ガチ百合ハーレム戦記

ナガハシ

肉林、連携作戦

 それから二日後。
 リーンは一人で地下運河の中にいた。


「暗いよう……寒いよう……」


 地下運河に入るところだけメイリーに手伝ってもらい、黒ぼうずがいる場ところまで来た。
 今は黒ぼうずとともに、夜が明けてハーレムの女達が目覚めるのを待っているとこだ。


「一人身はしみるぜ……」
「ウロロォン?」


 はやく、あの頬っぺたぷにりに会いたい。
 魔乳の姉ちゃん達にもみくちゃにされたい。
 そう思いつつ、リーンは暗闇の中の孤独に耐える。




 * * *




――オオーイエス!
――やっと朝なの……?
――もういやだわ……。
――フハハハハ、アハハハハ


 やがて、ハーレムの方から女達の声が聞こえてきた。
 魔物の声と、人間の女の声が入り混じっている。
 リーンは地下水路の階段を上がると、外側の扉を開けてハーレム手前の物置部屋に入った。
 そして内側の扉についた鉄格子の窓から、中の様子を伺った。


――もう汗だく。国王ってば、ほんとえげつないんだから。
――今度はひどくヌルヌルだったわね、肌にまだ感触が残ってるわ。
――シャワー、ヲ、アビルノデース。
――ニンゲン、ノ、オーサマ、スキモノネー。
――貴方達はいいわよね、人間に構ってもらえればそれで幸せなんだから。


 女達の何人かが、連れ立って部屋の奥の方へと歩いていった。
 人間と魔物の区別なく親しいようだ。


 他にも寝なおす者や、壁際で瞑想を始める者や、ベッドの上でじゃれあう者達がいる。
 ハーレムの様子は、どこか和気藹々としていた。


「エイダはどこだ……?」


 まずはエイダに気付いて欲しいところだった。
 他の女達に気付かれると、ハーレムを混乱させてしまうかもしれない。
 国王は、用事で今日一日留守にするので心配はないのだが。


「ヴァー」


 リーンが慎重に中の様子を伺っていると、突然下から魔物の女が顔を出した。


「うわわ!」


 ヘビの目を持つ青肌の女だった。
 リーンは驚いて尻餅をついてしまった。


「ヤー! ココニ、ニンゲンサン、ガ、イルネー!」


 ハーレムの中が一気にどよめいた。
 魔物も人間も関係なく、一斉に扉の向こうに群がってくる。


「誰か来たのですか?!」
「ニンゲン!? ニンゲン!?」
「ついに助けが!?」
「オオーウ、ホントウネー」
「ニンゲンネー!」


 あまり丈夫そうではない木の扉が、押されてガタガタ鳴る。
 リーンの額に冷や汗が浮かんだ。


「みんなー、しずかにしなさーい。王様にたべられちゃうわよー?」


 そこに、聞き覚えのある声が響いてきた。
 エイダだ。


「どうしたのー?」
「センセー、ココニ、ニンゲンガー」
「あらまあっ」


 女達が避けたところに、エイダが現れた。


「リーンじゃないっ」
「やあエイダ、元気してたか?」
「もちろんよ。またここに来たってことは、剣の呪いがとけたのね」
「ああ、おかげでな。今日はそれとは別に、大事な話があってきたんだ」
「大事な話ね、そのうち来るとは思っていたのです。いま、鍵をあけるからちょっとまってね」


 エイダは懐から鍵をとりだすと、錠前を外して扉を開けた。


「おかえり、リーン」
「ただいまだぜ!」


 開かれた扉の向こうには、ハーレムの全ての女達が並んでいた。
 それは夢のような光景だったが、それよりも前に、リーンの脳裏に疑問が浮かんだ。


「なあ、なんでみんな逃げないんだ?」


 ここの女達が力を結集すれば、いとも簡単に逃げられそうなものだが。


「それはね、リーン。逃げられないことがわかっているからなの」
「ココカラ、ニゲル、ワタシタチ、ドロドロ、トカサレル」
「溶かされる?」


 エイダは物置の奥にならんだ壷を指差した。
 あの、変な匂いのする液体が入った壷だ。


「あれはね、ここから逃げようとした魔物ちゃんの、成れの果てなの」


 リーンの背筋に悪寒が走った。


「ニンゲンのオウサマは、とーってもコワイのですっ」


 と言ってエイダは、人差し指で頬をぷにりとやった。




 * * *




 ブラックソーシャル 女
 Lv75 魔属性




 白色魔術師 女
 Lv?? 水属性




 勇者 女
 Lv45 炎属性




「なるほどなるほど」


 リーンはベッドに腰掛けて、周囲に集まったハーレムの女達のレベルを調べた。
 右隣に座るルーザという金髪の魔物と、左隣のエイダのレベルを調べ、最後に自分のレベルを調べる。


 エイダのレベルだけが不明だった。


「すげーな、このモノクルは魔術師長のなんだぜ?」
「レベル78以上のどこかなのです、えっへん」


 リーンの足元と背後には、魔物の女達が群がっている。
 みな黒いローブを身に纏っていて、髪の色は金か銀、中にはスキンヘッドの女もいる。
 肌の色は真っ黒から真っ白まで、じつに様々だ。


 人間の女達は、近くのベッドに腰掛けて、興味深げにリーンの様子を眺めていた。
 みな純白のローブを身に纏っている。
 大陸中から集められた美姫ばかりで、その全てが高位の魔術師だ。
 こちらも髪の色、肌の色、ともに様々だが、年齢が二十歳を下回ることはないようだ。
 中には相当に高齢の女、熟女もいる。


 国王には、少女愛の性向はないらしい。


「レベル20台が4人、30台が8人、40台が20人、50台が8人、60台が3人、んでもってルーザが75か。相当な戦力だな」
「オオーウ、ルーザ、ニンゲント、タタカウ?」
「お願いできるか?」
「リーン、オウサマ、ニ、ナル、ルーザ、タタカウヨ?」
「ああ、俺が王様になって、みんなを本当に幸せなハーレムの女にしてやる。頼むぜ!」
「ワーオ! ニンゲン、イッパイ、タベテ、イイノネ?!」


 どうやら感動したらしいルーザは、リーンに抱きつくとその頬をペロペロと舐め始めた。


「うわっ、うほっ」


 リーンは先ほど、国王から王位を奪い取る話をハーレムの女達にした。


 国王が最初の大防壁を構築するのが、今日から五日後。
 その時、国王の魔力は0になるので、そこを狙って、まずリーンが正面から襲撃をかける。
 宮殿の正門から堂々と侵入して、すでに根回しの完了している魔術師団と合流、ハーレムに突入して女達を解放する。
 エイダの話では、ハーレムの入り口はマギクリスタルのかんぬきがかかっていて、国王にしか開けられないようになっているのだという。
 同じマギクリスタル製のスプレンディアを使えば、破壊できる可能性はある。


 もし、破壊できなければ作戦は失敗するが、そこはリーンは言い切った。
 絶対にぶっ壊してやる、と。 


 魔術師団とハーレム軍団、この両者が合わされば相当な戦力になる。
 もし仮に、近衛兵団と医法師組合、両方の根回しに失敗したとしても、ギリギリなんとかなりそうだった。


「ルーザちゃん、その辺にしておかないと、リーンの顔がふやけてしまうわよ?」
「ワーオ!」


 リーンの顔をは、すでにルーザの唾液でベトベトだった。


「ごめんねリーン」
「いんや、悪い気はしねーんだぜ」


 リーンはベッドのシーツで顔を拭きながら言う。


「本当に人間が好きなんだな」
「イエースッ、ニンゲン、タベテ、ニンゲン、ナル!」
「別に食べる必要はないんじゃねーか? 普通に仲良くしよーぜ」
「ナカヨクスル、タベル、オナジイミ、ネ」


 と言ってルーザは、ちっちっと指を振る。


「まあ、それも一理あるかもなぁ……」


 リーンの周りに魔物の女達が詰め寄ってくる。
 全身から物凄いオーラが吹き出ていて、圧倒される。


「よく手なずけられるな、エイダは」
「意外といい子達なのよ? 魔物の中でも飛び切り賢い子達だから、口で言えば大抵気持ちは通じるわ」
「そうなのか、じゃあ俺から一つお願いしていいか?」


 魔物達は期待の視線をリーンに向けた。


「実は俺、日が暮れるまでここから出られねーんだ。それまで俺と遊んでくれないか?」


――オオー!


 色めき立った魔物達は、歓喜の声を上げてリーンに群がってきた。


「あらあら」
「おおおー!?」


 エイダはすかさずベッドから立ち上がって退避する。
 そこに次々と魔物女がダイブしてきた。


「うおおおー! 肉の林ってのぁこのことだー!」


 あっという間にもみくちゃにされて、リーンの姿は見えなくなった。


 周りのベッドに座っていた人間の女達が、呆れ顔でそれを見ていた。















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