケーブルが張り巡らされてたんだお」 そしてまた6人ほど寝た。


(13)
 クオ「このメロンはあとで先生が美味しくいただくんだお」 そういってクオ先生は教え子達の反応を待つ。どうやらウケを狙ったらしい。「Zzz……」×3RT クオ先生はにっこり微笑むとメロンを教壇に置いた。それだけのために持ってきたらしい。クオ「じゃあ、続きを話すんだおっ」


(14)
 クオ「インターネットが普及してしばらくたったある日、頭のいい人たちがツイッターっていうソフトを開発したんだお。それをみんな、パソコンという原始的な情報端末で楽しんだんだお。それなりに面白くて便利なものだったんだお」 みな次々と眠りに落ちていくが、授業内容はTLに残るので特に問題ない、たぶん。


(15)
 クオ「パソコンはやがてモバイルに、モバイルはブレイン・インプラントに、ブレイン・インプラントはナノ・インサートにどんどん進化していったんだお」 自称【けなげな美少女】のノルコも、横文字がいっぱい並んだために我慢できず、気絶するようにして寝てしまった。


(16)
 クオ「パソコンと呼ばれていた装置は、今はみんなの体に組み込まれてるんだお。耳たぶをクリックするとTL画面が出るのはそういう仕組みなんだお。何か質問あるお?」 しかし起きているものは誰もいなかった。それを見て先生はニッコリ微笑んだ。クオ「よしっ、じゃ今日はこれで終わりだお!」


(17)
 チャイムとともにノルコは目を覚ました。ノルコ「あうう、今日も耐えられなかったか……」 そして自分の耳たぶクリックし、クオ先生の授業TLを、映像モードで呼び出した。ノルコ「うわあ」 先生はくねくねと身振り手振りを駆使し、わかりやすい説明に心を砕いていたのだ。ノルコ「いい先生だぁ」 


(18)
 ノルコはクオ先生のTLを閉じ、前の席のレイタを見た。レイタ「Zzz……うおおっ、ひつまぶしぃ」 どうやらいい夢を見ているようだ。腹立たしい。ノルコはレイタの椅子をボコンと蹴っ飛ばした。レイタ「敵襲?!……Zzz」 ノルコは次の授業の準備をはじめた。 





コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品