勇者の名産地

ナガハシ

ドラゴンバスターズ

 ドラゴンの巨大な爪が、深い亀裂を地面に穿つ。
 カトリは建物の影からその様子を見ていた。


「やっぱり、この都はあのドラゴンに滅ぼされたんだ……」


 キャラバン隊は、あのドラゴンを恐れてここに来なくなったのかもしれない。
 一体何があってそんなことに? そこまでは想像の及ばないカトリだったが、ともかく今はやるしかない。


「よし……やるぞっ!」


 カトリは金のスコップを握り締め、胸の内で誓う。


――コノハ……お兄ちゃん頑張るからな!


「カトリさん、後ろに回りこめそうですっ」
「はいっ、やってみます!」


 アーリヤの言葉に頷きつつ、カトリは息を殺して建物の影を進んだ。
 相変わらずドラゴンは荒ぶっている。建物を踏み潰し、手当たり次第になぎ払っている。
 三姉妹達が上手く逃げてくれていることを願う。


「あの様子だと、かなり近づいても気付かなそうだな……」


 勇気を振り絞って、ドラゴンの背後に近づく。
 ドラゴンの足や尻尾から発せられる地響きが、カトリの腹の底を揺さぶっていた。


「くううっ……! 怖ええええ……!」


 涙が出そうだった。本当は走って逃げたかった。
 だが生きて帰るためには、戦わなければならない。
 大丈夫だ――。カトリは自分に言い聞かせる。だって自分には、元魔王の精霊さんがついているのだから。


「うわー! 近くで見るとすごく大きいわねっ!」


 ついているのだから。


 まもなく、ドラゴンの尻尾の先に触れるくらい近くまで来た。


「ん?」


 さてどこに金のスコップをねじ込むかと考えていたカトリの目に、異様なものが映った。


「……背中がただれている?」


 ドラゴンの背中がひどい有様になっている。鱗の下の肉がむき出しになり、腐ったようになっている。そしてびっしりとかさぶたで覆われている。ミッタが商館の地下から見つけ出した、ドラゴンのかさぶたそのものだ。


「皮膚病でも患ってるのか……?」


 見てるだけで、こちらの背中が痒くなってくる程だった。できれば良い薬を紹介してあげたいが、今はそんなことをい考えている場合ではない。


「カトリさん! あの穴がいけそうです!」
「あの穴ってどの穴ですか…………ええええっ!」


 アーリヤが指差した先にあったのはドラゴンのお尻。つまりケツの穴だった。


「無理! 無理ですよ!」
「でも一番刺しやすそうですよ? 金玉の棒をっ」
「いや! でも! ちょっと色々と!」


 色々とヤバイ。しかも、ドラゴンの尻尾がかなり激しく動いているから、そう簡単には近づけそうにない。
 せめて誰かが、前の方で気をそらしてくれれば良いのだが――。


「わはははー!」
「待たせたな!」
「このドラゴン野郎め!」


 彼女らが現れたのはその時だった。
 二階建ての建物の上に立ち、巨大な剣を三人で握って構えている。
 その全身からは、ドラゴンのかさぶたを服用したことにり、有り余るほどの闘気が放たれていた。


「お、お前ら……!」


 カトリはこの時ほど、三姉妹の存在を頼もしく思ったことはない。
 三人はドラゴンに向かって決然と言い放った。


「「「あたしらの故郷をメチャクチャにしたのはお前だな!?」」」


 三対の瞳が、怒りと闘志で輝いている。


「「「この、ドラゴン・バター・カッター・バスターで成敗してくれる!」」」


 と言って、例の大きな剣を高々と掲げる。
 何がどうなってそんな名前になったのか、それは不明である。


「フフフ……そのような玩具。我に効くと思うてか」


 ドラゴンは厳かな声で返しつつ、そのゴツゴツとした顔に余裕の笑みを浮かべた。


「「「やってみなきゃわからねえだろー!?」」」


 勇ましく言い放つと、三人は全速力で走り出した。6本の手、6本の足、そして三つの頭が完璧に連動し、その力が三倍以上に高められる。
 まさにケルベロスの如き姿になった三姉妹は、そのまま建物の上から高く跳躍。一直線にドラゴンに向けて飛び込んでいった。


「「「チェストー!!」」」


 と叫んで頭に切りかかった。


「フンッ!」
「「「うほお!?」」」


 頭をしゃくりあげるドラゴン。ガキーンと鈍い音を立てて、剣と頭が衝突する。
 三人ががりで振り下ろした大きな剣は、その根元からボッキリと折れてしまった。


「「「あたしらのドラゴン・バター・カッター・バスターがー!!?」」」


 三姉妹は、そのまま地面に落っこちていく。


「…………お前ら」


 カトリは呆然とその光景を見届けた。
 そして思った。
 もう少し、まともな名前を思いつかなかったのかと。











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