勇者の名産地
集結
良い土地を見つけると耕さずにはいられないのが農民である。
カトリは地下空洞の片隅に放置されていたツルハシを手に取ると、ざっくざっくと土起こした。
「おいカトリー、そのスコップは使わないのかよー、ぐすっ」
井戸の片隅で三角座りをしながらミッタが聞いてくる。
「こ、これはちょっと壊れてるんだ……!」
ひとまず誤魔化す。すっかりいじけてしまっているミッタを放り出し、カトリは無我夢中で土を起こした。思った通り、土の中は適度に湿っていた。
「井戸もすぐ近くにあるし、これなら今すぐにだって種を撒けるぞっ」
喜び勇んでツルハシを振るい、半アルルほどの面積を耕した。日が良く当る場所を選んで勇者の種を撒く。そして井戸から水をくみ上げて、しっかりと水遣りをした。
「ふう……、ひとまずこんなもんだぜ」
満足げな表情で汗を拭う。痩せた土なので肥料を用意しなければならないが、それは追々考えよう。一番の問題は、ここが地下空間なので、日の当る場所が限られていることだ。
地這いにするより、支柱を組んで立体栽培にした方が良いかもしれない。
「うええーん! 姉者ー! カトリがいじめるー!」
カトリがあれやこれやと計画を練っていると、ついにミッタの我慢が限界に達した。
井戸の傍らに転がり込み、小さな子供のように手足を振り回して暴れ始めた。
「お、おう……すっかり忘れてたぜ」
ようやくほとぼりが冷めたカトリは、慌ててミッタの元に駆け寄る。
「悪かったな、ほら、行こうぜ」
と言って、ミッタの手をとって立ち上がらせようとするが――。
「おーい! カトリー!」
「ミッター! いないのかー!」
その時、上の井戸から縄はしごを伝ってミーナとミツカが降りてきた。
「はっ! 姉者っ!」
ミッタはすかさず飛び起きると、姉達の声がする方に猛然と走っていった。カトリも後を追う。
「ミッタ!」「妹よっ!」「姉者ぁー!」
三人は、あたかも隕石同士が衝突するような勢いで、激しく抱きしめあった。ミッタに至ってはマジ泣きしていた。よほど心細かったのだろう。
「おおよしよし、怪我とかないか!?」
「カトリと二人で何をしていたんだ?」
「ふえええっ、カトリがあたしのこといじめるんだよおー!」
「い、いじめてないよ!?」
カトリは焦っていた。ついに三人が揃ってしまったのだ。
離れ離れでいるときの三姉妹は、普通にか弱い少女であり可愛げもある。
だが三人揃うと恐ろしいことになるのだ。
「……どうやら、あたしらが離れ離れでいるのをいいことに楽しんでいたようだな」
と、さっそく長女ミーナが切り出してくる。
「……ふふふ、これはお仕置きが必要ですな。焼くか、煮るか、それとも吊るすか」
と、次女のミツカが具体的な案を提示してくる。
「……ならばいっそ、吊るし焼きにしてから煮込んでやれば問題ないかと」
と、三女のミッタが最も恐ろしい決断をしてくる。
カトリはゴクリ、生唾を飲んだ。
「ま、まてお前ら! それより見てくれよこの畑! こんな場所に良い土があるなんてビックリだろ!?」
「そうだなぁ」「お前の墓には」「ぴったりだな」
三人そろって、拳を鳴らしながらにじり寄ってくる。
「「「肥やしになれえー!」」」
「わーっ!?」
砂の都の神殿の地下は、しばらくの間、青年の悲鳴で満たされた。
* * *
地下空洞の壁際に、コケを乾かしたようなものが積み上げられていて、カトリはそのコケを燃やした煙で、たっぷり半アワワほど燻された。
「うう……体がベーコン臭え……」
さらにカトリには、日が暮れるまでに風呂を作って沸かしておくという罰が課せられた。調理場に人間を三人くらい同時に茹でれそうな釜があったので、それを風呂にすることにした。今はせっせと地下水を汲み上げて、調理場まで運んでいるところである。
「うおおおっ」「カトリぃ!」「その水をくれえー!」
すると突然三人がやってきて、カトリが運んでいる水瓶を奪い去っていった。
「何するんだよ!」
「ハナちゃんが!」「喉渇いたって!」「鳴いてるんだ!」
じゃあ仕方ないかと、カトリは地下井戸へと引き返していった。
地下室の井戸から縄はしごを降り、地下井戸から水を汲み上げる。
ロープで地下空間に下ろしておいた水瓶をその水で満たし、そうしたら今度は縄はしごの下まで水瓶を運んでいく。
続いて水瓶にくくりつけたロープを肩に引っ掛けて縄はしごを昇り、そうして上からロープを手繰って、重たい水瓶を引き上げる。
これは相当な重労働だった。
「……やれやれだよ」
砂漠で風呂を沸かすというのがそもそも馬鹿げているとカトリは思う。この砂漠の都では、相当身分の高い人でないと許されなかったのではないか。
「ひとまず地下水は豊富にあるようだけど……」
それはつまり、かなりしっかりとした水脈があるということだ。ならばこの辺りにオアシスがあってもおかしくない。
「そのうち探しに行ってみるかな……」
どのみちすぐには帰れまい。長丁場になるのなら、なによりライフラインを確保することが重要だ。カトリは気合を入れなおし、水瓶を背負って階段を昇った。
カトリは地下空洞の片隅に放置されていたツルハシを手に取ると、ざっくざっくと土起こした。
「おいカトリー、そのスコップは使わないのかよー、ぐすっ」
井戸の片隅で三角座りをしながらミッタが聞いてくる。
「こ、これはちょっと壊れてるんだ……!」
ひとまず誤魔化す。すっかりいじけてしまっているミッタを放り出し、カトリは無我夢中で土を起こした。思った通り、土の中は適度に湿っていた。
「井戸もすぐ近くにあるし、これなら今すぐにだって種を撒けるぞっ」
喜び勇んでツルハシを振るい、半アルルほどの面積を耕した。日が良く当る場所を選んで勇者の種を撒く。そして井戸から水をくみ上げて、しっかりと水遣りをした。
「ふう……、ひとまずこんなもんだぜ」
満足げな表情で汗を拭う。痩せた土なので肥料を用意しなければならないが、それは追々考えよう。一番の問題は、ここが地下空間なので、日の当る場所が限られていることだ。
地這いにするより、支柱を組んで立体栽培にした方が良いかもしれない。
「うええーん! 姉者ー! カトリがいじめるー!」
カトリがあれやこれやと計画を練っていると、ついにミッタの我慢が限界に達した。
井戸の傍らに転がり込み、小さな子供のように手足を振り回して暴れ始めた。
「お、おう……すっかり忘れてたぜ」
ようやくほとぼりが冷めたカトリは、慌ててミッタの元に駆け寄る。
「悪かったな、ほら、行こうぜ」
と言って、ミッタの手をとって立ち上がらせようとするが――。
「おーい! カトリー!」
「ミッター! いないのかー!」
その時、上の井戸から縄はしごを伝ってミーナとミツカが降りてきた。
「はっ! 姉者っ!」
ミッタはすかさず飛び起きると、姉達の声がする方に猛然と走っていった。カトリも後を追う。
「ミッタ!」「妹よっ!」「姉者ぁー!」
三人は、あたかも隕石同士が衝突するような勢いで、激しく抱きしめあった。ミッタに至ってはマジ泣きしていた。よほど心細かったのだろう。
「おおよしよし、怪我とかないか!?」
「カトリと二人で何をしていたんだ?」
「ふえええっ、カトリがあたしのこといじめるんだよおー!」
「い、いじめてないよ!?」
カトリは焦っていた。ついに三人が揃ってしまったのだ。
離れ離れでいるときの三姉妹は、普通にか弱い少女であり可愛げもある。
だが三人揃うと恐ろしいことになるのだ。
「……どうやら、あたしらが離れ離れでいるのをいいことに楽しんでいたようだな」
と、さっそく長女ミーナが切り出してくる。
「……ふふふ、これはお仕置きが必要ですな。焼くか、煮るか、それとも吊るすか」
と、次女のミツカが具体的な案を提示してくる。
「……ならばいっそ、吊るし焼きにしてから煮込んでやれば問題ないかと」
と、三女のミッタが最も恐ろしい決断をしてくる。
カトリはゴクリ、生唾を飲んだ。
「ま、まてお前ら! それより見てくれよこの畑! こんな場所に良い土があるなんてビックリだろ!?」
「そうだなぁ」「お前の墓には」「ぴったりだな」
三人そろって、拳を鳴らしながらにじり寄ってくる。
「「「肥やしになれえー!」」」
「わーっ!?」
砂の都の神殿の地下は、しばらくの間、青年の悲鳴で満たされた。
* * *
地下空洞の壁際に、コケを乾かしたようなものが積み上げられていて、カトリはそのコケを燃やした煙で、たっぷり半アワワほど燻された。
「うう……体がベーコン臭え……」
さらにカトリには、日が暮れるまでに風呂を作って沸かしておくという罰が課せられた。調理場に人間を三人くらい同時に茹でれそうな釜があったので、それを風呂にすることにした。今はせっせと地下水を汲み上げて、調理場まで運んでいるところである。
「うおおおっ」「カトリぃ!」「その水をくれえー!」
すると突然三人がやってきて、カトリが運んでいる水瓶を奪い去っていった。
「何するんだよ!」
「ハナちゃんが!」「喉渇いたって!」「鳴いてるんだ!」
じゃあ仕方ないかと、カトリは地下井戸へと引き返していった。
地下室の井戸から縄はしごを降り、地下井戸から水を汲み上げる。
ロープで地下空間に下ろしておいた水瓶をその水で満たし、そうしたら今度は縄はしごの下まで水瓶を運んでいく。
続いて水瓶にくくりつけたロープを肩に引っ掛けて縄はしごを昇り、そうして上からロープを手繰って、重たい水瓶を引き上げる。
これは相当な重労働だった。
「……やれやれだよ」
砂漠で風呂を沸かすというのがそもそも馬鹿げているとカトリは思う。この砂漠の都では、相当身分の高い人でないと許されなかったのではないか。
「ひとまず地下水は豊富にあるようだけど……」
それはつまり、かなりしっかりとした水脈があるということだ。ならばこの辺りにオアシスがあってもおかしくない。
「そのうち探しに行ってみるかな……」
どのみちすぐには帰れまい。長丁場になるのなら、なによりライフラインを確保することが重要だ。カトリは気合を入れなおし、水瓶を背負って階段を昇った。
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