ガチ百合ハーレム戦記
激闘、炎の剣
二人の兵は、リーンを瞬殺すべく、連携して飛び掛ってきた。
体格の良い、バルザーと呼ばれた方の兵士が、一歩先んじて切りこんでくる。
上段から渾身の振り下ろしを放ってくると予想して、リーンは鉄の棒剣を正面に構えた。
斬撃の威力を受け流し、もう一人の兵士、ジュアの追撃に備えるためだ。
「……ふふっ」
だが、バルザーの姿が目前となったとき、女剣士ジュアの姿が微笑とともに消えた。
「なんだ!?」
バルザーの背後に回ったように見えたが、それだけではなかった。
だが、考える間もなくバルザーの強烈な一撃が振り下ろされる。
「くっ……!」
一瞬でも足を止めるのは命取りだと直感したリーンは、鈍重な棒剣を突き出して、その反動で素早く身を引いた。
鼻先をかすめるようにして、渾身の一振りが行過ぎていく。
ジュアの気配はバルザーの背後から完全に消えていた。
まるで霧のように、周囲の空気に溶け込んでしまっていた。
どこから来てもおかしくない。
そう肌で感じ取ったリーンは、ためらうことなく炎の魔法を発動した。
『エンデ・シュプリーム!』
-炎よ、舞い散れ-
リーンの周囲に、紅蓮の炎が渦巻いた。
するとその炎の一部に、意思を持って動く何者かが触れた。
「そこだぁ!」
全身のバネを利かせて、棒剣を引き戻す。
そしてそのまま、炎の流れを乱した気配に向かって、横薙ぎの一閃を振るう。
高い金属音を響かせて、細身の長剣が弾けとんだ。
「……くっ!」
そこには鉄兜の奥に驚愕を浮かべたジュアの幻影があった。
なんと彼女は、空中に浮遊しながら動き回っていた。
足音さえ立たないため、まるで気配を掴めないのだ。
彼女はこれまで、この技で相手に剣を振るわせる間もなく勝ち続けてきた。
「幻術か!」
リーンは叫ぶと同時に素早く剣を回転させ、ニ撃目を放ってきたバルザーに応戦した。
重たい剣同士が正面からぶつかり合い、激しい打撃音が鳴り響く。
細身の剣を弾いた瞬間に、ジュアの姿は再び霧のように消えてしまった。
周囲の空気を操って光の反射を捻じ曲げ、己の姿をくらませる魔法。
なおかつ、飛翔魔法の同時使用。
並みの使い手ではなかった。
「ぬうんっ!」
ジュアの気配を探りたいが、バルザーの連撃を捌くので精いっぱいだ。
リーンは懸命に魔法の火の粉を散らして、姿無きジュアを牽制し続けるが、動きながらの魔法の使用は大変なことだった。
あっと言う間にリーンの顔に、玉のような汗が浮かんだ。
「バルザーを相手にまともに打ち合うとは。ふぉふぉふぉ、やりおる」
「しかしこのままでは、長くはもちますまい……ヒヒヒッ」
茶髭の宰相が嫌味な口調で言う。
リーンはイラッときたが、事実そうであった。
早く……なんとかしなければ。
「ぅおらあ!」
一際大きな気合とともに、リーンはバルザーの剣を打ち払った。
そして、重たい剣に嫌気が差したとでもいう様に、バルザーに向かって投げつけた。
「むが!?」
するとなんと、棒剣の先がバルザーの甲冑の隙間に突き刺さった。
バルザーはその剣を慌てて引き抜くが、その分、追撃が遅れる。
剣を捨てて身軽になったリーンは、まるでサルのような動きで中庭の端まで下がった。
「……どこにいる」
壁にぺたりと背をつけた状態で、リーンは消えてしまったジュアの姿を探した。
火の粉の先に気配を感じることが出来るのだから、実体まで消えてしまっているわけではない。
魔法の力で、姿を見えなくさせているだけなのだ。
ジュアが動けば、必ず周囲の空気も一緒になって動く。
リーンは全ての感覚を研ぎ澄ませて、空気の淀みを探った。
「そこか!」
もやもやとした陽炎のようなものが、リーンからやや距離を置いた場所で素早く動いていた。
右へ左へと、絶えず揺さぶりをかけるようにして動き回っている。
しかし相手の位置がわかったとしても、丸腰では斬撃を受けることもできない。
「だったら魔法だ!」
リーンは炎弾を放ちながら走り出した。
中庭の中央に向かって「の」の字を書くように走る。
投げ捨てた棒剣を取り戻しに行きたいが、それを阻むようにバルザーが中央に陣取っている。
さらに、自由気ままに飛び回るジュアが、炎弾を回避しつつリーンに迫ってくる。
結局リーンは、まったく反撃できないまま、中庭の中央付近で挟み撃ちになってしまった。
「やるぞ、ジュア!」
「ええ、バルザー」
袋のネズミを前に、不敵な笑みを浮かべる二人。
だがリーンの表情に焦りはなかった。
『ミラージ・エナ・ウィンブル!』
-我が虹となれ風よ-
詠唱と同時にジュアの姿が可視化され、そしてなんと分裂した。
彼女の本体がいた場所から、光が飛び散るようにして、七色のジュアが出現したのだ。
『ランド・パトス!』
-地の波動-
バルザーもまた詠唱し、その足を一歩、力強く踏み出す。
大地が揺れ、彼の全身から強烈な波動が噴き出す。
その姿が、巨人のように大きく見えるようになった。
「へっ、まさに絶体絶命だな!」
魔法を発動した二人の様子を眺めつつ、リーンは吐き捨てるように言った。
素手では有効なダメージを与えられないことは明白だった。
剣を取り戻すにはバルザーの後ろに回らなければならない。
だが、大地の力をその身に受けた彼の姿は、巨大な城壁のように越え難いものに見える。
まさに壁際に追い込まれたリーン。
そこに七色に分裂したジュアが、まるでレンズで焦点を結んだ光のように、一斉にリーンに切りかかってきた。
「「「「「「「これで終りよ!」」」」」」」
七つの声が同時に告げる。
金糸のように美しい長髪をなびかせながら、鷹の目つきで襲い掛かってくるジュア。
そんな彼女の姿をみてリーンが思ったことは。
「いいやこれから始まるんだぜ、美人の姉ちゃん……。俺たちの物語がな!」
その美しい女騎士さえ自分のものにしたいという、下心だった。
「うおおおおおおお!」
咆哮とともに、リーンの周囲に鮮やかな火炎が吹き上がる。
『エンデ・イン・エクスパー!』
-爆ぜよ、内なる炎-
吹き上がった炎が、一気にリーンの体内に流れ込む。
炎とはつまり、物質の激しい反応現象だ。
リーンはいま、魔法によって自らの体内物質の反応を加速させたのだ。
「どりゃああああああ!」
全身火の玉と化したリーンは、凄まじい勢いでバルザーに体当たりした。
砲声の轟音に似た衝突音が鳴り響く。
「ぐぬおおおぉ!」
魔法で強化されていた屈強の兵士バルザーでさえ、僅かに押し戻される程の威力だった。
「ふんっ、だがこれで終わりだ!」
リーンの体当たりを受けきったバルザーは宣言した。
その背後からは、七色のジュアが持つ七本の剣が、光の速度で迫ってきていた。
『エンデ・ラルダ!』
-炎よ、出でよ-
完全に勝敗が決したかと思われたその瞬間、放たれた魔法はリーンがもっとも古くから慣れ親しんできた、火嵐の剣だった。
「来い!」
リーンの右腕から火線が伸びる。
そしてバルザーの背後に落ちていた鉄の棒剣の下に潜り込み、そして盛大に爆ぜた。
ドーンという爆発音とともに、鈍重な棒剣が天高く跳ね上がる。
それに会わせてリーンは、炎の魔法で強化された全筋肉を動員して、高く高く飛び跳ねた。
あまりにも人間離れした跳躍だったので、バルザーの目には、一瞬にしてリーンが消えたように見えた程だった。
「やばっ!?」
ジュアが目を見張る。
慌てて急制動をかけるが、止まりきれずバルザーとぶつかる。
「ぐおわ!」
「きゃあ!」
ガシャンと甲冑がぶつかり合う音が響く。
完全な隙がそこに生まれた。
「もらったあああああ!」
弾け上がった棒剣を空中で掴むと、リーンはそのまま真っ逆さまに急降下。
脳天割りを振り下ろした。
ジュアは素早く飛び去ったが、魔法で大地と連結状態にあったバルザーは回避が間に合わない。
慌てて剣を振り上げてリーンの一撃を受けようとするが――。
「むだあああああああ!」
棒剣の重みに落下速度を加えた一撃を、受けきれるはずもなかった。
――ガキーン!!
「ぐげえ!」
大振りの剣がその威力でひしゃげた。
さらにバルザーの分厚い鉄兜を凹ませたところで、ようやくリーンの一撃は停止した。
だが。
「……ぬおおおおお!」
「なんだとぉ!?」
バルザーは、最後の気力を振り絞って、リーンの足元に組み付いてきた。
そして身動きが取れなくなったリーンの元に、猛然とジュアが切りかかってきた。
「とんだおてんば娘ね!」
「それは褒め言葉だぜ!」
「お黙りなさい!」
決死の表情で突進してくるジュア。
リーンは、その斬撃に合わせるようにして、鉄の棒剣を構えた。
国王との約束があった。
アルメダ姫と謁見するためには、一撃も食らわずに二人を撃破しなければならない。
死んでもジュアの攻撃を受けるわけにはいかない――。
「てええーい!!」
ジュアの気合のこもった一閃が、袈裟に振り下ろされる。
リーンはそれに鉄の棒剣をあわせる――ふりをした。
「!?」
リーンはそのままスッと剣を引いて腰溜めにした。
ジュアの細身の剣が、リーンの肩口に突き刺さる。
「ぐうぅ!」
刃を丸めた剣なので肉は切れない。
だが威力は十二分にあり、その一撃でリーンの肩の骨が砕けた。
「……うおおおおお!」
リーンは、持ち前のド根性でその痛みを振り払うと、加速反応の魔法をダメージ部位に集中させて、強化された筋力で砕けた骨を支えた。
そして最後の一撃を搾り出した。
「――――なっ!」
ジュアは完全に騙されていた。
リーンは国王との交渉の対価として、自らの純潔を賭けていた。
同じ女であるジュアにとって、それはこの上なく危険な対価に見えた。
だからこそジュアは、リーンは何が何でも攻撃を回避してくるだろうと思ってしまった。
よもや自らの純潔を捨ててまで、勝ちをとりにくるとは考えもしなかったのだ。
「腕の一本ぐらいじゃ……負けにはならねーよなぁ!」
腹の奥から搾り出すようにして叫び、リーンは腰溜めにした棒剣を、渾身の力でもって突き出した。
――ドスンッ!
「ぐうぅっ!?」
重い音が響く。
棒剣の先が、ジュアのみぞおちに突き刺さっていた。
鎧の上からでも、その威力は十分過ぎるほどに通っていた。
「か……はっ……!」
呼吸困難に陥ったジュアは、その場に膝を付き、そのまま前のめりにバタリと倒れた。
足元に絡み付いているバルザーを見れば、彼はすでに脳震盪で気絶していた。
「はじめから一撃はもらうつもりでいたんだぜ…………あだだっ!」
そう呟くと同時に、肩の痛みが急激に戻ってきた。
リーンは重たい棒剣を地に捨てた。
そして荒げる息を押し殺しつつ、国王に向かって拳を突き上げた。
「……かったぞ! おっちゃん!」
「ふぉっふぉっふぉ」
「ななな……!?」
リーンがそう叫ぶと、国王はホクホクと笑った。
愕然とする茶髭宰相のアゴは、骨が外れてしまっているようだった。
体格の良い、バルザーと呼ばれた方の兵士が、一歩先んじて切りこんでくる。
上段から渾身の振り下ろしを放ってくると予想して、リーンは鉄の棒剣を正面に構えた。
斬撃の威力を受け流し、もう一人の兵士、ジュアの追撃に備えるためだ。
「……ふふっ」
だが、バルザーの姿が目前となったとき、女剣士ジュアの姿が微笑とともに消えた。
「なんだ!?」
バルザーの背後に回ったように見えたが、それだけではなかった。
だが、考える間もなくバルザーの強烈な一撃が振り下ろされる。
「くっ……!」
一瞬でも足を止めるのは命取りだと直感したリーンは、鈍重な棒剣を突き出して、その反動で素早く身を引いた。
鼻先をかすめるようにして、渾身の一振りが行過ぎていく。
ジュアの気配はバルザーの背後から完全に消えていた。
まるで霧のように、周囲の空気に溶け込んでしまっていた。
どこから来てもおかしくない。
そう肌で感じ取ったリーンは、ためらうことなく炎の魔法を発動した。
『エンデ・シュプリーム!』
-炎よ、舞い散れ-
リーンの周囲に、紅蓮の炎が渦巻いた。
するとその炎の一部に、意思を持って動く何者かが触れた。
「そこだぁ!」
全身のバネを利かせて、棒剣を引き戻す。
そしてそのまま、炎の流れを乱した気配に向かって、横薙ぎの一閃を振るう。
高い金属音を響かせて、細身の長剣が弾けとんだ。
「……くっ!」
そこには鉄兜の奥に驚愕を浮かべたジュアの幻影があった。
なんと彼女は、空中に浮遊しながら動き回っていた。
足音さえ立たないため、まるで気配を掴めないのだ。
彼女はこれまで、この技で相手に剣を振るわせる間もなく勝ち続けてきた。
「幻術か!」
リーンは叫ぶと同時に素早く剣を回転させ、ニ撃目を放ってきたバルザーに応戦した。
重たい剣同士が正面からぶつかり合い、激しい打撃音が鳴り響く。
細身の剣を弾いた瞬間に、ジュアの姿は再び霧のように消えてしまった。
周囲の空気を操って光の反射を捻じ曲げ、己の姿をくらませる魔法。
なおかつ、飛翔魔法の同時使用。
並みの使い手ではなかった。
「ぬうんっ!」
ジュアの気配を探りたいが、バルザーの連撃を捌くので精いっぱいだ。
リーンは懸命に魔法の火の粉を散らして、姿無きジュアを牽制し続けるが、動きながらの魔法の使用は大変なことだった。
あっと言う間にリーンの顔に、玉のような汗が浮かんだ。
「バルザーを相手にまともに打ち合うとは。ふぉふぉふぉ、やりおる」
「しかしこのままでは、長くはもちますまい……ヒヒヒッ」
茶髭の宰相が嫌味な口調で言う。
リーンはイラッときたが、事実そうであった。
早く……なんとかしなければ。
「ぅおらあ!」
一際大きな気合とともに、リーンはバルザーの剣を打ち払った。
そして、重たい剣に嫌気が差したとでもいう様に、バルザーに向かって投げつけた。
「むが!?」
するとなんと、棒剣の先がバルザーの甲冑の隙間に突き刺さった。
バルザーはその剣を慌てて引き抜くが、その分、追撃が遅れる。
剣を捨てて身軽になったリーンは、まるでサルのような動きで中庭の端まで下がった。
「……どこにいる」
壁にぺたりと背をつけた状態で、リーンは消えてしまったジュアの姿を探した。
火の粉の先に気配を感じることが出来るのだから、実体まで消えてしまっているわけではない。
魔法の力で、姿を見えなくさせているだけなのだ。
ジュアが動けば、必ず周囲の空気も一緒になって動く。
リーンは全ての感覚を研ぎ澄ませて、空気の淀みを探った。
「そこか!」
もやもやとした陽炎のようなものが、リーンからやや距離を置いた場所で素早く動いていた。
右へ左へと、絶えず揺さぶりをかけるようにして動き回っている。
しかし相手の位置がわかったとしても、丸腰では斬撃を受けることもできない。
「だったら魔法だ!」
リーンは炎弾を放ちながら走り出した。
中庭の中央に向かって「の」の字を書くように走る。
投げ捨てた棒剣を取り戻しに行きたいが、それを阻むようにバルザーが中央に陣取っている。
さらに、自由気ままに飛び回るジュアが、炎弾を回避しつつリーンに迫ってくる。
結局リーンは、まったく反撃できないまま、中庭の中央付近で挟み撃ちになってしまった。
「やるぞ、ジュア!」
「ええ、バルザー」
袋のネズミを前に、不敵な笑みを浮かべる二人。
だがリーンの表情に焦りはなかった。
『ミラージ・エナ・ウィンブル!』
-我が虹となれ風よ-
詠唱と同時にジュアの姿が可視化され、そしてなんと分裂した。
彼女の本体がいた場所から、光が飛び散るようにして、七色のジュアが出現したのだ。
『ランド・パトス!』
-地の波動-
バルザーもまた詠唱し、その足を一歩、力強く踏み出す。
大地が揺れ、彼の全身から強烈な波動が噴き出す。
その姿が、巨人のように大きく見えるようになった。
「へっ、まさに絶体絶命だな!」
魔法を発動した二人の様子を眺めつつ、リーンは吐き捨てるように言った。
素手では有効なダメージを与えられないことは明白だった。
剣を取り戻すにはバルザーの後ろに回らなければならない。
だが、大地の力をその身に受けた彼の姿は、巨大な城壁のように越え難いものに見える。
まさに壁際に追い込まれたリーン。
そこに七色に分裂したジュアが、まるでレンズで焦点を結んだ光のように、一斉にリーンに切りかかってきた。
「「「「「「「これで終りよ!」」」」」」」
七つの声が同時に告げる。
金糸のように美しい長髪をなびかせながら、鷹の目つきで襲い掛かってくるジュア。
そんな彼女の姿をみてリーンが思ったことは。
「いいやこれから始まるんだぜ、美人の姉ちゃん……。俺たちの物語がな!」
その美しい女騎士さえ自分のものにしたいという、下心だった。
「うおおおおおおお!」
咆哮とともに、リーンの周囲に鮮やかな火炎が吹き上がる。
『エンデ・イン・エクスパー!』
-爆ぜよ、内なる炎-
吹き上がった炎が、一気にリーンの体内に流れ込む。
炎とはつまり、物質の激しい反応現象だ。
リーンはいま、魔法によって自らの体内物質の反応を加速させたのだ。
「どりゃああああああ!」
全身火の玉と化したリーンは、凄まじい勢いでバルザーに体当たりした。
砲声の轟音に似た衝突音が鳴り響く。
「ぐぬおおおぉ!」
魔法で強化されていた屈強の兵士バルザーでさえ、僅かに押し戻される程の威力だった。
「ふんっ、だがこれで終わりだ!」
リーンの体当たりを受けきったバルザーは宣言した。
その背後からは、七色のジュアが持つ七本の剣が、光の速度で迫ってきていた。
『エンデ・ラルダ!』
-炎よ、出でよ-
完全に勝敗が決したかと思われたその瞬間、放たれた魔法はリーンがもっとも古くから慣れ親しんできた、火嵐の剣だった。
「来い!」
リーンの右腕から火線が伸びる。
そしてバルザーの背後に落ちていた鉄の棒剣の下に潜り込み、そして盛大に爆ぜた。
ドーンという爆発音とともに、鈍重な棒剣が天高く跳ね上がる。
それに会わせてリーンは、炎の魔法で強化された全筋肉を動員して、高く高く飛び跳ねた。
あまりにも人間離れした跳躍だったので、バルザーの目には、一瞬にしてリーンが消えたように見えた程だった。
「やばっ!?」
ジュアが目を見張る。
慌てて急制動をかけるが、止まりきれずバルザーとぶつかる。
「ぐおわ!」
「きゃあ!」
ガシャンと甲冑がぶつかり合う音が響く。
完全な隙がそこに生まれた。
「もらったあああああ!」
弾け上がった棒剣を空中で掴むと、リーンはそのまま真っ逆さまに急降下。
脳天割りを振り下ろした。
ジュアは素早く飛び去ったが、魔法で大地と連結状態にあったバルザーは回避が間に合わない。
慌てて剣を振り上げてリーンの一撃を受けようとするが――。
「むだあああああああ!」
棒剣の重みに落下速度を加えた一撃を、受けきれるはずもなかった。
――ガキーン!!
「ぐげえ!」
大振りの剣がその威力でひしゃげた。
さらにバルザーの分厚い鉄兜を凹ませたところで、ようやくリーンの一撃は停止した。
だが。
「……ぬおおおおお!」
「なんだとぉ!?」
バルザーは、最後の気力を振り絞って、リーンの足元に組み付いてきた。
そして身動きが取れなくなったリーンの元に、猛然とジュアが切りかかってきた。
「とんだおてんば娘ね!」
「それは褒め言葉だぜ!」
「お黙りなさい!」
決死の表情で突進してくるジュア。
リーンは、その斬撃に合わせるようにして、鉄の棒剣を構えた。
国王との約束があった。
アルメダ姫と謁見するためには、一撃も食らわずに二人を撃破しなければならない。
死んでもジュアの攻撃を受けるわけにはいかない――。
「てええーい!!」
ジュアの気合のこもった一閃が、袈裟に振り下ろされる。
リーンはそれに鉄の棒剣をあわせる――ふりをした。
「!?」
リーンはそのままスッと剣を引いて腰溜めにした。
ジュアの細身の剣が、リーンの肩口に突き刺さる。
「ぐうぅ!」
刃を丸めた剣なので肉は切れない。
だが威力は十二分にあり、その一撃でリーンの肩の骨が砕けた。
「……うおおおおお!」
リーンは、持ち前のド根性でその痛みを振り払うと、加速反応の魔法をダメージ部位に集中させて、強化された筋力で砕けた骨を支えた。
そして最後の一撃を搾り出した。
「――――なっ!」
ジュアは完全に騙されていた。
リーンは国王との交渉の対価として、自らの純潔を賭けていた。
同じ女であるジュアにとって、それはこの上なく危険な対価に見えた。
だからこそジュアは、リーンは何が何でも攻撃を回避してくるだろうと思ってしまった。
よもや自らの純潔を捨ててまで、勝ちをとりにくるとは考えもしなかったのだ。
「腕の一本ぐらいじゃ……負けにはならねーよなぁ!」
腹の奥から搾り出すようにして叫び、リーンは腰溜めにした棒剣を、渾身の力でもって突き出した。
――ドスンッ!
「ぐうぅっ!?」
重い音が響く。
棒剣の先が、ジュアのみぞおちに突き刺さっていた。
鎧の上からでも、その威力は十分過ぎるほどに通っていた。
「か……はっ……!」
呼吸困難に陥ったジュアは、その場に膝を付き、そのまま前のめりにバタリと倒れた。
足元に絡み付いているバルザーを見れば、彼はすでに脳震盪で気絶していた。
「はじめから一撃はもらうつもりでいたんだぜ…………あだだっ!」
そう呟くと同時に、肩の痛みが急激に戻ってきた。
リーンは重たい棒剣を地に捨てた。
そして荒げる息を押し殺しつつ、国王に向かって拳を突き上げた。
「……かったぞ! おっちゃん!」
「ふぉっふぉっふぉ」
「ななな……!?」
リーンがそう叫ぶと、国王はホクホクと笑った。
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