勇者の名産地

ナガハシ

最大の危機

 デザートドラゴンは大きく息を吸い込むと、その口から砂嵐を噴き出してきた。


「「「「うわああああーーー!!」」」」


 あっという間に吹っ飛ばされて、遺跡の中に放り込まれるカトリ達。
 一瞬にして体が砂に埋もれ、身動きが取れなくなる。


「ぺっぺっ!」「口の中が!」「じゃりじゃりする!」


 カトリも砂で目が痛くて仕方が無かった。


――憎き火の部族の者どもよ、我が尻尾の餌食となるがよい。


 動けなくなった四人に向かって、岩の塊のような竜の尻尾が飛んできた。


「うわー!」「逃げろー!」「ひええええ!」


 砂の海を泳ぐようにして脱出。その直後、隕石のように尻尾が振ってきた。


「「「「ぎゃあああーーー!!!」」」」


 その勢いで再び吹き飛ぶ四人。思い思いに逃げ回って、丈夫そうな建物に逃げ込むが。


――ええい、ちょこまかと。こうなったら街ごと壊滅させてやる。


 ドラゴンは見上げるほどの巨体を揺らしながら、ズンズンと遺跡を踏み荒らし始めた。石や日干し煉瓦で作られた建物が、マッチ箱を潰すが如く、簡単に踏み潰されていく。


「やばいぞ……! 何だか良くわからないけどやばいぞ!」


 建物の中でカトリは一人震えていた。これでは故郷に帰るどころではない。いまや、自分達の命は風前の灯火だ。


「どうしたらいいんだ……!」


 グッと歯を噛み締める。カトリはまだ諦めてはいなかった。
 その時、アーリヤの水筒がカタカタと振動した。


「アーリヤさんっ?」
「カトリさん! 大ピンチですね!」
「ええ、まったくですよ!」
「困りましたね!」
「なんでそんなに呑気そうなんです!? もうこれ終わりですよ!」
「うふふっ、だって私は湖の精霊ですよ? あのドラゴンの倒し方だって知ってるのです」
「えっ!?」


 カトリは唖然とする。そういやこの人、元魔王だった。


「ど、どうやって!?」


 藁にもすがる思いで聞く。


「古今東西、ドラゴンというものは内側から倒すと相場が決まっています。カトリさん。今こそその『金玉の棒』を使う時なのです!」


 言われてカトリは腰に手をやる。すっかり忘れていたが、そこには金玉の棒が吊るされている。


「こ、これは金のスコップです! けして金玉の棒などではありません!」
「細かいことはどうでも良いのですカトリさん!」
「ぐうっ!?」


 ぐうの音が出た。


「とにかくそれをドラゴンさんの体内に突っ込んで下さい! あとは私が何とかします!」
「な、なんとかって……ええ!?」


 一体どうやって? 色々疑問に思うカトリだが、自信満々のアーリヤの表情を前に、従うより他にないのだった。


「わかりまして……一か八か、やってみます!」
「その意気です! カトリさんならきっと出来ます!」


 恐らくはこの金のスコップ(金玉の棒ではけしてない)を魔法の媒体にして、魔法による攻撃を行うのだろう。だがどうやってドラゴンの体内のこれを差し込もう?


「ええい、ままよ!」


 特に作戦などなかったが、カトリはやぶれかぶれで建物を飛び出していった。


 * * *


 その頃、三姉妹はコソコソとドラゴンの目を盗み、遺跡の外まで出てきていた。


「ふう、あぶない……。どうにかこうにか、まいたな」
「あのドラゴン、まだあたしらが遺跡の中にいると思っているぜ」
「なんか真面目くさった奴だけど、頭の中は爬虫類並みだ」


 悠然と腕組みをし、遺跡で破壊活動をしているデザートドラゴンを遠巻きに眺める。


「カトリを助けないとね」
「あたしらの大事な種馬だもんな」
「いい所を邪魔されたしな」


 そう言って三人は力強く頷いた。


「「「ついにアレを使う時が来たようだぜ」」」


 そして、傍らに突き刺さっている人の背丈を越える鋼鉄の塊に目を向ける。
 大きな剣の街で手に入れた『大きな剣』だ。


「何かカッコいい名前をつけないと、ドラゴン・バター・ナイフとかどう?」
「うーん、もう少し捻ろうぜ? ドラゴン・バター・ナイフ・ド・スレイヤーとかどうよ」
「もう少し短くして、ドラゴンバター剣で良いんじゃないか?」


 三人は剣に名前をつける議論を始めた。
 バターという単語は、どうしても入れなければならないらしい。









コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品