ガチ百合ハーレム戦記
天然、伝統呪術士
防壁の中は物々しい雰囲気に包まれていた。
「これは凄いぜ」
壁から30歩ほど離れた位置に、大型弩砲がずらりと並んでいる。
その傍らに大人の腕ほどもある極太の矢が、ごっそりと積み上げられている。
「たまにでかいのが飛んで来るからね」
そこから防壁側には、射撃の邪魔にならないよう、一階建ての低い家が建てられている。
街の中心部には、そこそこ大きな屋敷も建っているが、どれも三階建てを超えることはないようだ。
店の軒先には、見たことも無いグロテスクな魚の干物が吊るしてある。
小麦や芋などの穀類は、すべて中央から送られてくるもので、配給制になっているので店先に並ぶことはない。
魚のほかに並んでいる食料は、壷に入った野菜の酢漬けくらいだった。
「ここがメイリーの故郷なんだな」
「ええ、ひどい場所でしょ?」
「うんまあ、確かにな。どうしてこんなところに街なんか造ったんだぜ」
「ここはもともと、魔界を監視するために造られた砦だったのよ」
メイリーは道すがら、スノーフルの歴史について話す。
「今から500年ほど前、ここはノーザンスというアルデシア大陸の北側一帯を支配していた国の所領だったの。ノーザンスの人々は、地の果ての海で漁をするような逞しい人達だったのだけど、魔物にはやっぱり手を焼いていた。それで、国中から優れた兵士や魔術師を集めて、ここに砦を作ったの。そして魔物の駆除と漁船の警護をさせたのよ」
「ふむふむ」
「時には魔界に調査隊を送ったりもしたわ。魔界で得た情報は、他の国に高く売ることができたから、当時の王様は調子にのってどんどん優秀な人材をここに送り込んじゃったわけ」
「気の毒なこった」
「もうね、ノーザンスの高位魔術師の半分が魔界送りにされていた時もあったらしいわ。その国王の所業が余りにも横暴だったものだから、とうとう独立運動が起きてしまったの。もともと砦として造られた場所だったから、守る方に圧倒的に有利だった。地の果てから湧いてくる魔物の群さえ利用して、スノーフル砦の人達は、本国からの独立を果たしたわ。それから大陸がエヴァーハル王国によって統一されるまでの400年間、スノーフルは魔界の情報と北方海の権利とをうまく使って、なんとか一つの国としてやってきたの」
「魔界の情報って、そんなに良いものなのか?」
「ええ。魔界の辺縁にいる魔物の生息数を調べることで、この先どれくらいの魔物がやってくるかを予測できるの。この情報は国の魔物対策に役立つわ」
「なかなか侮れない情報なんだな」
「スノーフルの先人達は、その価値を良くわかっていたの。なんたって優秀な人達ばっかり集まってできた場所だから。そして、その人達が結婚して子供を産んで代を重ねた。その結果として生まれたのが、スノーフルの伝統呪術士」
「エイダちゃんか」
「そ。エイダちゃん。あの子の12代前の魔術師家系に、とんでもない呪術の才能を持った子が誕生したの。その子の能力は、さらにその子に受け継がれ、本来ならば子供を産んだ時点で失われるはずの魔法の能力が、途絶えることなく続いてきたの」
「それがあの、ほっぺたぷにりのエイダちゃんなのか」
「そうなのよリーン。ああ見えてすごい子なのよ」
「天然恐るべしだぜ」
* * *
スノーフル中心部に建つ、街で一番大きな屋敷。
といっても、宿屋満月亭の半分ほどの大きさしかない。
旅の一行は、その屋敷の客室に通されていた。
「いつどこで見ても綺麗なお姫様だぜ」
木の長椅子に座ったまま、リーンは壁にかけられたアルメダ姫のポスターを眺めていた。
「こんなところでお目にかかれるとは思わなかったな」
「ここも一応、エヴァーハルの管轄地だからね」
「アルメダ様が放つ光彩は、地の果てまでもお照らしになるのだ」
「本当に、綺麗な方ですよね」
「わんわんっ」
四人と一匹がとりとめもなく話をしていると、客室の扉が開いた。
「おお、メイリー! 良く帰った!」
「おじさま!」
その男は、客室に入ってくるなり駆け寄ってきた。
メイリーはすぐに立ち上がって、彼の抱擁を受ける。
「元気にしておったか!? おお……おお!」
「はい、おじさま!」
彼は、地味な深緑のガウンを着た中年の男だった。
茶色の長髪は、あまり手入れされていないようでボサボサだが、口の上に生やしたちょび髭だけは立派にカールしている。
そしてまるで子供のように、メイリーの肩を抱きながらぴょんぴょん跳ねている。
「おじさまっ、お客様が」
「おお、そうであったそうであった」
メイリーとその男は、抱擁を解くとリーン達に向き直った。
「紹介するわみんな、スノーフル領主のロレンさんよ」
「いかにも、わたくしがロレンですっ」
と言って男は、手で自分のカイゼル髭をピーンと引っ張る。
「にぱぁっ」
そして満面の笑み。
「うわぁ……」
「うむぅ……」
「え、ええー?」
「わんわんっ」
予想外のリアクションに、三人は白目を剥いた。
子犬だけがご機嫌だった。
(流石は、あのエイダって人のオヤジだけあるぜー……)
リーンは口にこそしなかったが、頭のなかでそう呟いた。
エイダは魔界調査の際に行方不明になったということになっている。
「魔術師って、みんな変わり者なんだなー」
「はっはっは、はっきり言われてしまったわメイリー、わっはっは」
「スノーフルの伝統呪術士は代々こんな感じよ」
「そいつはまいったな! 俺はリーン、見ての通りの勇者だぜ、おっちゃん」
「はっはっは、話は聞いておるよリーン。いきなりスノーフルまでやってくるとは流石よのう」
「おうよっ。今すぐにだって魔界に乗り込めるんだぜ」
「うむ。実に勇ましいことであるな。だが聞くところによれば、何か相談ごとがあるということじゃが?」
「まあそうなんだ。実はだな、エルレン」
「はいっ」
言われてエルレンが一歩出る。
「僕はエヴァーハルの医法院で働かせてもらっているエルレンといいます。実はこの子犬の里親を探しているのです」
「ふむふむ、子犬の里親探しに大陸の真ん中から端っこまでやってきたか。すさまじきことよのう」
「はいっ、成り行きで! それで、どちらか犬を欲しがっているお宅があれば紹介していただきたいのです」
「うむっ、それなら既に当てがあるぞ。我が屋敷の老いぼれ犬が、最近ちっとも咆えなくなってしまってな。丁度新しい犬を探していたところなのだ」
「ええっ、では!?」
「うむ、我が屋敷で飼うことにしよう」
「うわっ、本当ですか?! ありがとうございます!」
「わんわんっ」
「どれどれ、ではさっそく」
「はいっ」
エルレンは子犬をロレンに手渡した。
子犬は尻尾をブンブンと振りながら、ロレンの胸元の匂いをしきりに嗅いで興奮している。
どうやら犬に好かれるタイプらしい。
「元気な子犬よのう。どうやら軍用犬の子のようだ。今はまだ小さいが、すぐに立派な犬に育つであろう。願ったり叶ったりじゃ」
「わんわんっ、わおーん!」
「おおよしよし……おうっ! これこれ、敏感ゾーンをそんなに舐めるでない」
あっという間に懐いてしまった子犬を見て、エルレンは唖然とした。
「リーンさん、あっという間に解決してしまいました!」
「だから言っただろう? 俺に任せておけば全部うまく行くって。ところでおっちゃん、他にもちょっとお願いがあるんだが……」
と言ってリーンは、アルメダ姫のポスターをチラリと見た。
「ふふふ、なんであろうかな?」
ロレンもまたアルメダ姫のポスターをチラリと見る。
「俺は、武器はいいものを持ってるんだが、防具はいまいちでね。魔界を調査に行く人が使う防具とかがあったら、見せてもらいたいんだ」
「うむ確かに、武器だけは立派であるな」
――立派に呪われた武器、スプレンディア。
「うへへ」
「ふほほ」
リーンとロレンは、そのあからさまに呪われた剣を眺めながら気持ち悪く笑う。
「確かに我々は、魔界を踏破するための特別な武具を持っておる。勇者殿の頼みとあっては断る理由もありませんな。地下の武具庫へとご案内しましょう」
ロレンはアルメダ姫の写真に一礼すると、客室を後にした。
リーン達もそれに続いて、屋敷の地下へと向かう。
「わんわんっ」
「これこれ、髭をかじるでない」
犬も一緒に。
「これは凄いぜ」
壁から30歩ほど離れた位置に、大型弩砲がずらりと並んでいる。
その傍らに大人の腕ほどもある極太の矢が、ごっそりと積み上げられている。
「たまにでかいのが飛んで来るからね」
そこから防壁側には、射撃の邪魔にならないよう、一階建ての低い家が建てられている。
街の中心部には、そこそこ大きな屋敷も建っているが、どれも三階建てを超えることはないようだ。
店の軒先には、見たことも無いグロテスクな魚の干物が吊るしてある。
小麦や芋などの穀類は、すべて中央から送られてくるもので、配給制になっているので店先に並ぶことはない。
魚のほかに並んでいる食料は、壷に入った野菜の酢漬けくらいだった。
「ここがメイリーの故郷なんだな」
「ええ、ひどい場所でしょ?」
「うんまあ、確かにな。どうしてこんなところに街なんか造ったんだぜ」
「ここはもともと、魔界を監視するために造られた砦だったのよ」
メイリーは道すがら、スノーフルの歴史について話す。
「今から500年ほど前、ここはノーザンスというアルデシア大陸の北側一帯を支配していた国の所領だったの。ノーザンスの人々は、地の果ての海で漁をするような逞しい人達だったのだけど、魔物にはやっぱり手を焼いていた。それで、国中から優れた兵士や魔術師を集めて、ここに砦を作ったの。そして魔物の駆除と漁船の警護をさせたのよ」
「ふむふむ」
「時には魔界に調査隊を送ったりもしたわ。魔界で得た情報は、他の国に高く売ることができたから、当時の王様は調子にのってどんどん優秀な人材をここに送り込んじゃったわけ」
「気の毒なこった」
「もうね、ノーザンスの高位魔術師の半分が魔界送りにされていた時もあったらしいわ。その国王の所業が余りにも横暴だったものだから、とうとう独立運動が起きてしまったの。もともと砦として造られた場所だったから、守る方に圧倒的に有利だった。地の果てから湧いてくる魔物の群さえ利用して、スノーフル砦の人達は、本国からの独立を果たしたわ。それから大陸がエヴァーハル王国によって統一されるまでの400年間、スノーフルは魔界の情報と北方海の権利とをうまく使って、なんとか一つの国としてやってきたの」
「魔界の情報って、そんなに良いものなのか?」
「ええ。魔界の辺縁にいる魔物の生息数を調べることで、この先どれくらいの魔物がやってくるかを予測できるの。この情報は国の魔物対策に役立つわ」
「なかなか侮れない情報なんだな」
「スノーフルの先人達は、その価値を良くわかっていたの。なんたって優秀な人達ばっかり集まってできた場所だから。そして、その人達が結婚して子供を産んで代を重ねた。その結果として生まれたのが、スノーフルの伝統呪術士」
「エイダちゃんか」
「そ。エイダちゃん。あの子の12代前の魔術師家系に、とんでもない呪術の才能を持った子が誕生したの。その子の能力は、さらにその子に受け継がれ、本来ならば子供を産んだ時点で失われるはずの魔法の能力が、途絶えることなく続いてきたの」
「それがあの、ほっぺたぷにりのエイダちゃんなのか」
「そうなのよリーン。ああ見えてすごい子なのよ」
「天然恐るべしだぜ」
* * *
スノーフル中心部に建つ、街で一番大きな屋敷。
といっても、宿屋満月亭の半分ほどの大きさしかない。
旅の一行は、その屋敷の客室に通されていた。
「いつどこで見ても綺麗なお姫様だぜ」
木の長椅子に座ったまま、リーンは壁にかけられたアルメダ姫のポスターを眺めていた。
「こんなところでお目にかかれるとは思わなかったな」
「ここも一応、エヴァーハルの管轄地だからね」
「アルメダ様が放つ光彩は、地の果てまでもお照らしになるのだ」
「本当に、綺麗な方ですよね」
「わんわんっ」
四人と一匹がとりとめもなく話をしていると、客室の扉が開いた。
「おお、メイリー! 良く帰った!」
「おじさま!」
その男は、客室に入ってくるなり駆け寄ってきた。
メイリーはすぐに立ち上がって、彼の抱擁を受ける。
「元気にしておったか!? おお……おお!」
「はい、おじさま!」
彼は、地味な深緑のガウンを着た中年の男だった。
茶色の長髪は、あまり手入れされていないようでボサボサだが、口の上に生やしたちょび髭だけは立派にカールしている。
そしてまるで子供のように、メイリーの肩を抱きながらぴょんぴょん跳ねている。
「おじさまっ、お客様が」
「おお、そうであったそうであった」
メイリーとその男は、抱擁を解くとリーン達に向き直った。
「紹介するわみんな、スノーフル領主のロレンさんよ」
「いかにも、わたくしがロレンですっ」
と言って男は、手で自分のカイゼル髭をピーンと引っ張る。
「にぱぁっ」
そして満面の笑み。
「うわぁ……」
「うむぅ……」
「え、ええー?」
「わんわんっ」
予想外のリアクションに、三人は白目を剥いた。
子犬だけがご機嫌だった。
(流石は、あのエイダって人のオヤジだけあるぜー……)
リーンは口にこそしなかったが、頭のなかでそう呟いた。
エイダは魔界調査の際に行方不明になったということになっている。
「魔術師って、みんな変わり者なんだなー」
「はっはっは、はっきり言われてしまったわメイリー、わっはっは」
「スノーフルの伝統呪術士は代々こんな感じよ」
「そいつはまいったな! 俺はリーン、見ての通りの勇者だぜ、おっちゃん」
「はっはっは、話は聞いておるよリーン。いきなりスノーフルまでやってくるとは流石よのう」
「おうよっ。今すぐにだって魔界に乗り込めるんだぜ」
「うむ。実に勇ましいことであるな。だが聞くところによれば、何か相談ごとがあるということじゃが?」
「まあそうなんだ。実はだな、エルレン」
「はいっ」
言われてエルレンが一歩出る。
「僕はエヴァーハルの医法院で働かせてもらっているエルレンといいます。実はこの子犬の里親を探しているのです」
「ふむふむ、子犬の里親探しに大陸の真ん中から端っこまでやってきたか。すさまじきことよのう」
「はいっ、成り行きで! それで、どちらか犬を欲しがっているお宅があれば紹介していただきたいのです」
「うむっ、それなら既に当てがあるぞ。我が屋敷の老いぼれ犬が、最近ちっとも咆えなくなってしまってな。丁度新しい犬を探していたところなのだ」
「ええっ、では!?」
「うむ、我が屋敷で飼うことにしよう」
「うわっ、本当ですか?! ありがとうございます!」
「わんわんっ」
「どれどれ、ではさっそく」
「はいっ」
エルレンは子犬をロレンに手渡した。
子犬は尻尾をブンブンと振りながら、ロレンの胸元の匂いをしきりに嗅いで興奮している。
どうやら犬に好かれるタイプらしい。
「元気な子犬よのう。どうやら軍用犬の子のようだ。今はまだ小さいが、すぐに立派な犬に育つであろう。願ったり叶ったりじゃ」
「わんわんっ、わおーん!」
「おおよしよし……おうっ! これこれ、敏感ゾーンをそんなに舐めるでない」
あっという間に懐いてしまった子犬を見て、エルレンは唖然とした。
「リーンさん、あっという間に解決してしまいました!」
「だから言っただろう? 俺に任せておけば全部うまく行くって。ところでおっちゃん、他にもちょっとお願いがあるんだが……」
と言ってリーンは、アルメダ姫のポスターをチラリと見た。
「ふふふ、なんであろうかな?」
ロレンもまたアルメダ姫のポスターをチラリと見る。
「俺は、武器はいいものを持ってるんだが、防具はいまいちでね。魔界を調査に行く人が使う防具とかがあったら、見せてもらいたいんだ」
「うむ確かに、武器だけは立派であるな」
――立派に呪われた武器、スプレンディア。
「うへへ」
「ふほほ」
リーンとロレンは、そのあからさまに呪われた剣を眺めながら気持ち悪く笑う。
「確かに我々は、魔界を踏破するための特別な武具を持っておる。勇者殿の頼みとあっては断る理由もありませんな。地下の武具庫へとご案内しましょう」
ロレンはアルメダ姫の写真に一礼すると、客室を後にした。
リーン達もそれに続いて、屋敷の地下へと向かう。
「わんわんっ」
「これこれ、髭をかじるでない」
犬も一緒に。
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