ガチ百合ハーレム戦記
平常、宿の女達
「私って便利な女ね、リーン」
宿屋の事務室の奥で、リーンはメイリーに女中服の着かたを教えてもらっていた。
今日からリーンは、怪我をしたランの代わりに働くことになる。
「本当にな。俺はメイリーを、本当に便利に使っちまってる。それはわかっているんだ」
「うふふ、私は街一番の便利屋メイリーよ。人に使われてなんぼの商売なんだから」
リーンが国王を倒すと決めたその時から、メイリーは誰よりも精力的に活動していた。
リーンとゲンリの間の連絡役となり、また、頻繁に地下運河に潜って、城の構造を調べたりした。
そしてもちろん、宿の仕事。
さらには、ヨアシュの心のケアまでをも引き受けていた。
「私はこんなにリーンに尽くしているのに、リーンは全て終わったらお姫様と結婚して、すぐに私のことなんか忘れてしまうのね」
リーンが脱いだ衣服を受け取りながら、メイリーはそんなことをぼやく。
「……そんなことはないんだぜ、メイリー」
「いいのよリーン、気を使わなくても。私はそういう女だもの。気がついたら便利に使われていて、その後は綺麗さっぱり忘れ去られる。昔からそうだったの」
「お、おいおい」
「大丈夫よ、別に恨んだりしないから。むしろこれが快感だったりするの、私」
と言ってメイリーは、裸になったリーンの背中に爪を立てる。
「うひっ!?」
「だからリーンも、好きなだけ私をもてあそんで、そして味が無くなった牛革みたいに捨てていいのよ?」
「あわわわ……」
背後から凄まじい怨念を感じて、リーンは冷や汗を浮かべた。
「なんてね、冗談よっ」
「ほっ……」
女中服を着ながら、リーンは思い出していた。
メイリーの属性である『水』についてだった。
水は、どこにでも当たり前のようにある。
だがそれは、全ての生物が生きて行く上で、欠かせないものでもある。
とても重要な役割を担っているにも関わらず、意外とその価値が省みられることは少ない。
それが、水属性を持つ者の特長でもあった。
「メイリーは俺にとってかけがえのない女なんだ、お前がいたからここまでやってこれた」
「そう言ってもらえると嬉しいわ、リーン」
「だから、これからもずっと俺の側にいて、俺の周りを巡り続けていて欲しいんだ」
「私は水で、あなたは火、ということね。水は火の側にあることで、より激しく循環することができる」
「そして俺は、熱くなりすぎないで済む」
そして二人は見詰め合った。
「私とあなたは」
「二つで一つさ」
* * *
翌日。
作戦決行まであと三日。
リーンはヨアシュと二人で客室の掃除をしていた。
「お姉さま、シーツの反対側をもってもらえますか?」
「おうよっ」
二人でベッドのシーツを取り替える。
しわ一つなくピンとはる。
宿屋の仕事では、ヨアシュの方が先輩だから、リーンは逐一少女の指示を受けながら働いていた。
客が出て行った部屋を全て掃除し、使用済みのシーツ類を籠に入れて、運河の側の洗濯場に持っていく。
そこに洗濯専門の業者がいるのだ。
「おねがいしますっ」
人の良さそうなふくよかな中年男に、洗濯物を渡しながらヨアシュは言った。
「あいよお、ヨアシュちゃん。そちらは新人さんかい?」
「はいっ、臨時でお願いしているシンシアさんです。ランちゃんが怪我をしてしまって」
「シンシアっす、よろしくっすー」
ヨアシュに紹介されて、シンシア、もといリーンはぺこぺこと頭を下げる。
「物取りに襲われたんだって? 大変だったねー、ヨアシュちゃんは大丈夫だったのかい?」
「はいっ、ヨアシュはおかげさまで全然平気ですっ。ランちゃんの怪我もすぐに治るそうです」
「そうかいそうかい、大事にならなくてよかったねえ」
「ご心配をおかけしましたっ、それでは、お願いしていたシーツをもらっていきますね」
「はいよ、まいどありがとさん」
ヨアシュはぺこりと頭をさげると、大量の洗い物が干してある、運河沿いの広場へと向かった。
リーンもそれに続く。
「すまないな、ヨアシュ。嘘をつかせてしまって」
「大丈夫ですお姉さま、ヨアシュはヨアシュに出来ることをするのです」
リーン達は、先日ヨアシュが拉致されかけた件について、ランが怪我をしたことのみ警備団に報告した。
広場でランが襲われて怪我をしたことは、目撃者が多数いるので隠しようがない。
だが、その時に連れ去れそうになった人物がヨアシュであるということは、まだ隠しようのある案件だった。
当時、広場にいる者でヨアシュのことを良く知っている者は、アイスクリーム屋の主人だけだったのだ。
リーン達は、その主人に口止めをお願いし、広場で連れ去られたのはどこの誰かわからない女の子だということにした。
そして、やはりどこの誰だかわからない、やたらと強いドレスの淑女に救い出されたらしい、ということにしたのである。
「あと三日間、全力でしらをきってみせます、お姉さま」
そう言って、キリッとした表情を向けてくるヨアシュ。
その頼もしさに、こんなことなら最初から全部話しておくんだったとリーンは思うのだった。
* * *
その日の午後
リーンとヨアシュが事務室でお茶を飲んで一服していると、買い物に行っていたメイリーが戻ってきた。
「ただいま」
「おかえり、メイリー」
「おかえりなさいませですっ、いまメイリーさんのお茶もいれますね」
「お願いするわ、ヨアシュ」
ヨアシュはパタパタと事務所を出て厨房に向かう。
メイリーは買い物籠を床に置くと、リーンの隣に座った。
「どうだった?」
「そうね、あまり思わしくないわ」
買い物籠の中に大した物は入っていない。
彼女が出掛けていた一番の目的は、ゲンリとの情報交換だった。
メイリーは事務室の中にリーンと自分以外いないことを確認してから言う。
「どうする、いま話す?」
リーンはやんわりと首を振る。
「いや、もうここは、みんなで話した方がいいだろう」
リーンが身を隠し続けるためには、宿のみんなの協力が必要だった。
「まったくガル。こそこそするのはよくないガルよ」
「ラン!」
松葉杖をついたランが奥の部屋から出てきた。
足と頭と腕に包帯を巻いている。
「大丈夫なのか?」
「まだあちこち痛むガルが、ただ寝てるのも暇なんだガル。リーンこそ、昨日の今日でよく動けるガル」
と言って、リーンの隣の席に座る。
「俺の体は特別製だからな。つぅことで、マーリナさんを呼んでこないとな」
「お茶もあと二人分追加しなきゃね」
* * *
五人そろって席につく。
最初に口を開いたのは、宿屋満月亭の女将、マーリナだった。
「一番初めに伝えておきます。満月亭は、全力でリーンさんを応援します」
静かながらも、確かな意志のこもった言葉だった。
国家転覆をはかる者をかくまう。
それがどれだけ危険な行いであるか、重々承知した上での発言だった。
リーンは応える。
「本当にいいのかいマーリナさん。俺達は、無理強いする気はまったくないんだ」
マーリナはきっぱりと首を横に振った。
「確かに、国王さまに歯向かうことは、とても恐ろしいことです。でも、このままずっと国王さまに従い続けていても、私達はどんどん大切なものを失い続けていくだけ。そのことは、夫を兵隊に取られた時からずっと感じていたことなのです……けふっ、けふっ」
空咳をうつ女将の背中を、メイリーがさする。
「リーンさん、だから私は、あなたに希望を託したいと思います。どうかアルデシアを、良い方向に導いてください。国王さまが、実はなにかおかしなことをしていて、それをリーンさんが正してくれるというのなら、私は全力でそれを応援します」
「ありがとう、マーリナさん。絶対にその応援に応えてみせる」
リーンはしかと頷いた。
マーリナの言葉は、今現在、アルデシアに住む多くの者が、慢性的に感じている不満でもあった。
大陸が統一されてもなお税率は引き上げられ、どんどん男達が徴兵されていくことに、多くの人々が不信感を抱いているのだ。
税率を上げなければならないのは、国が大きくなりすぎて国王の目が行き届かず、汚職が凄まじいことになっているからだ。
解決策としては、議会制にするなど、根本的な統治体制を見直す必要がある。
これは多くの学者達が指摘していることだが、国王に現在の統治体制を変える意志はない。
度重なる徴兵は、魔物対策という名目だが、実際は諸国の叛乱を抑えるためのものだ。
これもやはり、聡い者達は気付き始めていることである。
加えて、ようやく現れたかと思われた勇者リーンの死去――という報告。
もう色々と、エヴァーハル王国は限界なのだった。
「それじゃあメイリー。ゲンリと話したことを報告してくれ」
メイリーはリーンの顔を見て頷く。
宿の女達は、固唾をのんでその報告に耳を傾けた。
宿屋の事務室の奥で、リーンはメイリーに女中服の着かたを教えてもらっていた。
今日からリーンは、怪我をしたランの代わりに働くことになる。
「本当にな。俺はメイリーを、本当に便利に使っちまってる。それはわかっているんだ」
「うふふ、私は街一番の便利屋メイリーよ。人に使われてなんぼの商売なんだから」
リーンが国王を倒すと決めたその時から、メイリーは誰よりも精力的に活動していた。
リーンとゲンリの間の連絡役となり、また、頻繁に地下運河に潜って、城の構造を調べたりした。
そしてもちろん、宿の仕事。
さらには、ヨアシュの心のケアまでをも引き受けていた。
「私はこんなにリーンに尽くしているのに、リーンは全て終わったらお姫様と結婚して、すぐに私のことなんか忘れてしまうのね」
リーンが脱いだ衣服を受け取りながら、メイリーはそんなことをぼやく。
「……そんなことはないんだぜ、メイリー」
「いいのよリーン、気を使わなくても。私はそういう女だもの。気がついたら便利に使われていて、その後は綺麗さっぱり忘れ去られる。昔からそうだったの」
「お、おいおい」
「大丈夫よ、別に恨んだりしないから。むしろこれが快感だったりするの、私」
と言ってメイリーは、裸になったリーンの背中に爪を立てる。
「うひっ!?」
「だからリーンも、好きなだけ私をもてあそんで、そして味が無くなった牛革みたいに捨てていいのよ?」
「あわわわ……」
背後から凄まじい怨念を感じて、リーンは冷や汗を浮かべた。
「なんてね、冗談よっ」
「ほっ……」
女中服を着ながら、リーンは思い出していた。
メイリーの属性である『水』についてだった。
水は、どこにでも当たり前のようにある。
だがそれは、全ての生物が生きて行く上で、欠かせないものでもある。
とても重要な役割を担っているにも関わらず、意外とその価値が省みられることは少ない。
それが、水属性を持つ者の特長でもあった。
「メイリーは俺にとってかけがえのない女なんだ、お前がいたからここまでやってこれた」
「そう言ってもらえると嬉しいわ、リーン」
「だから、これからもずっと俺の側にいて、俺の周りを巡り続けていて欲しいんだ」
「私は水で、あなたは火、ということね。水は火の側にあることで、より激しく循環することができる」
「そして俺は、熱くなりすぎないで済む」
そして二人は見詰め合った。
「私とあなたは」
「二つで一つさ」
* * *
翌日。
作戦決行まであと三日。
リーンはヨアシュと二人で客室の掃除をしていた。
「お姉さま、シーツの反対側をもってもらえますか?」
「おうよっ」
二人でベッドのシーツを取り替える。
しわ一つなくピンとはる。
宿屋の仕事では、ヨアシュの方が先輩だから、リーンは逐一少女の指示を受けながら働いていた。
客が出て行った部屋を全て掃除し、使用済みのシーツ類を籠に入れて、運河の側の洗濯場に持っていく。
そこに洗濯専門の業者がいるのだ。
「おねがいしますっ」
人の良さそうなふくよかな中年男に、洗濯物を渡しながらヨアシュは言った。
「あいよお、ヨアシュちゃん。そちらは新人さんかい?」
「はいっ、臨時でお願いしているシンシアさんです。ランちゃんが怪我をしてしまって」
「シンシアっす、よろしくっすー」
ヨアシュに紹介されて、シンシア、もといリーンはぺこぺこと頭を下げる。
「物取りに襲われたんだって? 大変だったねー、ヨアシュちゃんは大丈夫だったのかい?」
「はいっ、ヨアシュはおかげさまで全然平気ですっ。ランちゃんの怪我もすぐに治るそうです」
「そうかいそうかい、大事にならなくてよかったねえ」
「ご心配をおかけしましたっ、それでは、お願いしていたシーツをもらっていきますね」
「はいよ、まいどありがとさん」
ヨアシュはぺこりと頭をさげると、大量の洗い物が干してある、運河沿いの広場へと向かった。
リーンもそれに続く。
「すまないな、ヨアシュ。嘘をつかせてしまって」
「大丈夫ですお姉さま、ヨアシュはヨアシュに出来ることをするのです」
リーン達は、先日ヨアシュが拉致されかけた件について、ランが怪我をしたことのみ警備団に報告した。
広場でランが襲われて怪我をしたことは、目撃者が多数いるので隠しようがない。
だが、その時に連れ去れそうになった人物がヨアシュであるということは、まだ隠しようのある案件だった。
当時、広場にいる者でヨアシュのことを良く知っている者は、アイスクリーム屋の主人だけだったのだ。
リーン達は、その主人に口止めをお願いし、広場で連れ去られたのはどこの誰かわからない女の子だということにした。
そして、やはりどこの誰だかわからない、やたらと強いドレスの淑女に救い出されたらしい、ということにしたのである。
「あと三日間、全力でしらをきってみせます、お姉さま」
そう言って、キリッとした表情を向けてくるヨアシュ。
その頼もしさに、こんなことなら最初から全部話しておくんだったとリーンは思うのだった。
* * *
その日の午後
リーンとヨアシュが事務室でお茶を飲んで一服していると、買い物に行っていたメイリーが戻ってきた。
「ただいま」
「おかえり、メイリー」
「おかえりなさいませですっ、いまメイリーさんのお茶もいれますね」
「お願いするわ、ヨアシュ」
ヨアシュはパタパタと事務所を出て厨房に向かう。
メイリーは買い物籠を床に置くと、リーンの隣に座った。
「どうだった?」
「そうね、あまり思わしくないわ」
買い物籠の中に大した物は入っていない。
彼女が出掛けていた一番の目的は、ゲンリとの情報交換だった。
メイリーは事務室の中にリーンと自分以外いないことを確認してから言う。
「どうする、いま話す?」
リーンはやんわりと首を振る。
「いや、もうここは、みんなで話した方がいいだろう」
リーンが身を隠し続けるためには、宿のみんなの協力が必要だった。
「まったくガル。こそこそするのはよくないガルよ」
「ラン!」
松葉杖をついたランが奥の部屋から出てきた。
足と頭と腕に包帯を巻いている。
「大丈夫なのか?」
「まだあちこち痛むガルが、ただ寝てるのも暇なんだガル。リーンこそ、昨日の今日でよく動けるガル」
と言って、リーンの隣の席に座る。
「俺の体は特別製だからな。つぅことで、マーリナさんを呼んでこないとな」
「お茶もあと二人分追加しなきゃね」
* * *
五人そろって席につく。
最初に口を開いたのは、宿屋満月亭の女将、マーリナだった。
「一番初めに伝えておきます。満月亭は、全力でリーンさんを応援します」
静かながらも、確かな意志のこもった言葉だった。
国家転覆をはかる者をかくまう。
それがどれだけ危険な行いであるか、重々承知した上での発言だった。
リーンは応える。
「本当にいいのかいマーリナさん。俺達は、無理強いする気はまったくないんだ」
マーリナはきっぱりと首を横に振った。
「確かに、国王さまに歯向かうことは、とても恐ろしいことです。でも、このままずっと国王さまに従い続けていても、私達はどんどん大切なものを失い続けていくだけ。そのことは、夫を兵隊に取られた時からずっと感じていたことなのです……けふっ、けふっ」
空咳をうつ女将の背中を、メイリーがさする。
「リーンさん、だから私は、あなたに希望を託したいと思います。どうかアルデシアを、良い方向に導いてください。国王さまが、実はなにかおかしなことをしていて、それをリーンさんが正してくれるというのなら、私は全力でそれを応援します」
「ありがとう、マーリナさん。絶対にその応援に応えてみせる」
リーンはしかと頷いた。
マーリナの言葉は、今現在、アルデシアに住む多くの者が、慢性的に感じている不満でもあった。
大陸が統一されてもなお税率は引き上げられ、どんどん男達が徴兵されていくことに、多くの人々が不信感を抱いているのだ。
税率を上げなければならないのは、国が大きくなりすぎて国王の目が行き届かず、汚職が凄まじいことになっているからだ。
解決策としては、議会制にするなど、根本的な統治体制を見直す必要がある。
これは多くの学者達が指摘していることだが、国王に現在の統治体制を変える意志はない。
度重なる徴兵は、魔物対策という名目だが、実際は諸国の叛乱を抑えるためのものだ。
これもやはり、聡い者達は気付き始めていることである。
加えて、ようやく現れたかと思われた勇者リーンの死去――という報告。
もう色々と、エヴァーハル王国は限界なのだった。
「それじゃあメイリー。ゲンリと話したことを報告してくれ」
メイリーはリーンの顔を見て頷く。
宿の女達は、固唾をのんでその報告に耳を傾けた。
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