ガチ百合ハーレム戦記
抱擁、ベッドトーク
「うわ……ひぃっ……!」
少年はすかさず大事な部分を隠すと、壁に身をすりよせるようにしてリーンから離れた。
「あわわわわ……」
リーンは何をどう言い訳したものかとオロオロする。
「な、な、何をしようと……?」
「い、いや落ち着け。これはだな、その……」
エルレンの瞳に、ウルウルと涙がたまっていく。
自分は何か、とんでもないことをされるところだった。
そのことに少年は気付きつつあるのだ。
「むむむ……、ええい、こうなったら!」
進退窮まったリーンは、もう何もかもを正直に言うことにした。
「すまんかったー!」
といって、エルレンの寝ていたベッドに飛び乗り、その上に頭をこすり付けるようにして謝った。
「お前が本当に男なのか、どーしても気になっちまって、眠れなかったんだー!」
「えええー!?」
「お前があんまりにも可愛かったから、ついそんなことを考えちまったんだー!」
「か、かわいい……!?」
少年はしばしオドオドと視線を泳がせていたが、すぐにリーンが包帯ぐるぐる巻きの重症患者であることを思いだした。
「え、ええと、傷に触りますので……楽にしてください」
「ゆ、許してくれるか!?」
「許すとか、その前にまず……楽にしてください」
「ああ……」
リーンは頭を上げ、その場に腰を落とす。
「え、ええと……まず僕は……男です」
「おう、それはバッチリ確認したぜ」
「お恥ずかしいです……きっと僕の寝相が悪かったんですね」
「い、いやぁ、たまたまだぜ」
そう言って、恥ずかしそうに頬を手で押さえるエルレンを見て、リーンはまたグッときてしまった。
「ひとまず病室に戻りましょう、リーンさん。ああ……驚いた」
* * *
病室に戻ると、エルレンはリーンの傷口が開いていないか、その全身を丹念に診察した。
その間にリーンは、自分のことは呼び捨てにしてくれと、少年に申し付けた。
「大丈夫みたいです、リーン。それにしても、よく立って歩けましたね」
「ちょっとクラクラしたけどな。問題ないぜ」
「すごい回復力です。では胸の音を調べるので、前を失礼します」
と言ってエルレンは、リーンの胸元をあけた。
二つのぷるんと張った乳房があらわになる。
エルレンは心臓の辺りに拳を置くと、その上に耳をあてた。
魔力で増幅された心音が、少年の耳に響いてくる。
「……ドキドキしてるぜ」
「それは、生きておられますので」
「いや、そういう意味じゃなくてな……」
少年の頭がすぐ胸の上にある。
リーンは、このまま抱きしめてしまいたい気持ちで一杯だった。
「大丈夫ですね。心臓の音も、肺の音もしっかりとしています。ただちょっと脈拍が早いです」
「だろうな」
「え?」
「いや、なんでもないぞ」
エルレンは小首を傾げつつ、リーンの着衣を元に戻した。
「なあエルレン」
「なんでしょう」
「お前のことをちょっと聞いてもいいか?」
「僕のことを?」
「ああ。その歳で、どうやってそれだけの腕を身につけたんだろうって、気になってたんだ」
リーンは、以前ゲンリに言われたことを思い出していた。
旅の仲間には必ず一人は医法師が欲しい、という話だ。
ひとまずリーンは、エルレンを椅子に座らせる。
「何か特別な修行でもしたのか?」
「いえ、そういうわけでもないのですが……医法術の本が好きで、小さい時から読んでいたんです」
「まじか! そういう本って、すげー難しいんじゃないのか?」
「はい。ですので、辞書とかを使ってがんばって読みました」
そんなことを、サラリと言ってのける少年を見て、リーンは理解した。
まさに天才なのだと。
「頭いいんだなー」
「そ、そんなことないですよ?」
「いやいや、そんなことアリアリだぜ。しかもすげー美少年だもんな。完璧じゃねーか」
「び、びしょ!? そ、そんなこと……」
と言ってエルレンは恥ずかしそうに頭をかいた。
「でも実を言うと……よく女の子に間違われます……」
「だろうな。俺だって確かめてみるまでは、ちょっと信じられなかったぜ」
「言っていただければ、お教えしましたのに……」
「なに!? どうやってだよ?」
「それはその……こうして」
エルレンは衣服の裾をたくしあげる素振りをした。
リーンの口から心臓が飛び出しそうになった。
「お前って、意外と大胆なんだな」
「はいっ、男ですから!」
と言って胸の前でグッと拳を握るエルレンは、女の子みたいに可愛かった。
そういう男らしさってアリなのか? とリーンは一瞬首を傾げたが、もし自分が男で、誰かに男だと信じてもらえない状況になったらどうするかと考えて、思い直した。
「やっぱり俺でもそうするか……ふむ」
この少年とは気が合うかもしれないと、リーンは思った。
「なあ、やっぱり女の子みたいって言われるのは嫌か?」
「そうですね……可愛いっていわれるのは嬉しいですけど、人によってはからかうように言ってくるので」
「男らしくないとか言われて、バカにされたりするんだな?」
「はい。その……僕のこの部分を……見せてみろよ、とか言ってくる人までいるんです」
「む、それはけしからねえ……て、俺のことじゃねーか!」
「えへへへ。なので僕、そういう時はもう、思い切って見せてやることに決めてるんです」
「おお、それは男らしいぜ」
「ですよね! 男らしいですよね! リーンにそう言ってもらえると嬉しいです!」
と言って表情を輝かせるエルレンは、やっぱり女の子みたいに可愛いのだった。
* * *
その二人は、しばしそのまま話し込んだ。
よくエルレンをからかってくる近所の子供のこと。
最近は人手不足でみんな忙しいということ。
この医法院は、建てられてから100年以上たっていること。
エルレンの父が六代目の院長で、エルレンが七代目になるつもりであること。
そして、リーン程の回復力を持つ人は、100年にわたる記録の中にも、並ぶ者がいないほどだということ。
二人とも寝巻き姿で、薄暗い部屋で身を寄せるようにして話をしていたので、いつのまにか二人の間には、姉弟のような親密さが生まれていた。
「これなら本当に、明日の朝には退院できてしまいそうです」
エルレンはリーンの腕をさすりながら言った。
「だからいったろう? 明日には出て行くって。俺は骨の折れたのだって一晩で治っちまうんだ」
「うーん、興味深いです。ぜひ勉強したいので、もう2,3日泊まっていってくれませんか?」
「おおう? 人体実験か!?」
「そ、そんなことしませんよ!」
「いや、別にいいんだぜ。好きにいじってくれて」
「え、ええー!? しませんよー!」
「ははははは」
リーンはそんな軽口を聞いて、エルレンをどぎまぎさせる。
少年もまんざらでもないようで、楽しそうに頬を上気させる。
エルレンは仕事柄、同年齢の子供と遊ぶ機会が少なく、命に関わる仕事をしているために、こうして表情を緩めることもあまりないのだ。
「実は僕、近いうちにお城にいく用事があるんです」
話題がエヴァーハル王宮の話になった時、エルレンはそんな話題を切り出してきた。
「へえ、何しにいくんだ?」
「いつまでも水色のままでいるわけにはかないので、認定試験を受けに行こうかと」
「そういうのはお城でやっているのか」
「そうなんです。お城には医法師団の最高責任者である、白色医法師さまがおられます。その方はお城の中でも五本の指に入る権力をもっているそうで、そのおかげで医法院は強い権限をもつことが出来ているんです」
「なるほどな。だから国王のおっちゃんでも、簡単に手を出せないのか」
「そうなんです。それで、試験を受けて合格すれば、僕は位が緑色医法師に上がります。そうすればもっと多くの治療術を、僕の判断で使うことが出来るんです」
医法師の位は、水色から始まって、緑、黄金、白、白銀と上がっていく。
基本、ひよっこの水色医法師に、治療方針の判断は許されない。
「水色は、師の許可がなければどんな治療術も使えないので不便です」
「うーんと、それじゃあ昼に俺にかけたって魔法は、本当はダメだったのか?」
「はい……。しかし急を要する事態だったので」
「お師匠さんに怒られたりしなかったか?」
「大丈夫です。お父さんは褒めてくれました。良い判断だったって」
「そうか、それは良かったぜ」
エルレンの向上心にリーンは感心した。
そしてふと思った。
医法師もまた魔術を操る職分なのだから、高位を目指すためには、色事を断たねばならないのだと。
異性との交わりは魔力の源泉を損ねる行為であり、特に、子を宿したり宿されたりすると、殆ど魔法を使えなくなってしまうのだ。
故に、多くの術師達は、硬く貞操を守っている。
もし、さきほどエルレンが目を覚まさなければ、リーンは自らの欲望のために、少年の魔力を大量に奪っていたかもしれない。
(危ないところだったな……)
リーンは改めて反省した。
「ではそろそろ休みましょうか、リーン」
「ああ、そうだな」
「時々、様子を見にきますので」
「それなんだがな、エルレン。お前に夜更かしをさせるのはどうにも忍びないんだ」
「気にしないでください。仕事ですから」
「いいや気にする。そこでだな、エルレン。今夜は俺と一緒に寝ないか?」
「え!?」
少年は一気に顔を赤くした。
「ぴったりくっついていれば、俺に何かあったときすぐわかるだろ?」
「た、確かにそうですけど」
「お前も休むことができるし、俺も一人寝の寂しさを感じずにすむ。いい事だらけだ」
「え、ええ……でも、うーん」
「……嫌か?」
「そんなことありません! でも僕は男でリーンは……」
と言って少年は、照れくさそうに指先をツンツンとやる。
そして期待の眼差しを、チラチラとリーンに送る。
実際、まだまだ甘えたがりだった。
「ははっ、お前はまだ子供なんだから、そんなこと気にしなくていいんだ」
「そ、そうでしょうか……?」
「人助けだと思って、一つ頼めないか? 俺はどうしても一人寝ってのが苦手でさ。お前が一緒に寝てくれるとすごく助かるんだ」
リーンがそう言うと、流石に少年にも断る理由がなくなった。そして熱っぽい顔を両手で押さえながらモジモジと。
「わわわ、わかりました。僕なんかでよければ……」
「おっし、じゃあこい」
リーンはベッドの片側を空け、シーツをあげてやった。
そこに寝巻き姿のエルレンがするりと潜り込む。
「うわっ、あったかい」
「だろ?」
エルレンはくすぐったそうにモゾモゾしていたが、リーンがその頭をゆっくりと撫でてやると、驚くほどあっと言う間に眠り込んでしまった。
「疲れてたんだな」
心地良さそうな寝息をたてる少年を見つめながら、リーンはつぶやく。
そして剣を握っていない方の手で、眠る少年の肩をギュッと抱き寄せた。
少年はすかさず大事な部分を隠すと、壁に身をすりよせるようにしてリーンから離れた。
「あわわわわ……」
リーンは何をどう言い訳したものかとオロオロする。
「な、な、何をしようと……?」
「い、いや落ち着け。これはだな、その……」
エルレンの瞳に、ウルウルと涙がたまっていく。
自分は何か、とんでもないことをされるところだった。
そのことに少年は気付きつつあるのだ。
「むむむ……、ええい、こうなったら!」
進退窮まったリーンは、もう何もかもを正直に言うことにした。
「すまんかったー!」
といって、エルレンの寝ていたベッドに飛び乗り、その上に頭をこすり付けるようにして謝った。
「お前が本当に男なのか、どーしても気になっちまって、眠れなかったんだー!」
「えええー!?」
「お前があんまりにも可愛かったから、ついそんなことを考えちまったんだー!」
「か、かわいい……!?」
少年はしばしオドオドと視線を泳がせていたが、すぐにリーンが包帯ぐるぐる巻きの重症患者であることを思いだした。
「え、ええと、傷に触りますので……楽にしてください」
「ゆ、許してくれるか!?」
「許すとか、その前にまず……楽にしてください」
「ああ……」
リーンは頭を上げ、その場に腰を落とす。
「え、ええと……まず僕は……男です」
「おう、それはバッチリ確認したぜ」
「お恥ずかしいです……きっと僕の寝相が悪かったんですね」
「い、いやぁ、たまたまだぜ」
そう言って、恥ずかしそうに頬を手で押さえるエルレンを見て、リーンはまたグッときてしまった。
「ひとまず病室に戻りましょう、リーンさん。ああ……驚いた」
* * *
病室に戻ると、エルレンはリーンの傷口が開いていないか、その全身を丹念に診察した。
その間にリーンは、自分のことは呼び捨てにしてくれと、少年に申し付けた。
「大丈夫みたいです、リーン。それにしても、よく立って歩けましたね」
「ちょっとクラクラしたけどな。問題ないぜ」
「すごい回復力です。では胸の音を調べるので、前を失礼します」
と言ってエルレンは、リーンの胸元をあけた。
二つのぷるんと張った乳房があらわになる。
エルレンは心臓の辺りに拳を置くと、その上に耳をあてた。
魔力で増幅された心音が、少年の耳に響いてくる。
「……ドキドキしてるぜ」
「それは、生きておられますので」
「いや、そういう意味じゃなくてな……」
少年の頭がすぐ胸の上にある。
リーンは、このまま抱きしめてしまいたい気持ちで一杯だった。
「大丈夫ですね。心臓の音も、肺の音もしっかりとしています。ただちょっと脈拍が早いです」
「だろうな」
「え?」
「いや、なんでもないぞ」
エルレンは小首を傾げつつ、リーンの着衣を元に戻した。
「なあエルレン」
「なんでしょう」
「お前のことをちょっと聞いてもいいか?」
「僕のことを?」
「ああ。その歳で、どうやってそれだけの腕を身につけたんだろうって、気になってたんだ」
リーンは、以前ゲンリに言われたことを思い出していた。
旅の仲間には必ず一人は医法師が欲しい、という話だ。
ひとまずリーンは、エルレンを椅子に座らせる。
「何か特別な修行でもしたのか?」
「いえ、そういうわけでもないのですが……医法術の本が好きで、小さい時から読んでいたんです」
「まじか! そういう本って、すげー難しいんじゃないのか?」
「はい。ですので、辞書とかを使ってがんばって読みました」
そんなことを、サラリと言ってのける少年を見て、リーンは理解した。
まさに天才なのだと。
「頭いいんだなー」
「そ、そんなことないですよ?」
「いやいや、そんなことアリアリだぜ。しかもすげー美少年だもんな。完璧じゃねーか」
「び、びしょ!? そ、そんなこと……」
と言ってエルレンは恥ずかしそうに頭をかいた。
「でも実を言うと……よく女の子に間違われます……」
「だろうな。俺だって確かめてみるまでは、ちょっと信じられなかったぜ」
「言っていただければ、お教えしましたのに……」
「なに!? どうやってだよ?」
「それはその……こうして」
エルレンは衣服の裾をたくしあげる素振りをした。
リーンの口から心臓が飛び出しそうになった。
「お前って、意外と大胆なんだな」
「はいっ、男ですから!」
と言って胸の前でグッと拳を握るエルレンは、女の子みたいに可愛かった。
そういう男らしさってアリなのか? とリーンは一瞬首を傾げたが、もし自分が男で、誰かに男だと信じてもらえない状況になったらどうするかと考えて、思い直した。
「やっぱり俺でもそうするか……ふむ」
この少年とは気が合うかもしれないと、リーンは思った。
「なあ、やっぱり女の子みたいって言われるのは嫌か?」
「そうですね……可愛いっていわれるのは嬉しいですけど、人によってはからかうように言ってくるので」
「男らしくないとか言われて、バカにされたりするんだな?」
「はい。その……僕のこの部分を……見せてみろよ、とか言ってくる人までいるんです」
「む、それはけしからねえ……て、俺のことじゃねーか!」
「えへへへ。なので僕、そういう時はもう、思い切って見せてやることに決めてるんです」
「おお、それは男らしいぜ」
「ですよね! 男らしいですよね! リーンにそう言ってもらえると嬉しいです!」
と言って表情を輝かせるエルレンは、やっぱり女の子みたいに可愛いのだった。
* * *
その二人は、しばしそのまま話し込んだ。
よくエルレンをからかってくる近所の子供のこと。
最近は人手不足でみんな忙しいということ。
この医法院は、建てられてから100年以上たっていること。
エルレンの父が六代目の院長で、エルレンが七代目になるつもりであること。
そして、リーン程の回復力を持つ人は、100年にわたる記録の中にも、並ぶ者がいないほどだということ。
二人とも寝巻き姿で、薄暗い部屋で身を寄せるようにして話をしていたので、いつのまにか二人の間には、姉弟のような親密さが生まれていた。
「これなら本当に、明日の朝には退院できてしまいそうです」
エルレンはリーンの腕をさすりながら言った。
「だからいったろう? 明日には出て行くって。俺は骨の折れたのだって一晩で治っちまうんだ」
「うーん、興味深いです。ぜひ勉強したいので、もう2,3日泊まっていってくれませんか?」
「おおう? 人体実験か!?」
「そ、そんなことしませんよ!」
「いや、別にいいんだぜ。好きにいじってくれて」
「え、ええー!? しませんよー!」
「ははははは」
リーンはそんな軽口を聞いて、エルレンをどぎまぎさせる。
少年もまんざらでもないようで、楽しそうに頬を上気させる。
エルレンは仕事柄、同年齢の子供と遊ぶ機会が少なく、命に関わる仕事をしているために、こうして表情を緩めることもあまりないのだ。
「実は僕、近いうちにお城にいく用事があるんです」
話題がエヴァーハル王宮の話になった時、エルレンはそんな話題を切り出してきた。
「へえ、何しにいくんだ?」
「いつまでも水色のままでいるわけにはかないので、認定試験を受けに行こうかと」
「そういうのはお城でやっているのか」
「そうなんです。お城には医法師団の最高責任者である、白色医法師さまがおられます。その方はお城の中でも五本の指に入る権力をもっているそうで、そのおかげで医法院は強い権限をもつことが出来ているんです」
「なるほどな。だから国王のおっちゃんでも、簡単に手を出せないのか」
「そうなんです。それで、試験を受けて合格すれば、僕は位が緑色医法師に上がります。そうすればもっと多くの治療術を、僕の判断で使うことが出来るんです」
医法師の位は、水色から始まって、緑、黄金、白、白銀と上がっていく。
基本、ひよっこの水色医法師に、治療方針の判断は許されない。
「水色は、師の許可がなければどんな治療術も使えないので不便です」
「うーんと、それじゃあ昼に俺にかけたって魔法は、本当はダメだったのか?」
「はい……。しかし急を要する事態だったので」
「お師匠さんに怒られたりしなかったか?」
「大丈夫です。お父さんは褒めてくれました。良い判断だったって」
「そうか、それは良かったぜ」
エルレンの向上心にリーンは感心した。
そしてふと思った。
医法師もまた魔術を操る職分なのだから、高位を目指すためには、色事を断たねばならないのだと。
異性との交わりは魔力の源泉を損ねる行為であり、特に、子を宿したり宿されたりすると、殆ど魔法を使えなくなってしまうのだ。
故に、多くの術師達は、硬く貞操を守っている。
もし、さきほどエルレンが目を覚まさなければ、リーンは自らの欲望のために、少年の魔力を大量に奪っていたかもしれない。
(危ないところだったな……)
リーンは改めて反省した。
「ではそろそろ休みましょうか、リーン」
「ああ、そうだな」
「時々、様子を見にきますので」
「それなんだがな、エルレン。お前に夜更かしをさせるのはどうにも忍びないんだ」
「気にしないでください。仕事ですから」
「いいや気にする。そこでだな、エルレン。今夜は俺と一緒に寝ないか?」
「え!?」
少年は一気に顔を赤くした。
「ぴったりくっついていれば、俺に何かあったときすぐわかるだろ?」
「た、確かにそうですけど」
「お前も休むことができるし、俺も一人寝の寂しさを感じずにすむ。いい事だらけだ」
「え、ええ……でも、うーん」
「……嫌か?」
「そんなことありません! でも僕は男でリーンは……」
と言って少年は、照れくさそうに指先をツンツンとやる。
そして期待の眼差しを、チラチラとリーンに送る。
実際、まだまだ甘えたがりだった。
「ははっ、お前はまだ子供なんだから、そんなこと気にしなくていいんだ」
「そ、そうでしょうか……?」
「人助けだと思って、一つ頼めないか? 俺はどうしても一人寝ってのが苦手でさ。お前が一緒に寝てくれるとすごく助かるんだ」
リーンがそう言うと、流石に少年にも断る理由がなくなった。そして熱っぽい顔を両手で押さえながらモジモジと。
「わわわ、わかりました。僕なんかでよければ……」
「おっし、じゃあこい」
リーンはベッドの片側を空け、シーツをあげてやった。
そこに寝巻き姿のエルレンがするりと潜り込む。
「うわっ、あったかい」
「だろ?」
エルレンはくすぐったそうにモゾモゾしていたが、リーンがその頭をゆっくりと撫でてやると、驚くほどあっと言う間に眠り込んでしまった。
「疲れてたんだな」
心地良さそうな寝息をたてる少年を見つめながら、リーンはつぶやく。
そして剣を握っていない方の手で、眠る少年の肩をギュッと抱き寄せた。
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