ガチ百合ハーレム戦記

ナガハシ

リーン、追い回される

「というわけで、ゲンリ。魔界に行くぞっ」
「ほお?」


 謁見の間。
 新しい絨毯が敷かれた部屋の玉座の上で、リーンはあぐらをかいていた。
 灰色の魔術師は首を傾げている。


「どういうことです? リーン」
「だって、最初はそういう話だったろ? 仲間を集めて魔王を倒しに行く。そのためにゲンリは俺をスカウトしてきたんだ」
「そういえばそうでしたねぇ、ホホホ」
「ホホホじゃねえぜー。やっぱりここは、最初の目的を果たしに行くところだろう?」
「確かにそうかもしれませんねぇ。しかし国王としての仕事はどうするのです?」
「こいつで何とかするさっ」


 と言ってリーンは、胸につけた赤百合のバッチを指で弾いた。


「離れていても声は届くんだぜ」
「まあ、城に残った者達がしっかりやっていれば、一月くらいはどうってことないですかね」
「んだぜ」
「では早速、魔界に向かうメンバーを決めましょうか」
「おうよ!」


 そしてリーンはゲンリと二人、魔界調査団の候補目録を開く。


――ダッダカダガダッダン!


 どこからともなく、太鼓の音が響いてきた。


 
 * * *


 
 灰色魔術師 ゲンリ
 Lv60 光属性
 電撃魔法のエキスパートであり、飛翔魔法も使いこなす。
 何かと物知りな彼は、長きに渡ってリーンの相談役として活躍する。


 
 宿屋の娘 ヨアシュ
 Lv6 人属性
 人の本質を見抜く、類稀な目を持つ少女。
 ハーレムのムードメーカーとして、大いにリーンを助ける。


 
 リバ族の守人 ラン
 Lv13 風属性 
 ハーレムのお目付け役として風紀維持に奮闘する。
 頻繁にリーンの寵愛を受けていたため、リバ族としては異例なほど長生きした。


 
 魔法忍者 メイリー
 Lv30 水属性
 国王の影の護衛役として活躍する。
 夜伽に呼ばれた回数が誰よりも多かったとか。


 
 騎士団長 バルザー
 Lv45 土属性 
 その後、騎士団長の地位につく。
 若手の育成に熱心だったが、色恋ごとには消極的だった。


 
 エルグァ族の女王 ジュア
 Lv79 風属性
 エルグァ族の回帰運動に尽力する。
 リーンの求愛は最後まで断り続けた。


 
 金色医法師 エルレン
 Lv29 金属性
 医術研究者として数多くの功績を残した後、リーンが紹介した貴族の娘と結婚する。
 子を儲けて医法師としての力を失うが、医法院の院長として活躍する。
 リーンに対する未練は、やはりあったらしい。


 
 氷の宰相 エイダ
 Lv95 水属性
 大陸最強の魔術師として、またリーンの頭脳として、その辣腕を振るい続ける。
 氷の宰相という通り名はあまり気に入っていない。


 
 魔界貴族 ルーザ
 Lv77 魔属性
 知性をもつ魔物の長として、魔界と人間界の境界管理にあたる。
 ひどい浮気性で、夫のマジスと何度も喧嘩したが、そのたびに仲良くなっていった。


 
 材木屋の娘 カテリーナ
 Lv5 人属性
 しばらく城の経済部門で働き、業務の民営化に務めたが、程なくして辞任する。
 その後はエヴァーハル市内に木工店を開き、石の建物ばかりの市中に数多くの木造建築を残した。


 
 牧場の娘 エリィ
 Lv2 光属性
 牧場のアイドルとしてすくすくと成長する。
 エヴァー湖の水が湧かなくなったら、いつでも飛び込んでやるんだと意気込んでいる。


 
 王妃 アルメダ
 Lv68 金属性
 全大陸魔法通信装置「アルメダ」のシンボルとして、長きにわたって人々の心の拠り所になる。
 リーンが魔界遠征で不在の時は、その代理を務めた。


 
 魔術師団長 マジス
 Lv80 金属性
 ルーザとの結婚後、早々に魔力を失い、魔術師団長を辞去する。
 その後は、人間と魔物の混血児の保護に尽力する。


 
 医法師団長 ギリアム
 Lv76 人属性 
 まもなく医法師団長を辞去する。
 その後はシャルロッテとともに、エヴァーハル市内で暮した。


 
 近衛兵長 シャルロッテ
 Lv78 土属性
 ギリアムと同じく、早々と近衛兵長を辞去する。
 天の道を昇るリーンを見て、一番ショックを受けたのが彼女だったという。


 
 白色魔術師 ゴーン
 Lv69 光属性
 リーンの寛大な配慮により極刑を免れる。
 前世の記憶を活用して、ルーザとともに魔界と人間界の境界管理にあたる。


 
 元国王 ジニアス
 Lv121(全盛期) 人属性
 その後も城内をうろつき回ってはあれこれと小言を言い、リーン達を困らせてきた。
 時おり、的を得た発言をすることもあった。


 
 赤百合王 リーン
 Lv65 炎属性
 その後、二十数年に渡って王位に君臨し、アルデシアを新たな時代へと導いた。
 五度に渡る魔界遠征の末、魔王の元へと辿り着く。
 そして、さらなる世界の真実を知ることになるが、それはまた別のお話。


 
 * * *


 
「うーん、迷っちまうぜ、どうしようかな」
「魔界にいけるのは4人までですよリーン」
「そうなんだよなー。一人はもう決まってるんだけど」
「ええ、リーン」
「元宰相のゴーンだぜ」
「えっ?」


 その言葉に、ゲンリはキョトンとする。


「わ、私は?」
「ん? ああ、ゲンリはだって病み上がりだろう?」
「はぁ……まぁ……そうですけど……」


 ゲンリはさらにションボリとした。


「まあ、そう落ち込むなって。最初の遠征は入り口あたりをちょこっと見てくるだけだ。そのあとの本格的な調査には絶対加わってもらうからな。ばっちり体調整えてくれよ!」


 結局リーンは、元宰相のゴーンを処刑しなかった。
 前世の記憶を持っている彼は、魔界を調査する上で役に立つ。
 そう判断したためだった。
 それにリーンは、この世界に対する憎しみを残したまま、あの男をあちらの世界に送ってはいけないと考えていた。


――お前に下す刑は、“生きてその性根を叩きなおしてから死ね”の刑だぜ!


 リーンは、そう彼に宣告した。
 それはつまり、生きろということだった。
 天界への回帰を望むゴーンにとっては、一度死んでやり直した方が、何かと都合が良かったのだ。
 なのでそのリーンの宣告は、ゴーンにとって死刑よりも厳しい刑罰となった。


 無論リーンは、魂が永遠に巡り続けるこの世界の仕組みのことは、忘却してしまっていた。
 だが天より響く心の声と、自らの魂の意志に従って、その刑罰を下したのだった。


 その宣告を聞いたゴーンは、酷く落ち込んでしまった。
 体もすっかり縮こまってしまい、10歳以上も老け込んでしまったかのようだった。


「ふんふんふん……、俺と、ゴーンのはげちゃびんと、あと二人かー、どうっすかなー」


 絶対にあの男の魂を叩きなおしてやる。
 そう意気込みつつ、パラパラと名簿をめくるリーン。
 すると、見たことのない名前が載っていた。


 
 勇者志願者 アグレ
 Lv46 炎属性


 
「ん? 誰だこれ?」
「はて、初めて聞く名前ですな」


 実は、王宮による勇者の募集はまだ続いていた。
 特に中止する理由もなかったので、ずっとそのままになっていたのだ。
 魔王を倒した際の報奨であるアルメダ姫は、すでにリーンのものとなっている。
 故に、勇者志願をしてくる者など、今は誰も居なかったのだが……。


「変わった奴だなー。ちょっと会ってみるか」
「そうですね、係りの者を呼んで来ましょう……」


 そして数刻後。
 リーンが玉座の上でグダグダしていると、謁見の間の扉が開かれた。


「国王さま。勇者志願者のアグレを連れてまいりました!」
「うんむ、通してくれ」


 兵士達に付き添われて、一人の男がやってくる。
 その姿は……。


「ほげげぇっ!?」


 リーンは思わず目を剥いた。


 岩山のような身体を、寄せ集めの鎧で包んだ髭もじゃの男。
 彼は、その真っ赤な瞳にリーンの姿を捉えると、一瞬にしてその体を硬直させた。


「どういうことだ……」


 そして、肩を震わせ始めた。
 その表情は、疑惑と嫌悪を混ぜ合わせたように歪んでいた。


 なんと、その男は。


「オヤジぃ!?」


 リーンの父親である、あの森の木こり男だったのだ。


「なんとまあ!」


 リーンとゲンリは、驚きのあまりその場で飛び跳ねてしまった。


「どういうことなのだ……これは……」


 男は静かに口を開く。
 太い眉毛がぴくぴくと引きつり、こめかみには血管が浮かんでいる。
 そしてその背には、闇の色をした威容なオーラが滾り始めている。
 彼はまさに、激怒していた。


「魔界に連れ去られたのでは……なかったのかぁぁぁあああ!」


 リーンの父は、背中に括りつけた巨大な斧を手に取ると、兵士達の静止を振り切って前に進んできた。
 リーンとゲンリは、なす術もなく慌てふためく。


「もしかしてお父様は、まだリーンが王様になったことを知らないのでは!?」
「んな馬鹿な!」


 もはや、リーンが国王の座についたことは、大陸中の人間の知るところだった。
 だがリーンは、すぐにその考えを改めた。


 自分の父親は“普通”ではないのだ、と。


 ともすれば、グリムリールからエヴァーハルに来るまでの間、まったく他人と口を聞かなかったのかもしれない。
 あのオヤジなら、十分にありうることだ。


「あわわわ……」
「ふんぬううううぅぅぅぅ! どこまでも人を舐め腐りおってえええええ!」


 二人があたふたしているうちにも、オヤジはどんどん近づいてくる。
 ドシドシと石の床を鳴らして、ついに斧を構えて飛び込んできた。


「この魔物どもがあああああー!」
「ほげええっ!? ゲンリ! とりあえず逃げるぞ!」
「はい! いわれなくとも!」


 そしてリーンとゲンリは、ただひたすら城の中を逃げ回った。


 木こり男はどこまでも追いかけてきた。


 
 * * *


 
 宿屋満月亭。
 とある旅の男の一室。


「ルンルンルン……♪」


 新たに雇い入れられた宿番の娘が、ある旅人の男の部屋を掃除している。
 その男は、グリムリールから歩いてきたそうだ。
 遠くから来たわりには荷物が少ない。
 だがその代わりに、大きな日記帳が机の上に置いてあった。


「あら……開きっぱなしだわ……」


 どうやら男は、よほど慌てて出掛けたらしい。
 開きっぱなしになっているその日記帳を、宿番の娘は元に戻す。
 戻そうとする。


「ドキドキ……ちょっとくらい大丈夫よね……!」


 だが、どうにも気になってしまったらしい。
 宿番の娘は、日記の内容を少しだけ読んでしまった。
 いけないこととは思いつつ。


「ふほぇ?……なにこれ?」


 だが娘には、その日記に書いてあることが良くわからなかった。
 そもそも日記は人に読ませるものではない。
 書いた本人にだけわかればそれで良いのだ。
 無理もないことだった。


 娘はがっかりしつつ、日記を元に戻した。
 そして、ベッドのシーツ交換を始めた。


「ルンルンルン……♪」


 窓辺から柔らな陽の光が差し込んでくる。
 日記の留め金が、その光をうけてキラキラと輝いている。
 部屋の中に響く軽快なハミング。
 宿の娘は今日もご機嫌だった。


 その日記の新しいページには、こんなことが書かれていた。


 


 
――飛鳥の月 第一週の8 光の日――


 
 王都エヴァーハルに到着してから三日が経った。
 勇者志願の申し込みをしてみたが、いまだ城から返事はない。
 いったい何時まで待たせるつもりか。
 まったく、これだからお役所は!


 それに引き換え、この宿屋はとても親切だ。
 石だらけのこの街でも、ちゃんと木の家具を使っている。
 ベッドは清潔だし、メシも美味い。
 なにより、私の姿を見ても怖がらない。


 酷い宿だと、私の身なりを見ただけ追い出す有様だ。
 まったく、これだから人間はおおむね好きになれん!


 私の腹の出来物は、どうやら本当に勇者になったらしい。
 そして魔王を倒しに行こうとして、ドラゴンに連れ去られてしまったらしい。
 どうして男である私の腹に、あんな出来物が出来たのかは、皆目見当もつかないことだ。
 しかしともあれ、あの出来物は私の子供なのだ。


 私の腹の出来物の子供が、ドラゴンに咥えられて魔界に連れ去られてしまった。
 人々は勇者が死んだと思っている。
 理由は剣の鞘が残されていたからだという。
 わけがわからん!


 そんな理屈で勝手に人の出来物を殺すな!


 私は私の手で、あの腹の出来物を取り返しに行くのだ。
 だが忌々しいことに、魔界に行くには国王の許可がいるらしい。
 それで私は、わざわざエヴァーハルの田舎くんだりまでやってきたわけだ。


 阿呆か!
 一体何日かかったと思っている!
 これだからお役所は!


 風の噂に聞いたのだが、新しい王というのは、どうやら年端も行かない娘らしい。
 何故そんなことになっているのかさっぱりわからないが、失踪した勇者の一人も見つけられないのだから、きっと無能な王にきまっている。
 他人はまったく当てにならない。
 私が信じられるものは、私自身の力こぶだけなのだ。


 私は何年かかってでも探し出してみせる。
 私の……あの……腹の出来物を。


 あのかけがえのない、私の腹の出来物を!


 
(空白、何かをあわてて消した跡、それに続いて)


 
 おっと。
 どうやら、城の使いが来たらしい
 今、宿の娘が伝えにきた。
 国王が私に会いたがっているそうだ。
 どんな人物かは知らないが、一度その青いケツを引っぱたいてやらねばなるまいな……。


 急いで仕度をしなければ!


 


 


 終





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