ガチ百合ハーレム戦記
朝食、内緒の話
「昨日はお楽しみだったようね、リーン」
「なんでわかった!」
リーンが朝食のりんご粥を食べていると、メイリーが見舞いにやってきた。
そしてベッドに腰を下ろすなり、そう言ってきた。
「エルレン君の体に、あなたの匂いがたっぷり染み付いていたわ」
と怒ったようにに頬を膨らます。
「あんなに顔をツヤツヤさせて、羨ましいったありゃしない」
「でもよ、一緒に寝ただけだぜ?」
「当たり前よ! リーンと言えども、あんな年端のいかない少年に手を出したのなら、今すぐにでも警備団に通報するわ」
リーンは内心ギクリとしながらも、何食わぬ顔で聞き流した。
「エルレンとは知り合いなのか?」
「まあね。少し前に、ここで看護の手伝いをしたことがあるの。あの時は本当に子供だったけど、少し見ない間に凛々しくなったわね。もうすっかり一人前の医法師さん」
「俺の命もあいつに救われたようなもんだしな」
「本当にね、リーン。あなたはちょっとでも目を離すと、すぐに事件を起すんだから」
と言ってメイリーは、リーンが握っている剣に視線を落とす。
「本当に、立派に呪われた剣ね」
「おう、困ったもんだ。メシを食うのも一苦労だぜ」
左手で匙を握っているリーンは、ずっとぎこちない動作で粥を食べている。
「食べさせてあげましょうか? リーン」
「おっ、是非とも頼む!」
「うん、じゃあちょっと貸して」
と言ってメイリーは、匙を受け取る。
そしてリンゴと麦を甘く煮つめた粥をすくって、リーンの口元まで運ぶ。
「あーん」
「あーん」
だが、メイリーは途中で匙を引っ込めた。
ガチン、とリーンは空気を噛む。
メイリーはそのまま粥を自分の口に運ぶ。
「おいぃ!」
「うん、おいしい。また腕を上げたわね、女将さん」
リーンは恨めしそうにメイリーを見つめた。
「あうぅ……」
* * *
結局3口ほどメイリーに奪われたが、残りはきちんとリーンの腹に収まった。
食器を下げたあと、メイリーは改めてリーンの隣に座り、そして本題を切り出した。
「その剣の呪いのことだけど、少し気になることがあるの」
と言ってメイリーは、近くに人の気配がないことを確認する。
そしてリーンの耳元に口を寄せ。
(……エイダは呪術師だったの)
と、ささやく。
リーンの頭の中で、一つの導線が繋がった。
スプレンディアに呪術をかけた者は失踪している。
メイリーが探しているエイダという女性は呪術師。
これは何かありそうだ。
「ここエヴァーハルには、アルデシアの各地から有能な魔術師が集められているのだけど、少なからぬ人が行方不明になっているのよ。便利屋としてあちこち働きに出ていると、そういった物騒なことをよく聞くの」
「まあ、俺を呪いの剣で殺そうとしたくらいだからな。城のなかじゃもっと血生臭いことが起きていても不思議はねえな」
「そうね。その剣に呪術をかけた人も、そんな理由で行方をくらましたのかも……」
と言ってメイリーは表情を暗くした。
自分の友人が、人知れず消されてしまった可能性があるのだ。
だがやはり、リーンにはメイリーの友人エイダが、まだ生きているという確信があった。
「なあメイリー。呪術ってのは自然に消えてなくなるものじゃないんだろ?」
「きちんとした術なら、数千年はもつと言われているわね」
「じゃあさ。術をかけた人がいなくなっちまったら困るんじゃないか?」
「うん、まあ……そうね」
「だからやっぱり俺は、この剣に呪いをかけたやつは生きていると思うんだ」
「生きて、どこかに閉じ込められている?」
「ああ、そうだ」
エイダが国王に幽閉されているとすれば、その場所は考えるまでもない。
つまり、エヴァーハル宮殿のどこかだ。
「なんにしろ、一度お城に行かなきゃならねえな」
「入れてもらえるのかしら?」
「わかんねえ。もしダメなら、まあ、少し強引なやり方で行くしかねえな」
「……大胆なこと言うわね、リーン。危ないわよ?」
メイリーは心配するようにそう言うが、実際その目は好奇心でギラギラとしていた。
「危ないことは大好きだぜ!」
リーンの頭にはある光景が浮かんでいた。
先日、ヨアシュ達と出掛けたときに見た地下運河である。
あそこから何とかして城に忍び込めないだろうか?
そんなことをリーンは、早くも企みはじめていた。
「まっ、それにはまず傷を治さなねえとな」
「そうねリーン。動くにしても、まだ情報が少なすぎるもの」
ひとまず剣についての話を切り上げる。
リーンは窓の外に目を向けた。
高くて黒ずんだ石造りの建物が、窓の外の景色を殆ど埋め尽くしてしまっている。
わずかに見える青空の向こう、エヴァー湖のある方角に、天へと伸びる一筋の光が見えた。
光の塔。
ここに初めてきた時、湖の畔で見たあの不思議な塔は、今も変わらずリーンの前に存在しているのだった。
「いいお天気ね、リーン」
「ああ」
メイリーもつられて窓の外に眼をやる。
リーンは光の塔のことを聞いてみたくなったが、何故だか今は聞かない方が良いような気がしたので、そのまま黙っていた。
そしてしばしメイリーの様子を横目で見ていた。
彼女はただ純粋に、街の景色を眺めているようだった。
「どうしたの、リーン?」
「ん、ああ。メイリーの横顔が素敵だと思ってさ」
「やだリーンってば、いきなり何をいうのよ……もうっ」
と言ってメイリーは、リーンの肩をトンッと押す。
だがリーンはその手を握って引き寄せた。
「あっ」
「もっとこっちこいよ」
「ダメよリーン、安静にしてなきゃ」
「お前が来たときから、もう俺は心穏やかじゃないんだ」
「え、でも……ここは病室……ああんっ!」
メイリーが何か言う前に、リーンは彼女をベッドに引きずりこんでしまった。
* * *
事後である。
「ふう、相変わらずお前はいい女だぜ。メイリー」
「リーン、私そんな安い女じゃないわ。シクシク」
「でもお前の体は嫌とは言っていなかったぜ?」
「そ、そんなこと……。でも言い返せない、くやしい!」
芝居がかったことを言い合う二人。
実はベッドの中で暴れるふりをして、城に忍び込む方法を協議していた。
メイリーは何度か地下運河に入ったことがあると言う。
地図で調べる限りにおいては、それほど複雑な運河ではないのだが、どうやら目くらましの魔法が仕掛けられているらしく、どうしても同じ場所をグルグル回ることになってしまうのだという。
時々、見回りの兵が歩くうえに、隠れる場所も無いので、地下から城に上がることは思いのほか難しいのだとメイリーは言った。
「ふーむ、帰ったらゲンリに色々と話さなきゃな、今日のこと」
「私達が同じベッドで語りあったことを聞いたら、きっと顔を真っ赤にして仰け反るわね」
「……あいつ、意外と体柔らかいんだよな」
二人は悶え狂う長身痩躯の魔術師を想像して、改めて気持ち悪いと思った。
そしてしばしベッドの中で二人温まっていると、病室の中にエルレンが入ってきた。
「リーン、具合はいかがでしょう……って、ええ?」
ベッドの中でごろごろしている二人を見て少年は変な顔をした。
「……ど、どうしたんです?」
「見ての通りマッタリしていたんだ」
「ま、マッタリ?」
なんだかよくわからないなぁ、と首を傾げるエルレンの頬がツヤリと光る。
「調子が良さそうね、エルレン君」
とメイリーが言う。
「はい、メイリーさん。何ででしょう、今朝から体がすごく軽いんです。まるで羽が生えたみたいです」
それは間違いなく、リーンの炎の力によるものだった。
「羽か……」
「羽ねえ……」
もし少年の背に二枚の羽が生えてたなら、きっとそれは、本当の天使のように見えるだろうと二人は思った。
「なんでわかった!」
リーンが朝食のりんご粥を食べていると、メイリーが見舞いにやってきた。
そしてベッドに腰を下ろすなり、そう言ってきた。
「エルレン君の体に、あなたの匂いがたっぷり染み付いていたわ」
と怒ったようにに頬を膨らます。
「あんなに顔をツヤツヤさせて、羨ましいったありゃしない」
「でもよ、一緒に寝ただけだぜ?」
「当たり前よ! リーンと言えども、あんな年端のいかない少年に手を出したのなら、今すぐにでも警備団に通報するわ」
リーンは内心ギクリとしながらも、何食わぬ顔で聞き流した。
「エルレンとは知り合いなのか?」
「まあね。少し前に、ここで看護の手伝いをしたことがあるの。あの時は本当に子供だったけど、少し見ない間に凛々しくなったわね。もうすっかり一人前の医法師さん」
「俺の命もあいつに救われたようなもんだしな」
「本当にね、リーン。あなたはちょっとでも目を離すと、すぐに事件を起すんだから」
と言ってメイリーは、リーンが握っている剣に視線を落とす。
「本当に、立派に呪われた剣ね」
「おう、困ったもんだ。メシを食うのも一苦労だぜ」
左手で匙を握っているリーンは、ずっとぎこちない動作で粥を食べている。
「食べさせてあげましょうか? リーン」
「おっ、是非とも頼む!」
「うん、じゃあちょっと貸して」
と言ってメイリーは、匙を受け取る。
そしてリンゴと麦を甘く煮つめた粥をすくって、リーンの口元まで運ぶ。
「あーん」
「あーん」
だが、メイリーは途中で匙を引っ込めた。
ガチン、とリーンは空気を噛む。
メイリーはそのまま粥を自分の口に運ぶ。
「おいぃ!」
「うん、おいしい。また腕を上げたわね、女将さん」
リーンは恨めしそうにメイリーを見つめた。
「あうぅ……」
* * *
結局3口ほどメイリーに奪われたが、残りはきちんとリーンの腹に収まった。
食器を下げたあと、メイリーは改めてリーンの隣に座り、そして本題を切り出した。
「その剣の呪いのことだけど、少し気になることがあるの」
と言ってメイリーは、近くに人の気配がないことを確認する。
そしてリーンの耳元に口を寄せ。
(……エイダは呪術師だったの)
と、ささやく。
リーンの頭の中で、一つの導線が繋がった。
スプレンディアに呪術をかけた者は失踪している。
メイリーが探しているエイダという女性は呪術師。
これは何かありそうだ。
「ここエヴァーハルには、アルデシアの各地から有能な魔術師が集められているのだけど、少なからぬ人が行方不明になっているのよ。便利屋としてあちこち働きに出ていると、そういった物騒なことをよく聞くの」
「まあ、俺を呪いの剣で殺そうとしたくらいだからな。城のなかじゃもっと血生臭いことが起きていても不思議はねえな」
「そうね。その剣に呪術をかけた人も、そんな理由で行方をくらましたのかも……」
と言ってメイリーは表情を暗くした。
自分の友人が、人知れず消されてしまった可能性があるのだ。
だがやはり、リーンにはメイリーの友人エイダが、まだ生きているという確信があった。
「なあメイリー。呪術ってのは自然に消えてなくなるものじゃないんだろ?」
「きちんとした術なら、数千年はもつと言われているわね」
「じゃあさ。術をかけた人がいなくなっちまったら困るんじゃないか?」
「うん、まあ……そうね」
「だからやっぱり俺は、この剣に呪いをかけたやつは生きていると思うんだ」
「生きて、どこかに閉じ込められている?」
「ああ、そうだ」
エイダが国王に幽閉されているとすれば、その場所は考えるまでもない。
つまり、エヴァーハル宮殿のどこかだ。
「なんにしろ、一度お城に行かなきゃならねえな」
「入れてもらえるのかしら?」
「わかんねえ。もしダメなら、まあ、少し強引なやり方で行くしかねえな」
「……大胆なこと言うわね、リーン。危ないわよ?」
メイリーは心配するようにそう言うが、実際その目は好奇心でギラギラとしていた。
「危ないことは大好きだぜ!」
リーンの頭にはある光景が浮かんでいた。
先日、ヨアシュ達と出掛けたときに見た地下運河である。
あそこから何とかして城に忍び込めないだろうか?
そんなことをリーンは、早くも企みはじめていた。
「まっ、それにはまず傷を治さなねえとな」
「そうねリーン。動くにしても、まだ情報が少なすぎるもの」
ひとまず剣についての話を切り上げる。
リーンは窓の外に目を向けた。
高くて黒ずんだ石造りの建物が、窓の外の景色を殆ど埋め尽くしてしまっている。
わずかに見える青空の向こう、エヴァー湖のある方角に、天へと伸びる一筋の光が見えた。
光の塔。
ここに初めてきた時、湖の畔で見たあの不思議な塔は、今も変わらずリーンの前に存在しているのだった。
「いいお天気ね、リーン」
「ああ」
メイリーもつられて窓の外に眼をやる。
リーンは光の塔のことを聞いてみたくなったが、何故だか今は聞かない方が良いような気がしたので、そのまま黙っていた。
そしてしばしメイリーの様子を横目で見ていた。
彼女はただ純粋に、街の景色を眺めているようだった。
「どうしたの、リーン?」
「ん、ああ。メイリーの横顔が素敵だと思ってさ」
「やだリーンってば、いきなり何をいうのよ……もうっ」
と言ってメイリーは、リーンの肩をトンッと押す。
だがリーンはその手を握って引き寄せた。
「あっ」
「もっとこっちこいよ」
「ダメよリーン、安静にしてなきゃ」
「お前が来たときから、もう俺は心穏やかじゃないんだ」
「え、でも……ここは病室……ああんっ!」
メイリーが何か言う前に、リーンは彼女をベッドに引きずりこんでしまった。
* * *
事後である。
「ふう、相変わらずお前はいい女だぜ。メイリー」
「リーン、私そんな安い女じゃないわ。シクシク」
「でもお前の体は嫌とは言っていなかったぜ?」
「そ、そんなこと……。でも言い返せない、くやしい!」
芝居がかったことを言い合う二人。
実はベッドの中で暴れるふりをして、城に忍び込む方法を協議していた。
メイリーは何度か地下運河に入ったことがあると言う。
地図で調べる限りにおいては、それほど複雑な運河ではないのだが、どうやら目くらましの魔法が仕掛けられているらしく、どうしても同じ場所をグルグル回ることになってしまうのだという。
時々、見回りの兵が歩くうえに、隠れる場所も無いので、地下から城に上がることは思いのほか難しいのだとメイリーは言った。
「ふーむ、帰ったらゲンリに色々と話さなきゃな、今日のこと」
「私達が同じベッドで語りあったことを聞いたら、きっと顔を真っ赤にして仰け反るわね」
「……あいつ、意外と体柔らかいんだよな」
二人は悶え狂う長身痩躯の魔術師を想像して、改めて気持ち悪いと思った。
そしてしばしベッドの中で二人温まっていると、病室の中にエルレンが入ってきた。
「リーン、具合はいかがでしょう……って、ええ?」
ベッドの中でごろごろしている二人を見て少年は変な顔をした。
「……ど、どうしたんです?」
「見ての通りマッタリしていたんだ」
「ま、マッタリ?」
なんだかよくわからないなぁ、と首を傾げるエルレンの頬がツヤリと光る。
「調子が良さそうね、エルレン君」
とメイリーが言う。
「はい、メイリーさん。何ででしょう、今朝から体がすごく軽いんです。まるで羽が生えたみたいです」
それは間違いなく、リーンの炎の力によるものだった。
「羽か……」
「羽ねえ……」
もし少年の背に二枚の羽が生えてたなら、きっとそれは、本当の天使のように見えるだろうと二人は思った。
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